2話 最初の一ページ
一年前
「ねぇ、なんで能力がすごいって分かったのに訓練しないの?」
サリィの言うように訓練するべきなんだろうなんせ庶民で魔法が使えるのは五十分の一ださらに自分の能力は、ほとんどの貴族が魔法を使えるにもかかわらず百人に一人が使えるかどうかの特殊魔法その一角、糸魔法なのだ、だが自分は訓練や努力というものがとても面倒で嫌いだったのだ、だから返答も決まっている。
「嫌だよだって面倒くさいじゃん」
「またそれ、サリィ嫌いになっちゃうよ」
「それは嫌だなぁ」
山菜を採り夕方の帰り道でそんなことを話していた時だあいつが現れたのは。
いきなり殺気を感じ気づいたらしゃがんでいたその瞬間頭上で風切り音がした、もう少し遅れていたら間違いなく死んでいただろう。
そいつは夜闇を写しとったかのような真っ黒な狼だった。
「なっななな何なのこいつ」
後ろを振り返らずに答える。
「間違い無く魔物の類だろうよこれでただの動物だったらこの先、生きていける気がしねぇな」
「なんでそんな冷静なの」
「感情が一周回だちまったんだよ、のんびり話すのはまた後でだ」
「GARUrururu」
黒い狼は威嚇をしながら爛々と輝く瞳でこちらを見ていた。
まず逃げることは無理だろう背を向けた瞬間にあの黒光りする爪がこの体を抉るだろう。
なんとか時間を稼いでその間に助けを呼んでもらえないかと背後をちらりと確認する。
どうやらさっきから声が聞こえてこないと思ったらサリィは気絶しているようださらにエリィも腰が抜けているようだ、まぁしょうがないだろうなんせ一秒後には死んでしまうのではと思うほどの殺気だ、なぜ自分がなんとも無いのか不思議になるが考えている時間は無い。
「はぁ、殺すしかないか」
「殺すって戦うってこと先にクロムが死んじゃうよ!」
「じゃあ他にどうしろと逃げれねぇだろ?」
「うっ!」
しかし全く殺せるビジョンが浮かばないどうやら自分はあいつを殺すと言ってしまうほどには狂っているらしい。その時
ヒュッ
爪撃いや、もはや爪というより剣に近いだろうその斬撃をなんとか糸を何重にもして防ぐも薄かったのだらう白色だった糸が血で紅に染まっている。
どうやら短期決戦が必須らしい。
その時ふと閃いた。
「もう四の五の言ってられないしな」
「いい作戦を思いついたの?」
「あぁとびっきりのをな」
そう言い放ってすぐ左腕を糸で保護して斬撃を当てようと跳び上がった黒い狼の目の前までなんとか近づいて左腕を頭上に構えると噛みついてきた爪で攻撃するには近すぎたのだ。
「ちっ、爪に頼って牙はそこまでだと思ったんだがな」
左腕は噛みちぎられたが後は簡単だ、まぁ左腕を失ったのは辛いが痛みで泣いてる暇は無いのだ。
糸で何十何百とぐるぐるに巻いて馬乗りになり殴るだけだ左腕がなく殴りずらくて右腕が痛くなってもただひたすらに殴りまくった。
そしてどれほど時間がたっただろうか、まだ太陽の位置もそれほど変わっていないのでせいぜい一時間ぐらいだろうようやく黒い狼は動かなくなっていた。
それを見て疲れたし少し寝ようかと思ったその時、木の後ろから今殺した黒い狼の魔物が少なくても十はいるだろう、どうやらこの狼が最後に仲間を呼んだようだ。
父さん、母さん俺はもう頑張ったよ
死を悟っただがその時
「大丈夫だったかい」
その言葉とともに全ての黒い狼は血しぶきをあげながら見るに耐えない姿に成り下がった。
これが魔力切れかにしてもこの人は誰だろう…
遠くなっていく思考と共に俺は目を閉じた。