第1話 母を庇って死にました
どうかこの物語を温かい目で見守ってください。
「お母さーん!早くしないと入学式遅刻しちゃうよぉ〜!」
母と呼ばれた女性が高校生くらいの少女に急かされて玄関から出てきた。
「遅くなってごめんね、夢羽。それじゃあ、行きましょうか。」
「全く、相変わらずマイペースなんだから…。まぁ、いいや!それよりも入学式!急ご!」
夢羽と呼ばれた少女は入学式が待ちきれないようで、母親を連れて横断歩道に差し掛かった時、どこからか悲鳴が聞こえてきた。
「?ねぇ、お母さん。なんか悲鳴聞こえなかった?」
「いいえ?聞こえなかったわよ?」
2人はそんな会話をしながら赤信号が青信号になるまで和気あいあいと話し込んでいた。
そのせいか、後ろから迫ってくる包丁を持った男が近づいてくるのに気づいていなかった。
「ねぇねぇ、お母さん。今日帰ったら…!?お母さん危ない!!」
夢羽はいち早く男に気付くと、母親を突き飛ばして男に包丁で刺されてしまった。
「…っ」
「夢羽!待っててね、今からお母さんが救急車を呼ぶからね。しっかり意識を保つのよっ!」
夢羽の母は急いで夢羽の元に戻ると刺された箇所を止血しながら携帯で救急車を呼んでいた。
しかし刺された箇所はちょうど横腹。出血量も半端ではない。
「おかあ、さん…。もう、だい、じょうぶだよ。痛みが、感じないの。」
「夢羽!そんなこと言わないの。痛くないはずないでしょう?大丈夫。お母さんが何とかするから。しっかり意識を持って!」
母親は泣きながらも必死に夢羽に呼びかけていた。
「ご、めんね…。もう、眠い…や。」
そう夢羽は言うと目を閉じて、二度と目を開けることはなかった。