第一話
自殺したら人魚になった
(マジックミスって死ぬわけねェ)
確かにヒジリのマジックは最高難易度であるゆえに命を落とすの危険性が常にある。
俺は事故が起きてヒジリが亡くなったマジックショーを見ていなかった。
でも俺は確信している。
死亡理由は事故なんかじゃない。
事件だ。
そう確信している俺は、問題のショーに関して徹底的に調べ上げて証拠を探した。
結果、犯人を突き止め逮捕した。
事件は解決した。
しかし亡くなったヒジリはもう戻ってこない――
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「…………」
俺はみるみるやつれた。
髭は生やしっぱ、風呂にも入らず食事もとらない生活が続く。
もう何日そうしているのか自分では数えていなかった。
完全に魂が抜けてしまい、人間の形を成しているだけだ。
このまま何もしなければ、俺はヒジリの後を追えるだろうか。
『気分転換に出かけよう。私がついてる。大丈夫。時間が解決してくれるわ』
そんな言葉を聞いたと思う。
俺を心配する親戚や幼馴染が慰めてくれるが意味はない。
どんな熱心な言葉や態度も、俺の心には届かなかった。
ヒジリの代わりはいないのだから。
人の好意により精の出る食事も与えられたが食べることができなかった。
後は崩壊をただ待つばかり。
もう、そう遠くない。
俺を精神病棟に入れるべきだと言う意見が出た。
しかし『ハルカをいう人間はそう簡単に死なない。もう少し待ってくれ』と反対する者のおかげでこうして未だ我が家にいる。
ヒジリがこんなあっさり死ぬわけないと、俺はどこかで思っていた。
アイツはもっと危険な怪盗稼業をしていたんだ。
それが終わった今、どこか安心していたのかもしれない。
俺の見ていないところで死ぬなんて。
助ける努力すらできなかった。
手の届かないところで暖かな俺の光が消えていた。
医者より多くないだろうが、俺は一般人より死を多く見てきた。
人の死にマヒしていたと思っていた。
悲しく思うが、諸善見ず知らずの人だ。
感情移入できるわけない。
頭の中はそれより事件の解決。それが最優先だった。
なんだ。
マヒしていたわけじゃなく、薄情者だっただけじゃないか。
ヒジリの死は俺の人生の死だ。
(いっそ今、逝くか)
死ぬなんて簡単だ。
(何で死のう?首つりが楽か)
ベッドから立ち上がろうとした。
だが、できない。
どれくらい動いていなかったのか、身体が重い。
それはそうか、食事を何日とっていない?
これでは自殺する体力も怪しい。
のそりのそりと自殺の準備をした。
太い紐はある。
密室トリックの検証の際に使うからだ。
必要なものはそれだけ。
自殺の現場を幾度も見ておいて、間違えようがない。
まさか自分がやることになろうとは。
「はは」
なぜか笑えてくる。
(〇〇。今からそっちへ行くよ)
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