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令嬢男子と乙女王子──幼馴染と転生したら性別が逆だった件──  作者: 恋蓮
第二部 【青春の協奏曲(コンチェルト)】
62/129

◆60.てんとう虫さん、いらっしゃい。

 

「水無瀬! 優勝おめでとう!」


 ミーティングルームから外へ出る道の途中で妃沙にそんな声がかかる。

 聞き覚えのあるその声にハッと反応した妃沙が視線を送ると、そこには淡い水色の髪を湛えた美少年が微笑んで立っていた。


玖波(くば)先輩! お久し振りですわ!」


 キャーと声を上げて妃沙が駆け寄る。

 そこには、去年卒業した前・男子テニス部部長・玖波(くば) (ひじり)が立っていた。

 彼とは未だにLIMEを通して交流があり、テニスの技術も、どうしてもアツくなってしまう自分とは違う冷静な判断も、部長としての手腕も、妃沙が最も尊敬している先輩なのである。

 その容姿はおそらく知玲をも上回る程の美形なのだけれど、妃沙にはそんな事はどうでも良いと言われてしまう辺りがきっと聖には心地の良いものなのだろう。

 高等部に入ってから外部生が増えたお陰で女子生徒からの視線がビシビシと突き刺さっており、聖にとっては良い迷惑なのだ。

 だが、現在の鳳上(ほうじょう)学園高等部では彼を加えた三名が主に女子生徒の人気を集めているようで、『レーヴ3』……通称「R3」と称されているようなのである。

 本当に面倒臭いし、そのメンバーとやらも、そういった事に全く興味がない聖、既に婚約者を持ち、その彼女に夢中である東條 知玲といったメンツをメンバーに入れて何が楽しいのかと思うのだが、騒がれるのが好きで、且つ聖とタメを張るくらいの美形、加えて良い声で女好きなもう一人のメンバーにはハーレムめいた状況が堪らないらしい。

 そして、これまた面倒臭いことにそのウハウハしているメンバーの一人は聖の親戚であり、本家のトップであるので頭が上がらない状況であった。


 だが今、中等部時代から気に掛けていた後輩の全国優勝を目の当たりにし、聖はやや気分が高揚していた。

 何しろ、彼女がここでラケットを置くということは事前に聞いていたのだ、それがこんな最高の実績を以て彩られたことにクールな聖ですら若干興奮していたのである。


「良い試合だったよ、水無瀬……これでラケットを置くなんて残念だ」

「玖波先輩、恐縮ですわ。でも、お陰さまで、これで心残りはございませんから」


 ニコリと微笑み合い、握手を交わす二人の美形の姿はまるで一枚の宗教画のようですらある。

 その髪の色と相まって、空に浮かぶ太陽のような空色と金髪の二人の美形が手を取り合う様は非常に眼福であり、周囲の……特に女子部員達はこぞってその様子を携帯で写真を撮っているようだ。


「萌え……萌えよ……!」

「……もはや百合……!」


 そんな声が出る程に、可憐な容姿を持つ妃沙の内面は酷く男前で──中身はヤンキーのままなので当たり前なのだが──対する聖の容姿は知玲以上の儚い魅力を放っているのだ。

 恋に破れた聖と絶賛初恋中の知玲とでは纏う哀愁は雲泥の差なので、元々の造詣が知玲よりも整っている聖が哀愁を纏う様に悶えない女子などいないと言っても良いだろう。

 恋に破れ、かつ、次の恋ですら叶わないと自分の気持ちを抑えようとする薄幸で健気な美形の姿は女子達の深層心理を深く刺激するものであるのだ。

 当の聖には『次の恋』などまるで認識はないのだけれど、こと恋愛に関しては女子達のセンサーは酷く敏感なので、聖の深層心理が叶わぬ恋──妃沙に向いているという妄想は既に出来上がっているのである。

 確かに、周囲にはまるで興味を示さない聖が妃沙に対してだけはとても親切であったし、度々、個人レッスンと称して二人きりで練習していたのをテニス部員達は目撃しているのだ。

