表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/41

No.13 『ククとララ』


「もちろんあるにゃ」

「は、はい。私もあります!」

 ユートの質問に対して、2人は即答した。


「そうか。だが、何故ダンジョン攻略を目指しているのか聞いてもいいか?」


「はい。私たちがダンジョン攻略を目指す理由は、ララちゃんが人間に変身できる事にも関係するんです……というか、そのララちゃんが何故人間に変身できるのかを探しに行くんです」


 ククとララの出会いは、ククがまだ幼い頃のことであった。

 ある日ククが家の近くを散歩していると、1匹の黒猫が傷を負って倒れていたという。それがララであり、ククはすぐにララを家に抱いて帰り手当てをした。

 数日後、傷も回復し元気になったララが目を覚ますと、突然先程のようにスキルを使用し、今の人間の姿になったという。

 最初、変身したララに、ククは驚いたが変身したララ自身も驚いた。そして、人間の姿になった事で話せると分かったララは言った。

 自分は何かに追われて傷を負った。そしてここに迷い込んで力尽きたのだと。だけど怪我をしたせいかここまでしか記憶がないと。何故、自分が人間の姿に成れるのかも分からないと。

 そう言ったララに、ククの周りの大人たちは、おそらく『災害』の穴から迷い込んできたのではないかと言った。実際に被害は無かったが、ククの家の最寄りのダンジョンで『災害』の穴を見たという証言が出たからだ。

 行く当てもないララはその日からククの家の子になった。最も当時から大人の女性のような見た目にククは姉が出来たような気分だった。

 そして月日は流れ、ずっと一緒に過ごしてきた2人の夢はいつしか探索者になる事であり、ララの失われた記憶を取り戻すことになっていた。


「それでダンジョン大学校へと入学したんですけど……」


「ララは昔よりも人間の姿になれる時間が減ってきているのにゃ。魔力も年々少しずつ低下しているのが分かるにゃ」


「その事もあって猫なのがバレてしまうといけないので入学は私1人になったんです。あ、元が猫のためか私の使役動物としてダンジョンには一緒に入れます。それで一応学校でもダンジョン探索をしているんですが、私に探索者としての才能はあまりなかったようなんです……ジョブも第2ジョブの解放がまだです……」

 沈痛の面持ちで語るククは、息継ぎのために一旦言葉を区切った。そして続けて話す。


「でも魔力が低下しているララちゃんは、おそらくもう何年も残されていません。その前になんとしてでもララちゃんの記憶を取り戻すか、ララちゃんの魔力の減少を止めたいんです」


 魔力欠乏症。それは何らかの理由で魔力が身体から完全に無くなった時に起こる病である。魔力が無くなる原因としては魔力低下症という病気や一部モンスターが使う魔力を吸い取る攻撃など様々だが、魔力が完全に無くなった状態により徐々に死に至る病を魔力欠乏症という。

 話の流れから徐々に魔力が低下しているというララは、最終的に魔力欠乏症になる可能性が高いだろう。ククはそれを止めたいと言った。


「そのためには最前線にいるクランに入る事が一番の近道ですが……私にそんな実力はありません。差し出がましいのも分かってまいすが、昨日の卒業ライブでクランを設立するというリープさんを見て、チャンスだと思いました。ダンジョンの完全攻略を目指すあなた達のクランが私たちにとって最後の希望なんです。お願いします。私たちをクランに入れて下さい」

 ククは目に涙を浮かべながら頭を深く下げた。


「ララからもお願いだにゃ」

遅れてララも頭を下げる。


「なるほどな……とりあえず2人共、頭を上げてくれ」

 ユートはそう言い、頭の中で考える。

 ダンジョンを攻略するという理由としては2人の理由は正当なものかも知れない。しかし、この理由には大きな問題も存在するとユートは思っていた。リペアにマイやリープの様子から見ても、最初に事情は知っていたのだろうと推測できる。その上でどうするか迷ったのだと思う事も。そこで最終的にユートに相談しに来たわけだ。

 そう例えばの話、ララの魔力が先に尽きてしまったら? ククはどうする? もうダンジョン探索を辞めるのか? もしダンジョン攻略の中、早々にララの問題が解決したら? 記憶を取り戻したら? 2人はどうする? そこでダンジョン探索に満足しないだろうか? 死に行くような恐怖を克服できるだろうか? など問題は多いのだ。

 ユートやリペアやマイ、リープの夢と根本的に違うのだ。4人の夢は、ダンジョンを攻略してもなお叶わない夢かも知れない。ユートの最終的な目的は自分のようなマイナージョブでもダンジョンの攻略が出来ることを証明することである。例え本当にダンジョンを攻略したとしても、マイナージョブが見直されなければユートの冒険は続くであろう。

 リペアにしても父親を探しに行くという目的もあるが、最終的にはダンジョンの安全化が目的である。それは『災害』の謎を解明する事。例えば、ダンジョンを攻略しても『災害』が起こる理由が分からなければ、リペアの探索も続く。

 マイやリープの夢ももっと難しいと言える。それこそマイは万能薬を作るためならダンジョンに潜り続けるだろうし、リープも『シリーズ』を集めるためならダンジョンに潜り続けるだろうし、音楽を追求してもいるリープは音楽のためにダンジョンに潜る事もあるだろう。4人の夢はダンジョンの攻略の先にあるとも言えるのだ。


