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No.1 『道化師の憂鬱』

第1話です。よろしくお願いします。

 ドラゴンナイン王立ダンジョン大学校3年次であるユート・コメットは、一通の手紙を読みおわると落胆の息をついた。

「また、ダメだったか…」

 座している椅子に、もたれ掛かり天井を見上げポツリと呟く。

 ユートの手元にある手紙は、大手の探索クランからの就職合否通知である。もちろんユートが呟いた言葉通りの結果である。

『残念ながら不合格とさせて頂きます。貴方様の今後のご活躍とご発展を心からお祈り申し上げます』俗に言うお祈り手紙だ。これで5社目ともなると流石に慣れてくるものでもあるが、精神的に良いものではない。それに今回は最後の実地試験までいったので、もうちょっとで合格だったと思うと余計に悔しい。

「やっぱりマイナージョブなのがいけないのかな……」

 と、試験の事を思い出して、再びため息をつくユート。

 ちなみに、今回の探索クランがここ王国の大手では最後の募集でもあった。もう就活も終わりに近い時期である。もうあと残っているのは、中小でもない零細の探索クランか、職人クランやその他の専門的なクランばかりである。



「お! やった!合格だってよ! よっしゃあ!」

 落ち込むユートの近くで一人の男が歓声を上げた。見れば、ユートと同じ大手探索クランを受けていた男だ。同じ遊撃枠の試験にいたので覚えている。

 確か、片手剣の軽装戦士スタイルだったはずだ。おそらく就いているジョブは『剣士』と『戦士』だろう。剣士の技である《スピードスラッシュ》を使っていたし、戦士のスキルである【戦士の心得】も発動させていた。軽装スタイルという事で遊撃役としては見本のような構成である。『道化師』と『料理人』というマイナージョブと生産系ジョブに就いているユートとは違い、探索クランの遊撃役としては王道をいくスタイルである。


 ここはダンジョン大学校内にある就活支援センターであり、窓口では生徒と企業間の手紙のやり取りを管理してくれる場所だ。したがって、こういった合格した者が喜ぶ光景は珍しくない。今のユートのような逆もまた然りではあるが。

 自分が落ちたクランに合格した相手を祝福してやれる良心は今のユートにはない。ユートは机に放り投げていた手紙を素早くバックに仕舞うとその場所をあとにした。




 就活支援センターから寮の自分の部屋に戻ったものの気分の優れないユートは、このままじゃダメだと気分転換に訓練場へと行く事にした。


 訓練場は、ここダンジョン大学校を通うすべての生徒が申請すれば使える場所で、24時間いつでも使用が可能である。個人訓練場から大規模な訓練場に魔法訓練場まで様々な用途の訓練場があり、日夜学生たちが己の鍛錬のために使用している。


 ユートは入学してから3年間毎日のように通っている射撃訓練場へと来ていた。顔見知りのスタッフに訓練申請を頼むと直ぐに申請が承認される。

「いつもの第5レーンね。頑張ってらっしゃい」

 スタッフである恰幅のいいおばちゃんから番号札を受け取り、お礼を言ってユートはいつものレーンへと向かった。


 各レーンには荷物をおくロッカーが設置されているが、『道化師』のジョブの特性上、手ぶらであるユートは直ぐに射撃的へと向き合う。


 そして、おもむろにコートのポケットの中に手を突っ込む。と、次の瞬間には5メートルほど先にあるゴブリン型の的の頭部分にテーブルナイフが刺さっていた。それも束の間次の瞬間には、テーブルフォークがその前のテーブルナイフの下に刺さっている。それから瞬く間にテーブルナイフとフォークが交互に的を縦に横断するように刺さっていく。ものの数分の内に、ゴブリン型の的はユートの投げたナイフとフォークによりハリネズミと化していた。


 射撃場と言っても銃を扱う場所という訳ではない。こういったユートのような戦闘で投擲を使用する者が訓練する場所を射撃場と学校側が定義しているだけだ。


「うーん。今日は調子が悪いなぁ…」

 と、ユートは言いつつも全て的に当たっているナイフとフォークを引き抜きポケットに入れていく。ナイフとフォーク合わせて30本もの数をコートのポケットに入れていく様は傍から見ても不思議な光景である。だがユートにして見れば、なんてことはない『道化師』のスキルである【隠し収納】を使っているだけだ。それでも初見の人は何十本もの道具が出たり入ったりするポケットに驚きはするが。


