◆72.天使とモブ
そして三日後。妃沙は体験入部をしようと、鼻息も荒く魔法研究部の部室の前に立っていた。
ここに至るまでには聞くも涙、語るも涙な事件が色々とあったな、と一瞬だけ遠くを見つめる妃沙。
本当は彼女だってあのオリエンテーションのすぐ後に体験入部に訪れたかったのだけれど、知玲からくどくどと注意事項を語られている最中に思わず眠ってしまって更に怒られたり、
体験入部なら自分も行くと言って聞かない友人達に「その気もないのについて来るなんて失礼ですわ!」と本気の説教をし、しゅん、と落ち込んでしまった彼らをフォローしまくったり、
毎日のように「いつ来るのー?」とLIMEを送って来るロリコン理事長の存在をちょっと面倒臭く感じて「考え直しても良いんだぞ」と送った瞬間に電話がかかって来て夜遅くまで話し込んでしまったり、まぁ……色々あったな、と反芻している所である。
まったく、ただの高校生の入部に何故こんな大騒ぎが起きるんだと嘆く程だ。相変わらず自分の価値を知らない主人公である。
だが今、そんな全てのハードルをクリアして、やっと一人でずっと憧れていた魔法研究部にやって来る事が出来たのだと、ワクワクした気持ちでトントン、とドアをノックすると。
「いらっしゃーーい!!」
「理事長、あなた、何故ここにいらっしゃいますの!? しかも何ですのその格好は!?」
何処の誰に、真っ白なフリフリのエプロンを着用した理事長が自分を出迎えてくれる未来を想像する事が出来るだろうか。
だが実際に妃沙の目の前に現れたのは、眼鏡がやたらと似合う、妃沙をして美形だと認めてしまう程の美貌を誇るこの学園の理事長、結城 莉仁、その人であった。
気合いが入り過ぎた為に早く来すぎたのだろう妃沙を迎えてくれたのは、こんな残念なおっさんだったのである。
「……あのなぁ……、確かに今日体験入部に行くとは言ったし、お前も来るとは聞いてたけどよ……。何なの、その格好!? 莉仁お前、そんな姿、他の誰かにも見られても大丈夫なのかよ!?」
もちろん、誰かがいれば令嬢言葉となって聞こえているだろうその言葉も、莉仁にはいつも通りにヤンキー言葉で聞こえているのでこの場に誰かが来るまでは本来の妃沙を楽しんで頂くことにしよう。
とにかく今は『高級スーツの上にフリフリエプロンを纏う超絶美形』の破壊力に膝を着くしかない妃沙である。
「えー、だって、今日は妃沙たんが来るって聞いてたしィー? おもてなししたいと思うのは当たり前じゃーん!」
「だ・か・ら! せめて学校ではそれ止めろッ! 威厳ってもんがあるだろ、まがりなりにも理事長なんだからッ!」
二人の時とか電話なら良いのー? とか、照れてる妃沙たんかわいー、だとか、今日は甘くないお菓子をいっぱい用意したんだよ、褒めてー? だとか。
本当にこの男は式典でキリッとした表情を見せていたあの結城 莉仁であろうかと疑いたくなってしまう程である。
だが、まぁ、この男がここにいるのは決して不思議なことではないのだ。
知玲ほどではないにしろ、莉仁もまた大きな魔力を持っているという話だし、何しろ彼はこの学園の理事長にして魔法研究部の顧問の座を今年度から奪取したらしいのである。
既に何名か魔力を持つ生徒が体験入部をしに来ているというし、部長である悠夜は生徒会長の執務もあるので多忙らしく、なかなかここにやって来る事が出来ないとあっては、部長以上の権力と美貌を誇る顧問が新入生の接待をするというのは決して理解出来ない話ではない。ないのだけれど。
「莉仁、頼むから自重してくれ。学校ではおふざけは禁止だ。ここはお前の職場だ、そうだろ?」
妃沙のその真剣な言葉に、フッと息を吐く莉仁。彼にだってこんな状況を誰かに見られたらヤバいということは理解っているのだ。
