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令嬢男子と乙女王子──幼馴染と転生したら性別が逆だった件──  作者: 恋蓮
第二部 【青春の協奏曲(コンチェルト)】
48/129

◆47.冷凍温泉!

一部、実話です。

 

 そうして一行は、人一人背負うという苦行を強いられている藤咲のフォローをしながらロッジに移動している最中である。

 なお、銀平の鼻血の理由については誰一人興味がない様子であった。「妄想の権化だからなーアイツ」という藤咲の一言で全員が納得してしまったらしい。

 気を失い、反論出来ない銀平がもしその言葉を聞いていれば「俺の感覚が普通なんだからな!?」と反論して来そうではあるが、生憎彼は今、絶賛気絶中である。

 妃沙という美少女が側にいるにも関わらず、その想い人に一直線な男子二人──藤咲(ふじさき) (かい)玖波(くば) (ひじり)

 そして、己の心に素直ではありつつも、表面上はそれを決して見せずにいようと努力する女子──紫之宮(しのみや) 凛。

 そんな彼らに囲まれた妃沙は鈍チンの通常営業であった。


「わたくし、鼻血を吹く人間を始めて見ましたわ! 何処か具合がお悪かったのか、何かに興奮されたのかは存じ上げませんけれど、漫画のようなその反応……!」


 まるで漫画の主人公のよう! 素敵ですわ、銀平様! と残念な感想を漏らす妃沙に、周囲はフ、と溜め息を吐く。

 一体どこの世界に鼻血を吹いてぶっ倒れる──しかもその原因は妃沙にある──男子を『素敵』だなんて称する女子がいるというのか。

 別に妃沙だって鼻血を吹く人間を初めて見た訳ではない。前世では自分が吹く側だったことだってある。だがそれは暴力的な場面においてのことだったのだ。

 だから、過度な妄想は人体にこんな影響を及ぼすのだという現象を目の当たりにし、ついはしゃいでしまっているだけである。

 そんな妃沙を見る周囲の目は一様に、慈しみと……少しの呆れを込めた複雑な色合いであった。


「ところで、妃沙ちゃん、お料理上手なんだねぇ。深層のご令嬢だと思ってたから、卵焼きが得意なんていう庶民的な一面を知れて……それだけでも私、今日来て良かったなー!」


 そんな残念な妃沙の隣に立ち、そんな言葉を告げる凛。

 妃沙はさも意外とでもいうようにその可憐な瞳を大きくかっ拡げ、まぁぁ、と声を漏らす。


「深層の令嬢!? わたくしが!? やめてくださいまし、凛先輩。そんな称号、わたくしには最も似合わないものでしてよ!」


 当たり前だ、妃沙の中身は元・ヤンキー。風に舞う落ち葉に切なさを乗せて涙を落とすなんて繊細な感情は全く持ち合わせていない。

 もっともそれは妃沙の勝手なイメージで、実際の令嬢だってそんな自然現象に涙を流したりなんてしないだろうけれど。

 今では『妃沙』と『龍之介』の割合は妃沙のそれにだいぶ偏りつつあり、前世では持ち得なかった感情が己の心に宿っているという実感も少し──「針の穴くらいな!」──持ち合わせている妃沙である。

 己の気持ちを理解しながらも知らんぷりを装い、プイとそっぽを向くその姿は強がっているのが丸解りのただの可愛らしい中学生であった。


「でも、中学生でそんなに卵焼きを作るのが得意な子なんてそういないんじゃないかな? 特にウチの学園は包丁を握るどころか見た事もないような子も多いしね……かく言う私も料理なんてほとんど出来ないけど」


 テヘッと悪戯っぽく舌を出して笑う凛。

 そんな凛の表情に一瞬見惚れながら、以前、聞くともなしに同級生が話していた事を思い出し「ああ、それでか」と今更ながら納得した様子を見せる妃沙。

 曰く、「料理くらい出来なきゃ」という思いから何名かの女子が集まって昼食を作ろうとしたのだが、出来るだけ簡単に済まそうと『調理済』の鶏肉を購入したらしい。


「調理済って書いてあったからそのままでも食べられると思って簡単に火を通しただけで食べたらその後お腹が痛くて大変だった!」だの、

「オクラを買って来たら毛が生えてたからビックリしてママに電話しちゃったもんねぇ。ザクザク切って食べたけどなんかエグかったし……。料理って難しいね」だのと話していたのである。

