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2-4

 サノルの部屋に戻って来たオレは、さらなる手掛かりを得ることができた。


「なに? 非正規だった?」


「そうなんです。爺さんに詳しく話を聞いたんですけど、どうもおかしな点が多くて。こっそりと廃棄人形のリストのコピーを貰って来たんですけど……」


 人形の廃棄リストを見せてもらう。ヌイノの名前も、もちろんミロイの名前もそこには見当たらない。正式な手続きを経ずに廃棄に出された人形、それがオレだった。


「リストが偽装されている可能性は?」


「そこですよ。気になったんで、ちょっと爺さんを問い詰めてみたんです。廃棄人形の横流しが公になって困るのは、買う方より売る方ですからね。すると興味深い話が聞けました」


 オレは黙って続きを促した。


「一人の医師から、内密に頼まれた廃棄だったんです。それも少なくない謝礼と一緒に。まあ、爺さんはそこで欲を出して、僕に売りつけたわけですけど」


「お前みたいなオタクに人形が買えた理由はそこか」


「ええ。今思えばいくら裏ルートだからといっても、人形にしては格安だったんです。これで自分でも納得がいきましたよ」


 サノルはこう見えてなかなか使える男のようだ。


「お前って、意外に駆け引きができるんだな」


「アニメで見たままにやってみただけですよ」


 残念ながらその爺さんは名前までは知らなかったそうだが、恐らく俺を担当していた移植医師で間違いないだろう。それか手術日からすでに入れ替わっていた偽物の方である可能性も考えられる。


「ところでその医師だが、見た目については聞き出せたか?」


「聞いた話によるとそれなりにベテランらしくて。廃棄を頼みに来ることは割とよくあった、男性の医師らしいです」


 ベテラン――確かオレが会って来た移植医師は若かった。しかし俺の記憶している担当医は、初老の男だ。オレはそこから事実を推測してみた。

 話を整理するとこうなる。オレが今日会ってきた移植医師は、偽物だった。そしてヌイノとミロイの担当医だった初老の男、つまり本物の移植医師は、このオレの体ごと“俺の記憶”を処分しようとしたのだ。


「お前はその話を聞いてどう思った?」


「そりゃ、おかしいと思いましたよ。ベテラン医師がわざわざ人形の廃棄を頼みに来るだけでもきな臭くて、しかもリストにない秘密裏の人形を処分しろって頼んでいるわけですから。しかもそれが、少なくない回数なんですよ? そんなことがあり得るとしたら、変な秘密実験をしているか、それかよっぽど危ない勢力と関わっていることくらいしか考えつきません」


 サノルの言うことはもっともだった。偽物の正体は分からないが、何か後ろ盾があると見ていいだろう。ひょっとすると俺が知っているよりずっと大きな陰謀に、オレは立ち向かわなければならないのかもしれない。


「ところで、イラルさんの方は何か収穫がありましたか?」


「あるといえばあったが……そうだな、移植医師に変装して、入れ代わりにクリニックへ忍び込むなんてことができると思うか?」


 オレの報告をサノルは目を丸くして聞いていたが、やがて考えをまとめるとこう答えた。


「その変装される側の医師が協力者なら、なんとかなると思いますよ。それでも誤魔化すのは難しいかもしれませんが……移植医師はクリニックの中でも職業柄、抱える機密が多いこともあって単独行動が多いんです。難しくても、不可能じゃあないですね」


 オレを処分しようとしたことからも、ヌイノとミロイを担当していた移植医師は恐らくグルだ。しかし現時点で疑うべきは、偽物の正体の方だろう。それに、どうやら俺の姿をしたヌイノが動いていることも分かった。それだけで大きな前進だ。

 ならば、これからオレがするべきことは何だろう。偽物の移植医師に会いに行くのは、まだ時期ではない。あの男に会うには、それ相応の準備が必要だ。

 同じく本物の移植医師に関しても、手がかりが少なすぎる。調査にはそれなりの時間がかかるだろうし、彼が生きているとも限らない。

 では俺の姿をしたヌイノだろうか。部屋は割れているものの、いまだ謎が多い人物だ。やはりこれも不確定要素が強い。

 残るは、ミロイだ。今の段階で中立的な立場に思えるのは、ミロイだけだ。ヌイノと移植医師、そのどちらとも関わりながら今は消息が分からない。それに、ミロイはオレの存在そのものにも深く関わっている気がする。この体はミロイの姿をしているのだから。


「それにしても、オレは一体誰なんだろうな」


「イラルさんは、イラルさんでしょ?」


 オレの問いに、サノルはきょとんとした顔で答えた。そうだ、今はそれでいい。


「お前、髪は結えるか? 気分を変えたい」


「得意ですよ、まかせてください」


 サノルはドールの手入れで培っただろうその腕で、オレの髪を丁寧に結い上げた。鏡に映してみると、オレはずいぶん雰囲気が変わったように見えた。これは、もうオレの顔だ。


「サノル、頼みがある」


「できる範囲でお願いします」


「安心しろ、簡単だ。しかもこの部屋から出なくてもいい。明日一日、見張ってもらいたい部屋があるんだ」


 俺の姿をしたヌイノはひとまずサノルに任せるとして、明日はミロイの部屋に行ってみよう。出たとこ勝負になるが当たって砕けろ、だ。

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