◆73.おまわりさん、この人です!
魔法の原理に関しては学のない作者の妄想ですので深くお考えにならないで下さると嬉しいです……(土下座)
真剣な告白の後に訪れたシリアスな雰囲気……は、もちろん我らが残念な主人公によって破壊されてしまった。
「申し訳ありません、お言葉の意味が解りませんわ? 誰にでも良い顔をなさる生徒会長を卒業されるのなら、おめでとうございます、と申し上げるべきですわよね?
その上で仰る生徒会長を拝見せよとは如何に? わたくし、ずっと久能先輩を見ておりましてよ?」
「妃沙、妃沙キサキサ!! 思わせぶりな言葉を吐くクセは治そうね! 誤解されてもおかしくないからね!?」
慌てた莉仁が妃沙の口を塞いでしまわなければ、この先どんな爆弾発言が飛び出すか解ったものではない。
恋を自覚し、真剣なその想いをぶつけようとしている相手に対して「ずっと貴方を見ています」なんて殺し文句以外の何物でもない。
妃沙にとっては大した意味はないのだと良く知っている莉仁はだから、これ以上、悠夜が誤解したら可哀想だと妃沙を止めたのだけれど、あいにく妃沙の言葉は真っ直ぐに悠夜に届いてしまっていた。
「……へぇ? てんとう虫が生徒会長になり、その上名前を覚えてくれるまでに進化したのか。これは……押しがいがある、よな」
頑張るよ、と不敵に微笑んだ悠夜。
けれど今、彼は久し振りの恋というよりは同等に魔法について語り合える存在が現れた事に喜びを感じているらしく、それ以上はその只ならぬ色気を発揮することはなかった。
何しろ、妃沙に語った通り魔法研究部は魔法に対して討論したくても人が集う事は少なかったし、誰かがいたとしても相手は自分の研究に没頭していて話掛けられる雰囲気はなかったのだ。
ましてや生徒会長として一目置かれていて、外国育ちで感覚も少し一般の人と違うとなれば尚更だ。悠夜自身にはそのつもりは全くなかったけれど、オレサマな雰囲気も醸し出してしまっているのである。気軽に討論を交わしてくれる存在などそういるものではない。
だから今は、魔法の可能性や有用性について存分に語り合いたい、という欲望の方が強いようであった。
「俺の研究はもう少しでなんとか出来そうなんだ。なぁ、妃沙、お前はここでどんな成果を探究したい?」
「魔力がない方でも使える魔道具の研究にはとても興味がありますわ! わたくし、魔法があったなら実現したい道具がたくさんありますの!」
そう言って満面の笑みでキャッキャと語る妃沙の口からは竹プターだの何処も扉だのという、現代日本を生きる日本人が聞けばお馴染みっぽい道具の名前を告げているのだけれど、
あいにくこの世界にそのネコ型ロボットとやらはいないので彼女の言う道具がどんなものなのかを瞬時に理解出来る人物はいなかった。
けれど、その効果を聞けば確かに素晴らしいと思える物だったので、取り急ぎ何処も扉は無理そうだから竹プターの原理について、今まで培った学術知識を用いてその可能性を検討することにしたようである。
「人を浮かすにはそれなりの力が必要だが、頭に取り付けたそんな微弱な風力でそれが可能なのか?」
「風力に頼っては無理だと思いますけれど、重力を無視する方程式を編み出せれば実現に向けて可能性は高くなるのではございません? 例えば……」
そうして二人は魔法使いとはおよそ言い難い難しい言葉を紡ぎながらその可能性を探って行く。
魔力も申し分なく、かつ大人頭脳な莉仁ですら妃沙のその提案にはソワソワしてしまったようで、堪らない、といった態で彼らの論議に参加してしまった。
「そこはさぁ、重力を無視するんじゃなくて磁力の反発の理論を駆使して大地の磁場と強烈に反応し合う磁力で浮かせれば安定して飛べるようになるんじゃないか?」
「ですが理事長、それでは高度を調整出来ないではありませんか。わたくしの理想は好き時に好きなだけ、好きな高度で空の旅を堪能出来る魔道具なのですわ!」
「磁力、という発想は素晴らしいな、莉仁! だが、移動するのに反発し合うだけではどうにもならないから磁場を変換させる道具を開発して、そこに『地』の魔力を込めてさ……」
小難しい話になってしまい、魔力のない銀平はすっかり蚊帳の外だ。
