星の雨が降る夜
とりあえず頭空っぽにして読むといいです
「今年もかぁ……」
私は目の前の氾濫する川を眺め、呟きます。
私は織姫。
そう、あの織姫なのです。
1年に1度しか愛する人と会えない私ですが、そのチャンスさえ無くなってしまいそうです。
“雨が降ると天の河が氾濫して渡ることができないため、織姫と彦星は会えなくなってしまう”
そんな伝えによって本当に、下界で雨が降ると天の河は氾濫してしまいます。ものすごい速さの流れと水量で、絶対に渡ることなどできません。
去年も、一昨年も。
ずっと、ずっと雨なのです。
「彦星様、私のことなんて忘れてるんじゃないかなぁ」
何年も会えない女なんて、飽きられてしまったとしてもなんとも言えません。
ですが私は、このゴウゴウと音を立て大量の水が流れていく川を眺めていることしかできないのです。
その向こうにいるはずの、愛しい人を思いながら。
「うぅ……1年間、頑張ったのに……」
会いたいです。
わかってます。こうなったのは、私たちのせいなのです。私たちが仕事もせずに遊んでいたから。でも、本当に楽しかったのです。あの、愛しい人との日々は。
ポロポロと、涙が溢れてきます。
遊び呆けていた過去の自分と、下界で降る雨への怒りが流れていくように。
ポロポロ、ポロポロ。
溢れて溢れて止まらない涙。
「うぇっ……ひぐっ……ぐす……」
泣いたって、どうしようもないのです。
川の水はどんどん増えていき、流れる水の速さも上がっていきます。
「……ひめ。織姫。そんなに泣くなよ。余計に来れなくなるだろ」
遂に幻聴まで聞こえてきます。
「顔上げて。せっかく来たのに」
ゴウゴウと大量の水が流れる音に混じって、あの人の声が聞こえます。
「織姫。泣くなって」
肩と、顔に温かく大きな手が触れます。
「……ふぇ」
幻覚です。
幻覚でしかありえません。
だって、こんなにも天の河は荒れています。これでは、いつも橋を架けてくれるカササギも橋を架けられません。
「去年も会えなかったから。背中に乗せてもらったんだ」
「ほん、もの?」
「本物。ほら、ちゃんと触れてるだろ」
触れてます。
温かい手。懐かしい顔。
違う涙が、溢れてきます。
「あっ、ちょっ、泣くなって!」
「だってぇ!うれっ、嬉しく、て……会えなく、て、もう、私のことなんか、忘れてるんじゃ、って」
ポロポロ、ポロポロ。
涙と、言葉が溢れます。
「忘れるわけないだろ。な?もう泣くなって」
強く、温かい体に抱き締められます。
天の河は、ゴウゴウとものすごい音を立てています……。