No36 『スライムゼリー』
タイラー達との話し合いから翌日。
ユート達パーティーは、クランハウスに集まっていた。
仮住まいである狭い事務所に、これまた仮のテーブルを囲うようにしてそれぞれがイスに座っていた。ララはククの膝の上でスヤスヤと寝息を立てており、マルハは事務所の玄関先でおとなしく伏せている。
6人とも学校の授業もなく、今日は朝から前回のダンジョン探索の反省会を開いていた。
まず、それぞれが今回のダンジョン探索の感想を言い合い、それから疑問に思った点や良かった点、悪かった点などを書き出していく。それから反省点を踏まえて次回からはどうすればいいのかを話し合いながらまとめて書き出していく。
そして反省会は一度終わり、現在の議題になったのだが……マイとクレハが即座に頭を抱える程の議題をユートが持ち出してきた。
「これはまた……なんというか、爆弾案件ね……」
困り顔でもマイが綺麗な所作で顎に手をあてながら言った。
「ホンマやで……お宝でひと財産築けるどころの話ちゃうで?」
クレハも呆れ顔でそう言うも『商人』らしく頭の中ではそろばんを弾いていた。
マイとクレハに、そこまで言わしめる今回のユート達が話しているテーマとは。
「そこまで凄いんだな! この『スライムゼリー』ってやつ!」
ことの次第をあまり分かってないリペアが能天気にそう言った。
そう議題のテーマは、リペアが言った『スライムゼリー』。ユートとリペアがあの隠し通路の先で見つけた宝箱に入っていたアイテムである。
「正直、私にはまだよく分かってないんですけど……」
ククがおずおずと手を挙げながら皆を見て尋ねた。
「ごめん。僕もまだ新食材ってところしか分かってないね」
リープもククに続いて正直にそう発言する。
でも、2人が尋ねるのも無理はない。何故なら、今はまだユートがこの『スライムゼリー』を取り出して新食材だって発言しかしなかったのだから。その実物と発言だけで、すぐに理解したマイやクレハが凄いのである。
流石、ダンジョン大学校の学術試験ランキング上位3人なだけある。リープとククはそう思った。最もリープもククもそれほど頭が悪いという訳でもない。むしろ上から数えた方が早いほうだが、この3人のレベルが違いすぎるだけなのだ。
「あぁすまん。えっと、どこから説明したものか……2人は、職人系ジョブの覚えるスキル【工程予測】と【材料予測】は知っているか?」
ユートはリープとククに説明する前に質問する。
「ええっと、授業で名前は聞いたことがありますが、具体的な効果は分かりません……」
ククが眉を寄せて答える。
「あっ! 『吟遊詩人』でいう所の【楽譜予測】みたいなものかい? まぁ僕は【絶対音感】と【即興演奏】のスキルがあるから覚えていないけれど……聞いたことはあるよ!」
リープは思い出したかのようにそう言ったが、その言葉のあとにみんなジト目でリープを見る。
「え? あ、ごめん。嫌味じゃないよ! ホントだって!」
みんながジト目で見て来たことで自分の発言に気付いたのか、両手を振りながら慌ててリープは弁明する。
「まぁ音楽に愛されている貴公子は置いといて……ククのために説明するとだな、この【工程予測】や【材料予測】っていうのは、その職人の自らの専門分野のアイテムに限り、そのアイテムの作り方や材料が分かるっていう効果のスキルだ」
リープに苦笑しながらユートはククに説明する。ユートが横目で見たリープの顔は真っ赤であるが、ユートはそのまま説明を続ける。
「もちろん、そのスキルを使う職人の技術などによって、分かる作り方や材料に差は出るが、便利なスキルには違いない」
「なにせ、今回のようなダンジョンで見つけたお宝やドロップ品にそのスキルを使うことで、今回見つけたお宝が再現できるかもしれへんからや」
「ほぉーなるほどです」
ユートの言葉に補足するようにクレハが話し、ククが頷く。
「なるほど、話がちょっと見えてきた気がするよ。つまり、ただ売り払ったり食べたりするだけではなく、この『スライムゼリー』から材料と作り方が分かるという事だね? そして、それが分かるという事は……大量生産も可能になる」
リープは話の流れから、そう考察した。
「あっ! だから、この『スライムゼリー』でひと財産という訳ですね!」
