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No.4 『ワタグモと水晶アリ』

「お、見つけだぜ!階段だ」

 バトルベアーを倒してから程なくして、ユート達は次の階層へと上がる広間の階段を見つけた。


 外から見たダンジョンの外観は、小さい遺跡のような古びた建物であったりするのだが、そのダンジョン内ではその建物からは想像できない程の空間が広がっている事が特徴である。

 また次の階層に上がるための広間の階段も唐突に存在していたりするのがダンジョンの特徴である。


 ここのダンジョンは林と草原型であるために、巨大な木の洞に階段が設置されていた。階段を上がった先には少しスペースのある部屋が設置されており、ダンジョンの層と層の間の空間と認識されている。広間の中央には、氷柱のような形状の蒼く輝くオブジェが設置されており、それに触れると次の階層へと転移させられる仕組みだ。



 3人は周囲を警戒しつつも俺たちは草木が踏み倒されてできた道を進む。ここみたいな小型の半星ダンジョンなどは、出てくるモンスターも比較的弱いため、人の出入りも多くこうして道が出来ている場合も多い。最上層の階段への道がもうすでに出来ているのだ。


「2層には確かニワガ-でるんだったな」

 先頭のリペアが2人に確認するように聞いた。


「ええ。そうね。風魔法を使ってくるぐらいで、特に強いモンスターでもないけど……それがどうかしたの?」

 マイが答え、また逆に質問する。


「いや、確か。ニワガーは食べられるよな?」


「そうだな。ダンジョンでも比較的よく存在するし倒しやすいから、緊急時の非常食扱いされるぐらいに食べられてるな」


「もう、本当リペアったら食い意地が張っているわね」


「いやだって、久しぶりのユートの料理だぜ? マイもそう言ってるけど本当は期待してるだろ?」


「まぁ、そうだけどさ……私が言いたいのは、緊張感もっと持って欲しいという事よ。仮にもここはダンジョンなんだからね」


「マイの言う通りだな。それにしても、俺にはお前ら2人の胃袋を掴んだ覚えがないのだが?」


「「いやいや。またまた~」」


「お前ら、そこは意見が一致するのかよ」

 ジョブが『料理人』ではあるが、俺はそこまで料理が上手という訳でもないんだけどな……と思うユートであった。




 多少のバトルや、途中で薬草を見つけたマイが採取するという事もあったが、これと言って特筆すべきことはなく3層についた。ガチョウのようなニワトリのようなどっちつかずの見た目のモンスターであるニワガーには結局出会えずリペアはガッカリしていた。


 3層に到着してしばらくすると、さっそくお目当てであるウメメの木を見つけた。

 しかし、問題はここからである。ウメメの実は、ここソエウラダンジョンで数少ない食べられる木の実がなる木である。それは俺たち探索者でもモンスターにとっても同じこと。ウメメの木を見つけた所で木の実がついていない、採取されたかモンスターに食べられている場合が多い。



 だが、今回はそのどちらでもない。枝先にウメメの実もキチンと実っている。

割合的には少ないが3番目に多い事例である。モンスターがウメメの木を守護しているパターンだった。占領ともいう。モンスターがウメメの木の恩恵を独占しようとそこに巣を作ったり、縄張りとしたりするのだ。



「しかも、ワタグモと水晶アリが一緒にいるな」

 そして、今回はさらに珍しいことに2種類のモンスターがそのユートたちの見つけたウメメの木にはいた。種類の違うモンスター同士が同じ木を独占しているなど、レアケース中のレアケースである。クモ種とアリ種のモンスター同士の共生関係は学術的にも確認されている事例ではあるが、ワタグモと水晶アリという組み合わせはユート達の知識の中には無かった。


「ワタグモっていうと状態異常の胞子を飛ばしてくる奴だったよな?」


「そうね。他のモンスターと戦っている時に、いつの間にかフワフワと飛んできて状態異常にされるっていう事例が有名よね。単体だと弓矢や魔法で遠くから一方的に攻撃して終わりだけど、あの群れの数に一気に攻められたらキツイわね。水晶アリもいるこの状況なら尚更ね」

 リペアの問いに対してマイが答える。


「水晶アリはどうなんだ?」


「うーん。この状況だと水晶アリはあまり関係ないわね。ただ、腹の部分が水晶のように綺麗なだけで、戦闘は一般的なアリ系モンスターと変わらないはずよ。サポート系モンスターのワタグモと他のモンスターが一緒にいるって次点で厄介なのよ」


「そうか。じゃあどうする?一旦パスして他の木を探すか?」


「そうね。私もそう思ったけど、ユートはどうかしら?」


「いや、一見すると危険な戦闘が予想出来るが案外そうでもない。俺たち3人だからこそ出来る作戦もある。逆にこれはチャンスだ。上手くいけばワタグモの綿に水晶アリの水晶、ウメメの木が手に入る。そして、アリ種は大抵の場合巣の近くに薬草も確保しているはずだ。こんなおいしい獲物見逃すだけ損だ」

