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No.7 『探索の成果』

 翌日。朝一の馬車で、ソエウラの町から首都ナナハのダンジョン大学校まで戻ったユート達3人は、ダンジョン大学校に併設されているギルドへと訪れていた。昨日ダンジョンで手に入った素材を換金するためである。


 ギルドとは、一般的にダンジョンに関する調査・研究を行っている国の機関であり非営利目的の組織である。ダンジョンで発見・採取される数多くの資源は国にとっても経済や技術の発展に必要不可欠なものである。そのため国は、名目上調査・研究を行う機関としてギルドを設置し、ダンジョンに関することならすべて管理することで、実質的に国の安定を図っているのだ。


 ギルドで出来ることは様々あるが、今日ユート達が来た目的であるダンジョン産の素材の買い取りもギルドの仕事の1つだ。大手の職人クランや研究クランなどに直接買い取って貰う事もできるが、あまりそういった所にツテのないユート達は、特に事情などない場合はギルドで素材を買い取って貰うことにしていた。


「これがワタグモの綿と水晶アリの水晶の買い取り金額だね。全員、買い取りに了承するかい?」

 素材を納品したあと、検品などを終えたギルドの買い取りカウンターの職員がユート達に最後の確認をする。


「はい。俺は大丈夫です」

「俺もオッケーだぜ!」

「私も異論はないわ」

 ユート達3人がそれぞれ了承したところでお金が支払われる。一見面倒な手続きであるが、臨時のパーティーなどのギルドに登録していないパーティーの金銭トラブルを防ぐ目的があるので、こういった仕様になっている。


「予想よりもかなり高かったわね」

 お金を受け取ったギルドからの帰り道マイが明細書を見ながら言った。


「ワタグモの綿が高価なことは知っていたが、まさか水晶アリの水晶があんな高いとは思ってもなかった」


「1つにつき1万Rリウかー。知ってたら鞄に詰めれるだけ詰めて持ってきたのにな」


「ホントそうよね……」

「あぁそうだな」

 リペアの単純な一言にユートとマイは同時にため息をついた。


 ワタグモの綿は、その倒し方の特殊性の上滅多に取れない素材である。何故ならワタグモを倒す時は、魔法や弓矢での遠距離からの攻撃であり、倒す際に魔法で綿が燃えてしまったり傷ついたりしてしまうからだ。その点今回はユートの精密投擲によるワタグモの本体であるクモだけを倒したことにより、綿にはほとんど傷が付いていない状態であった。


 熟練の弓士でも同様の事は出来るが、今回はもう1つ綿が高価になった条件があった。ワタグモの綿は、戦闘中に胞子をまき散らす程、綿の中のゴミも飛んで上質な綿となる事が知られている。しかし、ワタグモの胞子を降らせるということは状態異常になることとイコールである。戦闘でワタグモを見かけたら初めに倒すのがセオリーであり、胞子をまき散らす前に倒すのが普通なのである。


 今回のユート達の倒し方は一般的でないために、ワタグモの綿は最高品質として取引された。また綿という素材の性質上も、少量ではあまり意味をなさないが今回は群れであり大量に持ち込まれたため、その金額も跳ね上がった。ワタグモの綿は、裁縫職人にしても喉から手が出るほど欲しい素材なのである。


 その事を知っていたユートは、ワタグモの綿を鞄に詰められるだけ詰めて、水晶アリの水晶は女王アリの2つ分とあとは鞄に入るだけ詰めてあとは放置したのだ。だが今回ユート達にとってこれが誤算だった。水晶アリの水晶も高値で取引されたのだ。ワタグモの綿で高額の金銭を手に入れたのにも関わらず、ユートとマイのため息はこれが原因だった。


「まさか貴族の間で、水晶アリの水晶を加工した装飾品が流行ってるなんてな……」


「えぇ。なんでも1人の職人が趣味で作った物を、ある貴族が買って流行らせたらしいわよ」


 水晶アリの水晶は、腹の背中部分についている個体ごとに色の違う綺麗な水晶である。人の子供ほどの大きさのある水晶アリの体長に直径15センチくらいの水晶がついているが、魔力などは一切なく魔法使いの杖やその他武器防具の材料にもならないため、その主な使用方法としては見た目を活かした装飾品である。しかし、ダンジョンで出てくるモンスターである以上、やはり一定数の討伐があり希少価値も低く、取引額も水晶1つで1000R前後である。それがユート達の認識であった。

