No.16 『羊飼いの能力』
「では、改めて名前とジョブから聞いてもいいか?」
謝り合戦を終え、気を取り直してユートはククに質問した。質問の形式は先程まで行っていた面接と同じである。
「はい。私はククです。ジョブは『羊飼い』で、この子がその私が飼っているヒツジのマルハちゃんで、こっちが黒猫のララです」
ククは隣に大人しく佇むヒツジとその上に座る黒猫のララを自らと一緒に紹介した。
「『羊飼い』って『獣使い』と何が違うんだ?」
リペアが首を傾げて質問する。
「はい。その『獣使い』は一般的にすべての動物を使役、パートナーに出来るジョブで、『羊飼い』はヒツジをはじめ犬と猫と鳥くらいしかパートナーに出来ないんです」
「こういっちゃあ悪いが、『獣使い』の劣化ジョブって感じか?」
「そういう事になります……」
リペアの直球な言葉にククは俯くように頷いた。
「あれ? でも『羊飼い』とかそういう限定されたジョブは、『獣使い』とかの範囲の広いジョブよりも、その限定されたものの能力『羊飼い』ならヒツジね。その能力を『獣使い』よりも上げる事が出来るって何かで読んだ覚えがあるわよ?」
俯くククに、マイがそう言った。
「あ、はい。そうなんですが……。実はヒツジの能力を上げると言っても、聴覚・嗅覚などの感覚や足の速さなどの能力を上げるだけなんです。元々ヒツジは草食動物で狩りはしませんし、バトルには向かない事が多いんです。パーティーを組んだことのあるリープさんなら分かると思います」
「そうだね。僕からも正直言うとバトルに向いているとは言えないね。だけど、マルハちゃんがいたら重い荷物も運べるし、その人間にはない感覚で索敵や採取には役に立つよ」
ククから促されたリープはそう述べる。
「第二ジョブはまだ取れてないみたいだが、その候補はもう決まっているのか?」
次にユートが質問する。
「はい。一応、『荷役』を取ろうと思います。昨日も少し言ったと思いますが……実はダンジョン大学校に入ったのはいいものの、私のジョブ候補には戦闘系がなかったんです。でもダンジョン探索者を諦められなかった私は、少しでも役に立てるように補助やサポート要員になろうと思ったんです」
ユートの質問にククは答えた。
『荷役』というジョブは、その名の通り荷物持ちのジョブである。ダンジョン攻略の際の物資を持って運搬するのが仕事であり、行きの食料や帰りの戦利品などの戦闘職が持つとかさばる品々を主に受け持つ。一般的に、ダンジョン探索者は、【インベントリ】というスキルによって個々人で荷物を持っているが、【インベントリ】には収納数の上限や重量制限などがあるため、あまり多くの物は持てない。『荷役』というジョブは、その上限数の大幅に増えた【インベントリ】や【収納魔法】を使うことによって、普通の人よりも物を多く持てるのだ。
その他の特徴としては、戦闘系のジョブや生産系のジョブとは違い、数多くの人がそのジョブ候補に出現するジョブであるという事もある。それ故に、探索者になりたい人があまり良いジョブの候補が出なかった場合に選択するジョブでもあり、また第二ジョブとしての候補があまり無かった者が取得するジョブでもある。そのためその人数も多い。また商会クランなどでも重宝されるジョブでもあり、探索者にならない一般人でもこのジョブを持っている人は多い。
「『荷役』なら、この前みたいな戦利品を持っていけない事態にもならなくていいんじゃないか?」
リペアがこの前の水晶アリの件を思い出して言った。
「そうね。とりあえず持てる余裕があるなら全部持てばいいものね。それにリープが加入した時点でもうパーティー編成にこだわっていないんでしょう? それなら『荷役』でもありだと私は思うわ」
「それにさっきの面接の話では『結界師』の子が加わる予定なんだろう? 後衛は増えるけど『結界師』がいたらバトル中も多少は安全じゃないかい? それにマルハちゃんに騎乗することで機動力もそれなりにあるしね。危ない状況でも逃げ回って、他の人が対処するまでの時間稼ぎは一緒にパーティーを組んだ時にも出来ていたよ」
『荷役』の弱点である攻撃方法があまりないこともカバー出来るとリープも後押しする。
「まぁそうだな。機動力があるという点だけでも作戦の幅は広がるし、『羊飼い』と『荷役』でも大丈夫そうだな」
ユートは頷いた。
