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012_ただのキョウジ

「キョウ。王女殿下がお前を護衛騎士としてご指名したそうだ。」


「はぁ?親父殿。寝言は寝て言うんだな。」


キョウジが地竜を倒した数日後の朝の事。

父カールから齎されたあり得ない話にキョウジは自分の耳ではなく、父親の頭を疑う。

早速の無礼千万な態度にカールはキョウジを怒鳴りながら事の次第を説明する。


「キョウ、父親に対して随分な言い草だな。そもそも事の発端は貴様にある。先日、素手で地竜を葬ったそうだな。」


「あぁ、そうだが。」


「その時、馬車が襲われているのを助けたそうだな。」


「そういえばいたな、そんな奴が。」


「その中に王女殿下がいらっしゃったのだ。」


「…つまり、それで俺をご指名だと。」


「あぁ、そこで貴様には王女殿下の御付きの騎士として魔法学園に通ってもらう事になった。」


「はぁッ!」


キョウジは父親から言い渡されたいきなりの沙汰に憤慨する。


「親父殿、約束を違えるつもりか!」


「…キョウ、無理を言うな。王女殿下たっての申し出なのだから。一貴族である私には断る術はない。」


「親父殿は確かにこう言ったよな。『魔力が無い役立たずの貴様など15になったら追い出してやる』と。

そして俺はそれを承諾した。なのに今更になって魔法学校に行けだと!!」


「まぁ、そう言うな。貴様にとってもそれほど悪い話ではないだろう。

なんせ王女殿下の御付きの騎士として任命されたのだから。」


「そういう事を言っているのではない!!俺は冒険者として世界中のモンスターという名の猛者達と血沸き肉躍るような決闘の日々を過ごしたいのだ!!

それが何故3年間もひ弱な魔法使いの退屈な授業を受けながら、王女などという小娘の御守をしなくてはならん!!」


「それは貴様が悪い。王女殿下を襲った地竜を素手で倒したりするから。」


「人命救助だ。致し方なかろう。それに王女がいたなど知らなかった。」


この(キョウジ基準で)あまりにも不運な出来事に今度は運命神を呪いたくなるキョウジ。

そんなキョウジにカールが追い打ちをかける。


「王女殿下は今日の昼に当家にいらっしゃるそうだ。貴様は今すぐ殿下に会う準備をしろ。」


「断る!」


キョウジは王女に会えと言うカールの命令を即座に断る。

そのあまりに早い返答にカールは頭を抱えながら理由を確認する。


「何故、そこまで頑なに断る。貴様に権力志向が無い事は知っているが。」


「俺はその王女が気に食わないからだ。俺はこれから友人に会う約束があるというのに、こっちの予定も聞かずに勝手に予定を入れてきやがる。

貴族の場合、たとえ相手が自分より身分が低かろうと先触れを出して予定を聞くのが礼儀だろうに。

その程度の事も分からない愚者に仕える気は毛頭ない。」


実のところメルルが帰ってくるのは今日の昼、つまり本日のキョウジの予定は既に入っているのである。

それを身分が高いだけの小娘に邪魔されるなどキョウジにとって到底許容できるものではない。

こうなったキョウジの意見を変える術は無く、その事を知っているカールは思わずため息をつく。


「はぁ~、分かった。では本日付けで貴様を勘当してやる。

貴様はこれから勝手にウチから出ていくのだ。貴様が何をしようと私は知らんからな。」


「…あぁ、親父殿。感謝する。」


「何故、勘当して感謝されねばならん。わけが分からんぞ。」


父親の計らいに珍しく頭を下げて感謝を示す息子。

照れ隠しなのか少し怒ったような声で顔を背けるカール。

この言葉を最後にキョウジ=グリプスはただのキョウジとなった。

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