ただ、事前に入手した情報から妃沙が今日ここに来る事は知っていたし、それまでの苦労も電話で聞いていたから、やっと問題が解決されたなら誰よりも早く来るだろうなと予想していた。
そして、緊張しているだろう彼女を和ませたいなと思ったし……何より、ツボにハマる彼女のツッコミを聞きたかったので、危険と隣り合わせのこんな出迎えを実施したのだけれど。
──なかなかどうして、彼女は大人な一面を持ち合わせているようだとしっかり理解し、ますますその愛情を深める莉仁。
「……真面目なんだな。まぁ、そう。ここは俺の職場だから妃沙以外の人間にこんなふざけた姿を見せるつもりはないよ。けど……これで妃沙の緊張も解けただろ?」
フフ、と微笑んでエプロンを脱ぎ、あまつさえ妃沙にそれを着せながらそんな事を言う莉仁に、妃沙はやっぱりな、と思いながら溜め息を吐いて言った。
「そんな危険は冒さなくて良いだろ。気持ちは嬉しいし、こうやってふざけることがガス抜きなら、たまになら付き合ってやっからよ」
無理をして自分を良く見せようとし続ける人物のガス抜きには慣れているからドンと来いだ、と言う妃沙に、莉仁は思わず目を見開いてその大人びた表情を見つめている。
一高校生に言える言葉ではないという事実と、『ガス抜き』とやらを誰にしているのかが明確に解ってしまうこと、更に言えば女子高生が制服の上に纏うフリフリエプロンやばい、という事実に鼓動が早くなっているのは否めない。
妃沙の事情はなんとなく察しているとは言えエプロンは彼自身が着せたものであるのでその責任の一端は彼にもあるのだけれど……生憎、妃沙は美少女だ、しかも今、やたらと男前な台詞というオマケを付けてしまっているのだ。
莉仁にとって初恋である彼女のそんな様子を前にして、何処ぞの芸能人のように淫らな行為に走らなかったことを褒めてあげて頂きたい。
「俺より男前禁止! 演じてなんかねーし!? 完璧な理事長は俺の素だし!? けど……確かにガス抜きは必要だな」
妃沙、と囁いてその耳元に口を寄せる莉仁。
「デート、楽しみにしてる」
「いつ、誰がそんな事してやるって言ったのか、次回までに四百字以内でまとめて提出しろよ?」
相変わらずだなー、と笑う莉仁を、妃沙も仕方ないヤツだと苦笑しながら眺めている。
……だが。
「子猫ちゃん!? 新妻コスプレで俺を迎えてくれるとか……控えめに言って君、最ッ高……!!」
用事が済んだ悠夜が一目散に部室に来てみれば、尊敬する理事長とコレだと狙いを定めた絶世の美少女が部室内で談笑しており、しかも彼女は新妻よろしくフリフリのエプロンを纏っている。
恋愛至上主義の悠夜が、その姿に興奮しない筈もなかった。
「大事にするよ、ハニー!」
「勘違いしないで下さいまし、アホ会長ーー!!」
悠夜と妃沙の絶叫が室内に響き渡り、ガッチリとホールドした妃沙を離すまいと物凄い膂力を発揮する悠夜と、共闘した莉仁と妃沙が全力で闘っていたところに他の生徒がやって来る事がなかったのは幸いと言えるだろう。
結局は魔法まで使って膂力を強化した妃沙と莉仁に二人掛かりで引き離され、ぷぅ、と頬を膨らませた悠夜に、莉仁と妃沙は可愛くないから止めろと全力で説教をし、元の生徒会長の表情を取り戻させることに成功したのであった。
疲労困憊の莉仁と妃沙をよそに、悠夜は何故だか上機嫌である。
「妃沙、俺の部に入部したいと思ってくれたんだな」
「いきなり呼び捨てですの!? 言っておきますけれど、未来永劫、舎弟になどなりませんからね!?」
そんな高校生二人の様子を、莉仁はアハハ、と余裕の表情で見守っている。
妃沙に対して恋の矢を放った莉仁だが、生徒会長にして成績優秀、そして彼の知る限りこれ以上ない程の家柄に育った悠夜でもライバル認定には程遠い存在のようであった。
