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No.31 『将軍スライム』


 ジョブレベルに差のある探索者同士が戦った場合、レベルの高い方の探索者が勝つのが一般的である。しかし、それは絶対ではない。

 実はダンジョン探索者のジョブレベルと実際の戦闘の強さに関係性はない。これは多くの人が勘違いしている事柄である。

 ダンジョン大学校でも、その2つの事柄は関係ないと完全に言い切っていて、事あるごとに教えられている内容ではあるが、探索者の中でもこれを理解している者は残念ながら少ない。


 では何故、ジョブレベルと戦闘の強さに関係がないのか。

 結論から言うと、ジョブレベルとは1つのものさしでしかないからだ。


 ジョブレベルは、ただ単に、その『ジョブ』の主に技術的な『習熟度』を総合的に表しているだけに過ぎない。

 戦闘や試合に勝つ要素は、ジョブレベルだけでなく、そのほかの技術、体力や体調、個人の感情やセンス、相手との相性、その時の環境や状況などの様々な要素が絡み合い、勝敗が決まる。

ジョブレベルという1つのものさしで見れば、下剋上やジャイアントキリングは珍しくもないという事であるのだ。


 これが先程も言ったジョブレベルが高いからといって、絶対に勝つ訳ではないという理由である。

 これらを踏まえた上で、なにが言いたいのかというと、探索者とモンスターについてもこれが当てはまる。上層のモンスターといえども倒せるチャンスがあるのだ。



 将軍スライムは、スライムの中でも最も上位に近い種族とされている。

 何故なら、モンスターの上位種は現在確認されている種で『○○神』と名の付く種類が最も強い種であるとし、次点で『○○キング』や『○○王』、『○○女王』と言った種、その次点に『将軍○○』、『○○将軍』といった種が強いとされているからだ。もちろんアリ種やハチ種のモンスターなどの『女王アリ』などの例外も存在するが、概ねモンスターの強さを表す名としてこれは正しい。


 将軍スライムは、ギルドの図鑑でも未発見のモンスターであるが存在するであろうと言われているモンスターであった。

 勿論、未発見であるためユートはこれが初めて見る将軍スライムであったが、ギルドやダンジョン大学校の図書館に存在するモンスターの資料や本は全て読んで覚えているし、新種のモンスターの情報は事あるごとに仕入れているユートである。記載されている他のモンスターの将軍種から、直感的にこれがスライムの将軍種であるという事が分かった。



「将軍ってことは、相当格上だな……」

 リペアがユートの言葉を聞いていつにもまして真剣な表情となる。


「あぁ、気を……っが!!!」

 ユートは一瞬何が起きたのか分からなかった。

 お腹に痛みが走ったかと思うと背中を思い切り打ちつけ、肺にあった空気が外へと吐き出されたのだ。


 気が付けば、後ろの壁にぶつかっていた。


「!!!?」

 状況を理解する前に、一方的にやられる可能性があるため次にくるであろう攻撃を避ける。


 その瞬間、ユートのぶつかった壁には、白い触手が鞭のようにしなり、その壁と床に大きな衝撃が起きた。攻撃を避けながら横目で見ると、石で出来た壁や床がひび割れている。ダンジョンのこういう通路や壁、床というのは、基本的に壊れないようにか頑丈に出来ている。それをあっさりと破壊した攻撃はその威力を物語っていた。



「ユート! 大丈夫か!?」

 リペアの声が聞こえる。

 ようやくユートは理解した。どうやらスライムは触手を鞭のように振るい攻撃してきたのだと。


 油断はしていなかったが、目で追えない程の速さで触手で攻撃してきたのだ。


 顔も何も無い将軍スライムだが、その身体の上には将軍の証とでもいうように、スライムの形をした飾りをした立派な兜を付けている。

 2回目の攻撃を避けたユートに、将軍スライムは、その身体を傾けて中々やるなと表した気がユートにはした。


「あぁ一応、これで大丈夫だ……」

 咄嗟に、空中に飛び上がり回避したリペアと同じく、ユートも将軍スライムの触手が届かない位置を見極めて、スライムボールの付いたロープを使って天井付近に近い壁に張り付き、回復薬を飲んでからリペアに言葉を返した。


「それでどうする? 作戦は続行か?」

 リペアが将軍スライムを警戒しながらもユートに聞く。

 今回の作戦は、ダンジョンを制圧し、攻略して、タイラーパーティーのメンバーを助けること。

 しかし、大前提として、それはユート達が勝てると判断した場合、ユート達の命を落とさない事が前提となる。


 改めて、将軍スライムという未知の敵を確認したことで、作戦をこのまま続けるのかとリペアはユートに尋ねたのだ。


「あぁ。続行だ。将軍種と言ってもやはりスライムだ。先程の触手の鞭は痛かったが、所詮はそれまで。裏を返せば、前衛でもない俺を一撃では倒せない攻撃だ。勿論、当たり所が悪ければ……だが、もう触手の範囲も見切っているし、あの速さに目も慣れてきた。倒せない相手ではないだろう」

 ユートはリペアの問いかけに、早口で答える。


「しかし問題は、どれほど攻撃を加えればあいつを倒せるかだ。そこは実際に攻撃を当てなければ判断できないが、タイムリミットもある……残り7分。2分……2分を過ぎたら引き返す」


