No.33 『ダンジョンの掌握』
――――ピコん!
将軍スライムが粒子となり消えた直後。
ユートの頭上に光る粒子が小さい竜巻のように収束しだすと1つの欠片となる。
ユートが手を伸ばしその欠片を掴むと、ユートの頭の中で音が鳴り響いた。
「ふむ……」
その音と同時に頭の中に表示される文章を見てユートは呟く。
〇ダンジョン権限の獲得〇
――小型ダンジョンの権限を獲得しました。
――以下の権限が行使できます。
・ダンジョンマップの確認
・出現モンスターの確認
・死に戻り設定
頭の中の文章にざっと目を通すと、手慣れた様子でユートはすぐに「死に戻り設定」をOFFからONへと切り替える。
実のところ、ユートがダンジョンの権限を獲得したのはこれが初めてではなかった。ダンジョン大学校の授業中に起きた『災害』を一度攻略した事があるのだ。その時の『災害』は幸いな事に、比較的小規模な弱い『災害』であったため死傷者は出なかった。余談だが、リペアの『大樹刈り』もこの時についた呼び名である。
そのダンジョンを掌握した経験のあるユートだからこそ、すぐにシステムを理解して「死に戻り設定」を変更する事ができた。
「ひとまず、これで安心だな」
設定を終えたユートは、目的を達成できて肩の荷が下りたとばかりにホッとしたように呟いた。
あとは、タイラーの死んだ仲間たちが無事に「死に戻り」出来ているか祈るだけである。
「よっと!」
大技の連発で動けなかったリペアだが、少し休むことで歩けるまでは回復した事で、ユートと共に再びダンジョンの中を歩いていた。
ダンジョンの権限を獲得したユートだったが、出現モンスターの種類やダンジョン内の位置は分かるものの、モンスターの出現自体は止めることは出来ずに、未だに残っているスライム達を倒しながら先へと進む。
ユート達が今向かっている場所はこのダンジョンの外。マイ達が待つダンジョンではなかった。
ユート達の入ってきた『災害』の穴と将軍スライムのいたボス部屋は分岐路や曲がり角などない一直線の道であったが、ユートが手に入れたダンジョンの権限により、ダンジョン内のマップを見ることで隠し通路を発見したのだ。その場所へとユートとリペアは向かっていた。
ちなみに、マイ達にダンジョンを掌握した報告はしなくても良いのかと言うと、将軍スライムが消えた事で将軍スライムが【眷属召喚】で出したスライム達も一緒に消えていた。間違いなく大量発生しているスライムの原因は将軍スライムの【眷属召喚】だったのだろう。それでも半数のスライムは自然に出現した奴だったらしくダンジョン内に残ったが、半数ものスライムが消えた事でマイ達もユートとリペアがダンジョンを掌握した事に気付いただろうと思われる。マイ達もスライムを倒し次第、こちらに来るなり連絡があるだろうという事でユートとリペアはダンジョン内の探索、隠し通路を選択した訳だ。
それにもう1つの理由としては、ダンジョン権限を手に入れたユートであるが、頭の中で先程からカウントダウンが始まっていた。
これは前回も経験した事であるが、『災害』の穴が閉じるカウントダウンである。『災害』のダンジョンを攻略した事例が数少ないため議論は分かれるが、学者たちの間では、『災害』側のダンジョンと『災害』の穴が出来た側のダンジョンの階層レベルの力の違いが均衡を保てず、時間の経過により穴が閉じるのではないかと言われている。
ユートとしては議論の正当性はどちらでも良いのだが、『災害』の穴が時間経過により閉じてしまうという事実は変わらない。このカウントダウンがこのダンジョンにいれるタイムリミットであるため、マイ達には悪いが応援には行かずダンジョンを探索する事にしたのだ。
「ここだな。リペアできるか?」
何の変哲もないダンジョンの通路、石壁の前でユートは立ち止まると言った。
「あぁ。それくらいの体力はあるぜ!」
そう言ってリペアは、腰の工具差しからスパナを取り出し、石壁に向かって叩くように技を発動させた。
――――SKILL【クラッシュ】
すると、石壁は簡単に崩れ落ちる。
ユートもたまに忘れそうになるが、リペアの第二ジョブは『修理士』である。
『修理士』のスキルであるこの【クラッシュ】というスキルは、本来ならば生産系の『修理士』が硬い素材などを壊して分けるために使われるスキルである。しかし、このスキルにはもう1つの使い方があり、ダンジョン等で使用する場合には、何らかのギミック(仕掛け)があるという条件付きで、そのギミックを無理矢理壊すことが可能であるのだ。
通常こういった隠し通路などは、他の場所にスイッチがあったりするのだが、ユートの持っているダンジョン権限では、マップを見ることで通路がある事は分かっても、残念ながらスイッチを探す事は出来なかったため、リペアのスキルで無理矢理壊すという結論に至った。
「おお! 隠し通路なんて授業以外で初めてみたぜ!」
石壁を壊したリペアが、その崩れた先にある通路を見て興奮するように言う。
「そうだな……」
実際にユートも初めて見るが、最初からダンジョン権限によりマップで分かっていた事もあり、リペアのようにあまり驚きは無かった。
隠し通路の先にもスライムはいたので、1匹1匹対処しながらユートとリペアは進む。
「見えてきたな」
頭に浮かぶダンジョンのマップで確認し、目視でも確認したユートがリペアに言う。
「お! あれは宝箱か!!」
リペアが嬉しそうに言った。
実際、ユートとしても宝箱を見るのは初めてである。モンスターの素材やドロップ品、ダンジョンに生えている植物などを持ち帰る事はあっても宝箱は滅多に見つからない。それこそ文字通りのお宝であるのだ。
「何が入ってるんだろうな!」
リペアが笑みを浮かべながらユートを見る。初めての宝箱にワクワクが止まらないのだろう。その表情や仕草など全身が宝箱の中身を早く知りたいと表している。
「そりゃあ、お宝だろうよ」
ユートもニヤニヤが隠し切れずに変な顔になりながらもリペアに言葉を返す。
ダンジョンの権限で見る限り、ミミックのような宝箱に擬態したモンスターでもない。正真正銘のお宝であった。
『災害』の不幸中の幸いというか、今回のようにもし運良く『災害』先のダンジョンを掌握することができたならば、の醍醐味がこのお宝である。一般的に『災害』でつながるダンジョンは未踏破。人の手が入っていない事が多い。つまり、誰も見たことのない素材やお宝が手に入る場合が多いのだ。
「じゃあリペア頼むぞ」
「あぁ分かってるって!」
――――SKILL【スクラップ】
ユートの合図でリペアが宝箱の鍵を壊す。先ほどの【クラッシュ】と同じく、本来の使い方ではないスキルの使い方であるが、ユートとリペア的には鍵が開けば何でもいい。
「じゃあ開けるぞ?」
「おうよ!」
箱の蓋に合わせて、ギィッーと錆びた金具の音が響く。
ユートとリペアが首をながくして箱の中身を覗き込む。
その宝箱の中に入っていたモノは――――。
前回、嬉しいことに初の感想を頂きました!
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