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No.12 『クランメンバーの募集』


 絶望の 先へ 希望の 先へ 信じて進め

 例え 転んだって 躓いたって 泣いたって 挫けてしまっても

 自分を信じて 顔を上げて 前を向いて 歩いていこうよ


 誰かのためじゃない 自分のためさ

 勇者は進み 愚者は止まる

 勇者も初めから勇者じゃない

 進み続ける者だけが 勇者になれるのさ


 笑われたっていい 馬鹿にされてもいい

 ただ笑う者にはなるな 馬鹿にする者になるな

 自分を貫け 自分は自分 お前はお前だ


 絶望の 先へ 希望の 先へ 信じて進め 君が次の勇者さ



 リープがユートにクラン入ると告げてから数日後、ユートとリペア、マイの3人はリープの卒業ライブへと訪れていた。


「それにしてもあのリープ・トラッドがうちのクランに入る事になるとはね」

 舞台でギターを片手に弾き語りをするリープを見ながらマイは言った。


「まぁ実際に今日のこのライブ会場を見ると、本当に音楽活動に専念した方がいいんじゃないかとも思ってくるよ。本人はそうでもないだろうが、俺たちが何か悪いことしてる気分だ」


「ホントそうよね……」

 ユートとマイが言うように、今日のこのリープの卒業ライブの会場であるダンジョン大学校の広場には数千人は軽く超える程のお客さんが集まっていた。ダンジョン大学校の生徒はともかく王国内の至る所からファンも集まり、音楽クランの関係者や新聞記者など正に関係各所といった人たちも集まっている。


「これ。この後にクラン入りの発表もするんだよな? 凄い事になりそうだな!」

 楽しそうにライブを見ているリペアは呑気にそんな事を言うが、本当に只事ではないのだ。ユートとマイはその事もあり胃が痛かった。


 卒業ライブの翌朝。ダンジョン大学校で発行している新聞や王国内の各種新聞にはリープ・トラッドの進退についての記事が一面に出ていた。


《音楽界の貴公子 『吟遊詩人』クランに入らず!》


《吟遊詩人リープ・トラッド 友人たちとクラン設立へ》


《リープ音楽活動とダンジョン探索の両立の意思固く》



「うわーやっぱり凄いことになってんな……」

 ユートは射撃訓練場の休憩室でコーヒーを飲みながら新聞を見て、どこか他人事のように呟いた。

 昨日の卒業ライブでクラン入りを大々的に発表したリープのその後の影響は凄かった。一部のファンは泣き叫ぶ者まで現れる程で、観客全員で「辞めないでー」のコール。最後はリープの真剣な表情で真意を語る姿に、ファン達は涙しながらも応援の言葉を贈っていた。改めて、音楽の力は凄いなとユートに感じさせる瞬間でもあった。本当に音楽の力かは知らんが。まぁリープの容姿も音楽の才能も含めた力なのだろう。


 しかし平和的に終わったライブと思いきや、リープが最後の最後に記者の質問に対して口を滑らせた。


「メンバーですか? まだ2人程決まってませんね」

 直後、遠目でもリープがしまったという顔をしたのが分かった。

 これを聞いたファンたちが一気に熱を帯びるのも分かった。そうファン達には、もしかしたら自分も残りのメンバーに入れるかも知れないと思わせてしまったのだ。

 だが、そこはリープも次の質問で咄嗟にカバーした。

 もしメンバーに入れるとしたら、どのようなメンバーが良いですかの記者の質問に対して。


「今年ダンジョン大学校を卒業するメンバーが良いですね。それとあくまでも僕たちはダンジョンを完全攻略する事が目的です。一緒に死線をくぐり抜けてくれる頼もしい仲間が良いです」

 そう条件を付ける事でファンが殺到しないように配慮したのだ。それにダンジョン攻略という大きな目標を提示してハードルも大きく引き上げた。


 しかし、そうは言っても一縷の望みを掛けてクランに入りたいと願うファン達は沢山いる。今日ユートが朝の訓練を終えても射撃訓練場にいる理由は、クランに入れてほしいと寮に来るリープのファン達を避けるためでもあった。もう既にクラン設立のメンバー募集のお知らせも掲示していた。そこから調べれば自然とユートに行きついてしまうのだ。

