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令嬢男子と乙女王子──幼馴染と転生したら性別が逆だった件──  作者: 恋蓮
第三部 【君と狂詩曲(ラプソディ)】
77/129

◇74.ハートフルフィッシング

 

「妃沙、今日僕がここに来た意味、解っているよね?」



 ニコニコと微笑む様は、何も知らない人から見れば美形による美形の為の笑顔でしかないのだろう。

 だが妃沙は、予測はしていてもいざその笑顔を目の前にするとブルリと背筋が凍りそうになるのを自覚する。

 微笑んでいる知玲の笑顔は今、絶対零度の温度を放って妃沙の前に降臨していたのである。


「……ち、知玲様? ごきげんうるわしゅう……」

「麗しい訳ないよね? 妃沙、今日はゆっくり話をしよう」

「知玲様、部活は……」

「さ、行こうか!」


 貴重な休日である筈の一日。普段の知玲であれば、朝から晩まで剣道の稽古に邁進している筈で、それを知っていた妃沙はだから、差し入れでもしてやっか、と今日も卵焼きを焼いていた所なのだ。

 そんな所に本人が降臨してしまい、少々泡を食った態の妃沙である。

 だが……莉仁と『契約』を交わしたという事実は銀平を通して即座に知玲にも伝わり、けれど今日に至るまで知玲は何か言いたげな視線を妃沙に寄越すだけで何も言って来てはおらず、妃沙にはそれが逆に怖かった。

 知玲にしてみれば、婚約を解消してしまった以上、莉仁と知玲の立場は同等のものであるし、文句を言える立場ではないのは理解していたのだ。

 婚約者という立場を嵩に着て文句を言える立場にないことは少しだけ残念にも思うのだけれど、あの理事長が自分の恋敵(ライバル)として立候補して来たのは初登場のあの日からヒシヒシと感じている。

 そしてまた、自分に向ける感情とは違ったものを、あの超人めいた理事長に対して妃沙が向けているのも感じており、少々口惜しい思いをしていたのだ。

 けれど、理解はしていても長年拗らせた想いはどうしても抑える事が出来ず、部活を返上して妃沙を拉致りに来た、と、そういう訳である。


「知玲様……何処にいらっしゃるんですの!?」


 手を引かれ、車に乗るでもなく……ましてやエプロンをしたままの妃沙は少し焦った様子でそんな事を尋ねている。

 だが、まんまと妃沙を連れ出す事に成功した知玲の表情はとても晴れやかで、年相応の高校生のように明るく笑っていた……もっとも、背後にいる妃沙には見えてはいなかったけれど。


「君と一緒にやりたいことがあるんだ。そこでならゆっくり話も出来るし……着いて来て、妃沙」


 一瞬だけ振り返った知玲の表情に楽しそうな微笑みが浮かんでいたことに安心する自分を否定するなんて、妃沙には出来なかった。

 もしかしたら今日、知玲がやって来るかな、とか、莉仁との『契約』に対して詰められる時間があるのかな、ということは想定していたのだけれど、最初こそ剣吞険悪な雰囲気であった知玲は今、そんな雰囲気をまるっきり払拭して楽しそうに自分の手を引いている。

 突然に連行されてしまったので、手にした弁当箱にはおにぎりが数個と大量の卵焼き、そして予め切ってあったたくあんを詰めるくらいしか出来なかったけれど、一応、昼ご飯の用意はある。

 見れば、知玲もまた、大きな水筒を二つ持って来ており……まったく、用意をして来るくらいならサプライズめいた演出なんてしなくて良いだろうによ、と、妃沙が苦笑を落として追随していると、不意に知玲が振り返った。


