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No.8 『リペアとマイの夢』

 ユートのその言葉に貸し切りの会議室は、一瞬だけ時が止まったかのように静寂が空間を支配した。


「そうね。そういえば、まだ言ってなかったかしら」

 しかし、すぐに発せられたマイの言葉によって静寂は再びなりを潜める。


「どこから話そうかしら。そうね、ユートは私達が結婚した理由を知っているでしょう?」

 マイは一旦考えるようにあごに手をやってユートに質問するように確認した。


「確かマイの父親が亡くなった事が理由の1つだったか?」

 ユートは以前2人が結婚した時に話していた事を思い出す。


「えぇそうね。私の父はダンジョンで受けた原因不明の状態異常に掛かって亡くなったの。既に私の母も亡くなっていたから、私の父は最後に私のことをよろしく頼むとリペアに言って亡くなったわ。それで私たちは結婚したのだけれど……この話はひとまず置いておくわ。それでね。父は状態異常だったのだけど、私の母は流行り病で亡くなったの。薬師だった母は、町で流行った病の患者を看病しているうちに自分も掛かってしまったの。だから私は両親共に病気で亡くした事になるわ」


 辛い話かも知れないが、もう既に心の整理は付いているのかマイは淡々と喋る。


「だからね、私の夢は万病に効く薬を作ること。私の両親みたいに病気で死んでいく人を無くすため、私のように病気で親を亡くす子達を少しでも減らすために、私は薬を作るわ。そのためにはダンジョンの最深部まで攻略して薬の材料を見つける必要がある。それが私のダンジョンを攻略する理由よ」

 マイは力強くそう語った。


「マイの次は俺の話す番だな」

 マイの話が終わりリペアが口を開く。


「俺の目標を言う前に、俺も少し昔話をしないといけないな。さっきのマイの父親が死んだ件と関係もするんだがな。俺の父親はマイの父親と同じパーティーだったんだ。マイの父親が原因不明の状態異常を受けた時、俺の父親も勿論その場に居た。俺の親父は林業とカラクリの町ギノイチでも5本の指に入るほど優秀な『修理士』だった。マイの父親は『操縦士』で俺達の親父達はその日も仲間と一緒にギノイチのダンジョンに潜っていた。だがその日は運が悪かったとしか言いようがねぇ。『災害』が起こった」


「あぁ知っている。ギノイチ小型ダンジョンに突如として現れた『カラクリ魔神』だろう?」


 『災害』とは、攻略済みの安全なダンジョンに突如として別のダンジョンに繋がる穴が出来てしまい危険地帯化するという現象である。時間の経過とともにその穴は消滅するが、その別のダンジョンに繋がる穴はそのダンジョンに見合ったレベルでない事が多い。

 リペアの言った『災害』は、近年でもかなり有名な『災害』であり、一時王国すべてのダンジョンに入場規制が掛けられた程だ。ユートも勿論覚えている。

 そして、ユートの言った『カラクリ魔神』とは、その『災害』で繋がった穴から出てきたモンスターの名前であり、その強さから大型ダンジョン7層以上のモンスターと認定された。


「あぁそうだな。今まで黙っていたが、俺とマイの父親のパーティーがその『カラクリ魔神』の被害者だ」


「そうだったのか……」

 あまりの衝撃の事実に、ユートはそれ以上の言葉が出てこない。


「マイの父親の状態異常もその『カラクリ魔神』の攻撃だ。そして、俺の父親はその戦闘で行方不明となった」


「……」


「おいユート。お前がそんな顔すんなって。もう3年も前の話だぜ? 俺たちも既に心の整理は出来てるよ。それにな、行方不明扱いだぜ? マイの父親がな、その『カラクリ魔神』に俺の父親が連れていかれるのを見たって言ったんだ。死んでなかったって。どういう理由で俺の親父が連れていかれたかは知らねえが、親父が生きているならまだ希望もある。俺がダンジョンの探索をしていたらひょっこり会えるかも知れねぇ」

