―小話― ある日の闖入者
ブクマ解除しないでくれてありがとうございます。
かなり、お久しぶりの更新ですみません。。。
ケリが付くまで書いてからと思ってるんですが、どうにもこうにも。ホント勢いって大事ですね。。。
山場まで書いたら出すつもりなので、気長に……気長ーに見ていてください(平謝)。
こちら、気晴らしに書いてた連中がコラボしたいと乱入してきただけの日常です。連中はそのうち10話前後の軽い話で出す予定ですので、もし見かけたら生暖かい眼で見守ってやって下さい。
―――――それは平和なある日の出来事。
久々に、師匠の魔窟にある本棚を整頓している時だった。
最近踏み込んでなかったこの空間は、この前の研修なんかで仕入れた本なんかが無造作に床に積み上げられていて……つまり、一日かけても終わるかどうかの量があった。師匠は、収集能力はとても素晴らしいけれど整頓力は皆無なのだ。
新しい本に分類を付けてテーブルに並べ、順に棚に入れていく。
黙々と行っていたら、戻し作業をしていた目の前の棚が、突然スライドした。
棚が開くという、そんな現象は初めて見る。ビックリして固まっていた私の前に、突如女の子が現れた。
「アル!凄いよっ!私開けられたよ!!」
興奮している黒髪の彼女は、後ろを向いていて誰かに対して叫んでいた。
服装は簡素な生成りの膝丈ワンピースっぽいが、下にズボンを穿いている。腰のあたりからタックが入っていたりと、なんだかあまり見かけないデザインだった。
「……あの?」
「お前なぁ。開いたからって勝手に入っちゃ駄―――」
「アル!この扉って……………どちら様で?」
私と、年が同じくらいのその彼女と、彼女を追って入ってきたポチみたいなサイズの大きな黒い犬は、とりあえずお見合いさながらに固まったのだった。
……お互い、無言で観察タイムに入った気がする。
喋るワンちゃんは全身真っ黒なのに目だけが真っ赤だし、女の子の大きな目は、薄い紫と明るい緑のオッドアイだ。
動きの止まったこの空間で、ただ一つ、すすすっと本棚が音も無く動き出してゆっくり戻っていく。どうやら彼女たちは気づいていない。
あ、これヤバいやつだ。思うと同時に叫んでいた。
「扉閉まっちゃう!駄目っ止めてーっ!!」
ビクッとした2人は、大慌てで後ろを振り向いて本棚に駆け寄った。そのまま体重をかけて必死で動きを抑え込む。私も急いでストッパーになりそうな物を探した。何故か、丁度良い頑丈そうな鉄の箱があったので、それを保険にする為間に挟めるように置いた。その上で三角の木片を棚の下にねじ込んで、本棚の動き自体を止める。
それを見た彼女は、両手を胸の前で合わせて何か聞きなれない言葉をブツブツと呟いた。唱え終わると本棚に手を触れて、魔力を流し込んでいた。どうやら魔法らしい。すごい、初めて見た。
「魔法ですか?」
「ええ、一時的に状態を固定できるの」
「状態を固定?」
「ええと、薄いガラス板なんかが入っている鍵に使ってるんだけど、板が割れると開かなくなっちゃうんで……」
一生懸命説明してくれるけど、錠に関する部分が専門的すぎてよく解らない。でも、師匠だったら嬉々として聞くんだろうな。
とりあえず、一段落ついた所で彼女達をお茶に誘ったのだった。
「はぁ。鍵師、ですか。凄いんですね~」
「アスランさんこそ。竜医ってお医者さんの事なんでしょ?」
「あ。そういえばさっき血が出てましたよね。手、見せて下さい。」
遠慮する彼女―――ソーライアさんの腕を引くと、血は止まっているものの手首から肘までガッツリ擦り傷が出来ている。治癒術を施すと、ビックリされてしまった。
「すごい!もしかして悪魔だったんですか!?っていうか、私竜だった?傷が治ってる!!アル!見てっ!」
「すげ。あんたホントに人族か?」
二人の目が丸くなっていた。そして彼女、めちゃくちゃテンションが高い。
まるでそういった魔法を見たことが無かったような反応である。
「い、一応人間です。この術は人族も治癒できるものだから、大丈夫ですよ。あ、もしかしてソーライアさん達の国では治癒術って無いんですか?」
「えっと、ソールで良いですよ。治癒魔法は聞かない、ですね~。それに、竜種って……妖魔じゃないんだよね?」
……どうやら世界自体が違うようだ。なんてこった。
思わず扉になった本棚の、その先を眺める。私には白い光で何も見えないが、彼女たちには扉が設置されていた部屋が映っていると言っていた。
初め、彼女たちは私の事を錠の元になっている悪魔だと思ったらしい。何?悪魔って鍵になるの?
そういや、この空間ってばどんだけ異空間と繋がってんの?何このトンデモ設定、師匠仕様なの?
