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No.30 『勝算』


「ではタイラーさん頼みます!」

 作戦会議とは言えない、ユートが一方的に作戦を述べたあと、ユートとリペアは走り出した。


 タイムリミットは余裕を見て見積もっても10分。残された時間は少ない。懇切丁寧に作戦を説明している暇は無かった。


 だが目的は決まっている。

 勿論それはタイラーの仲間2人を助け出すこと。

 この一点が作戦成功の可否となる。


 しかしその作戦は一般のダンジョン探索者からみれば、想像を絶するほどの難易度の高さであった。何故なら、それは『災害』で繋がった先のダンジョンを攻略することを意味しているからである。

まず前提として、助けに行くタイラーパーティーの2人はもう既に死んでいる。それ故に、その2人を救うには、ダンジョンを安全化しなければならないのだ。

 安全化されたダンジョンが『災害』により一時危険地帯化、つまり死に戻りが出来なくなった際に、死んだ探索者の『死に戻り』は出来ない。しかし、歴史的にいくつか記録されている事例として、危険化したときに死んだ探索者がいても、その災害の中のダンジョンを掌握し安全化したのなら、探索者の『死に戻り』が出来たという事例が記録されているのだ。


 今回のユート達がやろうとしていることは、正にそれであった。

『災害』で繋がった先のダンジョンを安全化する。マイが怒った理由も納得できる。

 何も分からない安全化のされていないダンジョンに飛び込むのだ。普通のダンジョン探索者からみても自殺行為に等しい行いである。

 それもユートは10分でと言った。


 例え、現在最高到達層である7層で普段戦っているパーティーやクランでも難しい条件であった。


 しかし、ユートの頭の中には、作戦会議で話す時間は無かったが確かな勝算があった。それもタイラーという確かな腕前の前衛がいる事でユートの作戦の成功率を大幅に上げていた。タイラーがいることで、ユート達パーティーの後衛のメンバーを守る人が出来たからだ。


 正直に言って、今回の『災害』の難易度はそれほど高くはないとユートは判断していた。まぁ、他の『災害』と比べるのならという注釈は付くが……。リペアとマイの父親たちが遭遇した『カラクリ魔神』などという最初から戦う事すら出来ない相手、まだ攻略されていない階層の強さの敵ほどではない。


 何故なら相手がスライムであるから。


 多くの探索者にとってスライムは倒せないモンスターではないのだ。群れで現れたら厄介というだけであって、単体で遭遇しかつキチンと対処する術をもつなら、倒しやすいモンスターである。『魔法使い』がパーティーにいれば、ほとんどのスライムに対してアドバンテージが持てるのだから。攻撃がまったく効かないという訳ではない。更には『魔法使い』としてララもいる。スライムは倒せる敵であるというのが、ユートの1つ目の勝算である。


 それから2つ目の勝算。それは、リープとスライムの相性の良さであった。

 リープの音による攻撃は、とても特殊な攻撃である。それは、魔法攻撃であり物理攻撃であり、技やスキルによってはバフやデバフにもなる、本当に特殊な攻撃である。

通常の『吟遊詩人』というのは、楽器による演奏や歌声により、味方にバフを与える、敵にデバフをかけるジョブでしかない。

 しかし、リープは違う。リープの持つ『シリーズ』の楽器は、音を攻撃に変えることが出来るのだ。それにより、リープの攻撃は魔法攻撃や物理攻撃にもなるのだ。


 スライムは色によって、それぞれ弱点となる攻撃が違う。

 黄、黒スライムは物理攻撃に弱く、緑、白スライムは魔法攻撃に弱い。

 赤、青、橙のスライムは、それぞれ自身の属性以外の魔法攻撃に弱い。

 紫スライムは、デバフでしか倒せない。


 前述のとおりリープの一撃は、魔法攻撃と物理攻撃を兼ねる。そして『吟遊詩人』としてデバフをかける事も可能だ。つまり。ほとんどのスライムに、リープはダメージを与える事ができるのだ。スライム達にとってリープは、完全な天敵であった。

 もはやリープを相手にして生き残るスライムは、自爆特攻をする灰色スライムくらいである。それも灰色スライムの自爆特攻という特性上、序盤で大幅に数を減らしている。

 リープとスライムの相性の良さ。これがユートの2つ目の勝算であった。


 そして、3つ目の勝算。

 それは、恐らく今回繋がったダンジョンは比較的低階層のダンジョンであるということだ。低階層といっても現在いる3層のダンジョンよりは上の階層であることに間違いはないのだが……ユート的には5層レベルではないかと推測している。『カラクリ魔神』のような未踏破の階層レベルのダンジョンへと繋がる『災害』ではないだけマシである。