 それは知玲ですら知らない事実で、女子テニス部員達により秘匿にされていたので知玲はおろか銀平も、妃沙の親友である葵も、守護騎士である充も知らない事実であった。

 妃沙の情報はすぐに校内に垂れ流されてしまうので、女テニ部員としては自分達しか知らない事実が欲しいと、やや捏造めいた創作ではあるこの設定をこよなく愛していたのである。

 そんなつもりのまるでない聖と妃沙にとっては良い迷惑であるに違いがないのだが、彼女らの妄想は充の姉・SHIZUと違い水面下の妄想であるので、彼らには知る由もないことである。


 その場には嫉妬大王・東條 知玲もいたのだが、聖と妃沙の関係については全く危険視しておらず、それどころか久しぶりに尊敬する先輩と再会した妃沙のはしゃぐ様子を慈愛を込めた瞳で見つめていた。

 今の所、知玲にとって聖は充と同様に妃沙を護る守護騎士の立ち位置であるという認識であり、知玲も良く知る同級生・紫之宮(しのみや) (りん)に片想いをし、男らしく告白をし散った過去を持つ男なのだ。

 妃沙に止められているからとは言え、未だ告白すら出来ずにいる彼にとっては後輩とは言え尊敬すら感じる存在なのである。

 だが、そんな彼らの背後から、やたらと良い声が聞こえて来た。



「おい、聖。なんだ、その可愛い子ちゃんは? 紹介しろよ」



 声変わりをしたとは言え、一般的な男子のそれよりは少し高めの知玲や聖の声とはまるで違うバリトンヴォイスでそんな事を言いながら聖の横にスッと立った少年は、何処か王者の風格すらまとっているようだ。

 ハッと目を引く赤い髪は前髪を斜めに切り揃えられ、完璧な配置に赤い瞳や高い鼻、形の良い唇を配したその秀麗な顔面にかかっている。

 片側だけを耳に掛けた襟足の長い後ろ髪を支える耳には、赤い宝石のピアスが三つ、等間隔で綺麗に並んでいた。

 声だけでも腰砕けものであるのに、またその少年の美形っぷりといったらない。王子様めいた知玲や聖と違い、ギラギラとした野獣のような獰猛さを兼ね備えた色気たっぷりの男性の登場に、周囲から「キャー! 久能(くのう)様よ!」「なんでこんな所に!?」といった声が上がっており、少年も女子たちの黄色い歓声にニコニコと手を振っている。

 だが、我らが主人公・水無瀬 妃沙様にはそんな魅力はどうでも良いものであった。



「どなたですの?」



 あ、なんかてんとう虫が止まってる、程度の視線で彼を見やる様に、聖は少し焦った様子である。


「彼は僕の従弟で久能(くのう) 悠夜(ひさや)。ずっと外国の学校にいたんだけど、高等部からこの学園に編入して来たんだよ。

 性格に難があって友達もいないから、親戚のよしみで未だ不慣れなこの国の案内係を任されていたんだけど、この試合だけはどうしても観たいって言ったら付いて来ちゃってさ……」


 ごめん、と何故だか焦って謝る聖に対し、妃沙はそうなんですのね、と、相変わらず興味のなさそうな視線を悠夜に向けている。

 妃沙にとって大切なのは知玲や友人たち、それから心を寄せた先輩たちとテニス部員だけであるので、相手がどんなに美形であろうと突然現れただけの相手のことなど本当にどうでも良かったのだ。

 彼女に対してはどんなに外見が整っていても効果を成さないのは知玲を以て証明されている。

 ましてや中身はヤンキーの男子高校生だ、その美形っぷりはまるで効果がなく、それどころか周囲は全て自分の言いなりになって当たり前とでも言いたげな横柄な態度にカチンと感じる事こそあれ、トキめくことなどないのである。



「ご紹介に与った久能 悠夜だ。レディ、以後、お見知りおきを」



 だが、自分にまるで反応を示さない妃沙を楽しそうに見やりながら、悠夜、と名乗った少年が妃沙の前に恭しく片膝を立ててしゃがみ込み、その小さな白い手を掲げてチュ、とキスを落としたのである。