「妃沙、おかずは現地調達だから」

「だから、何処に行こうと言うのですか!?」


 まだ内緒、なんて、悪戯っぽく微笑み、ましてや人差し指を唇に当てて呟く知玲に、妃沙は一瞬だけ、うっ、と言葉を詰まらせる。

 格好良いとか可愛いとかキラキラしてるとか……どんな言葉も当て嵌めたくない程に、その時の知玲の表情は妃沙の瞳に焼き付いた。

 妃沙はいつだって知玲の護衛の立場でいたいのだから、保護対象である彼がそんな風に幸せそうに微笑んでくれるのを嬉しく思わない筈がないのである。


「まったく……前世(むかし)から仕方のない方ですわね、知玲様」

「……ん。僕が我が儘を言えるのは……妃沙の前だけ、だからね」


 知ってるわ! と、わざと大きな声を上げ、キュッ、と知玲の手に握り返す妃沙の瞳にもまた、きらきらしい微笑みが浮かんでいて。

 彼女のその表情に当てられた知玲もまた、うっ、と声を詰まらせてしまった。

 そして、その可愛らしい笑顔はきっと、前世(むかし)も浮かべていた筈で……きっとその事を知っているのは今世(いま)前世(むかし)も自分だけなんだろうなという優越感を再び実感した知玲。


「あ、そう言えば今日はまだ言ってなかった。妃沙……好きだよ!」

「知玲様!? そういう言葉の安売りは良くないと思いますわ!?」


 やっと告げる事が出来るようになったその言葉に何度言っても同じような反応を返し……だが盛大に照れてくれているのが丸解りの幼馴染にして元・婚約者で……大切な女性(ひと)

 その手をキュッと握りながら今、知玲は深い感動と充足感を感じていた。

 ……一刻も早くこの笑顔は自分のものだと実感したいな、なんていう黒い欲望もあったけれど、快晴のお日様の下でそんな事を考えるのは何だか違う気がして。

 これから妃沙を連れ出す、久し振りのデートに想いを馳せながら、知玲は目的地に向かって小走りで移動していたのである。



 ───◇──◆──◆──◇───



「……釣り?」

「うん。この河はこの国でも有数の綺麗な水と餌となる苔が豊富な所らしくてさ、ここでしか釣れない川魚が釣れるんだって。

 日本の鮎みたいな難しい釣りじゃなくて、生き餌もいらないし特別な装備もいらないし難しい技術も必要ないみたいだから、今日はここで妃沙とゆっくり話でもしながら釣りをしたいな、と思ってさ」


 釣り、と言う初めてのキーワードに妃沙の瞳はキラキラと輝いていた。

 何しろ、前世では魚には通じない筈のその強面が不思議なくらい発揮されてしまい「釣られる事が仕事」な釣り堀の魚ですら釣った事がないのだ。

 夕季曰く、それはせっかちな龍之介が竿を無闇に動かしたり釣れなくて大声を上げるせいだ、ということだけれど、妃沙的にはそんなことはないと思っている。

 確かに強面ではあったけれど、猫や犬にはよく懐かれたし、動物園に行けば肉食獣、大型動物問わず近付いて来てくれたので、やっぱり動物は人間よりも素直だな、なんて愛しく思ってしまった程だ。

 その彼がこと釣りに関しては悉く失敗していたのだ。理由は解らないけれど、龍之介の放つ恐ろしい雰囲気は魚にだけはダイレクトに伝わるらしかった。


「この姿でなら、わたくしにも釣れますかしら!?」

「……あー、うん。めったやたらに竿を動かしたり、雄叫びをあげたりしなければ、多分ね……」


 頑張りますわーと、可愛く手を叩きながら、キャッキャッと語る妃沙の笑顔を優しく見つめながら、知玲は借りて来た道具を妃沙に渡し、その使い方を教えてやる。

 いつも以上に真剣な表情でその説明を聞きながら、楽しい、という雰囲気ダダ漏れの妃沙に知玲はまた惚れ直してしまう程だ。

 どんなことにも一生懸命で全力で打ち込むのは、何も今世からではなくて、龍之介もまた、体育も勉学も物凄い成果を残していたのだ。

 テストに参加出来ない事情が突如生まれたり、計測する教師が失神してしまったりして記録には残っていなかったけれど、実は夕季をも上回る優秀な人材であった事を知っているのは夕季だけだっただろう。