 リペアはそう言って笑った。


「それでよ。俺の目標は親父を探しに行くっていうのも1つあるが、もう1つ。ダンジョンの完全な安全化だな。要はユートと同じダンジョンの完全攻略だ。ついでに『災害』の謎も解ければ万々歳だ。それが俺のダンジョンに潜る理由だ」

 リペアはそう言った。


「……そ」


「ん? なんだユート? 聞こえねぇぞ?」


「クソって言ったんだよ……。自分にな……お前らみたいな立派な夢を語られたら俺の夢が子供のようなちっぽけな夢にしか見えねぇじゃねぇか……」


「まぁまぁユート。私たちも子供みたいな夢なんだから」


「そうだぜユート。お前もダンジョン攻略してマイナーなジョブの人たちに希望を与えるんだろ?」


「うるせぇー! お前らに何言われたって俺の夢は霞んじまうわ! 畜生! こうなったら絶対にダンジョン攻略すんぞ! いいな! リペア! マイ!」


「ハハッ! こういう熱い所、たまにあるよなユートは」


「そうかしら。冷静に見えて心の中はいつも熱いのがユートじゃない?」

 ユートの豹変ぶりを見て、それぞれ笑うリペアとマイだった。




「さぁ。休憩も終えた事だし、さっきの話の続きに戻るわよ」

 10分程の休憩を挟み、3人は話し合いを再開した。


「えーと今後のパーティーメンバーについてだったけか?」


「そうだな。お前らの目的も確認出来た事だしその話をしよう。と言っても、前提として決まっている事もあるしな。まずはその確認からしようか」

 先程の行動から一転、時間をおいて落ち着いたユートが言う。


「そうね。まず前提として、私たちと一緒にダンジョンの最深部まで探索する気のある者よね」


「それはそうだな」

 マイの言葉にリペアも頷く。

この3人の目標がそれである以上、それだけは譲れない所である。


 一般的にダンジョン探索者は、生活のために探索する者とダンジョンでお宝を見つけ一攫千金を狙う探索者の2種類に分かれる。ユート達のように、ダンジョンの最深部まで攻略したいと思う者やその他の理由でダンジョンを探索する者は少数派なのだ。

 マイの夢である万病の薬を作りたいという夢にしても、本来ならば薬師が直接ダンジョンを探索しなくてもいいのだ。何故なら、他のダンジョン探索者に薬の材料を採ってきて貰えばこと足りるし、またダンジョンで薬のレシピなどが見つかれば、どのみち基本戦闘職である探索者達は自分達では扱えず売りに出すことがほとんどだからだ。

 こういった理由などにより、生産職のジョブの人はダンジョンに入らない事が多い。マイの自分で薬の材料を探すという目的のある人がいたとしても最深部まで行きたいという人はそれこそ少数派だろう。


「まず前提のハードルが高いからな。一応、人数だけ集めてクランを作ってからその問題に対処するという方法もあるが、俺としては最初から決まったメンバーでやった方がいいと思っている」

 ユートは自分の考えをまず話して2人の意見を待つ。


「そうだな。俺もそれがいいと思うぜ。ダンジョン探索後半になってメンバーが変わるのもな。かなりキツいと思うぜ」


「そうね。私もそう思うわ。最初に妥協してクランを作るよりも、最初から目的を共有した少数精鋭でダンジョンに潜った方がいいと思うわ」


「リペアもマイもそう言うなら決まりだな。メンバーを集める最低ラインとして「ダンジョンを完全攻略する気のある者」これでいこうか」


「あぁ。そうだな」

「ええ。それで異論はないわ」

 こうして3人の意見が一致した事でメンバーの前提条件が決まった。



~モンスター図鑑~

『カラクリ魔神』

 ダンジョン内で突如として出現する他のダンジョンへと繋がる穴『災害』から現れたモンスター。その強さから大型ダンジョン7層以上のモンスターと認定された。


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