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No.22 『反則』

 ダンジョン1層のボスである巨大コウモリを倒したユート達パーティーは、ボス部屋の先、転移オブジェのある部屋へと進み、そのままダンジョンの2層へと突入した。


 2層のエリアも1層と同じく、遺跡迷宮エリアであったが、特にリターンすることもなく先へと進む。出現するモンスターも、あまり変わらずヨヨヨと迷宮ネズミ、迷宮コウモリが時たま襲いかかってくる。と言っても、リープの索敵&空間把握のおかげで奇襲されることもなく、無事に戦闘を終える。


「えい!《ライドアタック》」

「めぇー!!!」


 道中試しとばかりに、ククとマルハに迷宮ネズミや迷宮コウモリと戦わせてみたユート達だったが、危なげなく倒して見せた。ククの戦闘は、全体訓練の時にも一度見たユートであったが、対モンスター戦は見ていなかった。1層の時は探索の確認などもあったため、戦闘はさせなかったが、2層の戦いぶりを見る限り問題はなさそうだ。

 戦闘スタイルとしては、大型生物の【獣使い】と同様に、羊のマルハの背に乗って戦うスタイルである。手に持つ武器はピッチフォークという牧場で干し草や刈り取った草などに扱う農具で、長い柄の、その名の通り先がフォークのようになっているものである。【羊飼い】のジョブの中で数少ない補正のかかる武器だそうだ。それをマルハの突進に合わせて相手に突き刺して攻撃している。


「ちゃんと1対1の戦闘も出来てるし、複数を相手取った戦闘の対処も問題ない。2層でこれなら3層も目指せるんじゃないのか?」

 戦闘の終えたククにユートは言う。


「いえ。私なんてユートさんやリペアさんと比べてもまだまだですし、今日はたまたま調子が良いだけですよ。それにマイさんやリープさんのバフもありますし、危なくなったらクレハさんの結界もあります。後ろに皆さんがいるから安心して戦えるんだと思います」

 ククは恥ずかしそうに控えめにそう返した。


「ククやん。ユートやリペアとは比べたらアカンと思うで」

「そうよ。この2人は反則の部類だからね」


「おい。また反則の話かよ」

「え? マイ。俺も反則なのか?」


「確かに、リペア君の身体能力は十分に反則だよね」

「リープまでそう言うのかよ!」


「まぁそう言うリープも反則よね……。私は貴方に会うまで、別々の付与を一度にかけるなんて見たこともなかったわ。それを考えたら十分に反則ね」

「そ、それはそうだけどさ……」


「そう言ってるが、マイも十分に反則だけどな。最年少で薬師学会最優秀賞受賞だろ?」

「そんなのカウントに入らないわよ。たまたま新しい解毒剤を作っただけよ。レシピでも見つければ誰にでも出来るわ!」


「ククやん。うちらは凡人同士仲良くしような」

「そう言うクレハさんだって家柄が反則ですよ?」


「ちょっ! まさかククやんに言われるとは思わんかったわ!」

「にゃあ!」

「めぇー!」

 ダンジョンに入って早3時間ほど。2層まで進み、こうして和気あいあいと会話しながらダンジョンを進む6人と2匹。それはいくらか余裕が出来てきた何よりの証拠であった。




「ん? これは遭遇してないモンスターだね」

 道中、休憩も挟みながらダンジョンを探索しているユート達。その2層に入って2回目の休憩後、変わらずウクレレを弾きながら移動するリープがみんなに警戒を促した。


「大きさは分かるか?」

 ユートはリープに尋ねる。

 リープの音による索敵は、ダンジョンに出てくるモンスターが具体的に分かるものではない。リープが聞こえるというモンスターの足音や鳴き声からこのエリアに出てくるモンスターと照らし合わせて判断しているのに過ぎないし、空間把握でそのモンスターの数や大雑把な姿形が分かるというものなのだ。例えば、同じエリアに近縁種のモンスターがいたら種類までは分からないのだ。


