s10 模擬戦
「あー全員、集合してくれ」
団長の一言で、100人を超える団員が一斉に声の方を向き、小走りで集合して、気をつけの姿勢になる。
その一切乱れのない動作は、どこかの国の軍隊を彷彿とさせる。
「皆に紹介したい人がいる。ツェーンさん、前へ」
指名された俺は、スタスタと団員たちの前へ移動する。
やはりこんなに大勢の前に出ると緊張するものだな。しかし、ここで悪い印象を与えるわけにはいかない。
「新人冒険者、ツェーン・ユレシアルと申します。本日はよろしくお願い致します」
「えー、彼は新人冒険者ではあるが、その実力は底知れず、正直に言うと、私でも互角に戦えるかどうかってところだ。そんな彼だが、このクランに入団を希望している。もちろん受けるつもりだ。しかし、皆もいきなり入団してきた者が、自分たちより優遇されるのは気に食わんだろう。」
コイツ。もう入団させること前提で話してやがる。
まぁ、こちらとしても、その方が進めやすくていいのだがな。
「だからと言ってはなんだが、皆には彼と模擬戦をしてもらいたい。もちろん強制はしない」
「団長、質問よろしいですか?」
団長が話を進めていると、最前列の一番中央にいた男の団員が団長に質問の許可を求める。
そして団長は、それを許可した。
「では質問させていただきます。彼との模擬戦は、1体1の模擬戦ですね?」
「.......ツェーンさん、どうします?」
ここでフルなよ!
っと、心の中でツッコミを入れつつ、質問に答える。
「何人でも大丈夫です」
「「「「!!!?」」」」
「えっ、それは、同時に何人で持って事ですか?」
「えぇ。私はそれで構いません」
質問をした団員は、俺をただの生意気なガキとでも思っているのだろう。
そして、そんな俺のこの舐め腐った態度に、だいぶ頭にきているみたいだ。鋭い視線でこちらを睨みつけている。
いいぞ。俺はこの身体を持って、お前らと戦ってみたい。あの感覚をもう一度味わいたい。
ジジイとの戦闘の時のように。
「他に質問がある者はいるか」
「もうひとつよろしいでしょうか!」
「まだ何かあるのか」
「はい!もし彼が私達に手も足も出ない場合、彼の入団を取り消すと言うことでも、よろしいでしょうか!」
さすがに自分よりも年下のガキが優遇されているのは、気に食わないようだな。
団長のシャッフルは俺の方を向き、俺は一度だけ頷く。
「いいだろう。そこまで言うなら、彼をコテンパンにしてみろ。このクランの戦士なら出来ると信じているぞ!」
団長は、俺を目の前にして、俺をコテンパンに倒すという目標を掲げ、団員達の士気を上げる。
なかなかいい仕事をするじゃないか。
「それでは始めるか!模擬戦用術式7番を展開しろ!」
団長がシーファーにそう言うと、シーファーはため息混じりにハンドサインを出す。そしてまもなく、この巨大な一室に、巨大な結界が張られる。次には、ガコンガコンと言う音とともに、高台がいくつも展開された。
「ツェーンさん。スタート位置はご自身で決めていただいて結構ですよ」
シーファーにそう囁かれると、俺は『そうか』と一言残し、展開された舞台の中央に移動する。
「「「え?」」」という幹部たちのマヌケ顔が見えるが、気にしない。
高台に囲まれ、多対一の戦いであれば最も好まない場所。そんな場所をあえて選ぶ。
不利の中で。そんな逆光の中での戦い。俺が求めるのはそういう闘いだ。そういう闘いの中にこそ、あの興奮がある。
幹部以外の団員達は、俺を戦闘初心者だと思ったのだろう。どういたぶってやろうかワクワクしているようだ。ここからだと、質問していた団員がニヤけているのもよく見える。
それから俺も含め、模擬戦参加希望者全員もとい団員全員に、それぞれが得意とする武器が配られる。
もちろん刃は潰してあるようだ。
俺が選んだのは、長さ180cmほどの槍。刀身は20cmほど。柄は軽い金属製で、刃は鉛のように重い金属が使われている。遠心力をかければ、モンスターだろうがなんだろうがぶっ飛ばすことが出来るだろう。
そしてこの囲まれるような位置。
何がしたいかもう分かっただろ?