 ククとララには悪いがユートには、2人の夢はダンジョンのその先あるとは思えなかった。でもそれはユートの勘違いかも知れない。誤解したままではお互いにとっても悪い。だからユートははっきりとその事を口にした。


 2人の夢はダンジョンの先にあるものなのか? と。

 もし攻略の途中でララの問題が解決したらどうなる? と。

 死に行くような場所に一緒に行けるのか? と。


 悪者扱いでもいいとユートは言った。


「……」

 ククとララは答えられなかった。


 しかし、ユートも鬼ではない。


「一晩……では足りないかな。出来れば明日の募集面接時までに答えを出して欲しいけど、そんな簡単に答えが出るものでもないと思う。1週間。1週間よく考えて、また俺たちに話しに来てくれないか?」

 ユートはそう言って期限を設けた。


「はい……」

 ククはそう噛みしめるように呟くと、その場から走って去っていった。


「マイ済まない。フォローを頼む」


「分かったわ」

 ユートはそうマイに告げるとマイもすぐに了承してククのあとを追いかけた。

「ユートは優しいにゃ」

 場に気まずい空気が流れているのを断ち切るように、ククの後を追わずにその場に残ったララが言った。


「女子を泣かしといて、優しいもクソもあるかよ」

 ユートは吐き捨てるように言う。


「違うにゃ。ユートはララやククの事をちゃんと考えて言ってくれたにゃ。悪い事を指摘してくれる人は相手に良くなって欲しいから指摘するにゃ。ララもククも今回の事は悪いことだって分かってたにゃ。リープも急に押し掛けて悪かったにゃ。ごめんなさいにゃ」

 ララはそう言って謝った。そして続けて話す。


「だけど、ララは間違ってなかったと思ったにゃ。さっきも言った通り、ララの命はあと数年もないかも知れないにゃ。ククに言うと怒るけどにゃ、ララはククと出会えて幸せだったにゃ。失った記憶ももうあまり関係ないのにゃ。ララは猫にゃ。人間より長く生きられない事も分かってるいのにゃ。いつかは別れが来るものだと分かっているのにゃ」

 人間の姿ではあるが、元は猫だというララ。死の捉え方は人間と同じものではなく、猫、動物に寄った考え方なのかも知れない。


「でもララは死んだとしても、ララの1つの心残りはククなのにゃ。田舎から出て来た事もあって学校でも友達と言える人は少ないにゃいし、ダンジョンの探索でも実技はあまりよくないにゃいし、内定を貰えてもないにゃ。ララが死んだあともククには幸せに生きて欲しいのがララの心からの願いにゃ。それで昨日、たまに一緒のパーティーになっていたリープが歌っているのも驚いたのにゃが、クランを作ると言ったにゃ。リープは補習を受けるにはおかしい程の才能の持ち主で、おまけに優しい男だにゃ。ララは思ったにゃ。この男のクランにはきっといい人材が集まるに違いにゃいと」

 動物的勘がそう判断したのにゃとララは言った。


「じゃあ、補習に来たのも計算のうちかい?」

 リープは尋ねた。


「いやそれは本当に運が良かったにゃ。これはもう運命だと思ってララは、リープに話したのにゃ。結果的にはララの勘は大正解だったにゃ。リープも。リープに連れられて会ったリペアもマイも、そしてユートもみんな希望に満ちた才能溢れる人だったにゃ。このクランに入れるならばククもきっと幸せになるにゃ。ララが死んだあともククを託せる人たちにゃ」

 ララはそこで話を区切るとそこで地面に手をついた。


「だからお願いにゃ。ククをクランに入れて欲しいのにゃ。そしてララが死んだあとも友達として支えてあげて欲しいのにゃ」

 そして、そう言うと頭を下げた。


 これには男子3人。非常に困ってしまう。


「ララお願いだから頭を上げてくれ」

「そ、そうだぜ。女の子が土下座なんてするもんじゃねぇよ」

「そうだね。頭を上げておくれララ」


「いやにゃ。ララはユート達がクランに入れてくれるまで頭を上げないにゃ」


 それは動物的な勘がそうさせるのだろうか。生き残るためならば手段を選ばない。そんな執念がララにはあった。


 結局のところ、最後はユート達のほうが根負けしてクラン入りを認めることにはなった。

 しかし、ダンジョン探索をするパーティーに入れるとは言ってない。これはララにも確認した。ククには悪いが、ククのために本当にダンジョンを攻略する気があるのかを考えて欲しいのだ。クラン員と言っても何もパーティーに入り一緒にダンジョンを探索するだけではない。連絡係や事務などの係もある。クラン入りは最終的には認めるが、パーティー入りは保留。ララにはそう了承させた。




~モンスター図鑑~

・動物とモンスターの違い。

 諸説あるが、一般的にはダンジョンで出現する生き物がモンスター。ダンジョン外で生きているのが動物。ただしドラゴンなどダンジョン外に生きているモンスターのような生き物も存在しているし、ダンジョンに出現する動物型のモンスターも沢山いる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