No.14 『クラン員の面接』
翌日。ダンジョン大学校の教室を2つ貸し切ったユート達は、クラン入り希望者たちの面接をしていた。事前準備では、教室1室を貸し切っていたユート達だったが、リープの失言の件もあって面接を受けに来る人数が大幅に増えるだろうと見越して、急遽もう1室学校側に貸して貰った。
ユートとマイの2人ペアに、リペアとリープの2人ペアでそれぞれ教室ごとに分かれて面接をする。これはリープのファンへの対策だ。予めリープが面接する教室と周知することでファンを見抜くという考えだ。リープには悪いが失言をした分の反省として頑張って欲しい。ちなみに、当初はユートとリペアで、リープとマイのペアだったが、マイが「リープのファン達にあらぬ疑いをかけられるのは嫌よ」という事で現状のペアとなった。
クラン入りの希望者は、リープのせいと言うかおかげと言うか、今日で終わらないんじゃないかと思うほど、面接部屋の前には行列が出来ている。リープの件は良い宣伝にはなったがどっちかというと、大勢の人がリープのファンと思われるのが残念である。
リープのファンは、リープのいる教室に行くのである程度選別は出来るのだが、たまにその意図を読み取ってか、ユートとマイのいる教室に面接に来るような者もいる。
「クランの事務員希望です。私は会計知識も豊富ですし、アイテム鑑定士も持っています。探索パーティー希望ではありませんが、そちらのクランの裏方として――――」
一見、真面目そうに見える彼女だがおそらくアウト……リープファンである。
そもそも論として、こちらは一緒にダンジョンを探索する仲間を探しているのだ。確かに掲示した募集の紙にはクラン員募集としか書かなかったが、リープの発言や記事を見れば一緒に探索パーティーを探している事は分かる。それなのに、わざわざ事務員希望と強調するのはあり得ない。あえてリープのいる教室も選ばず、ファンだと隠してユート達の教室に来た執念は認めるが不合格には違いない。
「えーと、一応募集のチラシには書いていませんが、一緒にダンジョンを探索するメンバーを探していると周知していたはずですが?」
ユートの隣に座っているマイが棘のある言い方で質問をする。
「はい、それは知っています。ですがクランのメンバーは必ずしもダンジョンを探索する人たちだけではありません。ダンジョン探索者たちがより良い探索を行う事が出来るようにサポートする人が必要だと私は考えています。私の能力は――――」
しかし、質問を返す方も負けてはいない。あわよくば、このクランに入れればリープと共に仕事が出来る、一緒にいられる事が出来るのだ。ある意味この女子にとっては人生をかけた大一番なのかも知れない。
ユートは最近まで自分も面接を受ける方で大変だったが、面接官側も面接官側で大変なのだなと、どこか他人事のようにマイとその女子のやり取りを見て思っていた。
その他にも、一般人装い系リープファンはユートとマイの教室にも沢山来た。中には、大手クランでケアマネジャーをしているという女性もいた。もちろん、ユート達と同じ年齢ではなく5~6才ほど年上の女性である。クランに入れるならば、今のクランを辞めてまで入るという事であったが、流石にユート達も持て余すしリープ狙いがバレバレで断った。一応、同学年を募集とも言ったはずなのだが……改めてリープの凄さが分かる。あいつ、いつか刺されて死ぬんじゃないだろうな。
ちなみに、一般人装い系のリープファンの見分け方は様々あるが、一発で分かるのはご本人に登場して貰う事だ。リープが現れた時の表情や動作が明らかに変わるのだ。最後までファンである事を隠していたとしても、やっぱり本人を目の前にしたらどうしても身体は反応してしまうものだ。彼女たちには悪いがこちらも本気である。リープに反応しない者だけがリープと一緒にいられるかも知れない権利があるのだ。まぁこの見分け方も弱点があって、男のファンの場合はあまり分からないのだが。
そんなこんなで、面接官側も面接を受ける側も試行錯誤しながら時間は進む。
「うちの名前はクレハ。クレハ・フォックスシールドや。よろしく頼むで!」
すると、今までと明らかに毛色の違う女子がやってきた。
「ジョブと志望動機を教えてくれるかしら?」
マイもそれに気づいたのか、少し背を正して尋ねる。