中等部までの間にファンになってくれた数少ない女の子から咲絢は今日、会長に呼ばれたから魔法研究部に行くって言ってましたよ、という情報を手に入れたからここにやって来たのに、最初こそエプロン姿の天使に癒され面白い物を見せて貰ったけれども、魔力のない自分には面白そうなその道具の実現に魔力で貢献する事はできない。
けれども彼はまた、魔力のなさを学力で補おうと努力し続けており、その成績は知玲、悠夜と常にトップ争いをする程なのだ、知識でだけなら会話に参加するのは難しいことではない。
「移動に磁界、N極とS極、原動力と電磁波が関係させるならそれを司る魔法で手助けしてやればさぁ……」
銀平の参加により、室内は物理学者の討論めいたアツい議論が交わされる場になってしまっている。
三年生の悠夜と銀平、そして理事長である莉仁はともかく、先日高等部に入ったばかりの新入生である妃沙が参加し、ましてや問題提起までしていることには誰も疑問を抱いていないようである。
何故ならそれが『妃沙クオリティ』なのだから。
「ですから! 磁力だけに頼っていては安定飛行は望めないではないですか!」
バン、と机を叩いて妃沙がやや大きく声を張り上げた時、控えめな音でトントン、と扉を叩く音が聞こえる。
「すみませェ~ん、体験入部、お願いしたいんですけどぉ~!?」
甘ったるいその声に、銀平と莉仁以外の人物が拒否反応でその動きを止めてしまう。
彼らは先日、その声を間近で聞いてしまったトラウマがあったのだ……その、甘い香りと共に。
「はい、どうぞー? 歓迎するよ」
事情を知らない莉仁が制止する間もなくその扉を開けると、そこには案の定、フワフワのピンクブロンドを揺らしながら可愛らしく首を傾げる美少女が立っていた。
「河相 萌菜でぇーす! 体験入部をしに来ましたぁ~! よろしくネ、悠夜先輩、莉仁様!」
きゅるん、愛らしい笑顔を浮かべ、何故だか悠夜と莉仁にだけ挨拶を寄越す美少女──萌菜の登場であった。
───◇──◆──◆──◇───
あざとさ全開でコテン、と首を傾げ、楽しそうに微笑んで立っているそのピンクブロンドの少女に、妃沙は何故だか猛烈な嫌悪感を抱いてしまっていた。
カフェテリアで遭遇した時のような香りは放っていないので、慌ててその場から逃げ出したくなる程のものではないのだけれど……何故だろう、彼女の本能が危険を察知したのかもしれない。
だが、妃沙とて精神年齢は良い歳の大人である。自分と同じく体験入部にやって来た高校生に嫌な気持ちを抱かせてはならないと、精一杯の努力で口を閉ざすことにした。
微笑む事は出来ないけれど、黙っていれば迷惑にはならねぇだろ、との考えからだが、もともと良く喋る彼女が黙ってしまっては何かあったと周囲が察するのは当たり前のことである。
また、あのカフェテリアで「二度と俺の前に現れるな」と忠告したにも関わらずやって来た萌菜に、悠夜の敵意はビシビシと刺さるかのように放たれていた。
そして迎え入れた莉仁もまた、一目で彼女が持つ『能力』を認識してしまい、あー、これはないわ、と、銀平を除いた人物達から盛大な拒否の空気を放たれてもなお、へこたれない精神力は天晴と言うほかない。
「キャー、キャー! ここが魔法研究部なんですねぇ~! 莉仁様までいらっしゃるなんて超ラッキー☆
萌菜、高等部からの入学だけど、魔力はあるし、子どもの頃から魔法ってどうやったら上手に使えるのかなーって思ってたんです! だからここで莉仁様や悠夜先輩と一緒に研究したいナ!」
きゅるん、といか言いようのないブリブリの笑顔で、胸を強調させながら軽く握った両手を頬に当てるという仕草を見せながら、歓迎されていない室内に入り込んで来る、ある種の狂気を孕んだとしかいいようのない少女の行動を、だが、我らが残念な主人公は嫌悪感を改め面白い物として認識してしまったようだ。
もともと銀平の中二ポエムや悠夜のこっ恥ずかしい台詞などに対してトキメキより笑いを呼び起される性質の妃沙。
そんな彼女が、今まで出会ったことのない生物を目の前にして興味を引かれない筈もない。相手はとっくに絶滅したと思われていた『ブリッ子』を地で行くような美少女なのである。面白くない訳がなかった。