「ちょっ!? 悠夜、何してんの!?」


 珍しく焦った様子を全開で見せる聖。通路の奥の方からは、知玲と思しき人物の怒気がダダ漏れで周囲を凍り付かせている。

 だが、当の本人は至ってご機嫌でその秀麗な顔に喜色を浮かべて妃沙を見つめていたのだが……



「あら、どうも。今時、そんな時代錯誤な挨拶をなさる方がいらっしゃいますのねぇ。今度お逢い出来ましたら、銀平様のクサい台詞と合わせて研究させて下さいましね」



 ニコリと微笑み、忙しいので今日のところは御免あそばせ、と唇を落とされた手をヒラヒラと振りながら何事もなかったかのように立ち去る妃沙。

 呆気に取られる周囲を他所に、この近辺にこの人数を収容できる飲食店などありましたかしら、と、ブツブツ言いながらあっと言う間に姿を消してしまう。

 周囲の人間は妃沙ほど鈍チンではないので、久能 悠夜なる人物がどれほどのものかは知っていたので驚いていたのだけれど、妃沙に追随するように知玲、凛、銀平といった彼女を良く知る人物達が「さすが妃沙!」なんて言いながらその後に続くので、テニス部員たちはゾロゾロと通路から移動して行き、後には珍しくオロオロしている聖と、苦虫を噛み潰したような険しい表情の悠夜が取り残されていた。



「……俺の事を知らない女がいるなんて想定外だ……。おい聖、あの()のこと詳しく教えろ。絶対……口説()とす……!」



 殺気にもにたオーラを迸らせながら、やたらと良い声でそんな不穏な事を言う従弟に、聖はハァ、と溜息を吐いて言った。


「あの()は止めておきなよ、悠夜。婚約者がいるし……多分、お前の手に負えるような()じゃないよ」


 だが、そんな聖の苦言を、ハッと笑い飛ばした赤髪の王様は言った。



「婚約者がいるなんて関係ねぇだろ。そんなの奪い取るだけだし……俺に乗り熟せない馬なんかいねぇんだよ」



 ニタリ、と悪魔もビックリな微笑みを浮かべる美形は迫力満点だ。

 ……どうやら妃沙は、また厄介な相手に目をつけられてしまったようである。



 ───◇──◆──◆──◇───



「それでは、改めまして。水無瀬 妃沙さん、全国優勝、おめでとーー!!」



 鳳上(ほうじょう)学園女子テニス部、前・副部長である宝生(ほうじょう) 友芽(ゆめ)の良く通る声が響いた。

 ここは学園の校庭だ。慣れ親しんだテニスコートに、各々ジュースやおやつを持ち込んで集結している。

 本当は、女子テニス部だけでかつて凛と行ったパンケーキのお店で懇親会が出来たら、なんて考えていた妃沙だったのだけれど、数々の状況がそれを許してはくれなかったのだ。


 例えば凛と離れるのは嫌だと馬鹿ップルぶりを発揮させた前々男テニ部長・藤咲(ふじさき) (かい)が子どももビックリの床に寝転んでの駄々をこね、そんな状況に敬愛する凛先輩が土下座すらしそうになったりだとか。

 これ以上モブ扱いするなら今後の登場は考えさせて貰う、という銀平の言葉に何か脅迫めいたものと危機を感じてしまったりだとか。

 極めつけは、妃沙にとって弱点とも言える婚約者様──東條 知玲がウルウルと瞳に涙すら浮かべて「……駄目なの?」と言い放った事である。


 これには妃沙はおろか、兄を溺愛する次期女テニ部長の美陽がノックアウトされ、彼らの参加を認めた所で、それなら俺も僕もと人数が増えてしまったので、広大な敷地を誇るコートくらいしか、その人数を収容出来なかったのである。

 その優勝を大いに祝いたい女子テニス部員達はもちろん、これからの事を相談したかった美陽や久し振りに恋人のお守を離れて女子トークを楽しみたかった凛は残念がっていたのだけれど、男子達の事も決して無視は出来ず、止むなく彼らも含めた人数を収容出来る場を模索した結果、今に至る。


