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No.5 『女王アリ』


「ようやくお出ましか。女王さんよ!」

 リペアが向かってくる1匹の水晶アリの触覚だけを斧で切り落とすと、巣穴から出て来たこれまでの水晶アリよりひと回り大きい羽の生えた水晶アリに向かって叫んだ。紛うことなき、この水晶アリの群れの統率個体…女王アリである。


 リペアの狙いは最初からこの女王アリであった。アリ系モンスターなどに見られる特性として、統率個体がいる場合に、その統率個体を最初に倒せばその他の個体の統率が乱れて倒しやすくなるという事例が確認されている。リペアが他の水晶アリを完璧には倒さず薙ぎ払うだけで、巣へと近づくことを目的としていたのもすべてはこの女王アリを先に倒すためである。



「ギギギ……ギギギ……」

 相対するリペアを見据えて威嚇するように、自身のその鋭い顎を鳴らす女王アリ。


 両者の睨み合いも数秒――――。


「おっしゃあ! 先手必勝! 《兜割り》!」

 リペアが地面を蹴り大きく飛び上がるとその大斧を頭の上から振り下ろす。


 しかし、女王アリは紙一重でそれを回避すると羽をはばたかせて宙に浮いた。それと同時に周りに風の攻撃魔法を複数展開させていく。


――――MAGIC ACTION 《ウインドボール》


「おおっと!」

 一度に4つの魔法を放たれるも、持ち前の動体視力と身体能力ですべての攻撃を躱すリペア。


 しかし、リペアが女王アリから少し距離を置いたことで、女王アリは再び魔法を展開させていく。

「チッ! あくまでも近寄らせないつもりかよ! こうなったら意地でも近づいてやるよ!」

 そう言ってリペアは女王アリに向かって一直線に走り出した。


――――MAGIC ACTION 《ウインドボール》


女王アリの攻撃がリペアへと降り注ぐ。


「へへっ!これくらいユートの投擲より全然恐くないぜ!」

 しかし女王アリの攻撃は、リペアに当たってすらいなかった。

 リペアは、一直線に女王アリに進みながらも飛んでくる魔法を最小限の動きですべて避けてみせたのだ。


「これでトドメだ。《向日葵》!」

 空中にいる女王アリに向かって、リペアは大斧を下からの上に振り上げる。


「ギッ!」

 ただ女王アリも黙って見ている訳ではない。最後までリペアに魔法を飛ばすが、その魔法ごとリペアに斬られた女王アリは、上空へと吹っ飛んだ。




「間に合ったか……」

 上空に派手に吹っ飛んだ女王アリを遠目で見ながらユートは呟いた。手元にあるジャグリング中の回復薬はもう既に残り3つ。ユートは直接的に戦ってはいないものの度重なる状態異常、毒や麻痺や昏睡状態などによって満身創痍の状況だった。


 女王アリと対決中もリペアには、ワタグモ達の胞子が降り注いでいる。それをすべて肩代わりしていたのだ。回復薬が尽きるのが先かリペアが女王アリを倒すのが先かの勝負ではあったが何とか勝利することが出来たらしいとユートは思った。


「くっ!」

 しかし、女王アリを倒したとしても上空のワタグモやその他の水晶アリたちは残っている。再び毒状態となったユートは、ジャグリングを辞めて回復薬を飲みほし立ち上がる。マイは女王アリを倒した次の段階であるワタグモを風で蹴散らしにリペアの元に向かったため近くにはいない。


 ユートは立ち上がると同時に周囲を見渡す。

「なんだ? 何かがおかしい」

 戦場を遠くから見ているユートにはそれがハッキリと分かった。


 女王アリを倒したのにも関わらず、水晶アリたちが混乱していないのだ。一般的なアリのモンスターは統率個体を倒せば一時は混乱するものである。それはダンジョン大学校の実習時にも体験している。水晶アリだけが混乱しないという訳ではあるまい。


「何か見落としている……」

 ユートは呟き、あごに手をやり考え込む。しかし歪なこの状況。あまり考えている暇もない。


「女王アリはリペアが倒した。しかし、水晶アリたちに混乱している様子はない。統率個体がいなければ混乱するはずだが……まさか!」

 ユートは数秒で結論にたどり着いた。


「マイ! 戻ってこい!」


「え!?」


「ギギギッ!」

 しかし、ユートがマイに忠告すると同時にそいつは姿を現した。


「うそ! なんで!?」


 巣穴から出てきたのは、もう1匹の女王アリだった。




「くそ。リペアすまん。お前なら何とかするはずだ」


――――SKILL 【花を持ちたい道化師】


 ユートはスキルを発動させると、リペアの肩代わりをしていたスキルをマイへと切り替えた。


 ずっと後方にいたユートはともかく、リペアは女王アリとの戦いで巣穴から大きく離れた位置にいた。新たに出て来た女王アリの統率によるものか動ける水晶アリはリペアに群がっているのだ。したがって水晶アリの巣から1番近いのは、ワタグモを追い払う役割を果たしていたマイとなっていた。女王アリが狙うのはもちろんマイである。先ほどの戦闘を見ていたのか、厄介なリペアに部下である水晶アリを大量に送り込み足を止め、後方で待機していたユートやマイから始末するということなのだろう。