「ごきげんよう、河相さん。わたくし、水無瀬 妃沙と申します。わたくしも今日、体験入部に参加させて頂いているのですわ。もし入部なさるのなら、同志ということになりますから宜しくお願い致します」
そう言って右手を差し出し、握手を交わそうと彼女に近付こうとした妃沙だが、背後からグッと肩を掴み、スポッとその腕に中に閉じ込める人物がいた。
突然のことに反応が遅れてしまい、だが、その腕の温もりは知玲とは違う感情を妃沙に齎してくれるようである。
「……悪いな、妃沙。友達を作りたい気持ちは解るけどこの子はダメだ。寂しかったら俺がいつでも相手するから我慢してくれ」
耳元で囁かれたその声は、あのレストランでの一件からずっと、やたらとLIMEだの電話だので妃沙にコンタクトを取ろうとする厄介な理事長であった。
正直、恋愛のなんちゃらは未だに良く解っていない妃沙だけれど、莉仁との会話はその素の言葉がきちんと伝わっているらしいこともあり、とても気楽なものであるし、彼の言葉もまた素直に受け止める事が出来ている。
時々、スキンシップが激しいなコイツ、と思うことはあれど、この世界はそういうものだよ、と知玲から教育されていた妃沙にとっては通常営業プラスα程度のものでしかないので、突然抱き締められても特に動揺を見せることはなかった。
「理事長、その理由は説明して下さるのですわよね?」
「もちろん、今度ゆっくりな……とりあえず、この状況を打破するから待っていてくれる? 妃沙の協力も必要なんだ」
何故だか切羽詰まった様子の莉仁に、珍しいな、と思いながらも妃沙がコクンと頷くと、莉仁は安心したように微笑んで萌菜から妃沙を隠すようにして立ちはだかる。
だがしかし、莉仁が何かを告げる前に、嫌悪感を露わにした悠夜が萌菜と対峙していた。
「……どういうつもりだ。俺の前に現れるなって警告したよな? 良いぜ、ここには都合良く理事長もいるし追放してやろうか」
「ヤダぁ~、悠夜先輩ったら! そんな設定通りの台詞を言ってくれなくても良いのにィ~!!」
彼女の言葉の意味が解らないのは周囲の人々だけではない。萌菜の脳内はちょっとアレらしいので誰にも理解する事は出来ないのだけれど、妃沙にはそれすらも『おもろー!』に映っており、自らを羽交い絞めに近い状態で抱き締めている彼を突き飛ばして突撃しそうになるのを、莉仁は再び腕の中に抱き込んで止めた。間一髪であった。
「落ち着け、妃沙! アレは関わっちゃいけない。君はともかく……知玲くんに被害が及ぶぞ」
そのパワーワードを耳にして、一瞬にして落ち着きを取り戻す妃沙。彼女にとって知玲の安全は絶対領域でなのである。
「そんな危険物を校内に引き入れて良いのですか?」
「成績は一般以下だが、魔力はあるからな。でも悪い、出来るだけあの娘とは関わるな。あの『能力』は軽視出来ない」
そう言って、後で説明するからと言い残し、未だ険悪な雰囲気の悠夜と萌菜の間に入り込む莉仁。
その姿は妃沙が見ていたおちゃらけた姿とはまるで違い、大人の色気と威厳が前面に押し出されていた。
「河相 萌菜さん、この学園に入学してくれてありがとう。君の様な魔力を持った生徒の入学を、私は心から歓迎するよ」
妃沙からはその表情は見えないけれど、普段の一人称が「俺」なのに対して「私」ってなんだ、無理してやがるなアイツ、と、ぷくく、と莉仁の背後で笑いを漏らす妃沙だが、室内はとても緊迫した雰囲気である。
何しろ悠夜は敵対心が表に出まくっているし、言葉とは裏腹に莉仁にも拒否反応が見て取れる。
彼女を面白いものと認識して関わろうとする妃沙と、突然の変化に対応しきれていない銀平はポカン、と口を開けているほどであった。
一番の被害者は、もしかしたら萌菜の眼中にはない銀平であるかもしれなかった。
だが、莉仁はそんな空気に気付くこともないような素振りで言葉を続ける。
「この魔法研究部は少数精鋭で魔法を探究して行こうっていう部活動なんだ。さっき、水無瀬さんが入部表明をしてくれたから、今年の入部枠は埋まってしまってね。
申し訳ないけど、体験入部の受け入れも彼女の入部で終わってしまったし、河相さん、君、柔道部のマネージャーとして入部する旨を提出しているね?