 そして5階層レベルであるならば、ユートとリペアは十分に戦える力を持っている。それを証拠に2人の最高到達層は大型ダンジョン5層の攻略である。

 そう言う理由もありダンジョンの繋がる『災害』の穴まで行けば、ユート達がその繋がった先のダンジョンの安全化も出来るのではないかと思ったのだ。



 そして最後の勝算の理由として、タイラーの存在。

スライムの群れは、リープとララでなんとかできる。しかし、ユートの最後の懸念は、他のモンスターの乱入であった。考えすぎるのも良くないが、事態を最悪の場合まで考えて、対策しておくのは探索者としての基本だ。

 例えば、スライムの群れをリープとララが対処している中で、先程のボスライオン級のモンスターが乱入してくると仮定した場合。マイやクレハを守る人がいなくなってしまうのだ。その点タイラーがいることで、例えボスライオン級のモンスターが来ても対処できるし、タイラーパーティーは他に3人がいる。そちらに受け持って貰うことが可能である。

 そうすることで、ユートとリペアの最大戦力を『災害』の対処として運用できる。

 後衛のジョブが多いユート達パーティーの懸念事項は如何に後衛を守りながら、攻撃手であるリペアやユートが動けるかであるが、タイラー達がいる事で後衛の問題は解消される。それがユートの最後の勝算であった。


 それらをまとめた上で、ユートの出した作戦は、シンプルなものである。


 クレハは後衛で結界、ゴーレムの操作でメンバーのサポート。

 リープとララでスライムの群れを引き付けて大量に倒す。

 マイは紫スライムの対処で、タイラーは後衛の護衛。

 タイラーパーティーの3人はクレハの護衛や見張り、回復薬の運用など下支えをして貰う。

 その間に、ユートとリペアが『災害』の穴の先のダンジョンへと侵入、攻略し安全化する。


「まぁ繋がっているダンジョン次第で成功率がほとんど変わるんだけどな……」

 リープ達が群れを引き付けているおかげで、数の少ないスライムを倒しながら呟いた。ダンジョンの先は全くの未知である。それを10分以内にボスを見つけ攻略しなければならないのだ。繋がった先のダンジョンのエリア次第でその難易度が大いに変わる。


 ユートは、あわよくば攻略のしやすいダンジョンである事を願いながら、リペアと共に『災害』の穴へと入った。




「こっちもスライムだらけだな!」

 リペアが斧でズバズバとスライムを切り裂きながら言う。


「あぁ。外のスライムの数を見ればこれも当然だろう。灰色には気を付けろよ!」

 ユートもユートで、右手に持った解体包丁でスライムの相手をしながらリペアに言う。


 物理攻撃では倒せないスライムが多い中、こういう特性の敵用に、予めこのユートの解体包丁には水属性の付与が施してあった。同じ水属性である青色スライムに効果はないが、そこはうまくリペアに任せることで、ユートはスライム達を対処していた。


 『災害』の穴の先のダンジョンは、迷宮エリアと同じく石の壁、石畳の床のダンジョンであった。


 時間が惜しい現状、通路の多くある迷宮エリアは行き止まりも多く、攻略するのに時間がかかる。運が悪いとユートは思った。


 しかし、スライムと戦いながら通路を進む中で、ユートは考えを改めた。

 何故なら、通路が一直線であったからだ。他に分岐する道など無い。


 一直線に伸びる道には、おびただしい数のスライムが道を塞いでいるが、その通路の先には一筋の光……出口がかすかに見える。おそらくそこがボス部屋であり、スライムが湧いている場所だ。運はユート達に味方していたのだ。


「《パワースラッシュ》!!!」

 リペアがスライム達を吹き飛ばす斬撃で道を作ると、ユート達はそのボス部屋へと到着した。


「なんだこいつ!? でけぇ!」

 そこで待っていたのは……。


「将軍スライム……」

 スライムの最上位に近い個体であった。

 その強さ……およそ7層レベル。現在のダンジョン最高到達層である。




※各話あとがきの変更をしています。スキルや技、モンスターなどの説明を順次追加しています。


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