 それからユートは、ナイフとフォークの投擲を3回ほど繰り返したあと、今度は前後に走りながら、時にはジャンプして、また振り向きざまに激しく動きながら投擲を繰り返していく。これがユートの日課であるのだ。そして、ここまでがウォーミングアップである。


 身体も温まって来た所で、次にユートは【スキル】や《技》を使っていく。


――――SKILL 【ミスディレクション】発動。

――――SKILL 【ジャグリング】発動。


「《サプライズ・スローイング》!!!」


 スキルを発動させた直後に、ユートの周囲に十数本のナイフやフォークが現れる。ユートはそれらを自由自在にジャグリングで操りながら連続で途切れることなく的へ投げていく。

 ストンと音を立てて的に最初のナイフが当たったかと思うと、大きな音を立ててそのナイフが小さな爆発を起こした。同様の事が連続して投げたナイフとフォークすべてで起こると、的の周囲は爆発の煙に包まれたのだった。


 ユートはそんな光景を見て、何となく就活で溜まったストレスも爆発と共に吹き飛んだ気がした。


 それから休憩を挟みながら、3時間ほど訓練をしていると。


「よぉ。ユート。相変わらず派手にやってんな」

 射撃レーンの入り口から茶髪で長身の男がユートに声を掛けて来た。

 1年次の実践演習時に初めてのダンジョン探索で、ユートと一緒のパーティーになって以来の付き合いであるリペア・ウッドウォーカーだ。彼は『木こり戦士』と『修理士』というジョブに就いており、普段から背中には愛用の大斧と腰にはスパナなどが入った工具差しを装備している。お互いにマイナージョブと生産系ジョブというジョブ構成という事で、ユートとリペアが意気投合するのに時間は掛からなかった。


「どうしたんだ? リペア。今日は最終面接の日だったんじゃないのか?」

 ユートの記憶が正しければ、確か数日前会話したときにそう言っていたはずだ。


「あぁ。もう午前中で終わって来たんだ」


「結果は……?」


「それがいい所までいったんだがな……。最後にマイが面接官のオッサンに尻を触られてな。二人で切れて大暴れして帰ってきたわーハハッ!」

 と、うわべだけの元気を見せて笑うリペア。

 ちなみにマイというのは、リペアの幼馴染であり婚約者…というか妻である。いわゆる学生結婚をした2人で、頻繁にケンカもするがなんだかんだ言って仲のいいカップルである。マイもリペアと同じく、ダンジョン探索時にユートと一緒のパーティーであった。それからユートを含む3人はちょくちょくパーティーを組んではダンジョンに入る仲であり、実際に3年間も2人と付き合っているユートとしては、その暴れて来たという光景がありありと目に浮かぶようであった。


「いや笑ってるが、実際暴れて来たってかなりヤバいだろ。お前らが志望していたクランって、大手の植物研究所クランだろ? そこの面接官殴ったって……お前ら業界に知れ渡るぞ?」


「いや何勝手に殴った事にしてんだ。殴ってはねぇよ……ただちょっと斧で脅しただけだ……マイは殴ってたけど……」


「どっちみちアウトじゃねぇか」

 リペアの言い分にツッコむユート。半ば呆れ顔である。


「ま、まぁ俺らのことは置いといてよ。ユートお前はどうだったんだよ。確か今日は通知が届く日って言ってたろ?」

 この話は分が悪いと思ったのか、話題を変えて来たリペア。


「……だったよ」


「え? なんて?」


「だから、不合格だったって言ってんだろ! コノヤロー!」


「そ、そうか。と、とりあえずその発射準備中の武器を俺に向けんな――――って本当に投げてくるやつがあるかー!!」

 と、暴走してナイフとフォークを投げるユートから逃げ回るリペアだった。



~ジョブ図鑑~『道化師』

・トリッキーなスキルや技で敵を翻弄する。しかし攻撃の決め手にかける。


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