「大きさは、マルハちゃんくらいかな? 足音からすると身体が重いのかな? 二足歩行で動きもゆっくりだね」

「その条件で迷宮エリアに出てくるとなると……」


「「ゴーレムだね(だな)」」

 ユートとリープの言葉が重なった。


「ゴーレムかー。材質によるな……土ならいいけど、石だと斧で斬れっかな?」

 リペアはその情報を聞くと、手に持つ愛用の斧の刃を確かめた。


「うーん。残念ながら聞こえる音を聞く限り、土ではなさそうだね」

 リープがリペアに答えるように答える。


 ゴーレムというモンスターはその種族の括りの中で様々な種類が存在することは多くの人が知っているが、何の種類のゴーレムかによって戦闘の難易度が大きく変わることはダンジョン探索者でもない限り、一般的にはあまり知られていない。例えるなら、今リペアが言った土ゴーレムなら剣士やリペアのような斧を扱う者でも容易に倒せるが、これが石ゴーレムや鉄ゴーレムになってくると、相性の悪い刃のある武器では倒せなくなる。ハンマーやピッケルなどの槌系の相性の良い武器ではないとダメージが入らないのだ。そのため土と石では難易度が跳ね上がる。


「クレハ。回り道は出来そう?」

 マイが撤退も視野に尋ねる。


「かなり遠回りになるんやけど、出来ないことはないな」

 クレハが答える。


 マイの言う通り、ゴーレムに会った時の対処法として撤退するというのはかなり良策である。幸いにして、ゴーレムは守りこそ硬いが足は遅い。敵わない相手と分かればすぐに撤退する。ダンジョン大学校でも教えられている基本的なことである。


「一応、僕の音の攻撃でゴーレムも倒せるけど……」


「いや、こんな迷宮エリアで大きな音を出されたら俺たちの方がやられる」

「《ジャイアニックボイス》で敵味方全滅だよな!」


「まぁそうだよね……」

 リープの提案は、ユートにより却下された。

 もちろん、ユートやリペアも倒せないという訳ではないのだ。ただそれ以上に武器などの持ち物であったり、他に被害が出ることの方が面倒くさいのだ。例えば、リペアがそのまま斧で戦ったとして倒せたとしよう。しかし、リペアの斧が壊されたり、修理になるような事のほうがユート達パーティー、クランとしての被害が大きいのだ。


「うちのゴーちゃんを使ってゴーレム対決させるっちゅう手もあるで?」


「いや、そっちもそっちで被害は出るだろう。召喚ゴーレムもメンテ費用はかかる訳だしな」

 クレハの案もユートは却下する。


 ちなみに、クレハの持つ召喚ゴーレムは、ダンジョンでモンスターとして出現するゴーレムのドロップ品から作られる。稀にしかドロップしない『ゴーレムの核』というアイテムとその他の適合素材で上級に近い中級以上の専門の職人によってしか作られないアイテムである。直径20センチ程の『ゴーレムの核』が元となった球に、使用者の魔力を注ぎ込むことでゴーレムになる。持ち運びも便利で、ゴーレムもそこそこ強いため、それこそ商人達が身を守るために持つ優れものである。


「あの? ゴーレムって魔法には弱いですよね?」

 ユート達が撤退も視野に悩んでいる中、ククがおずおずとした感じで尋ねてきた。


「それもあるが俺たちは誰も魔法が使えない……って、そうかララがいるな」


「はい……」

 ククはユートに言いたい事が伝わったので、当のララに視線を移す。


――――SKILL 【変身: 魔法使い】


「呼ばれて変身! にゃにゃにゃ、にゃーん! 魔法使いララちゃんだにゃ!」


「「「…………」」」


「無反応悲しいにゃ……まぁそれはそうと、確かにララの魔法があればゴーレムなんてちょちょいのちょいにゃ!」

 すると、会話を聞いていたのか本人がやる気を見せてきた。変身後のセリフは聞かなかったことにしよう。道中は、ずっとマルハの背の上で丸くなっているだけのララであったが、どうやらゴーレム退治を引き受けてくれるとの事だ。


「体調は大丈夫なのね?」


「大丈夫にゃ! ララは今日ずっと休んでいただけだにゃ。少しくらいお手伝いしても問題ないにゃ!」

 マイの確認にララは答える。

 本人が大丈夫と言っているなら大丈夫だろう。とユート達もゴーレムの相手をララに任せることにした。




「ほら。もうすぐその角から曲がってくるよ」


「ゴッ――」


「《サンダーボルト》だにゃ!」

 ゴーレムが角から見えるや否や、結構な火力で魔法を放つララ。


「「「…………」」」

 一撃でポリゴン片となったゴーレムに、何故か同情の念が湧いてくるメンバー一同であった。


「ってか、本当に《サンダーボルト》使えるのかよ……」



ゴーレム「解せぬ……」

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