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4-2

 北居住区の反対側、南地区にオレはやってきていた。ここには俺が利用していた貸倉庫がある。おそらくはその中に、答えが存在するのだ。

 オレの姿を見るなり、管理人は呆れたような顔を見せた。


「おではあんたらの伝言係じゃないんだがな」


「ということは、あいつがここに来たんだな?」


「ああ、確かに昨日、今日と二度来たが、それはあんたも知ってるんじゃないのか?」


 俺はここを二度訪れたという。だがそれよりも先に確認するべきことがある。


「あいつは荷物を預けていっただろう。それを見せてもらいたい」


「なんであんたらは直接やりとりをしねぇんだ? 確かに預けては行ったが……」


「とにかく、それを見せてくれ」


 管理人は、ぼやきながらオレを俺の倉庫まで案内した。相変わらず古臭い、陰気な倉庫が立ち並ぶ。


「本当はこういうことはしないんだけどな」


 ぶつぶつと文句を言いながらも、管理人は鍵に手をかけた。錆だらけの倉庫が、ぎしぎしと音を立てて開かれる。


「いつ見ても悪趣味だ、クレイジーだぜ」


「あいつが来たのはいつだ?」


「さて、今日来たのは午前中くらいだったと思うが」


 やはりオレの推測は当たっていた。虐待されたドール。それは俺ではなく、あいつによるものだ。この行為自体は、あいつによる行為だったのだ。

 凄惨な“作品”の間を通り抜けて、奥へ行く。そこには真新しい、人間が一人入りそうなスーツケースが、無造作に置かれていた。


「これだな、新しい荷物は」


「ああ、確かにそのケースを持ってきたがよ。一体どうしたってんだ」


 管理人の質問は黙殺し、オレはスーツケースに手を掛けた。鍵が掛かっていたものの、近くにあった工具で壊して無理やり開ける。

 中から出てきたのは、俺を担当していた移植医師だった。喉を切り裂かれ、すでに絶命している。この男こそあの手記を書いた人物、ヌイノとミロイの担当医なのだ。


「なんだい、こりゃあ……しかも、この男は」


 管理人がオレの後ろで絶句する。いくら秘密の貸倉庫を営んでいるからといって、死体を見慣れることはないのだろう。


「知っているのか?」


「知ってるも何も、昨夜から行方不明になってる“人形師殺人事件”の容疑者じゃねえかよ。どこのニュースを流してもこいつの顔写真が出てくるぜ」


 どうやらオレが思う以上に、事件は進んでしまっているらしい。


「おい、あんたら一体何を企んでるんだ? ヤバいことに巻き込まれるのはゴメンだぜ」


「よく聞いてくれ、混乱するかもしれないが、同じ顔をした人間が二組いるんだ」


 管理人は、まるで理解できないという表情だった。しかし構わず進める。


「あいつが二度来たと言ったな? その時の様子を、詳しく聞かせてくれ」


「あ、ああ。昨日来たときは様子が変で、記憶がないとか言っていた。記憶喪失だって、おでに何か知らないかって聞いてきたんだ。だからおでは、この倉庫を見せてやった」


 記憶がない。ということは、俺の部屋を使っているヌイノだ。そしてそのヌイノは、真の意味で俺なのだ。


「昨日、あんたから受け取った預かりもの……ナイフを受け取って、そのまま帰ったよ」


「昨日はオレも来たんだな? まあいい、重要なのは今日だ。今日来たあいつは、どんな様子だった?」


 オレの勢いに圧されたのか、管理人はありのままを話した。

 今日この貸倉庫を訪れたヌイノは、今までに見たこともないくらい上機嫌だったという。


「もっと無口なやつだったからよ、戸惑ったが、でも気になるほどじゃなかった。テンションの高い日くらい、そりゃ誰にでもあるしな。昨日のあれは、多分おでをからかったんだろう」


 そしていくらか世間話をして、そのヌイノはこのスーツケースを預けていったという。前日と比べてあまりに様子が違うものだから、管理人はこう尋ねた。


「記憶喪失は治ったのかい?」


 そのヌイノはにこやかな笑みを張り付けたまま、こう答えたそうだ。


「ああ、今夜には私も治っているだろうさ」


 管理人はまたからかわれたのだと思って気にしなかったらしい。だが、それこそがオレの知りたいことだった。


「あいつは確かにそう言ったんだな? 〈今夜には私も治っているだろう〉と」


「そうだが……どういう意味なんだよ、それは」


 これは言葉遊びでもなんでもない。ただ単に事実を述べているだけに過ぎない。

 私とは、まさしく私なのだ。それこそが俺の記憶を解き明かす鍵だった。

 呼び止める管理人に答えることなく、オレはサノルの元に急いだ。

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