 そのためワタグモの綿の方を優先して、水晶アリの水晶は持てる分だけに留めたのだ。まさか市場価格が10倍まで増えているとは思うまい。結果としては、水晶アリの水晶だけで15万Rで高値だったとしても、群れが50匹ほどいたので夢の50万Rが消えたショックは大きかった。


「次からは市場も下調べしておく必要があるな」

「そうね。私もそう思うわ」

 同じ轍を踏まないようにと、心の中でしっかり誓うユートとマイであった。

「まぁ残念だったなー」

 一方で他人ごとのように、お気楽なリペアだったが……。




「それで、今回稼いだお金はクランを設立する準備資金として運用したいと考えているが2人はそれでいいか? もちろん今回の経費を差し引いた金額をだが……」

 ユートは言った。


 ダンジョン大学校にある会議用の教室を貸し切ったユート達3人は今後の計画について話し合っていた。最初の議題は、今回のダンジョン探索の成果であるお金の使い道についてだ。


 ワタグモの綿はすべて売却で9万R。水晶アリの水晶は15万R。経費として、マイの回復薬の代金や移動による馬車代、武器や防具の手入れ用品に、食費を合わせても1万Rいかないくらい。差し引きで23万Rの稼ぎであった。


「薬草は補充できたから良いとして、割った回復薬の入れ物の代金も経費で貰ったから私としてはそれで問題ないわ」


「俺も武器のメンテ用の代金まで貰ったから問題ないぜ!」


「分かった。じゃあこのお金はクランの設立資金として使うことに決定だな」


「そうね」

「そうだな」

 設立資金として使うことに正式に決まった次は具体的にどんな事に使うかと詳細を決めていくユートたち。

 クランを設立するにあたって必要なものは多い。ギルドに申請書を出せばクランを設立することは簡単だが、その際に正式な申請な金額として10万Rほどは要求される。これは実際にクランを設立する意思があるかというギルド側の確認の意味もあるが、運営する気もないクランをむやみに建てさせないという意味も兼ねている。したがって、クランの設立をする上で10万Rは最低でも必要不可欠であるのだ。


「クラン設立の話で気付いたんだけどよ。そういえば、クランの設立って最低でも6人必要だよな? 俺達3人は決まりとして他の3人はどうするんだ?」


 クランを設立する条件として、資金の他にも条件がある。

 その1つがクランを設立するメンバーの数だ。昨日のダンジョン探索でユート達は3人だったが、ダンジョンに入れるパーティーの最大人数は6人。ギルドで推奨されているダンジョンを探索する際の最大人数も6人である。その事からも分かるように、クラン設立の際にもメンバーが6人必要である。

 資金の話は分からない自分が喋るよりもマイやユートに任せた方が上手くいくと黙っていたリペアだが、クランを設立する上で資金よりも重要なことは一緒にダンジョンを探索する仲間である。だから資金の話が終わったのを見計らってリペアは2人に尋ねた。


「あぁ丁度いい質問だな。今回の資金の話が終わったら俺も話そうと思っていたところだ。だがその前に2人にもう一度だけ確認したい事がある」

 ユートは改めて姿勢を正し2人を見据え言う。


「俺の夢は昨日も話した通りダンジョンの完全攻略だ。その動機は自分のこのジョブでもダンジョンを探索が出来るのだという事を世間に証明すること。そして、それは俺自身どこまでダンジョンを進むことが出来るかという挑戦だ。死ぬつもりは全くないが、ダンジョンで自分の力が及ばず死んだとしても本望だ」

 ユートは一息入れ、再び口を開く。


「だから、改めて2人に問いたい。リペア。マイ。お前ら2人は何故ダンジョンの攻略を目指す?」



~モンスター図鑑~

『ワタグモ』

 雲のような見た目のモンスター。本体はクモで、自ら出す糸で綿を作り纏っている。魔力でフワフワと浮かんでいる。触れると状態異常になる胞子を飛ばしてくるが戦闘力はほぼない。単体だと遠距離からの攻撃ですぐに倒せるが、他のモンスターや群れと遭遇した時には超厄介。


『水晶アリ』

体長は人の子供くらいの大きさのアリ型モンスター。背中部分の水晶が綺麗だが魔力はない。アリの特徴である頑丈な顎で噛みついて攻撃してくる。女王アリは魔法を使用し、また背中の水晶は普通の水晶アリよりも少し大きく魔力を持つ。アリ種の特徴として、大規模な巣になると薬草を周辺に植えて育てる。


~道具・アイテム図鑑~

『ワタグモの綿』

 ふわふわ。一部の裁縫職人からの需要が高い。


『水晶アリの水晶』

 ただ綺麗。


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