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No.27 『連戦』


――――skill【眷属召喚】


 結界により、自身の魔法が効かないと判断したボスライオンは、即座に戦術を切り替える。魔法は効かなくなったが、その代わり相手との距離は出来た。その間に自身の眷属を増やしてしまおうと。


「ちょっと数が多いわね……」

 マイがボスライオンの【眷属召喚】により、新たに出現したライオン4匹を見て呟いた。


「【眷属召喚】で出たライオンは僕が受け持つよ」


「ほな。うちは、【消音結界】やな」


「俺は引き続きボスだな」


「リープが攻撃に回る分、バフは私だけになるから気を付けるのよ」


「私の役割も変わらずですね……」

 ユートがいない状況下であっても、相手の出方を確認次第、すぐに打ち合わせする5人。そしれ、それぞれがすぐに動き出した。


――――SKILL【戦士の演舞】

「《纏い風》!」


「よっしゃ! 2戦目だぜ! 猫野郎!」

 マイが施したバフをリペアが受けて、リペアはボスへと走り出す。


――――SKILL 【消音結界】


「よし。オッケーやリープ!」

 一般的に、『結界師』が結界を張るまでの時間に1、2分ほどかかると言われるが、クレハは【消音結界】を15秒ほどで張り終えた。これは一重にクレハの技量が優れているという事もあるが、今回に限っては、マイが『結界師』用にと調合したブースト薬をクレハが飲んだ。そのため、通常よりも早く結界を発動することが出来たのだ。


「リペア君は耳を塞いでておくれ」


――――SKILL【眠り歌: WhiteSnow Princess】


 リープの綺麗な歌声が口元にあるマイクによって、一段と音を大きく響かせる。そして、ギターから弾き出されるその美しい音色がその歌声をより際立たせる。


「GARU……」

 ボスライオンの【眷属召喚】で出現したライオンたちの動きが見るからに鈍る。

 リープのスキル【眠り歌: WhiteSnow Princess 】は、その最初のスキル名の通り、聞いた者の眠気を誘って動きを鈍らせる、上手くいけばそのまま相手を眠らせる事の出来るスキルである。

 『吟遊詩人』によるスキルや技の大半に言えることだが、デメリットは、敵だけでなく味方もそのスキルの影響にかかってしまうこと。


 リープは、2匹のライオンを眠らせる事に成功し、残り2匹のライオンの動きを鈍らせることに成功した。しかし、クレハの【消音結界】内に入っていないリペアにも効果が及んでいる可能性がある。


「リペア君は? 大丈夫そうだね……」

 演奏を辞め、リペアの動きを確認したリープはそう言った。


「予めリペアには、眠気覚ましの薬を持たせたわ。大丈夫よ。それよりも、向かって来るライオン2匹をどうにかしなくちゃ」

 マイの種明かしにリープはホッとし、すぐさま目の前のライオンへと意識を戻した。


「1匹はゴーちゃんを出すで。それでうちが相手するさかい。3人にはもう1匹を任せるで」


「そうね。でも、私たちが相手にする必要はないと思うわ」


「?」


 クレハの言葉にマイがそう言った。直後。



――――SKILL 【死んだふり】

「《鳥獣解体・二連》!!!」


 倒れて動けないはずのユートが、近くを通ったライオン2匹に襲いかかった。


「GARU!!?」

 足元で倒れていたユートからの不意打ち。

 リープのスキルにより動きが鈍っていた事もあり、 2匹のライオンは為す術なくポリゴン片となって砕け散った。


「ユートさん動けたんですね……」

「マイやん。知ってたんなら教えてくれてもいいやろ……」

 ユートの復活は戦力的に嬉しいものの、ジト目でマイを見るククとクレハ。


「えーと。一応ね? 知ってたけど……ユートもあれ、どこで使うか知らないし……分かった。内緒にしてたのは謝るわ。でも、敵を欺くならまずは味方からっていうし……ごめんなさい。でも私はユートにも責任があると思うわ」

 マイはクレハに問い詰められて謝った。


「まぁええわ……。まずは、目の前の戦闘や。この件に関しては終わってからやな。リープ。もうユートなんか気にせずにぶちかましたれ! 作戦はそのままや!」


「そうだね。ユートなら僕の攻撃も関係ないだろうし……」

 怒れるクレハに促されてリープも再び攻撃を開始する。


「《音爆弾》!!!」


「え? リープ! 俺ごとかよ!」

 眠っているライオンの場所に到着したユートの上空には、リープの奏でた音色。しかし、《音爆弾》というスキル名からも分かるその音は、今にも破裂しそうな荒々しい音符たちが動き回っている。


――――SKILL 【ILLUSION-大脱出】


 間一髪。ユートがスキルを発動させた瞬間に、リープの《音爆弾》が雨のように降り注いだ。


「って、リペアのところかよ!」

 道化師のスキルで難を逃れたユートであったが、一難去ってまた一難。スキル【ILLUSIONー大脱出】は、自分が危険な状態に陥った時、ランダムでパーティーメンバーの近くに移動するというスキルである。後衛メンバーが5人で固まっていたのにも関わらず、よりにもよってボスライオンとリペアの戦闘の場所へと来てしまった。