 そしてそんな龍之介を、勿体ないなと思う自分と、自分だけが真実を知っているという優越感の乖離に、少しだけ悩んでいた前世の事を思い出す知玲。

 けれど今は、活躍すれば活躍するだけ称賛され得る容姿を得られた妃沙(りゅうのすけ)を、一番喜んでいたのもまた彼なのであった。


「せっかくだから釣果で勝負する?」

「……いえ。それも楽しそうですけれど、わたくし、漁師ではありませんし量もあまり食べられませんから、無駄にお魚さんにストレスを与えたくないので、それは遠慮しておきますわ」


 その言葉を聞き、思わずブッと吹き出す知玲。


「何か面白い事でも?」

「……お魚さん……お魚さんって、妃沙、君さ……」


 そう指摘され、ハッと自分の言葉を反芻した妃沙の顔面にたちまち朱が乗る。

 おそらく今回も変換の能力(スキル)が発揮された結果、そんな言葉が彼女の口から飛び出して来たのだろうけれど……それにしたって『お魚さん』だ、彼女の中身を知る知玲からしたら悶絶ものである。

 知玲にとってはその言葉も衝撃だったけれど、荒れた世界にいた龍之介が妃沙となり、やっと穏やかな日常を満喫出来ているのだという証明でもあり、感慨深かったのだけれど、その言葉の衝撃は強すぎた。


「わたくしの意思ではございませんしッ! 知玲様、あんまり笑ってばかりではお話が出来ないではないですかッ! 何やらお話をしたくて、こんな所までわたくしを連れ出したのでしょう!?」


 ぷくっと頬を膨らまし、尚且つ頬に朱を乗せ、唇を尖らせながらそんな事を言われても逆効果だよね、と知玲は心の中で白旗を上げ、だが今は妃沙も楽しみにしてくれているらしい釣りに集中することにした。



「オーケー、勝負はなし。元々、僕も話をしたくてこんな所まで来たんだ、妃沙が釣りに熱中してしまったら困るからね」



 でも、釣った魚は美味しく頂こうね、と約束し、二人は釣り宿の主人に教わった通りにエサを付け、川べり並び立って釣りを開始した。

 自宅から徒歩で来られる場所とは言え、天気は快晴、河の流れは穏やかでお日様の光を浴びてキラキラと輝くようだ。

 そんな水面にポチャン、と糸を垂らして、二人は一様に楽しそうな表情を浮かべながら魚と、そしてお互いとの対話を開始したのである。



 ───◇──◆──◆──◇───



「妃沙、引いてるよ!」

「え……あ、キャー!!」


 可愛らしい声を上げながら慌てて竿を引き上げようとする妃沙の背後に素早く廻り込み「ダメだよ、妃沙、ゆっくり……」なんて言いながら両手に抱え込んで一緒に竿を操作する知玲。

 突然訪れたその温もりに、妃沙は先程とは違った意味で再びキャッと声を上げることになったのだけれど、背後の知玲は今、魚に夢中のようである。

 彼もまた、目の前の事に熱中するあまり突飛な行動に出るクセがあるようだ。

 そしてそれは妃沙の影響であることは間違いがなく、だが知玲は今、妃沙を腕の中に閉じ込めているという事実より目の前の魚に夢中で……意識しているのは妃沙の方、という、珍しい状況に陥っていた。


「ほら、妃沙ゆっくり……ゆっくり引いて」


 耳元でそう囁かれ、ドキマギしながらも知玲の指導に合わせて妃沙がゆっくりと竿を引いてゆく。

 そうしてやがて現れたのは……糸の先にかかる、銀色の鱗。

 陽の光を浴びてキラキラと輝くそれが空中に躍り出た瞬間、知玲と妃沙の顔に笑顔がはじけた。


「知玲様、やりましたわー!」

「やったね、妃沙!」


 アハハと楽しそうに笑う様は年頃の高校生と変わりがなく、いや、それ以上に楽しそうに見える程だ。

 妃沙だけでなく、知玲も釣りは初めての経験であったし、妃沙の手を操作してとは言え、初めて魚を釣り上げる経験に若干興奮気味なので、思わず妃沙を抱き締める体勢になっていた事には今やっと気付いたようで、ハッと思わず身体を離して、こんなに照れくさくなってしまうのは何故だろう、と考えているのだけれど……それは妃沙の心情の変化に由来しているのかもしれない。