 リペアとマイの予想に反してユートはそう言って作戦を話し始める。


「確かにそれなら上手くいけば全部ゲット出来るけどよ…」


「流石に、ユートが危険すぎるわ」

 ユートの作戦を聞いた2人は納得するも、ユートが危険な目に合うという点において了承を渋った。


「いや俺なら大丈夫だ。マイの薬の腕も信じているし、リペアの戦闘技術も信じている。2人がキチンと仕事をしてくれれば大丈夫さ」

 ユートに真面目な顔でそんな事を言われたリペアとマイはもう了承するしかない。仲間が信じていると言ってくれたのだ。こちらも信じない訳にはいかない。信頼には信頼で答えるのが探索者としての同じ仲間としての流儀だろう。



こうして3人はもう一度作戦の確認を行い、ウメメの木奪取作戦を開始した。




「うおおおおお。アリ共掛かってこいや!」

 まずモンスター達に気付かれるギリギリまで接近したリペアだが、身を隠していた茂みから勢いよく飛び出すと雄叫びを上げながらモンスター達の群れに真正面から突っ込む。

 もちろん、リペアに気付いたモンスター達は、リペアに向かう。


――――SKILL 【花を持ちたい道化師】


 それを確認したところでユートがスキルを発動した。スキルの対象はリペアだ。


――――SKILL 【ジャグリング】


 ユートは続けてスキルを発動させると、マイから貰った大量の小瓶や試験管、フラスコに入った体力回復ポーションや状態異常回復ポーションをジャグリングしていく。


 その間もリペアは向かって来る水晶アリたちを薙ぎ払っていく。あくまで薙ぎ払うだけでありトドメまでは刺さない。もちろん狙える時は、アリたちを一発で行動不能にする触覚を狙ってもいる。だがリペアの狙いは少しでもウメメの木に、ひいてはアリの巣へと近づくことである。


 リペアが水晶アリ達を薙ぎ払っていると、上空に遅れてやってきたワタグモ達が群がる。そして、ワタグモ達はその自らの綿の身体を振るうと綿毛を飛び散らせた。これが身体にくっ付くと様々な状態異常に掛かってしまう厄介な代物なのだ。


 だが、上空から綿毛の胞子が降ってきてもリペアは気にせず前に進むことだけに集中する。


「くっ!さっそく毒か…」

 リペアに胞子が触れる。しかし、声を上げたのは後方にいる胞子に触れていないはずのユートだった。


ユートのスキル【花を持ちたい道化師】は、味方に掛かっている状態変化を自らに貰い受けるスキルである。それはつまり味方のバフだけでなくデバフ効果も一緒に貰い受ける事を意味する。

 今回の作戦は、リペアに掛かるワタグモの状態異常をすべてユートが肩代わりするというものだった。それは理論的には可能かも知れないが一歩間違うと、いや間違わなくても死ぬ危険な行為である。だが、ユートにはそれを打開する策があった。


パリンッ!


 と音を立てて、ユートがジャグリングしている試験管型の回復薬の一つがユートの頭上に落ちて割れた。毒で手元が狂った訳ではない。ユートは自ら回復薬を被ったのだ。そう――それは自分に掛かった毒状態を治すため。マイから大量に貰った回復薬で、リペアから貰い受ける状態異常を片っ端から治すという作戦なのだ。


 リペアが進むたびにワタグモの胞子がリペアにくっ付いていく。その状態異常はリペアではなくユートが貰い受ける。それを回復薬で治していく。その繰り返しである。


 リペアがウメメの木まで半分ほどまで近づいたとき、ワタグモ達もリペアに胞子は効かないと判断したのか、それともカラクリに気付いたのか、ユートとマイのいる後方にワタグモ達の半数ほどが向かって来た。


 だがそんなことは、ユートやマイも織り込み済みだ。


「威力はないけど、あなた達を蹴散らす事は出来るわ。《天狗風》!」

 マイは持っている鳥の羽で出来た青い扇子を振るうと突風を生み出した。


 突如として襲ってくる突風に、向かって来たワタグモ達は一気にもと居た場所あたりまで戻される。フワフワと飛んで移動するワタグモ達は、こうした風の影響に非常に弱い。『踊り子』のジョブに相性の良い扇子を武器として持っているマイは、ワタグモ達にとってそれこそ相性の悪い敵だった。


 状態異常を肩代わりするユートの代わりにリペアはどんどんと進み、後方を狙うワタグモはマイが蹴散らす。水晶アリ達は単純に己に近い敵しか狙わないのでリペアしか狙わない。ユート達の作戦は順調だった。



~食材・料理図鑑~

『ウメメの実』

 人もモンスターもみんな大好きウメメの実。甘酸っぱいが癖になる。


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