「マイ! 逃げることだけ専念しろ!」

「分かったわ!」

 ユートはマイに向かって叫び、マイはそれに答える。


 ユートがリペアからマイに【花を持ちたい道化師】を切り替えた意味もマイなら分かっているだろう。ジョブが『踊り子』と『薬師』であるマイには攻撃の手段がない。すなわちワタグモの胞子を気にせず逃げろという事だ。



――――MAGIC ACTION 《ウインドボール》


 女王アリがマイに風魔法を放ってくる。


――――SKILL 【きりきり舞い】


 マイは少しでも女王アリから逃げ切れるように、スキルを発動し攻撃を避ける。




「戻ってきたか……!」

 一方で、マイと合流しようと走っていたユートが膝をついた。マイの上空にワタグモが戻ってきたのだ。マイに胞子を降り注ぐ中、その状態異常を肩代わりするユートであるが、残り2つの回復薬は何故か使わなかった。


「ユート……!!」

 ユートが膝をつくなかマイが女王アリの攻撃を避けながらも走って来る。もちろんワタグモも引き連れた状態だ。


「マイ……そのまま走れ…あれを使う」


「ええ。分かってるわ。 ごめんなさい! あなたに負担をかけてばかりで!」

 そう言葉を交わしながら、マイはユートとすれ違うとそのまま走っていく。


「ギギギッ!」

 マイは一旦諦めてユートから狙うことにしたのか、女王アリは風魔法を展開させていく。


 その間。同じくマイからユートに狙いを変更したワタグモ達が状態異常の胞子をこれでもかと降り注ぐ。


「ぐっ! ああああぁぁぁ!!!」

 全身の胞子が触れた所からくる毒の痛みに、麻痺状態、痒みに、眠気、様々な状態異常がユートの身体に襲いかかる。それはもう最後のトドメが必要ないほどの胞子の数であった。


「ギギギッ!」

 しかし、女王アリは展開した風魔法を放つ。


――――MAGIC ACTION 《ウインドボール》


 絶体絶命と思われたユートだが、その口元が歪み笑みを浮かべるとスキルを発動させた。




――――SKILL 【天邪鬼】





 女王アリは一瞬何が起こったのか分からなかった。もう動けない敵にトドメを刺そうと風魔法を放った。だが気が付いたら自分の身体にナイフやフォークがいくつも刺さっていた。その理由を知ることなく女王アリは力尽きた。


 スキル【天邪鬼】は、自分に掛かっている全ての状態変化・異常を反転させるスキルである。寸前までワタグモの状態異常を浴びていたユートはスキルを発動させた直後、目にも止まらぬ速さで反撃を開始した。

 常に懐に隠し持っている投擲用のナイフやフォーク取り出すと同時にワタグモ達に放つ。そこから再びナイフとフォークを取り出して女王アリに投げる。この間、実に1秒にも満たない。瞬きする速さでモンスター達への攻撃を終え、向かって来る風魔法を悠々と避けた。

 ユートはそこからワタグモ達を討伐するべく投擲しながら駆け出した。




「おらあああ!」

 持ち前の動体視力と身体能力である程度の攻撃は避けられるリペアだが、ワタグモ達が飛ばす大量の胞子はいくらリペアだろうがすべては避けられない。身体に状態異常を受けながらもリペアは群がってくるワタグモと水晶アリと戦っていた。

 隙あらば噛みつこうとしてくるアリたちを避けては大斧で一撃を入れる。時には、アリの触覚を手で掴み向かって来る別のアリたちに投げ飛ばす。また、大斧だけでなく腰にある工具差しからスパナやドライバーを取り出すと頭上のワタグモ達に投擲し牽制もする。


 リペアの戦闘センスはピカイチであった。ジョブが『木こり戦士』や『修理士』ではなく、もっと良いジョブだったらと言われた事も一度や二度ではない。他のジョブを選べなかったユートとは違い、他にも選べるジョブがあったリペア。しかし、他の誰でもないリペアにとってやりたいジョブがこの2つなのだ。このジョブでリペアはダンジョンを探索すると決めている。だからこそリペアはこのジョブで無かったらと言われないようにしなければならないのだ。


 足に噛みつこうとするアリを蹴り、そのままの勢いで身体を回転させながら片手で投擲し、反対側の手で大斧を振り回す。大斧を振り回したことで出来たスペースと時間にマイお手製の回復薬を取り出しそのまま自分の頭にぶっかける。これで状態異常もチャラだ。フッっと息を吸い込むとリペアは再び向かって来るアリ達に大斧を振り回し始めた。



 リペアが戦っていると、徐々に事態は好転し始めていた。さっきまで秩序だって一斉に襲いかかってきたアリ達が見るからに統率を崩し始めたのだ。ユートが女王アリを倒したのだろうとリペアはすぐに分かった。ここからは時間の問題である。実際に、リペアの元にユートが来てワタグモを倒すと、残ったアリ達の処理はすぐに終わった。



~スキル図鑑~

【花を持たせる道化師】

 自分にかかっているバフ・デバフなどの状態変化を任意のパーティーメンバーに渡す。道化師専用スキル。


【花を持ちたい道化師】

 反対に、味方の掛かっているバフ・デバフなどの状態変化を貰い受ける。道化師専用スキル。


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