「うちのジョブは『商人』と『結界師』や。正直言って戦闘は苦手やけど、地図の作成やアイテムの鑑定でダンジョン探索の役に立てると思うんや。志望動機は、うちの夢である世界一の商人になることや。そのためにダンジョン攻略は必須やと思ったんや」
クレハのその言葉にユートとマイは顔を見合わせる。やっとリープのファン以外の人が来てくれたと。
「うちのクラン員募集はどこで知りましたか?」
しかしまだリープファンの可能性も捨てきれない。ユートが尋ねる。
ちなみに、この質問の答えは2種類しかない。募集の掲示を見たか、リープの卒業ライブ関連で知ったかだ。前者だけで来たという人は当然少なく、後者で知ったという人が大多数である。そして、この質問は次の質問に対しての布石であり、卒業ライブで知ったと答えたならば、自然とリープの話題を出す事でファンかどうかの反応を見る事が出来る。
「クラン員募集は、この間の卒業ライブで知ったんやけど、そのあと募集の掲示も見たで」
クレハは答える。
「へぇ。じゃあリープの歌も聞いたのか。俺はリープの「勇者」が好きなんだが、君は何か好きな歌はあるか?」
ユートが仕掛ける。この後の反応でリープのファンか大体分かる。ボロが出てリープの事を語りだすファンや、ボロを出さないように答えたつもりでもリープと同じクランに入りたい程リープの事が好きなファン達だ。何となくその挙動で分かってしまうものである。
「まぁ今日の様子を見る限り、その質問も分からんでもない……やけど時間の無駄やろ? 心配しなくてもうちはリープ狙いのファンとちゃう。うちは純粋にダンジョンの攻略を目指しに来たんや。その話をしようや」
しかし、クレハにはユートの言葉の罠も見破られていたようだ。
この様子からしてもリープのファンである事はかなり低いだろうと思ったユートはマイに軽く目配せをして合図を取ると口を開く。
「すまないな。それのおかげで宣伝にはなったが対応も大変でな。ではクレハ。改めて質問させて貰うがいいか?」
「まぁうちも卒業ライブで知った口やさかいな。事情は概ね分かっとる。それに関してはご愁傷さまとしか言えへんな。まぁどんどん質問していいで」
クレハはどんとこいと構えるようにそう言った。
「あぁまず、姓のフォックスシールドだが、あの冒険商人一族のフォックスシールドか?」
「そうね。私もそれが聞きたいわ」
ユートは初めに聞いた時から気になっていた事を尋ねた。マイもそれが聞きたかったとばかりに横から口を出した。
「まぁ隠してる訳でもないさかいな。そうやで。うちの父親は現フォックスシールド家当主スイセン・フォックスシールドその人や。うちはその三女になるな」
クレハは答えた。
これには流石のユートとマイも驚く。
フォックスシールド家は王国でも有名な冒険商人の一族である。ダンジョン産の商品を扱う商売はもちろんのこと、ダンジョン探索においても強い力を持っている商会クランである。しかしそれだけで財をなす商売クランなどいくらでもある。彼ら一族が繁盛している最大の理由は、その商売方法にある。それは、ダンジョンが他の地域にも繋がっていることを利用して行う行商型の移動販売である。大型ダンジョンが他の地域に繋がっているのは、大型ダンジョンの入り口が世界各地にあることからも分かる。フォックスシールド家はその武力を持ってダンジョンを横断することにより、迅速に各地に商品を売り歩く。またその地域の商品を買い取り、別の地域で売る事で利益を出している王国や他の国でも知らない人はいない程の超大手の商会クランである。
その超有名クランのトップの娘であるとクレハは言ったのだ。だからユートもマイもこれには驚いたのだ。
「で、でもダンジョン大学校に通ってもう3年にもなるけど、あなたの名前を見聞きした事はないわよ?」
驚きからすぐに回復したマイが質問する。ダンジョン大学校は王国各地またはそれ以外の国からでも入学しに人がやってくるので人数はそれなりに多い。また探索学部や生産学部、普通学部など学部やそれに伴う学科も沢山あるため、例え同じ学年だったとしても見知らぬ顔の方が多い。しかし、フォックスシールドという名前は良い意味でも悪い意味でも目立つ。マイはそこに疑問を持った。
~ジョブ図鑑~
『商人』
戦闘面での恩恵はあまりないが、地図の作成やアイテムの鑑定など探索面での補助は有能である。
『結界師』
後衛のサポートジョブ。様々な結界で敵の攻撃から味方を防ぐ。