確かにこの学園は兼部を認めているけど、この部にそれを受け入れる余裕はないから柔道部の彼らに存分に愛情を注いであげてくれないかな?
君みたいな可愛いマネージャーがいてくれたら、今年の柔道部の活躍は間違いがないしね」
いつになくクッサい台詞を言ってやがるな、という呆れた表情の妃沙と、キラッキラの笑顔でその言葉を受け止める萌菜という対照的な二人の美少女。
妃沙については通常営業だけれど、入部を拒否されたというのに瞳を輝かせている萌菜の内心は想像するだけアレなほど残念なだけだ。
だが、一般常識を持ち合わせており、その理由は違えど妃沙を護らなければならない立場にいる周囲の男達にとり、萌菜は完全なる危険物であるようだ。
黙ってそのやり取りを聞いていた銀平ですら、ピリッと纏う空気を変えて厳しい瞳で萌菜を警戒している。
だがしかし、敵意にも似た視線を向けられても尚、へこたれない萌菜の精神力には目を見張るものがあり、ヘタレな銀平あたりに分けてあげて欲しい程である。
「キャーキャー!! 凄い、すごぉーい!! こんな所も設定通りだなんてぇー!! それにそれに……ライバルキャラの妃沙ちゃんまでいるなんてホントすごぉーい!!
妃沙ちゃん、妃沙ちゃん! 私、河相 萌菜! 画面で見る以上に可愛いねぇ……! 萌菜ね、悪役令嬢モノの小説も大好きだったの! だから、妃沙ちゃんの事も大好き!
萌菜の推しは知玲先輩なんだけどね、知玲先輩と妃沙ちゃんのアフターストーリーとか妄想したりしてて……」
「あー、あの、河相……さん? ちょっと貴女が何を仰っているのか理解が追い付かないので整理させて下さる?」
いきなり抱き付かれ、意味の解らないキャッキャとした言葉を耳元で叫ばれて、妃沙は今、混乱している。
そんな妃沙を見かねたのか、莉仁が「河相さん、ちょっと待ってね」と人好きのする笑顔で萌菜の行動を制すると「全員集合!」と室内の人々を萌菜から少し離れた部屋の隅に集めた。
「……えーと……わたくし、馬鹿になってしまったのでしょうか? 彼女の仰る言葉の意味が全く解りませんわ?」
「いや、妃沙ちゃん、多分普通の人間には無理だと思うよ……」
若干憔悴した表情でポン、と妃沙の肩を叩く銀平。莉仁と悠夜もうんうん、と深く頷いている。
「ここにいる皆には伝えておく。あの娘は心に誰も棲んでいない相手を魅了する能力があるから注意しろ。君達は……まぁ、大丈夫か」
そう言ってチラリ、と妃沙に視線を寄越す莉仁。
心に誰かが棲み付くって何だ、ああ、葵か、と自己完結している妃沙にはその視線の意味は全く理解出来ていない。
同性である葵にどんなに心を寄せた所で、萌菜の『能力』には対抗出来る筈もないのだけれど……妃沙にそれが今、通じていないという事の意味に、莉仁は正しく気付いているらしい。
だがまぁ、覆す方が燃えるか、と、不敵に微笑んで莉仁は言葉を続ける。
「彼女のこの部への参加は徹底的に拒否する。悠夜、良いな? だけど、無骨で不器用な柔道部員たち……身体の大きな彼らが彼女に魅了されることで及ぼす影響は計り知れないから各々注意するように。
それと……妃沙」
人差しをクイクイと動かし、指一本で妃沙を呼び付け、何だよ、と自分の前に立った妃沙の後頭部をその大きな掌で覆いながら、莉仁は囁くように言った。
