No35 『報酬分配』
お待たせ致しました。
あのあと、ダンジョンの外へ出たユート達を外で待っていたのは、『災害』救助を呼ぶため先に帰還していたククとヒツジのマルハだった。『災害』救助要請が出されたこともあり、ダンジョンの外は、いつもの活気とはまた違った騒がしさがあったが、タイラー達が先に帰還したこともあるのだろう、その空気はピリッとしてはいるが暗い雰囲気ではなかった。
それからギルドまで行き、なんやかんや手続きなど連絡を終えて、タイラー達パーティーと再会したユート達はキチンと6人いることに安堵の息を漏らした。再会したタイラー達からは、また泣いてお礼を言われ困りもしたが、とにかく2人が無事でとても良かったとユート達は思った。
その夜。救助要請に参加してくれた探索者パーティーやギルドの災害救助隊員らが帰ってくると、労いの意味も兼ねて食べ会・呑み会が開幕。夜遅くまでの大騒ぎとなった。辛かったことは騒いで忘れる。教科書には載ってない探索者の基本だ。
その翌日。大人たちの酔いも覚めたお昼頃。
ユート達は、ギルドにある会議室でタイラーパーティーと向かい合っていた。
「本当にすべて貰って良いのか?」
「はい。理由は説明させて貰いましたし、それにスライムは2パーティー共同で倒したものですから」
「本当に……何から何まですまない」
何度目かのユートの説得により、タイラーの心はようやく折れた。
ユート達とタイラー達が話し合っていたのは、今回の『災害』で獲得したモンスターの素材を売って得た報酬の分配についてだ。
他パーティーと共同でダンジョンを探索した場合において、ダンジョンで得た素材を売った報酬の取り決めは大まかに2つのやり方がある。1つは2つのパーティー間で半分ずつ。もう1つは、共同でダンジョンを攻略する際において、予め報酬分配の比率を決めておくやり方だ。
しかし、これら2つの方法は、予め2つのパーティーが共同してダンジョン攻略をしようとダンジョン探索前に決めておくやり方であるため、今回の『災害』救助のような突発的なことには当てはまらない。というよりも、根本的に無理な話である。
よって、『災害』時の報酬分配の方法は別にある。
それが、『災害』救助を依頼した側はこの『災害』で起きた報酬を受け取らない……救助してくれた人達にすべて渡すという方法だ。何故なら、救助に来てくれたパーティーも命がけである。ましてや、救助を呼んだ側からしてみれば、命を救ってくれた相手だ。その時の『災害』で得た報酬でその『災害』から救ってくれたという仕事は釣り合わない方が多いのだ。それこそ救助した側が命を助けたからと言って、相手の全財産を要求しては元も子もない。その『災害』で得た報酬以上は要求してはいけないと王国の法律やギルドのルールで決まっているのだ。救助する側もそこは善意で助けているという事だ。
以上のことを踏まえて、今回のユート達の分配報酬については、『災害』で得た素材を換金した報酬は、すべてユート達にいくはずであった。
しかし、ユートの発案により今回の『災害』で得たスライムの素材の報酬は、タイラー達パーティーにすべて渡すことにした。そのための話し合いの場という訳である。
ちなみに、今回のこの『災害』だけで得た報酬は、およそ15万Rであった。ほぼスライムの素材だけでこの値段はとても凄い数字である。
「まぁスライム肉の買い取り価格って精々100Rやろ……15万Rって1500匹やん……しばらくは供給過多でスライム肉の値段が下がるやろな……」
商人であるクレハも呆れたようなこの言いようである。
ちなみに、将軍スライムの【眷属召喚】によって生み出されたスライムは、倒しても素材は残さずに消えることもあり、倒したスライムは単純に1500匹を遥かに超える。それだけ大量のスライムがいたという訳だ。
「こんな数のスライム肉、見たことないです……」
ギルド職員で素材買い取り係であるさっちゃんさんも驚いていた。
その15万Rから、災害救助に駆け付けてくれてスライム肉の回収を手伝ってくれた探索者たちに少しの報酬を支払ったり、その他使用した回復ポーションなどの経費を差し引いて、残った金額が10万Rとちょっと。
それをユート達は、全額タイラー達パーティーに渡すことにした。