彼女たちは師匠の収集本を興味深そうに見ていたので、地図とか植生とか絵の多い無難な本を何冊かテーブルに持ってきてあげた。そしたら、目を皿のようにして夢中で頁を繰っていた。
……相当違うのだろうか、世界が。
気になりだすと、確かめたくなるのが人情だと思う。私は黒犬のアルさんの前に膝をついた。見れば見るほどポチ達と同じような感じだ。
「参考までに。良ければアルさん、触らせて下さいませんか?」
「ああ、構わねぇ」
「こちらでは、人語を操れるのは高位の精霊さんか古代竜位なんですよ。アルさんは妖魔さんなんですよね?」
「俺らの国ではそう言われてるな。人語が話せんのは、妖魔じゃなければ悪魔くらいだろうな」
「悪魔!」
元の世界では言葉だけだし、竜種が主なこの世界では聞いたことが無い。強いて言えば、ギ族かなぁ?
前足を持たせて貰ったら、ポチに良く似ていたのは見た目だけだったようだ。つまり、精霊や竜種よりギ族に近い暗い魔道の波長をお持ちだったのだ。なるほどなるほど。
「悪魔がいる世界なんでしたら、天使はいらっしゃるんですか?」
「天使?なんだそりゃ」
天使は居ないらしい。なんか想像がつかないぞ。
うーんと唸っていると、ソールさんが顔を上げていた。
「アスランさん、私の言葉とか意味って、判ります?」
「??言葉は通じてる気がするんですけど……。あ、文字ですか?」
「です。字は読めませんでした」
「んー。んじゃ、この本も駄目ですかね?」
念のためと、古代神聖語の本も開いて見せる。
大きめに書かれた辺りを指さすと、彼女はたどたどしく言葉を紡ぎだす。
「ここ、清らかなる……風が?4点を支え……?」
「……うぁ、ソールさん読めちゃったりするんですね」
「いや、私たちの世界では古代語っていうんだけど。コレ」
やばい。師匠が好みそうなミステリーじゃないか。
そこまできて、この空間は師匠の異空間だったと、ハッとなった。慌てて周りを見渡すが、何の気配も動きも無かったので、少し安堵する。すごく息が合うし友達になれそうだけど、無事に帰れるうちに早く返してあげよう。
「折角の機会なんですが、お二人ともそろそろ帰った方が良いですよ。このままここに居るとウチの師匠に遊ばれます」
「アスラン、人聞きが悪いですよ」
「いやいや。師匠に扉閉められちゃってからじゃ遅いんです。帰れるまでは事情聴取とかいって各種実験につき合わされますよ。てかまた開く保証ないですからね?」
「そこまで人権無視した行いをした事はありませんよ」
「いやいやいや、師匠、鬼ですし。さりげなく退路を断つから気づ…………て、師匠っ!?」
後ろを振り返ると、にっこりほほ笑む師匠が居ました。ちょっとだけ冷気を纏ってて、笑顔が怖いのは気のせいでしょうか。でもきっと「面白いことになってたのに何故喚ばないんですか?」とかそんな事でしょうね。師匠は基本的におおらかなんです。ホントです。
「空間の歪みを感知したのでそのまま維持しておこうとしたのですが、そろそろ魔力が切れそうなんです。貴女達は早く戻られた方が良いですよ」
「ハイっ!すいません、アスランさんもありがとうっ!」
「邪魔したな。また運が良ければ逢えんだろ」
「こっちこそ、面白い話をありがとうございました!」
「貴女達の世界は魔力が薄そうな感じですが、色々と面白そうですね。機会があれば接続の解析を進めてみましょう」
わいわい名残を惜しみながら、彼女たちは自分の空間に戻り、私は本棚の抑えやら何やらを外す。お互いにまた逢えたらいいねと手を振り合っていると、スルスルと音も無く本棚が元の位置に戻っていった。
ふす、と棚が戻った際に隙間から空気が抜けると、そこはもう固定されていたのだった。
動かなくなった本棚を両手で触っていた私の後ろで、ふう、と師匠がため息をもらしました。
「あちらからきっかけは貰いましたが、空間維持にもかなり魔力が必要ですね。何か状態維持に最適な魔法を探さないと、次もこの程度しか保てないでしょう」
「後でメル姐さんにもこの手の文献が無いか、聞いてみましょうか」
「宜しくお願いします。次の休みにでも検証してみましょう」
後片付けをしながら師匠と予定を決めあった。来週が楽しみだ。
それにしても、異空間との繋がりの維持かぁ。師匠の魔力量でもあれなら、私じゃ加護や魔力量軽減を付けても半分以下だろうなぁ。あ。さっきの彼女の維持の魔法とかも、構成直せば発動するかな?後で試してみよう。ワクワクしてきたぞ。
何のかんので面白い時間が過ごせたので、今日は良い日だったといえよう。うん、気分も良いので夕飯はちょっと豪華にしようっと。
―――そうして後日、色々な方法を試したけど、結局また本棚が動くことは無かったのだった。
それでもいつかはと思って師匠も私も気長に試していたんだけど、ある時ウチのトイレの扉から二人が出てきて驚くことになるんだけれども。
まぁそれは、また別の機会に、ね。
それにしても、師匠のこの空間って、ホントどうなってるんだろう…………不思議だわ。