「オッケー分かったぜ。戦い方は、あれ・・だよな? じゃあ俺がまず引き付けておくぜ!」


――――SKILL【戦士の心得】

――――SKILL【戦士の気迫】


 リペアはユートの言葉を聞き、まるで次のユートの作戦が分かるかのように確認するとすぐに、将軍スライムへと向かっていった。それこそ長年連れ添った夫婦という訳ではないが、ユートとリペアはダンジョン大学校を入ってすぐにパーティーを組んでいる仲である。あれ・・と言うだけで、ユートとリペアはお互いにどういう戦い方でいくか分かっていた。



――――SKILL【眷属召喚】


 ユートとリペアが壁に張り付き相談している間、触手を振っていた将軍スライムだったが、何度か触手を振ったあと、攻撃が届かないと分かったのか、【眷属召喚】によってスライムを再び増やしていた。


 そこに、身体能力をアップさせたリペアが斧を構えながら走る。

 床に大量にいるスライムだが、粘着性のある緑のスライム以外や爆発する灰色には注意しながらリペアはスライムを踏みつけ、将軍スライムへと迫る。


「おらあ!」

 将軍スライムは【眷属召喚】を中断し、迫るリペアに触手を振りぬくも、リペアはそれを最小限の動きで避け、時には斧でガードしながらどんどん近づいていく。


 2本の触手を必死に動かし、リペアへと攻撃するもついぞその攻撃が致命傷を負わせることは無かった。


「《兜割り》!!!」


 将軍スライムの手前で、触手をジャンプして避けたリペアは、そのまま振り上げた斧を思い切り振り下ろした。


 リペアの斧が、将軍スライムの兜を文字通り、割った。



「リペア!」

 それから、上空で準備を終えたユートが、将軍スライムの横にいるリペアにロープを投げて上へと引っ張り上げる。


「ナイスタイミングだぜ!」

 1本のワイヤーの足場に降り立ったリペアがユートに向かって言う。


「あぁ。だが、残り5分を切った。次に行くぞ!」

 リペアとの会話を早々に切り上げ、今度はユートが真下にいる将軍スライムへと向かっていった。


「おう。頼むぜ!」

 リペアもそうユートに返して次の行動に移る。


――――SKILL【精神統一】

 ワイヤーで上手くバランスを取りながら、リペアが斧を真横に構えてそのまま動作を止めた。それと同時に、黄色い魔力のオーラがリペアの全身を包み始める。


 ユートとリペアの作戦は、実にシンプルなものだった。

 2人が初めてパーティーを組んだ時から変わらない戦法。


 攻撃力のあるリペアと攻撃力があまりないが敵を翻弄できるユート。


 その2人が至った、とても簡単だが最も効果のある戦法。


 それは、ユートが敵を引き付けている間に、リペアが一撃必殺の攻撃を叩き込むというもの。


 これまで格上のボスとの戦闘は、全てこれで勝利してきた。おそらく、これからも変わらない戦法である。


 今回の場合は、まず将軍スライムの攻撃が当たらない場所に陣を張った。つまり、将軍スライムの触手の届かない、この部屋の天井付近の上空に、リペアが戦っている間、ユートはスライムボールのワイヤーを使って巨大コウモリ戦の時のように、安全な場所を作った。

 そうすることで、まず地の利を有利に変える。マイや他のメンバーがいない今回の場合、回復も自分達で補うしかない。安全な場所を作ることで、いつでも回復できるようにする意図があった。

 そして、もう一点。リペアが最大限の攻撃をする準備のため。

 【精神統一】という、意識を集中させることで次に繰り出す技の威力を上げるスキルにより、いわゆる溜め技をする攻撃の時間を稼ぐためだ。


 リペアが上空で攻撃されない間は、ユートが将軍スライムを引き付ける。


 そして、リペアが最後に最大の攻撃を叩き込む。それがユート達の作戦だ。


――――SKILL 【ミスディレクション】

――――SKILL 【ジャグリング】


「《サプライズ・スローイング》」

 ユートはそのリペアの時間を稼ぐため、自らの力を出し惜しみせずに将軍スライムを引き付ける。大量展開したナイフやフォークを途切れることなく、投げつけスライム達を仕留め、将軍スライムの触手を躱し、牽制していく。


「《まな板ガード》!」

 突如、後方で爆発した灰色スライムにも的確に対応し。


「っく! 《フライパンシールド》!」

 その隙を狙ってしなる将軍スライムの触手をも連続してガードする。


「《道化師の火吹き》」

 緑の粘着スライムには、文字通り火を吹いて燃やす。


――――SKILL【アクロバット・ジャンプ】


 で、将軍スライムの鞭を避け、持っていたフライパンで攻撃を加えるも、ダメージは微々たるものだ。


 『道化師』というジョブの特性上、攻撃力は低く決定打には欠けるが、ユートはその攻撃の手を緩めない。


 永遠とも思える30秒をユートは乗り切った。


 ヒュンと空気を切る音をさせながら迫る将軍スライムの触手。


「どうやら、時間のようだ」

 言葉など分かるはずもないが、ユートは将軍スライムにそう呟くと、触手を軽々と避けて見せた。そして、次の瞬間。


――――SKILL 【ILLUSION-SPACE・CHANGE】


 ユートがスキルを発動させると、将軍スライムの前に立っていたのは、溜め技を放つだけとなったリペアだった。


「さぁ。とっておきだぜ! 《大樹刈り》」

 リペアはその二つ名に相応しい技を使用する。


 横一線。


 左から右に振りぬかれた斧は、将軍スライムを真っ二つにしたどころか、その後ろの壁までをも横一文字の跡を残した。



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