「あ、ありがとうございます。それとジョブなんですが、もう1つ言っておきたい事があるんです。実はララの事なんですが……」
――――SKILL 【変身: 魔法使い】
「ここからはララが話したほうが良さそうだにゃあ」
ククが話を言いかけた時を見計らって、ララがマルハの背から下りると人間に変身してそう言った。流石に昨日も見たためユート達の驚きは少ないが、やはり不思議な光景ではあった。
「その前に昨日の事についてはララからも謝るにゃ。ククに怒られたにゃ。ごめんなさいにゃ」
ララは本題に入るまえに頭を下げて謝った。
「いや、あの土下座は流石に困ったけどな。もう過ぎた事だ。だけど、今後は軽々しく土下座なんてするもんじゃねぇぞ?」
ララの謝罪をユートは受け入れて、最後は苦笑交じりにそう言った。
「失礼にゃ。ララの土下座はそんな軽々しいものじゃないにゃ」
それにララも軽口を叩いて返答する。2人の軽口はもうお互いに昨日の事を気にしていない証明のようなものであった。
「それで話があるんだろう?」
冗談はこれぐらいにして、ユートは先程の話の続きを促した。
「そうだにゃ。これはククとララだけの秘密だったけど本当に教えてもいいのだにゃ?」
ララはそう言って改めて確認を取るようにククを見ると、ククもそれに頷いた。
「じゃあ話すけどにゃ。実はララは魔法が使えるのにゃ。それもかなりの難度の魔法が使えるにゃ」
「私が分かる範囲で、おそらく《サンダーボルト》まで使えると思います……」
と、ララはそう言い、ククが補足をした。
「え? 《サンダーボルト》って雷魔法の!?」
「マジかよ」
これには思わず、マイもリペアも口に出す程驚いた。ユートとリープも声こそ出してはいないものの内心かなり驚いていた。
「はい……でも私はあまり魔法に詳しくないので、本当に《サンダーボルト》かは、分からないですが」
使役された動物たちが魔法を使うことはそれほど珍しくもない。種の違いによって魔法の得意不得意はあるが、それなりに魔法を使う事はでき、魔法が不得意な種はそれに伴い身体能力が高い傾向にある。だがしかし、魔法が得意な種であっても人の『魔法使い』には及ばないとされている。一部例外はあるが、おおよそ使役された動物の魔法は、最高でも中級の『魔法使い』程であるのだ。
しかし、ララが使えるといった《サンダーボルト》と言う魔法は、上級から中級『魔法使い』レベルの魔法である。さらに言うなら『魔法使い』というジョブは生まれながらに才能が必要なジョブでもある。『魔法使い』というジョブが候補に出る時点でも凄いが、そこから更に扱える魔法の属性に大きな差が出る。火や水や土魔法などと比べても雷魔法はレアである。それをララは上級から中級レベルで使えると言うのだ。流石のユート達でもそれは驚きを隠せない。
「ちょっと待て。昨日の話でララは使役動物扱いになるから、ダンジョンのパーティー人数にも含まれないって言ってなかったか?」
ここであることに気付いたユートが確認するように質問する。
「そうです。ララが最初に人間の姿でダンジョンに入った事はないので分かりませんが、最初にダンジョン入る時に猫の姿なら使役動物扱いになります。もちろんダンジョンで変身も可能です」
「え? という事は、6人でダンジョンに入って、あとからララちゃんが魔法使いに変身したら、実質的に7人でダンジョン探索できるってことよね?」
マイのこの発言は、ユートも気付いた事である。
「それは凄いね……」
リープもコトの重大さに気付いたのか、先程よりも驚きを隠せずに呟く。
一般的に、ダンジョンは6人で探索するのが推奨されている。それは、最初ダンジョンに入る時に触れる蒼く輝くオブジェが、6人までしかダンジョンの中に転移させないという理由が大きいが、それ以外にも【スキル】や《技》などの効果が6人までだとキチンと効果があるという事が知られているからだ。
後者は置いとくとしても、前者をパス出来て7人で探索できるという事は、おそらく今まで誰も出来なかったことであった。これはユート達のクランにとって大きなメリットになる。
「支援スキルの効果とかはどうなるんだ?」
たまらずユートが質問する。
「それは分からないです。なにぶんララちゃんが変身できる事は今まで秘密だったもので……」
とユートの質問に、ククが申し訳なさそうに答える。
