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No.32 『2度目』


「!!!」

 兜も割られ、身体も真っ二つにされた将軍スライム。


 リペアの全力の攻撃を受けて、今まで倒せなかったモンスターなどユートは見たことがない。


 しかし、流石に推定7層レベルのモンスターといった所か。将軍スライムは、身体を真っ二つにされながらも、壊れた兜を被っている方の身体は、未だに動いていた。


「すまん。ユート仕留めそこなったな……」

 スキルによりリペアと場所を取り換えたことで、ワイヤーの上にいたユートが地上へと降りてくるのを見て、リペアはそう言った。流石のリペアも大技を使ったあとのため、肩で息をしている。


「いや、もう奴も動けないだろう。少し俺も体力を使うが仕方ない」


――――SKILL 【鏡の中の道化師】


 ユートは謝るリペアに労いの言葉をかけると、スキルを発動した。


 対象は勿論。リペア。

 『道化師』の攻撃に決定力はないため、リペアに成りきる事で攻撃力を増やす作戦だ。ユート自身も体力を大きく消耗する事になるが、背に腹は代えられない。ここで、将軍スライムを倒さず時間オーバーとなる方が被害は大きくなるのだから。


 ユートはインベントリから取り出した斧を構えて半分となった将軍スライムへと近づく。


「!? まだ動けるのか!」

 近づくユートに将軍スライムは触手を叩きつけるも、斧によりガードしたユート。

 身体が半分となった事もあるのか、鞭のようにしなるスピードも先程より遅く、単調な攻撃であった。


「!?」

 しかし、そこに何故だか違和感を覚えたユートは、サッと飛びずさり後退する。

 案の定、ユートがいた場所には、緑の粘着スライムが将軍スライムの触手によって投げられ、着弾していた。


「まだやるのか」

 将軍スライムは、その触手で部屋中に散らばる普通のスライムを投げ始める。

 諦めの悪い将軍スライムにユートは舌打ちしながらも、心の中ではその諦めの悪さに半分称賛し、さっさと引導を渡してしまおうと斧を持ち直す。



――――SKILL【同族吸収】

「《パワースラッシュ》」


 ユートと将軍スライムのスキルと技が発動したのは同時であった。

いや、結果から言って将軍スライムの方が数瞬だけ早かったのかもしれない。


「なっ!!?」

 《パワースラッシュ》を放ったユートが見たのは、地面に散らばるスライムを吸収し、自らの身体を回復させた将軍スライムの姿だった。


「《まき割りラッシュ》」

 その見る見るうちに身体を回復させる将軍スライムを見て、ユートはすぐに追撃を始める。

が、将軍スライムは回復した触手でユートの連撃をすべて弾いてみせた。


 そして、もう大丈夫だと言わんばかりの触手での一撃。


「くっ!!」

 ユートは斧を盾に自身を守るもリペアのいる方向まで飛ばされる。

 それと同時に、【鏡の中の道化師】の効果も切れてしまった。


 当初の予定時間は残り3分。将軍スライムとの2戦目が始まった。




「《サプライズ・スローイング》」

「《スラッシュ》!」

 将軍スライムが復活した影響と関係があるのか、普通のスライムも動きが活発となっていた。

 ユートとリペアはお互い背中合わせとなって、スライム達の攻撃から身を守る。


 油断はしていなかったはずだ。ユートは戦いながら自分自身に問う。

だが、将軍スライムがあくまでこのダンジョンのボスだという事を失念していた。一般的なモンスターにおいてもトレントのように倒される直前に、技を放つモンスターはいる。ボスモンスターが追い込まれた際に、今までと違うスキルや技を放ってくる事は探索者なら誰もが知っている事だ。警戒してない事はない。ユートも実際に触手でスライムを投げられた時に避けたように、油断していた訳ではないのだ。ユートは頭の中で自答する。


「《フライパンシールド》」


 油断はしていなかった――――いや、本当にそうか?

 本当はどこか心に隙があったんじゃないのか?

 頭の中で1度は下した決断をもう1人の自分がすぐに疑う。


 戦闘をこなしながら、ユートは頭の中で自分に問い続ける。


 リペアが大技を決めた時に、本当は戦闘が終わったと思ったのではないか?

 そうでないと否定するなら、何故すぐに追撃に出なかった?

 本来ならば、敵が粒子となって消えるまでは攻撃するべきではなかったのか?