 そして、「ならアタシ達が行っても良いよな?」と妃沙の友人たち──葵、充、大輔といった面々が加わり、彼らのファン達が周囲を取り囲み……テニス部のミーティングは騒然としたものとなってしまっているのだが、妃沙としては敬愛する先輩や、大切に想う友人達、そして──前世からの付き合いである東條 知玲。彼らが自分の優勝を祝いたいと言ってくれているのを断る理由もなかったし、自分に向けられる秋波には酷く疎い妃沙である、「お祝いしたい」という言葉の奥に隠された下心を疑うことなく受け入れて行った結果、店では受け入れられない程の人数になってしまったのであった。



「皆さまの応援のお陰ですわ! 本当に有り難うございました!」



 ネットに向かって思い思いに座り込んだ面々に対し、スッとネットの前に立った妃沙が彼らを見渡して嫣然と微笑む。

 大きな美しい碧眼には再び水晶のような涙がうっすらと浮かんでいるが、その表情はとても晴れやかだ。

 これで引退となる妃沙の最後の雄姿を見届けようと集った面々が、黙ってその言葉の続きを待っている。


「若輩者のわたくしを、優しく、時に厳しく教え導いて下さった皆さまのお陰で、この度、全国制覇という目標を達成する事が叶いました。

 わたくしは……この勝利を今、皆さまにご報告する事が出来、今までの人生の中で一番の達成感を感じております」


 今までの人生、という言葉の中には、当然前世での『綾瀬 龍之介』としての人生も含まれている。

 それを知るのは知玲だけであり、その知玲は今、彼女の姿をじっと見つめ、こちらも瞳にうっすらと涙を浮かべていた。

 前世から憧れたスポーツに打ち込むという青春、そして成し遂げた偉業。

 何にでも一生懸命な妃沙だけれど、こと部活動に関しては知玲も心配になる程、情熱を傾けて取り組んでいたのだ。

 早朝からのトレーニングは、それこそどんな悪天候であっても続けていて、あまりの暴風雨の中ランニングに出ようとする妃沙を羽交い絞めで止めたりした事もあった。

 勉学の合間には作戦やコースの打ち分けについて常に考えていたし、特にここ最近は知玲が話しかけても聞こえていない事があるくらい熱心に考え事をしていたし、日に日に険しくなる表情には、龍之介が戻って来たんじゃないかという程にヤンキーめいた獰猛な光が宿ってすらいた。


 そんな妃沙とのあれこれ……例えば、羽交い絞めした際に彼の腕から抜け出そうとガブリと噛まれた腕の痛さだとか、

 トレーニングを兼ねて、という理由で期間限定で徒歩というよりは全力疾走で登校していた通学路を、ラケットだけを背負って駆け抜ける妃沙の鞄と弁当を、こちらも全速力で駆け抜けることになったりだとか、

 酷使する為に普通のテニス選手より消耗が激しいガットやグリップテープの調整に余念が無さ過ぎて、度々、食事すら摂り忘れ、その上時短だと言って栄養ドリンクだけで食事を済まそうとするのを叱り付け、椅子に括りつけて食事を口元に運んでやったりだとかといった数々の出来事である。

 それはもはや、介護のレベルで妃沙に構い続けて来た知玲は、そんな妃沙の努力が報われた事に今までの苦労を思い返し、ああ、大変だったなと、少しだけ感傷的になっているのである。


「この度、無事に次期部長も任命しましたのよ……美陽(みはる)様、前に出て御挨拶を」


 妃沙の呼び掛けに、やや戸惑いながら先程任命されたばかりの美陽が立ち、緊張の面持ちで集った人々の前に出ると、知玲に良く似た小振りで秀麗な顔に緊張の色を乗せて挨拶をする。