「そ、そうか。そうだよな。すまん。俺が先走り過ぎた」
その様子を見てユートが謝る。
「まぁ、でも実験する余地は大いにあるわね。でもこれで『魔法使い』が入るとなるとかなりいいパーティーになりそうじゃない?」
マイがユートを宥めながら意見を述べる。
「それについてだがにゃ。あまりララには期待しない方がいいのにゃ」
すると、マイの言葉にララが自分からそう言った。
「理由を聞いてもいいかしら?」
その言葉にマイは首をかしげる。
「ララの魔法はこの変身した姿の時しか使えないにゃ。おそらく、これは変身先である『魔法使い』が関係しているにゃ。だけど昨日も言った通りララは年々魔力が低下しているにゃ。どうしても必要な時や危険な時以外の戦闘は控えたいのにゃ」
ララはそう言って事情を説明した。
「そういえばそうね。魔力の低下しているララちゃんに、魔法を使わせるのも酷よね。私の考えが甘かったわ。ごめんなさい」
マイは多少ガッカリした素振りを見せるも仕方ないかと割り切ってララに謝った。
「いいのにゃ。一応、力になれるって事は覚えておいて欲しいにゃ」
「そうだね。万が一の事態に備えて、後衛いる最後の砦って感じでいいんじゃないかな?」
リープが提案する。
「そうにゃ。それくらいが丁度いいと思うにゃ」
それからララの話も終わり、いよいよ最後の質問だとユートは尋ねる。
「ククにララ。最後にまた聞くぞ。君達は何のためにダンジョンの攻略を目指す?」
そのユートの言葉に場の空気は一瞬にして、真剣なものへと変わる。
「はい。昨日はララちゃんの無くした記憶を探すためと言いましたが、もうそんな事は言いません。もちろん、ララちゃんの記憶探しを諦めた訳でもありませんが、それを目的としない事に決めたんです。昨日はララちゃんと沢山話しました。それで思い出したんです。何故私達が探索者になりたかったのかを。私は、小さい頃に私の村に訪れた『幻獣使い』の探索者に憧れたんです。彼女とその連れていた動物たちはとても仲が良くて強くてかっこよかったんです。私もいつかこんな人に成りたいと思って、探索者になりたいと思ったんです」
ククは話す。自らの原点を。ユート達に知ってもらいたくて。ユート達のクランに入りたくて。必死に話した。
「それがいつしか、私の探索者としての才能もなくて、ララちゃんの件もあって、目の前の事に必死で夢が曇っていってしまったんです。でも、昨日ユートさんに言われて自分の愚かさに気付きました。そしてララちゃんと話して一緒に考えて、やっと心の中の曇が晴れた気がしたんです。私はいつか見たあの人のように、かっこいい動物使いになりたいんです。だから、そのためにダンジョンを攻略します」
ククは昨日とはまるで別人のように、力強く語った。
ここに来た時から、昨日の表情とは全く違うことにユートは気付いていたが、敢えて何も言わなかった。そして、今の話をする彼女を見て本当に変わったのだなと改めて思った。昨日と今日で彼女は自分の心の殻を破ったのだろう。それがここまで力強く咲き誇っているのだ。昨日までの心の弱いククはそこにはいなかった。
「そうか。そこまでの強い気持ちがあるなら大丈夫そうだな。これからよろしく頼む」
ククの話が終わり、ユートはそう言って手を差し伸べた。
「え? は、はい。よろしくお願いします!」
一瞬、ユートの言葉の意味が分からなかったククだが、クラン入りが認められたと理解すると、安心半分、嬉しさ半分といった表情でユートの手を取った。
「ほら。ララもよろしくな」
ユートはもう一方の空いている手でララの手も掴むと、自分の手とククの手を繋いでいる上に持ってきた。
「にゃにゃ! 人間は面白いことをするもんだにゃあ」
と手を重ねたユートにララは皮肉を言いつつも嬉しそうにしていた。
「私もよろしくね!」
すると、ユート達の手の上にマイも手を重ねた。
「俺もよろしくな!」
「僕もよろしくお願いするよ」
そして、その上にリペアとリープも手を重ねる。
「めぇー!」
ヒツジのマルハは手を重ねることは出来ないが、まるで自分もよろしくと言うようにひと鳴きした。
ユート達のクランに、新たに『羊飼い』ククとそのパートナー黒猫のララに、ヒツジのマルハが加わった。
~ジョブ図鑑~
『羊飼い』
ヒツジを始めとする犬や猫、鳥などの動物を使役でき、その使役動物の能力を上げるジョブ。