 問い続ける事で、答えは出ていた。


 ユートは油断していたのだ。

 最近の戦いはリペアに頼ってばかりである。自分は攻撃の決定力がないと、どこかで諦めて攻撃の主力はいつもリペアに任せていた。自分はリペアの攻撃後に満身創痍の敵を倒すだけ。『道化師』と『木こり戦士』という遊撃手と前衛としての関係性の在り方としてはこれが正しいやり方である。

 しかし本来の在り方だからと言って、それがいつだって正しいとは限らない。ましてやダンジョンを攻略しようと宣言している者が、戦闘で命のやり取りをしている者が、自分の成長を勝手に決めてしまい、正しくある方へ進まないでどうするのか。正しい道などない。己が正しくあると思う方へ進むからこそ、正しい道となるのだ。


 ユートは、将軍スライムが復活した原因を己の責任だと認める。

 認めた上で、今すぐに自分に何が出来るのかを考え、決め、行動に移す。


「リペア! もう1回技を撃てるか!?」

 将軍スライムの触手を弾きながらユートはリペアに叫ぶ。


「! あぁ。回復薬を飲めば1回ならなんとかなるぜ……」

 リペアもスライム達の放つ魔法を斧で斬り裂きながらユートに言葉を返す。


「そうか。なら、もう1度ワイヤーに上がってくれ!」


「おい、そしたらユートが……」


「俺は大丈夫だ! もう1度くらい時間を稼いで見せるさ……」

 ユートもリペアもお互いが満身創痍だ。1人が今の戦闘から抜ければ、もう1人も危険になるくらいには、お互い気力も体力も少ない。

 だが、ユートの決意に満ちた表情に、リペアは頷くしかなかった。


「分かった! 任せたぜ!」

 そう言って、最後に斧を振って近くにいるスライム数匹をまとめて粒子に変えると、リペアは上空の安全圏であるユートの張ったワイヤー陣まで飛び上がった。


「よし! 俺も気合いを入れるぞ!」

 リペアの溜めの時間を考慮して、撤退の時間を逆算しても時間はギリギリ。

 そこからユートにとって長い30秒が再び訪れた。




 結果として、その30秒をユートは乗り切った。

 しかし、その30秒間は、ユート自身にとっても先程の30秒とは全く異なる30秒となった。


 何故なら、この土壇場でユートが取った戦法は、『道化師』の封印であった。

 今まで主軸としていたはずの投擲や『道化師』の多彩なスキルや技を一切使わなかったのだ。


 本来ならば投擲スタイルのためフリーな両手には、それぞれフライパンと解体包丁を持った。


 右手の水属性の施された解体包丁で、スライム達を切っていく。

 左手のフライパンでは、スライム達のそれぞれ放つ魔法を受けては、その魔法の属性効果があるうちに他の色のスライムにカウンターのように殴っていく。


 白スライムを3枚おろしにしれば、橙スライムを輪切りに、黒スライムをぶつ切りにする。

 赤スライムが火魔法を放てば、フライパンでガードし、熱いうちに緑スライムを殴る。


 バフでしか倒せない紫スライムと、攻撃しれば武器が錆びつく恐れのある黄色スライムは、将軍スライムから伸びる触手を誘導する事で、灰色スライムを爆発させて周囲諸とも吹き飛ばし倒す。


 この窮地ともいえる状況の中、ユートは自らの力を信じ、試すことで成長していた。或いは、自らを追い込んだことで生への執着心がそうさせたのかも知れない。


 とにかく、ユートはこの状況を、30秒を、作りだした。



――――SKILL 【ILLUSION-SPACE・CHANGE】



 ユートとリペアの位置が即座に換わる。


 だが、将軍スライムもそれを分かっている。

 同じ手を何度も食らうほど、モンスターも馬鹿ではない。


 2人の場所が換わるのを見越していたように、今まで以上に早い触手の鞭がリペアを襲った。


――――SKILL 【ILLUSION-SPACE・CHANGE】


「《フライパンガード》!」

 もう1度、場所の入れ替わりをしたユートがその触手攻撃を受けた。

 ユートもまた将軍スライムの動きを予測していたのだ。


 そして、ユートは1度目のリペアとの位置の交換後、すぐにワイヤーの足場から飛び降りていた。


 その意味する事は1つ。


 将軍スライムのすぐ頭上で、リペアが斧を構えながら落下していた。


「おらぁあ! 《大樹刈り》!」



 今回は、下向きに放たれる横一線。



 再び、真っ二つとなる将軍スライム。

 しかし、今回もまだ粒子とはなっていない。


「ユート! あとは頼んだぜ……」

 リペアは強すぎる攻撃の反動のため地面に倒れる。最後をユートに託した。


「あぁ! 今度ばかりはトドメだ! 《灼熱のフライパン落とし》!」

 それは、土壇場で成長したユートの新しい技であった。


 紅く熱せられたフライパンが火を纏い振り下ろされる。


 今度こそ、今度こそ。将軍スライムは粒子となって消えた。


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