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北居住区の反対側、南地区にオレはやってきていた。ここには俺が利用していた貸倉庫がある。おそらくはその中に、答えが存在するのだ。
オレの姿を見るなり、管理人は呆れたような顔を見せた。
「おではあんたらの伝言係じゃないんだがな」
「ということは、あいつがここに来たんだな?」
「ああ、確かに昨日、今日と二度来たが、それはあんたも知ってるんじゃないのか?」
俺はここを二度訪れたという。だがそれよりも先に確認するべきことがある。
「あいつは荷物を預けていっただろう。それを見せてもらいたい」
「なんであんたらは直接やりとりをしねぇんだ? 確かに預けては行ったが……」
「とにかく、それを見せてくれ」
管理人は、ぼやきながらオレを俺の倉庫まで案内した。相変わらず古臭い、陰気な倉庫が立ち並ぶ。
「本当はこういうことはしないんだけどな」
ぶつぶつと文句を言いながらも、管理人は鍵に手をかけた。錆だらけの倉庫が、ぎしぎしと音を立てて開かれる。
「いつ見ても悪趣味だ、クレイジーだぜ」
「あいつが来たのはいつだ?」
「さて、今日来たのは午前中くらいだったと思うが」
やはりオレの推測は当たっていた。虐待されたドール。それは俺ではなく、あいつによるものだ。この行為自体は、あいつによる行為だったのだ。
凄惨な“作品”の間を通り抜けて、奥へ行く。そこには真新しい、人間が一人入りそうなスーツケースが、無造作に置かれていた。
「これだな、新しい荷物は」
「ああ、確かにそのケースを持ってきたがよ。一体どうしたってんだ」
管理人の質問は黙殺し、オレはスーツケースに手を掛けた。鍵が掛かっていたものの、近くにあった工具で壊して無理やり開ける。
中から出てきたのは、俺を担当していた移植医師だった。喉を切り裂かれ、すでに絶命している。この男こそあの手記を書いた人物、ヌイノとミロイの担当医なのだ。
「なんだい、こりゃあ……しかも、この男は」
管理人がオレの後ろで絶句する。いくら秘密の貸倉庫を営んでいるからといって、死体を見慣れることはないのだろう。
「知っているのか?」
「知ってるも何も、昨夜から行方不明になってる“人形師殺人事件”の容疑者じゃねえかよ。どこのニュースを流してもこいつの顔写真が出てくるぜ」
どうやらオレが思う以上に、事件は進んでしまっているらしい。
「おい、あんたら一体何を企んでるんだ? ヤバいことに巻き込まれるのはゴメンだぜ」
「よく聞いてくれ、混乱するかもしれないが、同じ顔をした人間が二組いるんだ」
管理人は、まるで理解できないという表情だった。しかし構わず進める。
「あいつが二度来たと言ったな? その時の様子を、詳しく聞かせてくれ」
「あ、ああ。昨日来たときは様子が変で、記憶がないとか言っていた。記憶喪失だって、おでに何か知らないかって聞いてきたんだ。だからおでは、この倉庫を見せてやった」
記憶がない。ということは、俺の部屋を使っているヌイノだ。そしてそのヌイノは、真の意味で俺なのだ。
「昨日、あんたから受け取った預かりもの……ナイフを受け取って、そのまま帰ったよ」
「昨日はオレも来たんだな? まあいい、重要なのは今日だ。今日来たあいつは、どんな様子だった?」
オレの勢いに圧されたのか、管理人はありのままを話した。
今日この貸倉庫を訪れたヌイノは、今までに見たこともないくらい上機嫌だったという。
「もっと無口なやつだったからよ、戸惑ったが、でも気になるほどじゃなかった。テンションの高い日くらい、そりゃ誰にでもあるしな。昨日のあれは、多分おでをからかったんだろう」
そしていくらか世間話をして、そのヌイノはこのスーツケースを預けていったという。前日と比べてあまりに様子が違うものだから、管理人はこう尋ねた。
「記憶喪失は治ったのかい?」
そのヌイノはにこやかな笑みを張り付けたまま、こう答えたそうだ。
「ああ、今夜には私も治っているだろうさ」
管理人はまたからかわれたのだと思って気にしなかったらしい。だが、それこそがオレの知りたいことだった。
「あいつは確かにそう言ったんだな? 〈今夜には私も治っているだろう〉と」
「そうだが……どういう意味なんだよ、それは」
これは言葉遊びでもなんでもない。ただ単に事実を述べているだけに過ぎない。
私とは、まさしく私なのだ。それこそが俺の記憶を解き明かす鍵だった。
呼び止める管理人に答えることなく、オレはサノルの元に急いだ。