妃沙の一番近くには、美貌、家柄こそ悠夜には劣るものの、どうやら妃沙が最も心を砕いているらしい恋敵、知玲がいたので、妃沙にとってはポッと出の悠夜など相手にもならないな、というのは図らずも知玲と同意見であり、それが余裕な態度に変換されていたのだけれど。
「可愛い人、ようこそ魔法研究部へ! 君が来てくれるなら……もう誰もいらないな」
そんなクッサい台詞と共に妃沙を抱き締め、あまつさえ頬にキスを落とす外国風の挨拶には莉仁ですら焦りを覚える程である。
「わーわー!! 悠夜、ここは学校なんだから礼節というものをさ……!?」
「何を焦っておいでですの、理事長。この程度の挨拶は当たり前の事だから慣れるようにと、知玲様から言い聞かされておりましてよ?」
平然とそんな事を言い放つ妃沙に、莉仁も悠夜も恐慌状態だ。
確かに妃沙はスキンシップにも動揺しないし、慣れているのかもしれないと感じる節もあったけれど、それが……まさか、知玲による洗脳だったなんてまるで予想もしなかった二人である。
「侮りがたし、東條 知玲……」
「然り……」
呟きながら獰猛な光をその瞳に乗せる様を、妃沙は珍獣を見るような表情で見つめている。なお、相変わらず制服の上にはフリフリエプロンを着用したままだ。
「やっほー! 今日は咲絢がアドバイザーとしてここに来るって聞いたから俺も来ちゃったよー……って何、この険悪な雰囲気の中にいる天使の様相は!?」
最初こそ明るく登場した銀平が、室内のその不穏な空気を察して思わず退いてしまう程に、驚愕と憧憬とそして……恋慕の念に溢れた室内に、思わずビクッと身体を強張らせる。
だが今、妃沙にとっては銀平は救いの神であった。
「銀平様、お助けくださいまし! 理事長と生徒会長がわたくしにセクハラを仕掛けますの!!」
「「待てこらァァーー!!??」」
後の叫びは莉仁と悠夜のそれである。当たり前だ、彼らは精一杯の想いを告白しただけのつもりなのだ、この場合は受け手の妃沙が残念過ぎるだけなのである。
そして、訴えを受けた銀平も妃沙のその残念な性質は充分に理解していた。
「妃沙ちゃん、俺は民事不介入だからこの件は後で判事の知玲を交えて結審しようね。今日はせっかくの体験入部なんだろう? 楽しまなきゃ……ね?」
妃沙に落ち着きを取り戻させる『知玲』というパワーワードを囁きながら妃沙の肩を優しく抱き、彼らから離れた窓際の席に妃沙を誘導する銀平。
知玲、という言葉を聞いた妃沙はあっと言う間に落ち着きを取り戻し、案内されながら楽しそうな笑顔を浮かべる姿は、銀平にはただの天使にしか見えなかった。
「妃沙ちゃん、本当に可愛くなったよねぇ……。知玲が鍛えてるせいもあると思うけど……ねぇ、あんなにキャラ崩壊してしまった理事長と生徒会長を見て、妃沙ちゃんはどんな事を思うの?」
前半は本音、そして後半は純粋な興味である。当然のことながら妃沙は以前の彼らの姿は全く知らないはずなので、キャラが崩壊しているという部分を理解しているかは謎であるのだが、妃沙には生徒会長、そして未だにワケの解らない存在として認識している理事長に特に思う所はなかったので、その質問に対して満面の笑みで言い放った。
「その他大勢ですわ!」
「って酷いな、妃沙!? 違うだろ!? 恋人候補だろう!?」
「いきなり現れた王子様に訳もなく惚れるのは良くあるご都合主義だろ!?」
三者三様の言い分に質問を投げ掛けた銀平も驚きを隠せない。
けれど、女の子にはチャラチャラした笑顔を見せてはいても、生徒会室ではいつでも難しい表情で仕事に取り組んでいた同僚・悠夜と、今年から赴任して来た、同じ男としても憧れてしまうような紳士然とした理事長のキャラ崩壊をとても面白く、そしてそれを齎したのであろう可愛い後輩の破壊力に慄き、彼の親友の今後に心の中で合掌を送りながら爆笑の渦に飲み込まれて行ったのである。