「まぁ仕方ねえか……」

 希望の場所とは違ったが予想の範囲内ではある。ユートはすぐにリペアとボスライオンの戦闘に参戦した。


――――SKILL 【鏡の中の道化師】


「おっ! それは久しぶりだな!」

 ボスライオンの爪を軽々と斧で弾くリペアがユートを見て言った。


「リペアお前、また強くなったな……制御がしにくいぞ!」

 同様にユートにも爪が飛んでくるが、ユートもいつの間にか持っていた斧でボスライオンの攻撃を弾く。その様はまるでリペアのようであった。


「ははっ! やったぜ。褒められたぜ! 《スラッシュ》!」

 そうユートの言葉を聞いたリペアは嬉しそうに笑った。


「まったく戦闘中だってのに……まぁ強くなる分には何も問題はないが……《スラッシュ》!」

 そして、ユートが『道化師』と『料理人』では覚えるはずのない技を使用する。


 【鏡の中の道化師】。それは一言で説明するとモノマネのスキル。発動時にその場にいる人物の1人に成りきるスキルである。つまり、限定的ではあるが今のユートの状態は、リペアのスキルや技が一部使えるという事を意味していた。


「GAAARU!!!」

 実際ボスライオンにとって、このユートのスキルは脅威であった。さっきまで1人で己の相手をしていた敵がもう1人増えたのである。


 これにはたまらず、ボスライオンも機を見て後ろへと飛びずさる。本能的に近距離では敵わないと悟り、先程効果のあった遠距離からの魔法の勝負へと持ち込もうと思ったのだ。


――――SKILL【風切りの舞】

――――SKILL【行進曲: The Good Dinosaur】


 だが、狙ったタイミングの如くマイとリープによるスピードアップのバフが、ユートとリペアにかかる。


 後ろへと下がったボスライオンだったが、魔法を使う暇もなく、ユートとリペアに距離を詰められた。


「GAAARU!!!」

 苦し紛れに左腕を凪ぐも、攻撃は当たらず宙を切るに終わる。


「よっしゃあ! 行くぜユート!」

「おう!」

 まるで動きをシンクロさせたように、ボスライオンの攻撃を飛び上がって避けた2人。


 そして――――。


「「《《兜割り》》!!!」」

 飛び上がった空中で2人共クルリと一回転すると、斧を頭の上から下段へと振り下ろす。


「GAAARU!!?」

 攻撃が頭に直撃したボスライオンは、そのまま倒れ込み粒子となった。




「ふむ。どうやらアイテム名は『土獅子の爪』やな」

 ボス討伐後に、ドロップ品を拾ったクレハが【アイテム鑑定】をしてそう言った。


「土獅子という事は、属性持ちの素材か……これは結構良いアイテムじゃないか?」

 アイテム名を聞いたユートが鑑定しているクレハに言葉を返す。


「そうやな。腕良い職人なら間違いなく、土属性のついた装備やアイテムが出来るやろな」


「でも、うちは土属性の攻撃のできる人は今の所いないわよね? どうする?」


「うーん。まぁリペアの斧に合成しても良いかもしれないが……リペアどうする?」


「え? 俺か? 俺はまだ今の斧のままでいいな」

 ユートの提案にリペアが断った。


「となると、売るか……ん? そうか。マルハの装備にしても良いかもしれないな」

 リペアに断られたユートだが、すぐに別の案を思いついた。羊に爪はいらないが、かなり大きさのある爪である。職人に頼めば、蹄に着ける蹄鉄くらいにはしてくれるだろう。


「マルハちゃんどう?」

 クレハから爪を受け取り、マルハに見せるクク。


「めぇー」

 しかし、爪を一目見て首を背けてしまった。


「どうやら気に入らなかったみたいだね」

 リープがマルハの様子を見ながら苦笑交じりにそう言った。


「じゃあ売るという事でいいか」

 ユートの言葉に、メンバー全員が頷いた。


「ワオーン!!!」

 その時。遠くの方から犬の鳴き声が聞こえた。


「総員警戒!」

 ユートの言葉とメンバー全員が身構えるのは同時であった。

 見れば、遠くの方から黒い犬が1匹こちらへと走って来る。


「転移オブジェも出現している事だし、このまま帰っても良いと思うけど?」

 まだかなり距離がある犬を見て、マイが提案する。

 ボスライオンを倒したことで、次の階層へと行くまたは帰りの転移オブジェはそこに出来ているのだ。マイの言う通り、戦闘に入るよりも帰還するのも選択肢としてはアリだ。


 しかし、ユートはあの黒い犬に違和感を覚えていた。果たして、サバンナエリアに黒い犬は出てくるのだろうかと。


「ん? あれってタイラーのおっさんパーティーにいた犬じゃねぇか?」

 ユートの違和感は、視力の良いリペアが真っ先に証明してくれた。


「どうしたんでしょうか1匹で……」

 ククはどんどん近づいてくるその犬を見ながら呟いた。


「とりあえず、帰還するのは一旦辞めて待ってみようか」

 ユートがマイの提案を却下した。


「オン!! オン!!」

 そして、近づいてきた黒い犬は、確かにタイラーパーティーの『獣使い』が使役していた犬だった。賢い使役動物が主人の側を離れることは稀である。ユート達の頭には嫌な想像がどんどんと膨らんでいく。


「オン!! オン!!」

 その黒い犬……ロマは、前足に撒かれた紙を取れと言わんばかりに、鼻先で前足をつつく。


 ユートが恐る恐るその前足の紙を取ると、そこに書かれていた内容に目を見開く。


「『災害』……至急応援頼む」

 ユートのその言葉に、パーティーメンバー全員が息を呑んだ。




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