 なお、この世界の食材や調理方法等は前世の世界と殆ど同じなので、妃沙も全く混乱せず対応出来ているのだけれど、驚いたのは彼女達の常識のなさである。

 どうやら彼女らの言う調理済みの肉とはただの味付け肉であったようだ。

 鶏肉は良く火を通さなければ危険だし、オクラは塩で揉んで下茹でして食べるものである。

 妃沙的には常識なのだが、どうやらこの世界──というかこの学園の子女たちにはなかなか浸透していないらしかった。


「わたくしだってごく一般的な技術しかありませんわ。ただ、卵焼きについては、せっかくなら美味しく作りたいと思って少し研究しましたので一家言ありますけれど」

「それって東條君の為?」


 相変わらず悪戯っぽく笑う凛に、妃沙は何故だか一瞬言葉に詰まる。けれど、それは真実であったので「そうですわ」とぷい、とそっぽを向くと、何故だかニヤニヤした表情でこちらを見ている藤咲と目が合った。

 何だかその表情にとても腹が立ったので


「凛先輩! 藤咲先輩がわたくしをイヤらしい目で見てますわ!!」


 とありもしない事を告げ口してやると、途端に凛が「(かい)、こら!」と背後に妃沙を庇い、その頭をポカポカと殴っている。


「ちょっ!? 俺、今銀平背負ってるんだからあぶねぇだろ!?」

「海が悪いんだから仕方ないでしょ!」


 そんなやり取りを凛の背後から、妃沙はニヤニヤしながら眺めている。

 そして藤咲のさらに背後では、(ひじり)がフゥと溜め息を吐いて呟いていた。


「……なんなのこのチンパンジー達……」


 どうやらこの愉快なご一行様の中で、一番の苦労人は彼であるらしかった。



 ───◇──◆──◆──◇───



「ご飯の前にお風呂に入ろうよ! このロッジの近くに露天風呂があるんだってー!」



 ロッジについた一行。

 荷物を降ろすや否や、凛が瞳をキラキラさせて言った。

 なお、ここに来る途中で銀平は正気を取り戻し、ソファーにぐったりとその身を預けていたのだが、「温泉」というキーワードに奇跡の復活を遂げる。


「混浴!?」


 バッと身を起こし、何やら血走った瞳でそんな事を問う銀平に、妃沙は言ってやった。


「銀平様? わたくし、もう一度あの芸術的な鼻血を拝見したいのでご協力頂けます?」

「妃沙ちゃん、私も協力するね?」


 ゴゴゴ、と背後から危険な音を出しそうな勢いで女子二人が拳を握って銀平を取り囲む。


「ま、待って二人とも!? 冗談、冗談だから!!!! 海、聖、助けて!!」


 叫ぶ銀平だが、藤咲はその時、銀平を背負って歩き続けた事による疲労でへたり込んでおり、その瞳に侮蔑の色すら浮かべている聖が手助けなどしよう筈もない。

 なので、哀れ銀平は女性陣にボコボコに……は、されなかった。


「知玲様に報告しておきますわね?」


 ニコリと微笑んだ妃沙に「それだけはァァーー!! お代官様ァァーー!!」と縋り付く事にはなったけれど。



 そして一行は、近くにあるという温泉にやって来ていた。

 人気の観光地であるこの山の山頂にある温泉ということでとても人気のある施設なのだが、既に夕刻を過ぎ、登山客は大方下山した後であるのだろう。人はまばらであった。

 特に女風呂には誰の姿もなく、妃沙と凛の貸し切り状態である。

 温泉独特の匂いと雰囲気に一行のテンションは上がりまくりなのだが、妃沙は少しだけ複雑な心境である。

 だって風呂だ、全裸になるのである。