 だが、一瞬でも知玲のその体勢にドキッとした我らが残念系主人公・水無瀬 妃沙は初めて釣り上げた魚の姿に大興奮で、そんな微妙な心の機微を披露していた自覚はまったくないようだ。


「知玲様! 一匹釣れましたから最低限のタンパク質は確保しましてよ! 出来ればもう少し釣果を挙げて、これから試合に臨む知玲様の栄養素を造りたいところですので知玲様も本気で頑張って下さいまし!」


 キラッキラの笑顔の妃沙。そんなものに知玲が白旗を挙げることなんて当たり前のことだ。

 せっかく少しだけ意識しかけた自分にとって知玲は何ぞや、という疑問にも初めての釣り体験で釣果を残すという事実の前にすっかり霧散してしまったようであった。


「……ん。勝負の場ではないけど、僕も少しお腹が空いて来たしね。今のでコツは解ったでしょう? これからは一人でやれるよね?」

「ええ……ええ! この河の魚をわたくし一人で釣り上げてみせますわ!」


 それは生態系存続に関わる事案だから自重してね、なんて言いながら再び竿を持ち直す知玲。

 何やら落ち着いた様子の彼に、妃沙もまた再びあの興奮を我に、なんて呟きながら釣り糸を垂らす。

 そして二人は暫くそうして川面と対峙していたのだけれど……本来の目的は『対話』であったのを期せずして同時に思い出し、そして口火を切ったのはやはり知玲であった。



「妃沙、理事長と『契約』したんだってね」



 冷静に告げられるその言葉に、妃沙は思わずヒュッと息を飲んでしまった程だ。

 だが、知玲の口調には怒りも焦りも含まれておらず、ただの事実確認といった様相であったので、おちつけー、と自分を宥めながら妃沙が言葉を紡ぐ。


「……契約、というか……。知玲様の時と同様に、突然に! 一方的に! 押し付けられただけですわ!」

「ふぅん? 僕との契約、君はそんな風に思ってたんだね」


 わざとらしく、しゅん、と肩を落とし、切ない表情を浮かべる知玲のフォローをしない選択肢など、妃沙にはない。

 落ち込んでいたら慰め、悩んでいたら払拭し、物理的な問題は自分が引き受けて解決するのが妃沙にとっての『知玲を護る方法』だったから。


「……いえ。全く意味が違うから報告しなかっただけですわ。理事長曰く、あの面白い女生徒、河相(かわい) 萌菜(もな)さんと仰ったかしら、彼女はの能力(スキル)は少々厄介らしいのです。

 何でも、人を魅了する力があるとかなんとか……。そしてそんな彼女が身体の大きな柔道部に入り込んだから危険だし、解除する方法もあるから当座の危険回避に、と……」


 何だかバツの悪そうにそんな言葉を紡ぐ妃沙の言葉を、知玲は少しだけ拗ねたように眉を顰めて聞いていた。

 確かに『能力(スキル)』というものがこの世界には存在するという事は聞いていたし、理事長が現れた際にその情報を齎してくれたのはあの方ですわ、と妃沙から報告は受けてもいた。

 どうやら自分と妃沙には言葉を変換するだけという残念すぎる能力(スキル)が与えられており、どうせならもっと違う能力(スキル)を下さいよ女神様、なんて妃沙と笑い合ったのは記憶に新しい。


 先日、妃沙から「面白過ぎる女子が体験入部にいらしたのに、断ってしまった理事長と部長の意図がまったく解りませんわ」とは聞いていたのだけれど、その少女が真面目に部活に取り組んだり、残念な言葉以外を口にしたり、あまつさえ妃沙と仲良く過ごす未来が全く想像出来なかったので、それ自体は全く不思議な事ではない。

