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3.師匠と私の日常 下



し、師匠、そんなにあの魔石を手放したくなかったんですね……。

あの後、各人の指導をしてから再度のタスキ取り戦は凄惨を極めました、というか現在形で極めてます。主に私が。


「のあぁぁああっ!?」


真後ろからの雷魔法をロールしてギリギリ躱した所に、下方から追い上げる風魔法がルフの翼に当たります。風に紛れたナイフはどうにか避けられました。危なかった。

上空には投槍を構える騎士達。遠くから炎を纏った矢が翼を掠ってしまった。連携取れててホント素晴らしいんですが……今の私には全く嬉しくないっ!

たまらず風に乗せられてしまったフリをして、魔法に干渉して微妙に風向きを変えて、追い打ちをかけに来た騎士の一人のタスキをルフの爪に引っ掛けて破いた。


そのままぐんぐん上昇して広く見渡せるところまで行って、全体を把握したらすぐにターンし加速する。

撃ち落しにくる魔法と矢を全てギリギリで角度を付けた結界壁で受け流して、あえて騎士たちが密集している所に真っ直ぐ突っ込みました。私の本気を悟って、焦って避けた感じの方を狙って風魔法を放つ。真正面から風を当てて彼らを仰け反らせ、タスキの部分だけに強めの風を造り出して切れ目を入れていった。


 私はといえば、その結果を確認するまでもなく身を翻させて弓部隊を目指す。真っ直ぐ飛んでくる矢を、風の加減でほんの少しだけ逸らせて避ける。近くなってからは彼らの下に潜り込むことで矢を避け、垂直に上昇して彼らのど真ん中を突き抜けた。風を大いに乱して飛竜のバランスに気を取られたっぽい数人の騎士に、別の風を当ててタスキを斬る。


そのまま上昇して少し息を整えようとした私は、追尾していた魔法を使える騎士に雷をルフの翼の端に当てられてしまった。きりきり舞いで落ちながら、急ぎ治癒と立て直しを図る。

治癒を終えたが、今度は地面にぶつかるギリギリまでルフに堪えるよう指示する。地面が凄い勢いで近づいてくるプレッシャーの中で演技を要求されて、ルフは嫌がり「グゥゥ……」と唸るが逆らわなかった。死の恐怖と乗り手からの無茶苦茶な指示とそれを信頼しなきゃいけないストレスに、ルフが苦しそうに呻いた。

「まだ、まだよ。我慢して!」私は声に魔力を乗せて、ルフに指示を送り続ける。


本当にギリギリに、ルフに身体強化をかけた翼を思いきり広げさせて、風の補助をそこに当てる。爆発的な上昇に転じるが、その辺りでルフの精神と身体に限界がきた。肩の筋肉が痙攣してきてまっすぐ飛べなくなり、「ギャウウゥ!」という悲しげな悲鳴を上げる。私は慌てて地上に引き返した。


身体が地について安心したのか、荒い息をつきながらのたうってひきつけを起こしだしたルフに「ごめん、ごめんね…」と声をかけながら慌てて思いつく限りの治癒をかける。精神だけでなく身体にも無理のかかる飛行ばかりを繰り返したせいだ。


「アスラン、こういう時はまずこちら診なさい」


私の後ろから、師匠がルフの胸に手を伸ばす。柔らかな師匠の魔力がルフに溶け込むのを、ぼんやり眺めてしまいました。


「貴女の場合攻撃に意識をやると、補助に回している力の加減が上手くいかなくなるようです。竜の普段眠っている力を無理やり引き出すと、酷い反動が出ます」

「……はい。………すみません」

「後は……信頼関係の出来上がっていない相手に要求できる内容を見極める事ですね」

「………はい」


手を添えているのを良い事に、師匠の治療方法を魔法で追って確認していた私は、この状態が私のプレッシャーのせいもあると言われて愕然としました。

今まで攻撃は担当せずフォローばかりにしていたから、自分の感情の波で魔法の出力が変わる事も知りませんでした。っていうか、かけっぱなしの術だと思っていたし、自分の出すプレッシャーが飛竜にかなりストレスになるレベルだったというのも初めて知りました。


「……普通、一度かけた補助魔法は、その加えた魔力の分だけの発動なんですけどね……」

「は?」

「貴女の魔法は、意識して補助を切らない限りかかったままですよね。何を構成に加えたんです?」


出力される魔法は同じでも、魔法陣が全く同じにならないのがこの世界だ。それは、それぞれの人が具体的にその事象を思い描くものが違うかららしい。

魔法を使える竜達に至っては、それに竜紋という増幅ブーストが加わってて、実にややこしかったりする。


「何にしても、帰ってから確認しましょう」


そう言うと、師匠は離れていきました。

 いつの間にか騎士の皆さんは紅白戦に切り替えたらしく、副団長さんが空中で指揮をとっていました。

にやにや笑いながら団長さんがこちらにやって来て、痛みから解放されたルフを愛撫してねぎらってくれます。


「おう、今日は宴会が出来そうだ。アイツらもやられっぱなしじゃなくて良かったよ」

「ベリル団長、トアレグから無事に戻ってきた人達なんですから、もう少し信用してあげて下さい」

「ああ。まぁそろそろ気ィ抜ける頃だしな、良い刺激になった。例の竜の捜索は任せてくれて構わねぇぜ」


いつの間に師匠が説明したのか分かりませんが、今回は捜索隊に加わらなくて良いようです。

今回の演習は団員さん達が野生種狩り並みに必死になってたみたいだったとの事なので、ひとまず依頼がちゃんとこなせたようでほっとしました。


訓練を終えて負傷した飛竜たちの治癒をこなして、今日のお仕事は完了です。

後でこっそり団長が教えてくれたんですが、演習中私がバランスを崩すたびに師匠は地上に風魔法などを展開して構えていてくれたらしい。……過保護だったんですね、意外です。


今回は治癒一つとっても反省点は山のようにあり、本当の意味で一人前への道はまだまだ遠くて……生物相手はホント奥が深いよなぁとしみじみしてしまいました。なんせ帰り道ルフに手綱を取るのを嫌がられましたからね……大いに反省してます。悪い事をしました。


「私、ほんとへっぽこですね……」


がっくりと項垂れる私の頭を撫でて、師匠は目を細めて笑います。


「大丈夫。もっとゆっくりで良いんですよ」

「ううう。今後ともご指導宜しくお願い致します」



久々に師匠と竜の背から見た夕日は、とても紅かったです。

…………明日はもうちょっと頑張ろうっと。



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