 この状況なら妃沙は凛と一緒に入る事になるのは必然なのだけれど、何しろ妃沙は龍之介という男の意識を持った中身を擁しているのだ。

 たとえ中学生とはいえ、凛はとても魅力的な女性だ。その全裸を見てしまうのはマズいような気がしている。

 なお、自分の全裸を見られる事については全く気にしていないあたりが、妃沙の妃沙たる所以である。


「どうしたの、妃沙ちゃん? 早く行こうよ!」


 入口で怯んでいる妃沙に、既にバスタオル一枚となってしまった凛が声を掛けた。


「わ、わたくし、ロッジのシャワーで済ませますわっ!」


 凛のその色っぽい姿にますます怯み、その場から逃げようとする妃沙。

 だが、凛がそんな事を許す筈もない。


「何恥ずかしがってんの! 女同士だし、だいじょぶ、だいじょぶ! あんまり我が儘言うとお姉さん、襲っちゃうぞー!」

「た、体調がですね……!」

「そーか、そうか! 妃沙ちゃんは脱がされるのがお好みなんだね! んじゃ、ご要望にお応えして……」


 ジリジリと妃沙ににじり寄る凛の迫力に後ずさる妃沙。

 だがしかし、壁際に取り付けられた棚の前にいた彼女は、直ぐに壁際へと追い込まれてしまう。


「妃沙ちゃん、バンザーイ!」

「その手には乗りませんわよ、凛先輩! バンザイなどしませんからね!?」

「妃沙ちゃん、フリースローってどうやるんだっけ?」


 突然のその問いに、咄嗟に妃沙が頭上にボールを掲げるポーズを取る。あ、しまった、と思うがもう遅い。


「取ったりィ~! おやおや、妃沙ちゃん、可愛いブラ付けてるんだね」

「わたくしの趣味ではありませんわ……って凛先輩、それは!」

「だってお風呂に入るのにブラなんていらないでしょ?」


 壁面に押し付けられ、上げた両手は凛の片手で壁に押し付けられてしまっている。いわゆる『壁ドン』に近い状態だ。

 そして凛は、その片手でその下着に手をかけ……


「おやめ下さいましィィーー!!」

「ぐっふっふ、良いではないか、良いではないか」


 悪い顔で楽しそうに笑う凛。だが、その激闘の際に凛が纏っていたタオルはハラリと落ちてしまっていた。


「凛先輩、見えてます、見えてますからァァーー!!」

「見たね? んじゃ、妃沙ちゃんも見せてくれない不公平だよね?」


 キャーーーーという妃沙の絶叫が響く。


 ……なお、この温泉の更衣室は男性用のそれと隣り合っており、薄い壁一枚を隔てた男子更衣室では、そのやり取りを壁に耳を当て、同行者──主に藤咲と銀平──が戦々恐々と聞いていた。


「おい、銀平、盗み聞きなんて良くないぞ!」

「壁に張り付いてるヤツには言われたくねーな!」


 小声で話す男子二人。

 そんな二人に、腰にバスタオルを撒いた聖が冷たい視線を寄越しながら言った。



「そんな格好でそんな所にいたらただの不審者ですよ……まぁ、お二人がどうなろうと知ったことじゃありませんけど」



 軽蔑したような表情でさっさと風呂に移動する聖の姿は、もはや清々しいほどである。

 だがやはり、この愉快なご一行様の中で、一番の苦労人は彼であると断定しても何処からも文句は来ないに違いない。



 ───◇──◆──◆──◇───



 カポーン、という音すら聞こえそうな純日本的な露天風呂。

 凛によって裸に剥かれてしまった妃沙は、なるべく凛の裸体を見ないように目を反らし、高速で風呂場に入り身体と髪を洗い、少しでもその裸体が見えにくい風呂の中へと移動していた。

