美しい水車小屋の娘〜超短編集〜
『深窓の令嬢』
リカはきょうも、二階の窓から下の舗道を見つめていた。
やがて、夕暮れの光を背に拓也が歩いてきた。
木の間越しに通り過ぎる彼の姿は、印象派の絵を思わせた。
「あの人に渡してきて」
用意していた手紙を、彼女は家政婦に持たせた。
まもなく戻ってきた女は、熱く見つめる目に首を振った。
「また」
リカは、そっと涙をふいた。
他界した両親の残した財産は莫大だった。
豪邸に住む深窓の令嬢。
数少ないとはいうものの、友達の中では彼女が一番きれいだとだれもが言う。
なのに、なぜいつも……。
家政婦A「独身の令嬢ったって、大正生まれ、もう九十ン歳よ」
家政婦B「なんだって、あんな時代に親はリカなんてハイカラな名前をつけたんだろ」
『社長の葬儀』
棺の前――
会葬者A「こいつさえおらなんだら、ウチの会社は倒産せんでもよかったんや」
会葬者B「ワシも嫌というほど、いためつけられた。早う死んでエエ気味や」
会葬者C「次期社長には、もうちゃんと鼻薬かがせてまんねや。これでわが社は安泰、安泰、ククククッ」
葬儀社の人「失礼ながら、今回は生前葬ですが」
会葬者A「えっ?」
会葬者B「わっ、目が開いた!」
会葬者C「えらいこっちゃ。どないしよ」
『美しい水車小屋の娘』
村の女A「最近来た粉ひきの若者、えらい落ち込んでいるけどどうしたの」
村の女B「看板を見て応募したらしいけど、美しいのは水車小屋だけだったんだって」
村の女C「シューベルトも罪ねえ」
村の女D「あら、ミューラーが悪いんじゃない?」
『大資産家』
執 事「旦那さま、信州の役場から当家所有の山に林道をつけたいので同意をいただきたいと申してまいりました」
資産家「おお、あんなところにもウチの山があったか。オーホッホッホ」
執 事「旦那さま、財産帳簿に記載のない株式があり、五億円で買い取りたいと言ってきております」
資産家「おお、そんなのもあったか。適当に処理しておけ」
執 事「旦那さま、九州の方から奥さまがまいられました」
資産家「おお、あちらにもワシの妻がおったか」
本 妻「アホッ。また新しいオンナをつくりよって!」
パシッ!
『アナウンス』
駅員「1番ホームに電車が入りまーす。ご注意ください」
元国語の先生「日本語が乱れとる。1番線路に電車が入ります、が正確な表現じゃないか」
元生徒「さすが先生、日本語にうるさい」
元国語の先生「うわぁ、本当に電車がホームに乗り込んできた、逃げろっ!」
元生徒「脱線したんだ!」
(おわり)
〔これらのお話はフィクションであり、実在の人物、団体とはまったく関係ありません〕
次の作品もよろしく。
●超短編集 『化粧のなくなった日~近未来バーチャル・ドキュメント』早すぎた火葬』『電車メーク』『虹色のくも』『はだかの王さま』『森の熊さん』『うさぎとかめ』『アラジンと魔法のパンツ』『早すぎた埋葬』
●千鶴と美里の仲よし事件簿 『尿瓶も茶瓶も総動員、人質少女を救い出せ』『グルメの誘いは甘いワナ』『昔の彼は左利き』『美里の夏休み日記』『シャルトリューは美食の使い』
●前期高齢少年団シリーズ 『必殺浮気人を消せ~帰ってきた前期高齢少年団』『ケータイ情話』『ミッション・インポシブルを決行せよ』『車消滅作戦、危機一髪』『秘密指令、目撃者を黙らせろ』『さよならは天使のパンツ大作戦』
●短編 『三つの贈り物~聖なる夜に~』『死刑囚からの手紙』
(上段もしくは、小説案内ページに戻り、小説情報を選んで、作品一覧からクリックしていただければ、お読みになれます)




