s06 換金所のドワーフ
俺は、とりあえずギルドのロビーに、例の凹みを見に来てみた。
これはぶち抜いた方が早いと判断した俺は、《ポイズンスネーク》から手に入れたスキル、《サーモグラフィー》で、壁の向こう側に人が居ないことを確認し、壁をぶち抜いた。
綺麗に凹みの部分だけ、丸い大穴が空いたので、崩れた壁の破片を喰らい、《アーマーゴーレム》のスキル、《グルメ・クリエイト》を使用し、綺麗に壁を修復した。修復と言うより、制作したのだがな。
俺はそのまま、受付嬢が教えてくれた換金所へと向かった。
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冒険者ギルド認定、ダンジョン突破階層数第一位の大型クラン、《グリフォン》のホーム、『七竈の館』では、幹部を集めた緊急会議が行われていた。
「団長!これは由々しき事態ですよ!」
団長に対して、抗議の声を上げるこの銀色短髪の青年は、《グリフォン》第三部隊隊長、タイラット・シーファーである。ギルドから与えられた二つ名は『神頭』。戦闘以外でも頭がキレ、副団長に続く高い戦闘能力も有する。
「まぁ、落ち着けよ。油断してたとはいえ、団長にあれほどの蹴りを入れられる少年だぞ?ぜひスカウトしようぞ、団長!」
この暑苦しい黒髪筋肉ゴリラは、《グリフォン》第一部隊隊長、ゴリル・スクワットだ。二つ名は『熱鬼』。これまた暑苦しい二つ名だ。しかし、歴代の冒険者の中でも、トップ5に入るであろ徒手空拳の使い手。ダンジョンでは、2メートルにも及ぶ刀身の大剣を振り回し、敵をまとめてぶった斬る。
「私は、ゴリラに賛成だ。聞いたところによると、彼は今日冒険者登録をしたばかりだそうだ。まだ誰かとパーティを組む予定もないだろうからな」
この青色の長髪のお姉さんは、《グリフォン》第四部隊隊長、クール・イシュール。二つ名は『術才』。歴代最多のスキルカード保持者で、魔術も容易に操る。彼女の使える魔術は、200以上だと言う噂もある。
「血が流れないならそれでいいと思いますぅ」
この、震えながら縮こまってる金髪の少女は、《グリフォン》第二部隊隊長、フレル・リーブス。二つ名は『聖女』。サポート魔法に長け、回復魔法では、右に出る者はいない。
「団長。私も彼を引き入れるのに賛成です。あの身のこなし。そして私たちの包囲網から容易く抜け出した隠密性。これからのダンジョン攻略には、必要不可欠な存在だと、私は思っています」
この金色短髪の青年は、《グリフォン》副団長、サイス・コーマット。幼い頃から【神童】と呼ばれる程に体術・魔術共に優れている。最近はチームの戦力アップに力を入れているとかいないとか。二つ名は『亜人』。
「よし!それじゃあサイス!お前、明日ギルドに張り込んでスカウトして来い!」
そして、この男。《グリフォン》団長、ゴルディック・シャッフル。世界最強の戦士と、世間では騒がれている、やべえおっさんだ。矢を撃たれても皮膚を破ることはなく、むしろ鏃の先が折れるとか。まさしく最強の肉体を持ちし男だ。二つ名は『最強』。
「私ですか?」
とても不満そうな顔で団長を見つめるサイスだったが、団長は基本、一度言ったことは曲げない。
そういうやつなのだ。
サイスは諦め、脱力しながらもしっかりと頷く。
「それじゃ、解散!」
「いや、本題がまだです!」
「それは、明日でもよかろう。解散だ!」
イシュールの静止も虚しく、団長の一声で、幹部たちは、解散していった。
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【ギルド本部付属、ドロップアイテム・モンスターコア換金所】
ツェーンが換金所に来た頃。まだ微妙な時間からだろう。人がほとんどいない。
しかし、ここより奥の通路の先にある、ダンジョン物資換金所のさらに奥。ドロップアイテム・ダンジョン物資販売所には、チラホラ商人達が集まっていた。
「君、見ない顔だね。新人君かい?」