俺も他の奴らも自分の定位置に着いたようだ。団長から合図がかかる。
「始め!!」
その怒号とともに、俺を中心に半径20m展開する団員たちが、一気に駆け出す。人数は20人ってところだろう。その中でも、5人ほどが飛び出す。
奴らが俺の射程に入ってくる間、俺は頭よの上で反時計回りにクルクルと槍を回し、飛びかかってくる少し前、俺から半径2.3mの範囲に入ってきたタイミングで、瞬時に柄の下の部分に持ち替え、遠心力をそのまま利用して、ハンマー投げのように振り回す。
団員達は、突然の真横からの攻撃に対応しきれず、槍での重い一撃を横っ腹にモロに受ける。その流れで2人3人4人と団子の如く連なって吹き飛ばされ、少し出遅れた最後の1人は、柄の中央の部分で思い切り叩き付けられた。
勢いは弱まったが、身体を捻り槍を少し勢いづける。そして、倒れた者達の後ろから飛びかかってくる奴らの脇あたりを狙い、右下から斜め上に打ち込む。
打ち込まれた団員は回転して、仲間を巻き込みながら吹き飛ぶ。
そこからは20人あまりの戦士との乱戦が始まる。
乱戦ということで、魔術での攻撃も、弓での援護射撃も出来ない。仲間に当たっちゃうからね。
こんな中でもけってしヤケにならず、しっかり一人ひとり、たまに2,3人ずつ相手取っていく。
早々に槍を手放し、突き出された短剣を華麗に避け、短剣を握る手首に手刀を入れる。
反射で、ビクッ!っとした手から解き放たれた短剣を下段でキャッチし、柄でそいつの意識を刈り取る。
三百六十度囲まれたその状況から、短剣片手に超低姿勢加速を始める。
向かう先では、上段や下段、横凪などを構えていたが、全てスレスレで躱していく。
そこから数分で、前衛のファイターどもを倒し終えた。
残りが半分になった辺りから、ちょくちょく矢が飛んできたりしたが、ア○タカ顔負けの剣技で、切り落としていく。時々いい剣技をかましてくる奴もいたが、そいつも今では、床に転がっている。
前衛に混ざっていた回復担当は、基本女性なので、《首トンッ》で優しく気絶させる。
一度、ヒーラーごとぶった斬ろうとした大剣使いがいたが、顔面に一発入れたので数日は意識不明状態だろう。
さぁ、残すは弓士と魔術師、十数人のヒーラーだけだ。
ローブを羽織り、杖を構える魔術師に正面から向かっていく。その手には、先程拾ったロングソードが握られている。
魔術師共は、それぞれ炎や風、土や水などの属性魔法を打ってくるが、マナを纏わせたロングソードで、全て弾き落としていく。
弾かれた魔法は、地面に当たるや否や、ある所では燃え盛り、ある所では一部が水浸しにした。
魔術師まで残り20mといったところか。
そんな時に、前列の魔術師がゾロゾロと横にはけていき、後列から5人ほどの魔術師が姿を現す。
5人は、杖を一つの魔力球に向けて、魔力を込めているようだ。赤い色からして、炎属性の大魔術だろう。
そしてその巨大な魔球を俺に打ち込んできた。
「「「「「《豪火球》」」」」」
面白い。断ち切ってやる。
ロングソードに無属性のマナを込め、高速で向かってくる魔球に斬り掛かる。
「《一太刀・斬》」
強大な魔力と魔力の衝突。
初めこそ、その攻防は均衡しているように思えた。
しかし次の瞬間、シュバッ、という効果音を付けたくなるほどに、真っ二つに豪火球が割れた。
それから数秒も経たないうちに凄まじく荒れ狂う風が発生した。マナの衝突による衝撃波の残りだろう。
結界内の人間は、誰それ構わず宙に浮かび、その嵐に巻き込まれる。まるで小さく大きい竜巻のようだ。
風が治まると、宙に浮いていた者達がドタドタと床に叩きつけられ、バトルフィールドに立っているのは、魔球に斬り掛かったツェーンだけどなった。
「なんでアンタは立ってられんだよ」
シーファーは結界の外でそう呟いた。
なんだか久しぶりな気がする。
今回のお話は、何回か日をまたいで書いたので、視点がバラバラになってる気がする。
そんな気がする。読み直しはしてない。