ちっとも進展しない自分の恋心、そして未来を見据える上で大切な年であるというプレッシャーに少しだけ負けそうになっていた自分を救ってくれた、エプロン姿の天使に感謝しながら。
───◇──◆──◆──◇───
「いやぁ、今日は本当に有意義な日になりそうだな。だが、ここは妃沙が本気で入部したくなるようにプレゼンしないとな」
ふと表情を引き締めた悠夜が、ニヤリとニヒルに笑ってそんな事を言い、それもそうか、と莉仁も鷹揚に頷いた。
そして二人は何事か相談しながら室内に設置してある棚から、悠夜は水晶玉のような物、莉仁はそれを置く台座のような物を手にして再び妃沙の前にやって来る。
そうして乱雑に置かれていた書類を脇に退かすと、莉仁が大切そうに置いたその台座の上に悠夜もまた、とても大切な物を扱うように丁重に、そっとその上に水晶玉を置いて言った。
「魔法研究部は、魔法の使い方や魔道具の開発なんかを目的とした部活だから、当然部員には魔力持ちの奴が多いけど、俺は魔力を持たない人にも便利に使って貰える魔道具の開発を目指している。
一つの研究に対して複数人が関わるプロジェクトもあるにはあるが、そんなものは少数で、黙々と自分の研究に没頭している奴が多いかもしれねぇな。
この学園では兼部も認めているから、ほとんどの部員は本籍は別の部活動に置いていて、何か思い付いたりアイデアが欲しい時にここに来る感じだな。だから、大人数で和気あいあい、という雰囲気ではないってことは先に言っておく」
そう説明をする悠夜の表情は生徒会長と部長という重責を二つも担う出来る男のそれで、妃沙は認識を改めざるを得なかった。
最初からこんな姿勢でいてくれりゃ、残念な印象なんか持たずに済んだのにコイツも残念属性かよ、なんて内心は決して表に出す事はなく、真剣にその説明に聞き入っている。
「研究内容は人それぞれで、あんまり発表し合うってことはねぇが、行き詰れば相談には乗るし、仕上がった研究結果を見て欲しければ声を掛ければ大体の部員は集まってくれるぜ。
それと、部員じゃねぇが魔力が大きかったり、その扱いが特別に上手い奴にはアドバイザーとして参加して貰っている。知玲がその最たる例だから、妃沙も知ってるだろ?
だがまぁ……こう言っちゃ何だが、魔力は持っていてもあまり特別なことと思えてない奴は多いから、部員数はそう多くはないんだ。今のところ、正部員は俺を含めて十五人ってところかな。
兼部している奴を入れて三十人くらい。だが、毎日決まった時間に必ずここに来なきゃいけないような活動内容じゃないから、他の部員達は会った時に紹介するよ。
とりあえず今日は、俺が研究している魔道具を紹介させてくれ」
そう言って、悠夜は自分の目の前に置いた水晶玉にそっと片手を翳す。
すると、霧のような物が一瞬だけその中で渦巻き、しかしあっと言う間に消え、次の瞬間には水晶玉の中に綺麗な虹が浮かび上がっていた。
「まぁ、綺麗ですわね!」
「だろ? 俺の研究はこの水晶玉の中で様々な天候条件を作り出して、こういう虹だとか竜巻だとか雪だとかを発生させることで疑似的な自然現象を観測出来るものを作ろうとしてるんだ。
いずれは発生条件をインプットしておけばボタン一つでその様子を見ることの出来る物に出来れば良いと考えてるけど……まぁ、まだ試作段階なんで、今は俺にしかこれは使えないけどな」
そう言って照れたように鼻を掻く様子は、歳相応の高校生の表情であった。
自分の目的を定め、それに向かって邁進する様はとてもキラキラしていて、妃沙の中で悠夜は『てんとう虫先輩』から『一人の男子高校生』に上方修正されることになった。