 こんな時は髪を切っておいて良かったと思ってしまう。

 だが、そんな妃沙をよそに楽しそうに鼻歌すら歌いながら身体と髪を洗い、妃沙のいる風呂場へとやって来た凛。もちろん、その間は素っ裸である。

 なんだか居た堪れなくて風呂の隅にチョコンと鎮座していた妃沙だけれど、入って来た凛が「そんな隅にいないでこっちおいで」とそれでなくても軽い妃沙の身体を、浮力を利用していともたやすく中心部へと誘った。


「気持ち良いねー! やっぱ家の風呂は違うなー!」


 妃沙の気持ちをよそに、凛は上機嫌であった。

 そして、相変わらずその隣で縮こまる妃沙を見やり「あんまりちんまりしてるとまた襲うよ?」と囁くと、驚愕の表情を見せる妃沙に再び愛好を崩す。


「ホント可愛いね、妃沙ちゃん。私、本気で新たな扉を開きそうだよ」


 彼女の言う『新たな扉』が何を意図するのか、鈍チンの妃沙にはあまり理解出来ていなかったけれど、それでも、凛が自分に好意を抱いてくれていることは日々実感している。

 そして自分も、今では葵に次に、と言っても過言ではない程、この時々男前な先輩に心を寄せていた。

 葵とは、もし自分が男のまま転生していたとしても付き合いたいとかそういう気持ちはまるで抱かない自信があるのだけれど、前世の自分が凛と接したならばきっと惚れてしまうだろうな、とまで思っている。

 だが、想像は出来てもその気持ちを抱く事がないのは、もう『龍之介』の意識より『妃沙』の意識が強いからかもしれない。

 退廃的で、俗世に興味を抱かなかった前世と比べ、性別こそ変わってしまったものの、今世(いま)は全力で生きる事を楽しんでいる実感があるのだ、妃沙としての自分の意識が強くなるのは仕方がない。

 だが、自分では未だ理解に至らない『恋愛』というフィールドに彼女が立っているのは確かだという事をまた、妃沙はなんとなく感じていたのである。

 けれども、それを口に出してしまうほど妃沙は野暮ではなかったので、凛の恋の行方は黙って見守ろうと思っているが……敬愛する彼女がピンチに陥った時、何もしない自信は妃沙にはなかった。


「凛先輩。わたくし、こんな風に先輩とご一緒出来てとても幸せですわ。ですからその……選手に選んで下さり、有り難うございます」


 本心ではあるのだけれど、全裸の凛を真っ向から見据えて言うには少し恥ずかしくて、顔を背け、頬に朱を乗せて唇を尖らせながら言う妃沙の姿は、およそ扇情的ですらあった。

 それでなくても妃沙を溺愛している凛である。そんな表情や仕草に萌えないはずもない。

 けれども、妃沙が呟くように言ったその言葉は真っ直ぐに凛の心に刺さり、その姿との相乗効果もあり、最大値の威力を以て凛に届いたのである。


「妃沙ちゃんが努力もしないような子なら絶対に選ばないし、才能や実力がなければそもそも候補にもならないよ。

 けどね、妃沙ちゃんを代表にして欲しいっていう陳情は、学年問わずほぼ部員全員から挙がってて、毎日後輩たちから直訴されてたんだよ」


 え、と目を見開いて自分を見つめる妃沙の側にさりげなくジリジリと近寄りながら、妃沙が選手決定に至るまでの経緯を語る凛。


「妃沙ちゃんは可愛い。だから代表に相応しい、なんて言ってくる子は一人もいなかったなー。

 みんな、妃沙ちゃんが誰よりも真摯に練習に励んでいることや、人の試合も食い入るように見入って勉強していること、何より実戦が妃沙ちゃんを一番成長させる場だっていうのは、女テニ全員が感じてたみたい。

