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令嬢男子と乙女王子──幼馴染と転生したら性別が逆だった件──  作者: 恋蓮
第三部 【君と狂詩曲(ラプソディ)】
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◆71.Shall We ダンス?

 

 そうして時間は過ぎ、様々な波乱を齎した高等部のオリエンテーションは、後は閉会式を残すのみとなっていた。

 この閉会式は校庭で開催されると聞いており、妃沙と愉快な仲間達は今日あった事を反芻しながら、楽しそうに談笑しつつ校庭へ移動している最中である。

 なお、知玲は閉会式の準備があるとかで一足早く彼らの集団からは離脱しており、その際に充に「妃沙を一人にしないでね」と念を押して行ったのであった。

 閉会式は魔法研究部と生徒会が連携して演出を手掛けており、魔力を持つ学生が多いこの学園の中でも稀有な程に強大な魔力を持ち、幼い頃から魔法の使い方について学んでいた知玲は必要不可欠な人材であり、今日は少々忙しかったのである。

 けれども、その合間の僅かな時間を見つけては妃沙を構いに来るので、充としては彼の純情を微笑ましく思うのと同時に、しっかりと妃沙を護る役割を請け負って安心して貰いたいと思うのだ。

 知玲の態度からは、本当に妃沙の事が大好きで、心配で仕方がないのだと何も言わなくても伝わってくるものだから。

 同じく『大切な人』を想う男として、知玲は充にとって尊敬すべき先輩であると同時に、親近感を抱かずにはいられない同志なのであった。


「大丈夫です、妃沙ちゃんの事は心配なさらず、お仕事頑張って下さいね」


 そう言って笑顔を向けた時の知玲のキラキラの笑顔ときたら、同じ男であり、ちゃんと恋人がいる充ですらドキッとしてしまう程に幸せに満ちていた。

 やっぱり男は護るべき存在があって、やりがいのある仕事があると輝くよなーなんて思った充は、将来は自分もそんな仕事を見つけたいなと思ったし、猛烈に彼女の声を聞きたくなってしまって思わず電話を掛けてしまった程だ。

 現在この学園の大学に通っている彼女は、たまたま休憩中であったようで電話には出てくれたものの、特に用はないけど声を聞きたかったんだと告げたら、いつものように可愛らしく悪態をついてくれたのだけれど、その声は上ずっていて、そして時々どもっていて……電話の向こうで照れて真っ赤になっている姿が容易に想像出来て、ニヤニヤするのを止められなかった充を、周囲もまたニヤニヤしながら見つめていた。

 からかわれ、盛大に照れながらも「ボクの彼女は最高に可愛いよ!」なんて惚気てくれる充に未だ独り者の友人達が逆に照れてしまうことになりつつも、一行は楽しそうに校庭へと向かって行ったのである。



「新入生の皆さん、今日のオリエンテーションは楽しんで頂けましたか? 今日という日が君達の未来を彩る一助となれるよう、僕達は心から願っています」



 そうして開始された閉会式。今度は副会長である知玲が校庭に設置されたステージの上にマイクを持って立っていた。

 周囲からは「キャー、知玲さまー!」なんて声が聞こえているが、そんな声にも知玲はにこやかに手を振る余裕がある程である。どうやら仕事は一段落したようだ。

 そうして彼はステージの上からグルリと周囲を見渡し、そしてあっという間に妃沙を見つけ出すと、一際甘い微笑みをそちらに向けて手を振っている。

 その甘い笑顔にはさすがの妃沙も少し照れてしまったのだけれど、可愛らしくそっと手を振り返せば、ステージ上の知玲が本当に幸せそうに微笑んでくれるので、妃沙もちょっとだけ嬉しくなったのであった。


 校庭には今日限りのステージの他にキャンプファイヤーがセッティングされており、それは点火を今か今かと待つように鎮座している。

 今、新入生たちはその周囲をグルリと囲んで点火の瞬間を待っていた。

 当然、妃沙達もその中にあり、ワクワクする気持ちを隠しきれずにいる。


「ただ火を焚いてそれを眺めるだけですのに、キャンプファイヤーって何故こんなにも心がときめくのでしょうね……!」

「非日常っていやキャンプファイヤーだろ? それに、昔から言うじゃん、『火事と喧嘩は街の華』ってさ。結局、人間ってのは騒ぐことが好きなように出来てるんだと思うぜ!」