ツェーンは、換金所にどっさりと座る、ドワーフのおじさんに話しかけられた。
「あぁ。今日登録したばかりの新人だ。これからも色々お世話になると思うから。よろしく」
「おめぇーさん冒険者にしちゃあ、律儀でなぁ。俺はそういうやつは嫌いじゃないぞ。ガッハッハッハッ!」
どうやら随分とこのドワーフに気に入られたようだ。
「まぁ、登録したばかりじゃ、ドロップアイテムも少ないだろ?ゴブリンかスライム辺りか?ほれ、はよ出しんさい」
「多分、思っているより多いぞ?」
「運が良かったんだな。5 、6個ってとこかい?」
「出せる分だけ出していいか?」
「出せる分だけ?いいから早く出さねぇーか」
ドワーフは、確認に確認を重ねる少年に少し苛立ってきたようで、少年に催促する。
仕方がないので、ツェーンは目の前のL型作業台の正面の部分に出せる分だけ、ドロップアイテムを出した。
「!!!!」
「あっ、出しすぎた」
ドワーフは始め、少年がアイテムボックスを使える事に驚いた。だが、その数秒後。そのアイテムボックスから出てきた異常な量のドロップアイテムに驚きが爆発する。結果、口が全開のまま塞がらない。ついでに声も一切出ない。
パッと見でも、数十個あるドロップアイテムの数々に、驚きが隠せない。
だが、さすがはドワーフと言った所か。
驚きながらも、胸ポケットからルーペを取り出し、アイテムの山を上から順に、一つ一つ素早く、そして細かく、鑑定していく。
無言のまま、7分間ほどの時間が経過した。
ドロップアイテムの山は無くなり、作業台の端にズラっと種類ごとに分けられていた。
それからドワーフは、ゆっくりと前を向き、言葉を発する。
「おめぇーさん、アイテムドロッパーだったんだな」
「ん?アイテムドロッパー?」
そのツェーンの反応に、「まさか知らねぇーでやってたのか?」と、ドワーフのおじさん、さらにびっくり。
「はぁぁ。......アイテムドロッパーってのは、そういうスキルを持ってる奴か、幸運値が以上に高い奴の事だ。で!おめぇーさんも多分そうだって言ってんだ!」
「なるほど。確かにそうかもしれない」
「まぁ、これからも頼むよ。これだけありゃ、ギルドからしたら、大儲け。いったい何人分の防具が作れる事やら」
「これでいくらになる?」
「まぁ、15階層のウェアラットの皮が12枚。同じく15階層のレッサーリザードマンの皮と牙、ついでに鱗と爪が5個ずつ。14階層のアーマーコボルトの皮が17枚、骨が10本。12階層のレッドグレムリンの皮が3枚、11階層のレッサーサラマンダーの皮7枚だけでも、120ゴールドぐらい。10階層までのモンスターの牙や皮なんかと、レアドロップを合わせれば、157ゴールドと3シルバーと7ブロンズ。」
「マジで?」
思ってた3000倍ぐらいの値段に、ツェーン君びっくりしちゃったよ。
「てかあんたなんで15階層まで行けちゃってるの?強すぎか?正直に言うとやりすぎだ!」
「うん........これからはもっと自重しよう」
ちょっと絞くれて、帰ろうとするツェーンに、ドワーフが最後に一言。
「俺はドワーフのドールフ。次持ってくる時も、人が少ねぇー時に、俺ん所に持って来いよ!あと、金!受けっとってけよ!忘れてんじゃねぇー!」
そう言って、ツェーンの背中に大量の金貨(とその他)を入れたおかげでパンパンに膨れ上がった袋を2つ投げつける。
ツェーンは振り返らず、後ろに手をやって器用にキャッチする。
ドワーフのドーリックは心配そうな顔つきで、その背中が見えなくなるまで見続けていた。
誤字報告や、感想などございましたら、是非ぜひ。
もし、『この部分よく分からんので説明プリーズ』とか、『ここは、こっちの方がいいと思う』などの御意見がありましたらぜひ感想の方に。
特に、今回のゴルディックパーティ各部隊長の二つ名の読み方など、何か思いつきましたら、よろしくお願いします。(例・《多才》と書いて《ダ・ヴィンチ》など)
それではまた次話でお会いしまょう。
サイナラ。