「俺、結城 莉仁は、水無瀬 妃沙……君に起き得る全ての災厄をこの身に引き受けると誓う」
そう言って妃沙の唇に優しくキスを落とす莉仁。
彼からの口近辺への攻撃は二度目だけれど……今回は正真正銘、唇へのダイレクトアタックだったので、驚いた妃沙がドン、と莉仁を突き飛ばす。
「理事長!? それは一生に一度のものと聞いておりますわ! それに、わたくしは知玲様と……」
「あー、やっぱり契約済かぁ。でもね、妃沙、一人としか契約出来ないなんて事はないんだよ。そして、解除の方法も存在しているんだから……今は黙って受け入れておいて。
あの娘が柔道部に属する以上、君を護る手段は多い方が良いからな」
涼しい顔で「ごちそうさま」なんて言いながらチャラッとそんな事を告げる莉仁。
その光景はもちろん側にいた銀平と悠夜は目撃しており、更に言えばヤバイ、と思ったのか萌菜の視界から隠すような立ち位置に移動しているあたり、彼らの優秀さが窺える。
だがしかし、当の本人は異常なまでの混乱の只中にあり、してやったりという表情の莉仁と顔を真っ赤にしてその胸をポカポカと叩く妃沙の様子は、知玲に見られたら戦争が起きそうだなと、銀平あたりは危惧を抱くものであった。
「何をしておいでですの!? 理事長、貴方、通報という言葉をご存知で……」
「知玲君の為だと言っても?」
うぐ、と声を失う妃沙。彼女の最大の弱点が実は知玲なのだということを熟知している理事長は、再びチュ、と音を立てて今度はその額にキスを落とす。
「……うん。まだ付け入る隙はありそうだな。これで俺も妃沙の騎士になれたから全力で行かせて貰う」
ニヤリと微笑んだ莉仁はその後、何だかワケの解らない事を言い続けている萌菜を追い返し、その後に塩を撒き、盛り塩をし、悠夜に問い詰められながらもアハハ、と笑いながらそれを受け流していた。
そんな彼の様子を、長いこと思考の自由を奪われてしまった妃沙は目で追う事しか出来なかったのだけれど、ハッと意識を取り戻すとスマホを取り出して言った。
「百十番しますわね!」
「妃沙、妃沙きさキサ! 後で説明するから止めてね!? と、言うか出来れば知玲君にも言わないでおいてね!?」
銀平が目撃してしまっている以上、それは無理な話である。
そして、突然に交わされた『契約』の意味に正しく気付いていたのは悠夜と……意外にも残念系自称ヒロインの萌菜であった。
「……へぇ? 莉仁の本気とかおもしれェ。子どもの頃からずっと敵わなかったアイツにひと泡吹かせるチャンスか?」
「ヤバッ! 妃沙ちゃん、莉仁様ルートに入りかけてる! これは……作戦が必要だなぁ……」
萌菜は今、魔法研究部の部室を追い出されてしまったのでいる場所は違ったけれど、野獣のような獰猛な光をその瞳に乗せる悠夜と萌菜は、偶然ながらも同様の表情をその秀麗な瞳に浮かべていたのであった。
◆今日の龍之介さん◆
龍「おまわりさん、コイツです!!」
莉「ちょっ!? 俺は良かれと思ってさぁ……! マジであの娘はヤバいし……!」
悠「おまわりさん、この人でーす!」
萌「この人でぇす♪」
莉「当の本人にまでェェーー!!」
知「自業自得ですよ」(黒い笑顔)