理由は3つ。
「タイラーさん達がいなければ、『災害』先のダンジョンを攻略することは出来ませんでしたから」
とは、ユートの言葉だ。
実際、タイラー達がいたからユート達の後衛メンバーを守る人が出来た。後衛メンバーを守る人がいなければ、ユートとリペアが『災害』先のダンジョンに足を踏み入れる事は出来なかったからだ。救助を要請したのは、タイラー達であるが、タイラー達がいなければ……協力しなければ、『災害』を攻略することは出来なかった。とユートは考えたからだ。
2つ目の理由として。
タイラー達に伝えはしなかったが、タイラー達にお金が必要だと思ったからだ。
というのも、ダンジョンからの『死に戻り』は命が助かる反面、装備品の耐久は戻らないのだ。『死に戻り』は死ぬほどのダメージを受けたという事でもある。そのような状況は、間違いなく鎧や衣服などの防具にもダメージがある。『死に戻り』は、自身の所持品も一緒に死に戻るシステム(一部例外はあるが)であるから、所持品を無くすことは無いが、死んだ際に受けたダメージは戻らないのである。
そのため、一度『死に戻り』をしたパーティーの損害は思いの外大きくなる。その被害額の大きさによっては、パーティーを解散する場合もある。大手から中堅のクランにもなると、予備の貸し出し装備などの保険も実施されているが、個人単位のクランやパーティーなどの、吹けば飛ぶような経営をしているところが予備の装備などを用意しているはずもない。一度の『死に戻り』が負のスパイラルを呼び、抜け出すことが難しくなるのだ。
残念ながら、2人も『死に戻り』を出したタイラー達パーティーの資金はとても余裕のあるものとはいえない状況のはずだ。タイラー達はその事をユート達に言わないし、ユート達もその事を言わないが、ユート達はタイラー達がパーティーを立て直すための資金を渡したかった。
そして、最後3つ目の理由になるが……。
「『災害』先のダンジョンで見つけた宝箱だけで、俺たちは十分儲かりますから」
そう。ユートとリペアが見つけたあの宝箱。あれは、文字通りのお宝だった。
ユート達は、そのお宝の所有権をタイラー達から貰った。まぁもとより見つけたユート達のモノであるのだが……後腐れのないように、タイラー達にもしっかりと説明して快諾を貰ったのだ。
「いや『災害』先のダンジョンで手に入れたものは、紛れもなく君達のモノだ。俺たちには関係ない。本来ならばスライム肉を売った報酬でさえも君達のモノなんだ。俺たちはそのおこぼれを貰っただけでも感謝している。それは君達が自由に使用してくれ」
タイラーパーティーの副リーダー『魔法使い』のネロメがユート達にそう言ってお宝の権利を放棄した。
そのお宝の権利があり、それだけでも財産が築けるとユートは判断したので、タイラー達にスライム肉の報酬は渡したのだ。
頑なに報酬を貰おうとしないタイラー達を説得するのは少々時間がかかったが、最終的にユート達にも利がある事を説明して納得してもらった。
「本当に今回のことは何から何まですまない……」
会議を終えての別れ際までタイラーはそう言った。
「俺たちは明日で王都から帰るが、もしココザに来た時は精一杯に力になるからよ。その時は俺たちを頼ってくれ」
「あぁ。そうだぜ。本当に命を救ってくれてありがとう。」
「感謝してもしきれねぇ恩を貰った……ありがとう」
「兄さんとイレーを救ってくれてありがとうございました」
「俺が言うのも何だけどよ。お前たちはきっとダンジョンを攻略できるって信じてるぜ! 応援してるからよ! ほらロマもそう言ってるぜ」
「オンッ!!」
「はい。皆さんもお元気で」
「ココザは絶対に行くからよ! また会おうな!」
「じゃ……また会おう」
最後にタイラーさんはそう言って背中を向けた。
その口は多くを語らないが、背中はとても雄弁である。
初めて会い食事をした時に見たその背中よりも、とても大きくて頼もしいものに見えた。
きっと、今よりも強いパーティーとなってダンジョンを攻略するだろう。
光に照らされたタイラー達の後ろ姿に、そんな様子がユート達の目に映った。
本日はもう1話更新します。
※ギルド職員さっちゃんさんのお名前は、勝手ながら初コメントの読者様から頂戴致しました。