 楽しそうに笑いながらそんな風に言い切る葵の清々しさに、ああ、自分が葵に惹かれて止まないのは前世の自分と思考回路が似ているからなのかもな、と実感する妃沙。

 真っ直ぐで優しくて、ひたむきで明るくて、そして自分をとても大切に想ってくれているのが丸解りの葵を『龍之介』と似てるだなんて思うのは悪ィかな、とは思いつつも、その思考回路は似てるなと思うのだ。


「……葵、ありがと」


 なんだか胸がいっぱいになって、つい呟いたその言葉は、少しだけ『妃沙』の仮面を取っ払ってしまったのかもしれない。

 けれども、葵にとっては妃沙の口調なんかどうでも良いのだ。彼女の言葉はいつだって直球で嘘がなくて……ズドン、と自分の心に届くから。


「……こっちこそ。なぁ、妃沙、多分さ……高等部では今までとは少しだけ違った出来事が起こると思うけど……。でも、アタシはいつだって妃沙の味方だ。どんな時だって側にいる。

 アタシも今までとは違う出来事に巻き込まれて悩んだりすることがあるかもしれない。そんな時は妃沙に側にいて欲しい。一緒に悩んで行きたいんだよ、妃沙」


 照れているのか、珍しくこちらを見ようもせず、けれども握ったその手にキュッと力を込めて呟くようにそんなことを言う葵の隣で、心がポカポカと温かくなるのを感じている妃沙。

 確かに、今現在ですら中等部とは違った立場にいる自分だ、より大人に近付いてしまった高等部ではもっと色々な事が起きるかもしれない。

 けれども、妃沙には『絶対に変わらないもの』があるのだと、自信を持って言える事が一つだけあったのである。



「葵。周囲がどう変わっても、その立場がどんなものになろうとも……わたくしの親友は貴女だけですわ。葵の悩みはわたくしも全力で考えますし、わたくしのことも相談させて頂きますから。

 ねぇ、葵。もし何か不安を抱いているのなら、そんなもの捨てて下さいな。わたくしがずっと求めていたのはきっと……葵、貴女のように無償の愛情を注ぎ合える存在なのだと心から思っていますのよ。

 今までもこれからもずっと……大切に想っていますから」



 うん、と呟いた葵。いつものように抱き付いたりすることはなかったけれど、その表情はとても真面目で、けれど頬を染めた表情には嬉しさが浮かんでいる。

 きっと自分も同じような表情を浮かべているのだろうなと実感しながら、妃沙と葵は手を繋いで点火を待っている。

 自分の意思とは関係なく変わっていく周囲。彼らを大切に想えばこそ、誠実に向き合わなければならないと理解はしているのだけれど……少しだけ怖かった自分を、この手が支えてくれるに違いないと、

 絶対の信頼を親友に向けている妃沙と葵なのであった。



 ───◇──◆──◆──◇───



「それじゃ、ここからは、司会を生徒会長兼魔法研究部部長のこの俺、久能(くのう) 悠夜(ひさや)が引き継ぐぜ! ここまで司会を務めてくれた生徒会副会長にして魔法研究部アドバイザーの東條 知玲、ありがとな!