 寮の管理をしている寮長のおじさんには悪いがユートにはどうしようもない。一応対策として、押し掛けて来たファンの名前は寮長のおじさんに控えて貰い、明日のクラン募集の面接に来たら不合格にする事にした。それまでの間、ユートはこうして雲隠れを続けるつもりだった。


「おう。やっぱりここだぜ」

「確かに、射撃場を利用する人はあまりいないから絶好の隠れ場所ね」

 騒ぎも納まり始めたと思われる夕方ごろ。ユートが射撃場の後片付けをしていると、リペアとマイが訪ねてきた。


「へぇ。ユートはいつもここで訓練をしているのかい?」

 と思ったら、2人の後ろからリープもひょっこりと顔を覗かせた。


「まぁそうだなって、もう1人いたのか」

 ユートはリープの後ろに隠れているもう1人の小柄な女子を見つけて言った。


「あの……お邪魔します……」

 金髪のショートカットで可愛らしい感じの女の子である。毛並みの綺麗な黒猫をその白くて細い腕に抱いている。ユートとしては初対面の子だ。


「どうぞ……それでどうしたんだ? みんなして?」

 ユートはその子に軽く挨拶を言って、そのままみんなに尋ねる。


「えぇ。まぁもう察しは付いているだろうけど、リープがこの子……ククをクランメンバーとして見つけて来たのよ」

 そのククを紹介するようにマイが言った。


「3年次のククです。よろしくお願いします」

 そう言って、黒猫を抱いたまま頭を大きく下げるクク。

 見た目には幼く見えるククに、ユートは同じ学年だったのかと思った。


「彼女とは補習授業でよく一緒にパーティーになる縁でね。今日も一緒の授業だったんだ」

 リープが言う。他のクランで音楽活動もしているリープは、授業に出られない場合も多くそれを補習で補っているのだ。


「はい……それで今日、その大変厚かましいですが、私がというか……この子がリープさんにクランに入れてくれとお願いしちゃったんです」

 と、ククが手に抱く黒猫を指して言った。


「この子?」

 ユートは会話に首をかしげる。


「あ、すみません。見て貰った方が早いと思います。ほらララちゃんお願い」

 そして、ククはその手に抱くララという黒猫を床に下ろす。


「?」

 ユートは余計に意味が分からず他の3人を見て助けを求めるが。


「まぁ見てたら分かるわ」

「そうだね。きっと驚くよ」

「凄いぜー」

 3人はそう言葉を発しただけだった。


 ククの腕から降ろされた黒猫ララは、眠そうに大きい欠伸を1つする。


――――SKILL 【変身: 魔法使い】


  それから。本来、動物が使用できないはずのスキルを使った。


「うお!?」

 ユートはスキルによって出来た煙に驚く。


「え?」

 そして数秒で消えた煙の中に、見知らぬ女性が立っている事にさらに驚いた。


「今日3回目の変身は、流石に体力がやばいにゃー」

 その黒髪の女性はそう言うと、猫のような喋り方で同じく猫のような大きな欠伸をした。


「いや、これってやっぱりさっきの黒猫だよな?」

 ユートは驚きながらも尋ねる。


「そうにゃ。私はララにゃ。話は聞いているにゃ。お主がこのクランのリーダーのユートだにゃ」

 マイやリープに尋ねたつもりのユートだが、目の前のララが意外と流暢な言葉で答えてくれた。


「まぁ色々聞きたい事もあるでしょうけど、クラン入りの話から進めていいかしら?」

 ユートが困惑している間に、マイが横から口を挟む。


「そ、そうだな。よろしく頼む」

 確かに聞きたい事が沢山あるユートだったが、マイの提案を受け入れ話の流れを進めることにした。


「それでクラン入りの話なのだがにゃ、ララとククをクランに入れて欲しいのだにゃ」

 ララがそう言った。


「正直、まだ会ったばっかりで知らない事が多すぎて何も言えないが、まず1つ確認したい事がある」

 ユートの頭はまだ驚きで混乱しているが、ひとまず思考を切り替え話す。


「なんにゃ?」


「君たちはダンジョンの完全攻略を目指す気はあるか?」




~歌図鑑~

『勇者』

 リープが冒頭で歌っている歌。ダンジョン探索者に長年親しまれている。多くの『吟遊詩人』がカバーしており、『吟遊詩人』がまず初めに覚える歌でもある。作者は不明。


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