プロローグ ~大昔に縁の切れた大陸からの便り
この国にはだいぶ大昔の記録が残っている。
太古の昔、それこそ自分たちの先祖がこの地に根付き始めた頃の物である。
この大陸の他に、翼を持つ天空のシ族と呼ばれる人族と竜や精霊などが住まう大陸があったとされている。その地はシ族から派生したギ族と呼ばれる連中と争いがあったせいで、こちらの大陸からは干渉できなくなる封印が施されたという。
海を隔てた遠く離れた大陸の話の為、これらの話は力の強い竜族や精霊族などが伝えたと記されている。
水の神殿と呼ばれるここは、魔素の根源を司る精霊を讃えるために建てられた由緒正しい神殿だ。
この世界には、ここ以外に地・火・風・光・闇を崇める神殿があり、これらは広大な大陸を統べる帝国の中でも独自性をもって領地を治めている。
帝都の先見の巫女が指名し、神殿内で精霊に選ばれた者が大神官として統治を任される。
昨年、突然の指名を受けて風の神殿から引き抜かれた挙げ句水の大神官へと任じられたトゥルビネは、毎朝の祈りを捧げるべく一人祭壇の間へと入ったのだが、自分より先に人が居たことに驚いた。
祭壇前に佇む柔らかそうな茶髪の青年は、残念ながら人ではない気を放っていた。
「……貴方を見たのは2回目ですかね。海の精霊マクリール、何かありましたか?」
「おはようございます。水の精霊の伝道師トゥルビネ、貴女にお知らせがあります。封じられた大陸がこちらからも見えるようになりましたよ」
「っ!?……封じられた…………あの伝承の大陸ですか?」
「そうです。かの地の精霊使いがここを訪れようと考えているらしいので、宜しく伝えて欲しいと言われました」
「!!」
「距離もある為頻繁な交流は無いと思いますが、我々には念のためこの地の者に知らせておいて欲しいと。かの者の守護者がそう願われました」
トゥルビネは瞠目した。精霊を行使できる者は、それこそ6神殿においても神官長クラスだ。
だが、マクリールが我々という言い方をしたという事は、単独の精霊のみの使役では無い。それこそ大神官であってもありえない多属性持ちだと言外にあったからだ。
「そのうち、とはいつでしょう?」
「いつでしょうね。遠き海を渡れたら、という感じでしょうから」
すぐ、という回答ではない事にトゥルビネは安堵した。
ふと首をかしげてマクリールが続けて話しだした。
「グラニやジン辺りなら直ぐにでも連れてきてしまうかもしれませんが、どうでしょうね」
「とりあえず、私も週末にある神殿会議で話を持ち込みます。それから帝国へお伝えすることになるでしょうね」
「それで構わないと思いますよ。あの人もいきなりよりは挨拶くらいしておこうという程度の考えでしたからね。要件は以上です」
言うだけ言うと、青年はスッと消えてしまった。
精霊達はとても自由だ。迎え入れるトゥルビネに、相手の名さえ言わないのだから。
マクリールの爆弾発言から彼女の長考が解かれたのは、他の神官長達が祭壇の間に入ってきてからだった。