 あー、確かに知玲はイケメンだけど、浮気すんなよ、子猫ちゃんたち?」


 バチン、と送ったウィンクは周囲の女子生徒を沸き立たせる事には成功したけれど、妃沙には何の意味も成さなかった。

 それどころか知玲が退場してしまったことを少しだけ残念に思いこそすれ、対して交流のない生徒会長など目に入ってはいなかったのである。

 水無瀬 妃沙、彼女は心を寄せる空いてにはとことん優しく、果てしない男気を見せて護ろうとするけれど、困った状況にない周囲に対しては残酷なまでに無関心な少女であった。

 だがまた、その「困った状況にある周囲」の定義はとても緩くて、それこそハンカチを落とした程度でも手助けせずにはいられない性分の妃沙を周囲はとても好意的に受け止めている。

 相変わらず知玲と自家用車で通学している妃沙だけれど、知玲と時間がズレてしまうことが多くなった帰宅は一人で車を利用することも多く、時間やタイミングが合えば友人達も、もちろん知玲も同乗しているのだが、妃沙ときたら、車窓の先にご老人や妊婦さんを発見しては車を止めて手助けしようとしたり、そんな相手から感謝の言葉と共に自分の状況について語られ、心を寄せてしまった為にだいぶ遠回りしてしまうことが多々あった。

 たまに息抜きしようと時間を合わせて外で食事などしようものなら、芸能関係の事務所の人々の名刺だとかLIMEのアドレスだとかを押し付けられるようにして渡されてしまうことも多く、そんな物的証拠を知玲に見られる前に抹消する為に周囲が尽力しなければならなくなったりだとか、まぁ色々とあったのだ。

 だが、どんなに年月を経ても妃沙は妃沙だなぁ、と、そんな対応をする事の最も多い充などは誇らしくなる程なのだから彼もまた立派な妃沙信者と言っても良いかもしれない。


「点火を渋っているのは、きっとここから魔法研究部のプレゼンが含まれているからなんだろうね」

「けどさぁ、すぐ側に炎の魔術師・水無瀬 妃沙がいるアタシ達には何の有り難みもないよな。妃沙ったら魔法で弁当を温めるなんていう魔力の無駄遣いをしてくれてるしさ」

「けど実際、あれは助かるんだよなぁ。自分のも頼むっていう同級生も結構いたしな。魔法ってすげーよな!」


 充、葵、大輔がそんな感想を述べる中、その賛辞を受けた妃沙はケロッとした表情で言った。


「知玲様はもっと凄いですわよ? なんでも、わたくしが作った玉子焼きをその場で冷凍して味を閉じ込め、昼食時に瞬間解凍して味わっているらしいですわ。もちろん、暖かくするオマケ付きで。

 知玲様しか使えない『気』の魔力を使用した特技なのだとドヤ顔で語って下さったことがあるのですけれど……本当に魔力の無駄使いですわよねぇ。たかが卵焼きにそこまで執着なさるなんて……」


 フゥ、と溜め息を吐きながら知玲のそんな残念な生態を暴露する妃沙だけれど、妃沙だって似たりよったりである。

 けれどまた、この『魔法』という力があるにも関わらず、前世と同様に科学も医療も発展している世界にあり、また、魔力を持っている人間が非常に少ないことから、この世界でも魔法の研究は秀でた成果を残している他の分野ほど活発ではない。

 何しろ使える人間が限られているのだから、研究に携わることの出来る人材も限られてしまうのだ。

 その為、弁当を温める、だとか暗い所を明るくするだとか、今すぐこの場で水を出すとか、そういう科学ででも代用出来そうな、生活にちょっと便利な遣い方しか今の妃沙には思い付いていなかった。

 けれど、この学園には魔力を持った生徒が集められていると言うし、大学も大学院でもこの国の魔法研究の第一人者と言われている教授が教鞭を執っているという話であるので、高等部においても活発な魔法の研究が出来るんじゃないかと、妃沙は楽しみにして入学して来たのである。


「他の人が作った卵焼きなら、そんなことまではしないと思うけどねー。ほんと、知玲先輩って真っ直ぐで、たまに羨ましくなっちゃうくらいだよ」


 フフ、と何処か含みのある笑顔でそんな事を呟く充に、他の二人もうんうん、と頷いている。

 確かに、自分の作った卵焼きをそんなに楽しみにしてくれているのは嬉しいと思うけれど、やっぱりそれって残念な魔法の使い方なんじゃないかと妃沙が反論しようとした所で、突然、パン! と大きな音が鳴った。

 驚いてキャンプファイヤーの方を見やれば、何処からか放たれた火が一瞬にして燃え上がり、見たこともないような色とりどりの炎で周囲を明るく照らしている。



「炎に元素が混じると色が変わるのは授業で習った覚えがあるかもしれない。でも今は、そんな難しいことは関係なしに魔法研究部が頭脳を結集して作り出した炎の芸術品を楽しんでくれ!

