s08 不思議な朝食
そういや題名変えました。
前々からやろうとは思ってたのですが、題名変えると色々混乱しちゃうかなぁ、って。
それだけです。それだけ。
パチッ、パチパチッ。
目を丸くし、何回も瞬きをするゴルディッククランの幹部一同。
しかし、割と直ぐに落ち着きを取り戻し、個室のテーブルへと、近づいていく。
「昨夜はしっかりと疲れを癒されましたでしょうか?私、当クランの団長、ゴルディック・シャッフルと申します。以後お見知りおきを」
「あっ、どうも。新人冒険者、ツェーン・ユレシアルです。よろしく」
お客様への型通りに、挨拶を済ませる団長。
それに対して、例の少年も自分の名をこちらに告げる。デザートにフォークを入れながら。
次に、ゴリル、シーファー、イシュール、リーブスの順で挨拶と軽い自己紹介を済ませ、席に着く。
ここから、長いようで実に短い、少年との奇妙な対話が始まった。
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5人組が部屋に入ってくると、テーブルの前まで来て、一人ずつ挨拶と自己紹介を始めた。
えー、ゴルディックとゴリラとタイラットとクールとフレルね。よし、覚えてない。
自己紹介を終え、空席だった席に全員が着いたあと、こっそり後ろを向き、メイドさんに『どゆこと?』って目配せする。
するとメイドさんは、口を俺の耳元に近づけ、色々教えてくれた。もちろん変な意味ではない。
なるほど。どうやら俺の『1人部屋・朝食付き』で注文すると、金額も高い分、VIP待遇となり、朝食ではクランの団長や部隊長達と楽しく食事が出来るとか出来ないとか。
正直いって要らん。
ってかこいつら昨日の奴らじゃん。
団長さん体大丈夫?
そんなことを考えてる内に、いつの間にか皿の上のデザートが、なくなっていた。美味しかったです。
俺はフォークとついでにナイフを揃えて皿の右下(上から見て)に並べる。
「ご馳走様でした」
「食後のお茶をお持ちします。何かご希望はありますか?」
「んーと。じゃあカモミールティーは、ありますか?」
「はい。ございます」
「じゃあそれで」
「かしこまりました」
やっぱりこの世界にも、共通文化が多いな。
この、枝分かれの世界にも。
そんなことを考えながら、ツェーンは自分の存在を確認するかのように、テーブルの上の自分の手を、見つめる。
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ゴルディック達が個室に入ってから、既に10分が経過した。
その間、ゴルディック達とツェーンとの間に、会話は一切生まれなかった。
しびれを切らしたイシュールが、《念話》で団長と部隊長達を繋ぐ。
『団長!なんでもいいから話を振ってくださいよ!』
『無理無理無理無理!!なんか無理!!本能がそう叫んでる!!』
イシュールの要求にゴルディックは、全力で首を横に振る。(実際に降っているわけではない)
『大丈夫ですよ!カーミラだって普通に会話できてたじゃないですか!!』
『よし!決めたぞ!』
『『おぉ』』
フレルの説得も加わり、ついに団長が、何かを決断する。
『シーファー!君に決めたァァ!!』
「え?」
念話は繋がっていたものの、一切参加していなかったはずの自分が、予想しゆる限り最悪手の被害者になっていることを直感し、シーファーは念話ではなく、本当の声で反応してしまう。
瞬間、ツェーン以外の全員の表情が固まったが、すぐさま表情を戻し、お皿の上の料理を黙々と食べ続ける。
『なななな、なんで僕なのですか!』
『お!まだ何を決めたか言ってないのに、もう理解してるのかぁぁ。やる気満々だな!』
『こんなのおかしいですよね?ね?ね?』
『『『異議なし!!』』』ドドンッ!!
シーファーが、生きていた人生の中で、最も卑劣で理不尽な裏切り。
先程までの自分と同じように、黙りこくってたゴリルまで『異議なし』ってる。
おめぇ、『曲がったことが大嫌い』って、自分で言ってたろ!!
シーファーは、煮えたぎる仲間たちへの怒りを、そのままツェーンにぶつける。
「おい!貴様、よくものうのうとここに来れたな!!悪いことをしたという自覚、そして罪悪感はないのか!!」
「え?」
「「「「「「.................」」」」」」」
ツェーンの手に持つカップが、ガクン傾く。
食事中に、再度訪れる静寂。
しかし、《念話》の中では、静けさの『し』の字もない程に、シーファーへのバッシングと、シーファーへの静止の声で溢れかえっていた。
これまたしかし、シーファーは止まらない。
「『え?』だと?私たちをバカにしているのか!!」
「いえいえ、そういう訳ではないのですが。もちろん先日、あなた方のクランの団長を蹴り飛ばしてしまったことは、とっても反省しております。しかしながら、なんという偶然か。私はここの宿があなた方のクランの宿と知らぬまま泊まってしまい、朝食でのこのようなサービスも、先程メイドさんに教えて貰ったばかりなのです」
ツェーンは、的確に真実を語るが、シーファーには騙っているようにしか見えなかったようで。
「そ、そんな偶然があるか!出来の悪い作り話で私達が騙せるとでも思ったか!!」
言葉で言っても拉致があかないだろう。
そう感じとったツェーンは、物でこの場をおさめることにした。
「それもそうですね。では、謝罪の意を込めてコレを」
そう言ってツェーンは、《アイテムボックス》から砕けた臙脂色の水晶体をテーブルの上に取り出す。
「「「「「!?!?」」」」」
よっぽど驚いたのだろう。
ゴルディック団長を含む幹部5人が、下顎を落とし、硬直している。
「それでは私はここらでお先に失礼致します」
なんの躊躇もなく部屋から出ていこうとするツェーンを、その後団長が全力で止めたとか止めてないとか。
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もし、『この部分よく分からんので説明プリーズ』とか、『ここは、こっちの方がいいと思う』などの御意見がありましたらぜひ感想の方に。
それではまた次回。