002_格闘王と少女の出会い
「あなた、大丈夫?」
「君は…誰だ?」
キョウジの目の前には銀色の髪と金色の瞳を持つキョウジと同じ5歳くらいの可愛らしい少女の顔があった。
少女はキョウジが目を覚ました事にホッとしながら自己紹介を始める。
「わたしはメルル、あなたは?」
「俺はキョウジだ。どうやら君には世話になったようだな。」
「どういたしまして。キョウジっていうともしかしてりょうしゅさまの?」
「あぁ、そうだな。もっともそれも今日限りだろう。先ほどの魔力測定で魔力無しと判定された。」
「………」
メルルはキョウジが語る重大な事実に思わず言葉を失う。この国で生きていく上で、魔力がない事がどれほど大変な事かメルルも子供ながら分かっていたのだ。
メルルの目には先ほど教会にいた大人達が見せた悪意は一切なく、ただただキョウジを心配する優しいものだった。
このメルルの表情を見たキョウジは思わず自嘲しながら微笑む。
「君は優しい子らしいな。先ほどの大人共が見せた悪意の様なものは見られない。
ちなみに君はメルルと言ったが、もしかして歴代最強の魔力を叩き出したと言うあのメルルか?」
「うん…そうだよ。」
「そうか。これから大変だろうがせいぜい頑張るんだな。」
「???」
キョウジの言葉を受けたメルルは思わず困惑の表情を浮かべる。
これから大変なのはメルルよりキョウジの方である。
メルルは歴代最強の測定値を叩き出した後、周りの大人の好奇の目が嫌でこの場に逃げてきたのである。
確かに大変かも知れないけど、それは魔力無しで周りから虐げられる様になったキョウジに比べれば大したことではない。
なのにこのキョウジは他人の心配をする。その意味が分からず黙り込んでいるとそれを察したキョウジが口を開く。
「魔力なんてものがあると周りが色々うるさいだろう。
それに体の成長も阻害されてしまう。真の強者を目指す者としては魔力など邪魔以外の何物でもない。」
「???」
「そうか、メルルには俺が何を言っているのか分からないのだろうな。
この国では魔力が全てらしいが、強さや人生なんてものはそんなものでは決まらない。
弛まぬ鍛錬と鋼の意思こそが最強の漢になるために必要な物だ。」
「……」
自分が苦境に立たされているにも関わらずあっけらかんと最強の漢になると語るキョウジにメルルは言葉を失う。
かたや今まで家が貧乏でその事で虐められていた自分が魔力が多いという理由で持て囃され、かたや今まで領主の息子という事で大切に扱われていたのに魔力が無いという理由で蔑まれる様になった少年。
誰がどう見てもメルルの方が恵まれているのに、今その少年に自分が慰められている。その事実にメルルはひたすら困惑していた。
だがキョウジはメルルのこの態度を見て、
「うむ、どうやら俺の言葉を信じていないようだな。まぁ無理もない。ここはひとつ証拠を見せよう。」
そう言っておもむろに立ち上がり傍にある子供の腕程の太さの薪をひろう。そして、
「破!!!」
手刀で薪を真っ二つに叩き割る。
これはキョウジが前世で使っていた技の一つで素早く腕を振り抜くことで人体を刃に変えるというものだ。
もっとも子供の柔らかい手でやってしまったので、その手は血だらけである。
それを見たメルルは青い顔をしながら抗議する。
「ちょっと、なんてことしてるの!てがちだらけじゃない!」
だがキョウジはその言葉に反省の色一つ見せずにこう切り返す。
「君にこれが出来るか?」
「いまはそんなこと「出来るか?と聞いている。」」
「…できないけど。」
「つまりそういう事だ。俺より弱い奴が俺の心配をするなど10年早いわ。
それにこの程度、怪我とも言えんかすり傷だ。
それよりどうだ。俺はまだ弱いが最強になれると思わんか?」
そう言って子供らしからぬ豪快な笑みを浮かべるキョウジにメルルは思わず吹き出しながら答える。
「ふふっ、そうだね。きっとキョウジはさいきょうのおとこになれるよ。」
これが後に最強の格闘王となる漢と国一番の魔法使いとなる少女との最初の出会いだった。