 そして興味があったら、俺達の部活の門戸を叩いてくれると俺を含めた部員一同、とっても喜ぶぜ!」



 可愛い子なら尚更な、なんて言いながら相変わらずウィンクをかます生徒会長の言葉に、妃沙は思わずブッと噴出しそうになってしまう。

 この学園の生徒会長は面白い台詞を量産するチンドン屋か何かかと人知れず笑いと戦っているのだが、その時は周囲の友人達も炎の芸術に夢中になっており、妃沙の様子には気が付いていないようであった。

 そして妃沙も、今はその原理は解らないけれども、こんなに美しい炎の芸術品を披露出来る部活に是非参加したいという思いを強くしながら、一瞬毎に色を変える炎を眺めていた。


「それじゃ、この炎の芸術に合わせて全員でフォークダンスだ! 子猫ちゃん達は内側に、野郎共は外側に円を作ってくれ! 目の前の相手とは八拍子毎に交代だからな、可愛い子が相手だからって粘ろうとしても無駄だぜ? そういうのは生徒会長の俺様特権だからな!」


 チャラいその発言も、この学園には充分に浸透しているのだろう、周囲から笑いが起きる。それは悠夜の本気でもあるのだけれど、彼が列の輪を乱す事になっても周囲から文句は出ないのだろう。

 久能 悠夜、彼は確かにチャラくて俺様な生徒会長だけれど、周囲を纏めるカリスマ性もまた持ち合わせているようである。

 もっとも、そんなものが決して通じない生徒、というのも確かに存在はしているのだけれど。


「あの生徒会長、面白いですわよね。なんでもずっと外国の学校に通っていらしたのだとか。ちょっと変わった感性をお持ちなのは、そのせいなのかもしれませんわね」


 プクク、と耐え切れずに笑いを漏らす妃沙を、隣に立つ葵は呆れたように見つめている。そして、男女で別れる事になってしまった為に、今は妃沙の目の前に立っている充とその隣の大輔も同様の表情だ。

 けれど次の瞬間にはあの生徒会長に対して面白いなどと言える新入生はきっとこの娘だけだろうな、と、ますます友愛を深める事になったのだけれど。


 そうして始まった音楽。ステップは単調なもので、初等部でも中等部でも踊った事があったし、外部の学校にも有名なダンスであったからほぼ全員が躍る事が出来るものだ。

 陽気な音楽に乗せてステップを踏み、時に向かい合った相手と手を取り合い踊る生徒達。

 妃沙の前にやって来る男子達は、総じて顔を真っ赤にしたり嬉しそうに微笑んだりしてその小さな白い手を握っていたのだけれど、ただのフォークダンスだと認識している妃沙には相手の様子などどうでも良いものである。

 だが、生徒達に紛れ込んだ眼鏡をかけた長身の美形──理事長・結城(ゆうき) 莉仁(りひと)。彼を前にして、妃沙は表情を崩さざるを得なかった。


何をなさっておいで(なにやってんだ)ですの、理事長!」

「生徒達と友好を深めに来ただけだけど? それとも何? 妃沙は俺が自分に会いに来たんだとでも思ったの?」

思ってないですわ(思ってねーわ)! 早く次にお行きなさい(早く次に行け)まし!!」


 八拍子という約四秒で会話出来る内容としてはこの程度か。

 ベルトコンベアーのように流れる生徒達に紛れてやって来た莉仁は、あっと言う間に次の生徒へと流されて行く。

 妃沙の隣の一般生徒と思しき生徒は、突然現れた理事長に「キャッ!?」と可愛い悲鳴を上げてドキマギしているようだけれど、気を付けろ、そいつはただのロリコンだとジト目でその様子を見守る妃沙。