 どうやら他人の能力(スキル)が通じないらしい理事長。だから契約を交わしたこと自体は別に気にしていない。妃沙には言っていないが、確かに解除する方法もあるにはあるのだ。

 だが……契約を交わす手段と、理事長がそんな行動を取った理由については、どうしても見逃す事は出来なかった。


「ホントに君はさぁ……。どうしてそんなに人を惹き付けてしまうんだろうね。婚約を解消したらそういう存在が出て来るだろうな、とは思ってたけど……まだ一カ月も経ってないじゃない。

 悠夜(ひさや)のことだって本気にしてしまったんでしょ? お前と妃沙の関係は何なんだって、毎日しつこく聞かれるよ。まぁ……相手が理事長だろうが悠夜だろうが、引く気は一切ないけどさ……」


 拗ねたように呟く知玲。視線は相変わらず川面に向けられていたけれど、もはや心は魚には向かっていないらしい。

 だから妃沙は、わざとらしいくらい明るい声で言った。


「知玲様の仰る本気、というものがわたくしには良く解らないのですけれど……確かにお二人とも本気で行くだの俺を見ろだのと仰っておりましたわね。

 でも……本当にわたくし、葵という親友に心を寄せていて良かったですわ! そのお陰であの方の魅了もわたくしには効かなかったようですし」


 フフ、と微笑みながらそう語る妃沙。だがその内容は知玲には大問題だ。


「……え、妃沙、君、葵さんを恋愛対象として好きになっちゃったの?」

「何を仰るのです! 葵はわたくしの唯一にして絶対の親友ですわ! おそらく、前世のままこの世界にやって来たとしても葵には恋愛感情を抱かなかっただろう自信がある程ですのよ」


 え、じゃあ、何であの少女の能力(スキル)が通じなかったんだ、と考えた知玲は、一つの可能性に気が付いて、思わずおっふ、と珍しい声を漏らして口元を覆う。

 そんな自分を不思議そうな表情で見つめている鈍チンに、知玲はどうしてもニヤニヤしてしまう表情を見られるのが恥ずかしくて、ぷい、とかるくそっぽを向いて釣りに集中するフリをする。


「そ、そっかー。親友に心を寄せていても通じない能力(スキル)なんだね。意外とポンコツなのかもね」

「そうですわね。理事長の研究によると、能力(スキル)というのは残念だったり抜けがあるものが多いらしいですわ。しかも一人に一つなんだとか。

 正直、その存在すら知られていないものなのですもの、ファンタジー小説のように他人を操ったり、嘘を真実にしてしまったり弱点を見抜いたりなんていう格好良いものである訳がないですわよね」


 魔法があってスキルがあるなら、前世で読んでいたライトノベルの世界のようで楽しかったのに本当に残念だと呟きながら竿をクイクイ動かすその横顔。

 ……ねぇ妃沙、君の心に棲み付いたのは誰なんだろうね、と、それがハッキリ解る未来に少しの恐怖と多くの期待を抱きながら知玲は微笑んだ。


「……あ、ほら妃沙、また引いてる!」

「え!? キャー! 本当ですわね! わたくし、釣りの天才なのかもしれませんわ!」

「何言ってるの! ほら、引いて引いて!」

「煽らないで下さいまし、知玲様! 慌ててお魚さんを逃がしたくないのですから」


 やがて釣り上げられた魚に歓声を上げる知玲と妃沙。

 少しだけ荒んでいた知玲の心は、その日の空のようにいつの間にか晴れ渡っていた。



 ──本当に、いつまでたっても君は僕のヒーローだねと優しく心の中で呟きながら、その日、知玲はまた想いを一際深くしたのであった。


◆今日の龍之介さん◆


龍「丸焼きにちょっと塩振っておかずにしよーぜ! 余ったら持って帰って煮付けにしてさぁ……」

知「いまさら君に情緒とか求めるつもりはないけどさぁ……もっとこうさぁ……」(溜め息)

龍「え? 唐揚げの方が良い? しゃーねぇな、それも作ってやるから落ち込むなって!」

知(深い溜め息)


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