偶然にしか目撃することの出来ない天気の奇跡をミニマムサイズとは言え自在に造り出し、愛でる事が出来るようになったらすげぇな、素直に思ったのである。
「それにしても、以前から思っていたのですけれど、魔法というものは化学などの知識が伴わないと本当に役に立ちませんわよねぇ。明確にイメージしなければ何も出来ないのですもの。
何もない所から水を出す時だって水蒸気を集結するイメージがなければ出来ませんし、炎の出現だってその原理を理解し、何度くらいでどの範囲に出現させるかを判断しなければならないのですもの。
わたくし、幼い頃から魔法の研究をしていたお陰で、著名な物理学の先生と激論を交わした事がある程ですのよ」
「あー、解る、解る! 突き詰めると量子力学とかにも辿り着くよな。重い物を軽くするにはどうしたら良いかとか考えるとその原理を学ばないとならねぇし」
「そうなんですのよ! けれど、学ぶ事が全て魔法の役に立ってくれるから楽しいですし、自然と成績も上がってくれますし、やはり魔法は素晴らしいですわよね!」
「だなー!」
アハハー、ウフフー、と微笑み合い、魔法使いあるあるを語り合う二人の姿に周囲は置いて行かれつつあるのだけれど、当人達は学者もかくやといった態で語り続けている。
だがこの時、妃沙は知玲以外にもこんなに真剣に魔法と向き合っている人がいたのか、という認識程度であったのに対し、魔力を特異なものとして見られた過去に縛られて、部活動でも一人で魔法と向き合っていた悠夜は、ようやく理解者と出会えたという感動に打ちひしがれていた。
一流の家柄に生まれ、その上稀有な魔力を持ち、容姿にも恵まれた彼は、この国の閉鎖的な部分を嫌い外国に留学する事で「世界はもっと広いんだ」と自由を満喫していたのだけれど、その自由は中学校まで、と決められていて、家業を継ぐ為に戻って来たこの国の学校は、やはり閉鎖的でつまらなかったので、可愛い女の子、という逃げ場にその身を置いていたのだ。
その彼が今、容姿はドストライク、その上魔法にまで理解を示し、自分のマニアックな研究結果も瞳をキラキラさせて聞いてくれる少女と出会ってしまったのである。
惚れるな、というのは無理な話だな、と、悠夜は心の中で白旗を上げた。
「……決めた。妃沙、お前を絶対に俺に惚れさせてみせるからな!」
「ちょっと待って下さいまし、生徒会長!? 今の会話の何処にそんな要素がございましてッ!?」
そんな二人の様子を黙って眺めていた莉仁と銀平は、あちゃー、と手で額を覆っている。
妃沙が人タラシであることなど充分に理解していたけれど、悠夜の寂しさもまた理解出来るほどに、同僚として交流のある銀平、家同士の付き合いで彼を幼い頃から知っている莉仁もまた悠夜の近くにいたので、そんな彼が初めて見せる生き生きとした表情で魔法を語る様に、ヤバいとは思ったものの止める事は出来なかったのだ。
「女好きの生徒会長は卒業だ。妃沙、俺は今からお前に相応しい男になれるように自分を磨いて行くよ。だから……付き合いの長さで決め付けないで、俺を見て欲しい」
真剣な表情でそう告げる名門・鳳上学園高等部の生徒会長、久能 悠夜、十七歳。
──初恋とは言わない。けれど久し振りに燃え上がる恋の炎を実感し、この一年がより一層充実したものになるだろう予感に、悠夜は今、その胸を躍らせていたのである。
◆今日の龍之介さん◆
悠「ところでそのエプロンは何処から持って来たんだ?」
龍「これは莉仁が……」
莉「わーわーわー!! 聞こえないよ悠夜!? 君には何にも聞こえてない!!」
悠「何言ってんだ。しっかり聞こえてるぜ。お前、なんでこんなモン用意したワケ?」
莉「そりゃーもちろん、妃沙たんに着せようと……」
悠「ふーん?」(含みのある笑み)
龍「ふーん?」(ニヤニヤ)
莉「……もうヤメテ。俺のライフはゼロよ!」