 だが莉仁はあっという間に妃沙から離れて流れて行く。時々、無邪気な笑顔で手を振ったりするのだけれど、その度にアッカンベーだの顔を潰す変顔だのを披露している。

 運悪くその瞬間に妃沙の目の前に立つことになってしまった男子達には残念な結果が次々に生まれていた。彼らとて、圧倒的美少女の妃沙と踊るのを楽しみにやって来たというのに哀れな事である。

 だが、妃沙のそんな奇行は、次にやって来た生徒によってようやく終息を見せることになった。



「……妃沙、この後、中央でチークタイムだから僕に付き合ってくれない? さっき会った一年生の子の視線がビシビシ刺さって来てなんか怖いんだよね……」



 助けて、と、懇願する表情で妃沙の耳元で囁く知玲。

 コイツの事は自分が護ると誓っている妃沙に対して効果はバツグンだ!


「まぁ、それは大変ですわね! どうぞわたくしを隠れ蓑にお使い下さいまし!」


 妃沙ゲット、とほくそ笑む知玲はだが、表向きは困ったように笑いながら輪の中から妃沙を連れ出し、既にカップルとなっている人々の輪に加わる事に成功した。

 その中には、決死の覚悟で葵を連れ出す事に成功した大輔だったり、たまたまペアになった際に「これ以上、知らない人と踊るのしんどくない?」と咲絢を連れ出す事に成功した銀平だったりが混ざっていたのだけれど、満面の笑みで妃沙の腰を抱く知玲の表情に、外野の男子達からは怒号にも似た声が浴びせられている。


「副会長こらァァーー!! 思ってもない言葉で純情な妃沙を騙すなァァーー!!」と莉仁。理事長の豹変ぶりに周囲はドン引きである。

「知玲こらァァーー!! 俺がその手を取る前に連れ出すとは何事だァァーー!!」と悠夜。彼は司会をしていた為に輪に加わるのが少し遅れ、妃沙の相手まではあと数組、という場所にいた。

「知玲先輩ィィーー!! 良いから見せつけてやって下さーーい!!」前述の二人とは間逆の叫びを寄越すのは充。彼はチークタイムには参加せず、その成り行きを見守ろうという姿勢である。


 そんな周囲の様相に妃沙も少しだけ戸惑っていたのだけれど。


「嘘は吐いてないよ、妃沙。でも確かに僕が君を独占したいと思ったのは事実だから……ね?」


 耳元でそう囁かれ、仕方ねーなぁ、と思って受け入れてしまうのは、前世からの柵と、この世界でも長らく婚約者として過ごして来たからなんだろうな、と、妃沙は軽く構えている。

 知玲以外の人物がそんな行動を取ったならば、おそらく「皆さまと交流を深めたいですわ」などと言いながら断っていたことだろう。

 けれども、知玲のお願いを断る事が出来ないのはそれこそ生まれる前からで……それが『特別』なんだということになど、妃沙は全く気付いていないのであった。


 ──この学園の男子達の間には『オリエンテーションのチークタイムで踊ったカップルは未来永劫幸せになれる』という伝説が実しやかに流れており、またそれを相手の女子に知られたら破綻する、とも言われていた。

 だからその言い伝えを知るOGは皆無であったのに対し、OBを含めほぼ男子の全員が知っているという状況で……妃沙はまんまとその只中に立つ事になってしまったのであった。


◆今日の龍之介さん◆


龍「よー知玲、モテる男は大変だな!」

知「……いやもうツッコむ気にもならないよね……」(額に手を当てて溜め息を吐く)

龍「ところでよー、このチークタイムで踊った男女がどうこうって噂を耳にしたんだけど……」

知(バッと振り返る)

莉「へぇ~そうなんだぁー! ロマンチックだねぇ、知玲くん」(訳:させるかよ!)

知「そうですね、理事長。昔からそんな伝説があったとは驚きです」(訳:たかが迷信だろ?)

龍「……お前ら、なんでそんなに見つめ合ってんの……? ま、まさか……!?」

知&莉「冗談でもヤメロ」(真顔)


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