「先程、次期部長の任を賜りました東條 美陽と申します。どうぞ宜しくお願い致します」


 妃沙や知玲ほど衆目に晒されることに慣れていない美陽である。

 愛らく頬を染め、そう言うのがやっとという態でピョコン、と頭を下げると、隣に立っていた妃沙もまた、優しく微笑んで言った。


「至らぬ部分の多い次期部長ですが、わたくし以上の実力を兼ね備えている筈ですわ。きっと立派にこの伝統ある鳳上学園女子テニス部を纏めてくれると信じております。

 皆さま、引き続きご指導、ご鞭撻の程、宜しくお願い申し上げます」


 美陽以上に深々と礼をする妃沙。

 そんな二人を温かい拍手が包み込み、周囲は優しい雰囲気を纏って行く。


 挨拶を終え、やり切った一人の戦士の表情を宿した妃沙が、多忙の中、駆け付けてくれた尊敬する先輩や友人達の所にやって来た途端、その顔に再びブワッと涙が浮かんだ。



「あおいィィーー!! わたくし、やりましたわァァーー!!」



 叫ぶようにそう言って、妃沙は葵に抱き付いた。

 今現在、妃沙の中で一番心を寄せている親友、遥 葵。

 彼女もまた、もう少しで全国大会を賭けたバスケ部の試合を控え練習に余念がないのだけれど、他ならぬ妃沙の全国優勝を祝おうとこの場に駆け付けて来ていたのだ。

 中等部三年生となり、益々背が伸びてベリーショートの髪型がとてつもなく似合う麗人っぷりを発揮している葵だけれど、妃沙中毒患者としては重度と言って良かった。

 何しろ、妃沙以外には『親友』と呼ぶ存在は作らないと、それこそ出会った初等部の入学式から己に誓っているのだ。

 その相手が、絶対的な信頼と好意を自分に向けてくれる事に充足感を感じ、妃沙にも同じ気持ちになって貰いたいと自身も圧倒的な愛情を注いでいるのである。



「妃沙! おめでと! ホント、お前は最高だよっ!」



 妃沙が血の滲むような努力をしている事は、知玲の次くらいに良く知っている葵だ。

 内容こそ違えど、お互いにスポーツの高みを目指す者として、妃沙とは練習メニューやトレーニング方法などについて、日々激論を交わして己を高め合う戦友のような様相すらある。

 そんな妃沙がボロボロと涙を流して自分にしがみついて大泣きしている様子に、抱き締め返す葵の瞳にもキラリと光るものがあった。


「……次は葵の番ですわよっ! わたくし、全力で応援しますわ……!」


 涙でその可愛らしい顔をクジャグシャにしながら、それでも清々しく微笑む親友をギュッと抱き締め、葵は言った。



「妃沙が応援してくれてるのに負けるワケにはいかねぇな! 妃沙、アタシの格好良いとこ、特等席で見守ってくれよな!」

「もちろんですわっ!」



 再びヒシッと抱き合うアリストロメリアと称されるこの学園のアイドル二人。

 麗しいその光景の周囲ではシャッター音が響き渡っているのだけれど、彼女らの耳には聞こえていない様子である。



「大輔君、一刻も早く葵さんを何とかして貰わないと、さすがの僕も自信がなくなって来そうだよ……」

「東條先輩……申し訳ないッス」



 そんな麗しの光景を囲む人々の円の外側で、知玲と大輔が神妙な面持ちでそんな会話を交わしていた。



 ──鳳上学園中等部・女子バスケ部が全国制覇をするのはこれから暫く後の事であり、その場に現れた金髪碧眼の天使が、試合で大活躍をし、この大会のMVPを掻っ攫って言った選手に対し、涙すら浮かべながらバスケ部員達より素早く抱き付いて大粒の涙を流す様は、なんと全国ネットのニュース番組で取り上げられてしまい、その正体について様々な筋の人間が特定に動いたのだけれど、何故だか誰もが真実の一歩手前の所で国家権力の圧力を喰らい、確かめたその真実が表沙汰になることはなかった。


 ……誰の仕業かは、察して余りあるものである。


◆今日の龍之介さん◆


龍「てんとう虫っつってもヒメカメノコじゃなくて、ナナホシとかそっちの方な!」

悠「……?」

龍「名前的にハラグロオオテントウとかイメージにぴったりだな!」

聖「……なんでそんなにてんとう虫に詳しいかは知らないけど、問題はそこじゃないと思うよ」


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