そして、リープの続きをククが冒頭のクレハの発言を思い出して言う。
「まぁ正解や……注意事項としては、大量生産までいかない事も多いことを付け加えなあかんけどな」
「そうか。作り方や材料が分かったとしても、その材料が希少素材だったり、作り方が特殊な場合だと、結果として大量生産は出来ないのか……」
「そうやな。新発見のアイテムの7割は再現できずに終わるんや。ただ今回の場合は……」
「大量生産の目途が立ちそうなんでしょ? ユート?」
話の流れを経て、マイがユートへと顔を向けた。
「あぁ。そうだな」
話の途中から目を閉じてジッとみんなの会話を聞いていたユートが静かに目を開けながら言った。続けて。
「まず1つ。俺の『料理人』のスキルである【食材予測】で、もう既に材料がある程度分かっている。しかも、材料も簡単に手に入るものばかりだ」
ユートのその言葉に、リペア以外の他のメンバーが息を呑む。
「2つ目は、【食材鑑定】で調べた所、このアイテムの説明がすべて出た。つまり、これは今現在の俺のレベルで再現可能な料理であることを意味する。そして【食材鑑定】で、すべての説明が出た「料理」ならば、俺の【分析の舌】というスキルでその「料理」の作り方や食材はすべて分かる」
つまるところ。ユートの説明は、この『スライムゼリー』の再現が現時点で可能である事を意味していた。
「だが、今回ヤバイのはこれじゃない。この大量生産の目途は一旦置いといてもいい。マイ。この『スライムゼリー』に【薬剤鑑定】をしてみてくれないか?」
ユートは5本ある『スライムゼリー』のうちの1つの瓶を手に取りマイへと渡す。
「え? 嘘やろ!?」
クレハはユートの言いたいことに気付いたのか、バンっと手で机を叩いて立ち上がる。
手に入れた『スライムゼリー』は5つ。色付きのゼリーは透明な瓶にプルプルと入っている。その色はそれぞれ別の色。各スライムと同じく、右から青・黄色・橙・紫、そして、今マイの手にある赤色となっている。
――――SKILL 【薬剤鑑定】
「嘘でしょ!?」
マイは半信半疑といった表情でスキルを使ったが、そのスキルで効果を知り驚きの声を上げた。
「え? え? どうなったんですか?」
ククが両脇にいるクレハとマイの2人を交互に見る。
「驚いたわ。この『スライムゼリー』。効果はそれほどだけど、火傷の治る効能があるわ」
ククの質問にマイは答えながら、他の『スライムゼリー』も【薬剤鑑定】していく。
「いや、効果が付いているのは、それともう1つだけだぞ」
ユートはマイに忠告するがマイは一応とばかりに、次々に確認していく。
「えっとごめん。また話を見失ったんだけど?」
リープが言い、ククが頷いた。
「まぁ簡単に言うと、この『スライムゼリー』は、食べるだけではなく、薬剤としても使える可能性があるってことだ」
「えっと、つまり新しい薬ができるっていうことかい?」
「まぁそうだな。正確には、薬の摂取の仕方が1つ増えるってことだ。今でも、『回復ポーション』とか『回復薬』とか色々あるだろ? その項目に例えばだが『回復ゼリー』的なものができるかもしれない。というか食材として使うよりも、実際こっちの方がメインになるだろうな……」
「今までゼリーと薬っちゅう組み合わせは、うちの知っている限り世に出てない。つまり、このゼリーと薬の組み合わせの研究次第で、今まで出来へんかった薬が出来るかもしれへん訳や。シェアの奪い合いじゃなく、新しい市場を生み出す可能性ちゅうことやな」
うちは、その各色ごとに味でも変わるんかなと勝手に想像してたんやけど、まさか薬としても売れるっちゅうなんて、ホンマこれは一攫千金どころの話ちゃうで……とクレハは話し終わったあとも独り言のように呟いていた。
「なるほど。なんとなくことの重大さが分かったよ」
「私はイマイチですが、凄い発見だというのは分かりました」
ユート達の説明に、リープとククは大まかには理解したが完全に理解したとは言えなかった。
今年最後の更新になります。
本年は拙い文章ながら作品をお読みいただき、誠にありがとうございました。
2019年度は、より更新を増やせるよう頑張っていきますので
引き続き応援の程をよろしくお願いいたします。
皆様 よいお年をお迎えください。