 私はもちろん、コーチも監督も最高の判断だと確信してる。妃沙ちゃんは絶対に強くなるから、早くから実戦経験を積んだ方が良いってね。

 ……ま、これはあのパンケーキのお店でも言った事だから妃沙ちゃんも知ってるよね」


 女テニ部員の総意だなんて事は今初めて聞いたけれど、その内容事態は確かにあの場で聞いた事であるので、コクン、と妃沙が頷く。

 一方の凛は、今はもう『部長』の表情(かお)をしており、夕陽に替わって昇り始めた月を見つめながら、とても幸せそうに言葉を続けた。


「それは私も全面同意だしさ、反論なんか一ミリもないんだけど……でもやっぱ妃沙ちゃん、可愛いなぁ! 姿だけじゃなくてさ、その素直な反応とか、初心い所とか……わりと私のツボ」


 このやろ、可愛いぞー! なんて言いながら凛の魔手が再び妃沙に襲いかかる。

 いつの間にかその直ぐ近くに居た凛が、再び妃沙の華奢な身体──今は全裸──にその食指が伸ばされたのである。


「お? 妃沙ちゃん、意外と着痩せするタイプ? さっきも思ったけど、意外と胸あるよね」

「り、凛先輩! マジマジと見るのは止めて下さいましっ! わたくしの大胸筋など微々たるもので、凛先輩に比べれば……ってちょっと!? 揉まないで頂けますか!?」

「キャー! やわらかぁ~い!! 役得ーーーー!!」


 せっかく真面目な雰囲気だったのに台無しである。

 そして、男女の棲み分けは簡易的な竹垣でなされているだけであり、その唯一の防衛線である竹垣が今、グラグラと揺れていた。


「……ちょっ!? 銀平!? 流石にこれ破壊したらヤバいから自制しろ!」

「ドアホウ! こんな麗しい場面を目撃出来なかったら一生後悔するだろう!? 知玲にも事細かに報告する義務があるんだよ、俺にはッ!」

「だからって施設を破壊しちゃ駄目だろーが!!」


 そんな叫びと共に、メリメリと竹垣が音を立てている。



「……凛先輩、このままでは施設に迷惑を掛けてしまいますからちょっと失礼しますわね」



 風呂の中で凛とイチャイチャしていた妃沙だが、公共施設であるその竹垣に危害を加えようとする隣の男風呂の面々に溜め息を落とし、高速で脱衣所に戻るとタオルを撒いてあっと言う間に戻って来た。

 なお、非常事態であるので、身体を良く拭かずに脱衣所に戻るマナー違反については目を瞑って上げて頂きたい。

 そして妃沙は、竹垣の前に仁王立ちになると、その表情に見合った冷たい声で魔法を放った。



「……絶対零度……!」



 その効果は竹垣とそれに接する者のみ、という条件で放たれた魔法。

 たちまちのうちに竹垣は氷の塊と化し、それに触れていた男子二名から「「ギャーーーー!!」」という悲鳴が漏れる。

 当然、周囲は冷気に包まれてしまったので、これまた高速で脱衣場に戻りバスタオルを剥ぎ、あっという間に湯船につかり、凛の側に寄ってその製氷物を観賞することにした妃沙。自らは湯の中にいるので被害は全くない。


「凛先輩、なかなか良い出来だと思うのですけれど、いかがでしょうか?」

「グッジョブ!」


 サムズアップで返事を返してくれる凛に、口まで温泉に付けてニヤケ顔を見られないようにと隠す妃沙。

 なお、女子風呂は貸し切り状態であったし、妃沙の完璧な操作でその冷気が影響を及ぼす事は少なかったのだけれど、男風呂は大惨事であった。しかも、男風呂には他の一般客もいたのである。

 そんな彼らに、一応の同行者である湯船の中の聖にまで冷たい視線が注がれていたのだけれど、当の彼は「自分、関係ありませんから」という態で乗り切る事にしたようである。

 この合宿は、聖にとっては非常に迷惑極まりない伝説の数々を造り出したものとなってしまったのであった。


 けれど当の聖も、その迷惑行為が妃沙によって齎されたものである場合に限り、仕方ないか、と許せてしまうものになっている事には、未だ気付いていないようであった。


◆今日の龍之介さん◆


龍「ラッキースケベなんて羨ましいこと、させてなるかよッ!」

知「……キミは良いの?」

龍「!!??」



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