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令嬢男子と乙女王子──幼馴染と転生したら性別が逆だった件──  作者: 恋蓮
第二部 【青春の協奏曲(コンチェルト)】
47/129

◆46.卵焼き合宿!

 

「おはようございます、凛先輩!」


 次の日曜日、翌日は祝日という連休の朝も早い時間に、スパッツの上に短パンを履き、パーカーを羽織った妃沙が赤いサファリハットを被り、大きなリュックを背負ってピョコン、と頭を下げた。


「おはよ、妃沙ちゃん」


 未だ人も疎らな時間にヒラヒラと手を振りながら妃沙を迎えてくれるのは、女子テニス部部長・紫之宮(しのみや) 凛。

 彼女もまた妃沙と同じような服装だが、妃沙より一回りも背が高く、長い手足は妃沙のそれより余程サマになっていて格好良い。


「おー、妃沙ちゃん、おはよ!」


 そして今日も今日とて爽やかにキラリと白い歯を光らせて微笑むのは男子テニス部部長・藤咲(ふじさき) (かい)

 彼もまたトレッキングブーツの中にトレッキングパンツを入れ、迷彩のジャンパーを羽織り、こちらも大きなリュックサックを背負っている。

 青い野球帽の下から微かに見える橙色のサラサラの髪と深い海のような瞳は今、朝日を浴びてキラキラと輝いて見える程だ。

 残念な中身を知らなければ妃沙だってドキッとしてしまったかもしれない爽やかさである。彼も一応、黙っていれば美形なのだ……そう、黙ってさえいれば。


「海、シャツ出てる」

「お、凛、すまん」


 パパッと海のシャツを入れてやり、あまつさえ「オーケー!」とその尻を叩く様はまるで姉と弟を見ているようだ。

 少し前の妃沙なら、ほのぼのとした光景に見えていたのだろうけれど……今はなんとなくその奥にある感情を気にしてしまう自分がいる。


(──チッ。それもこれも全部、知玲のヤツのせいだ!)


 知玲にしてみればとんだ濡れ衣である。

 だが、今ここにはいない幼馴染を心に思い浮かべてくれるということを鑑みれば、彼の気持ちが少しずつ妃沙に届いているのかもしれない。当の妃沙はそんな事は絶対に認めないに違いがないのだけれど。


「良い天気で良かったですわね! せっかくの山登りなのに雨模様だなんて、楽しさが半減してしまいますもの!」

「そうだよねー。暫く晴れの日が続いてたからぬかるみなんてものもないし、山の景色も楽しめるね。倖香(さちか)も来られたら良かったのに……」

竜ヶ根(たつがね)先輩、残念でしたわね……。けれど、お家の都合では仕方がありませんわ」


 しゅん、と落ち込む女子二人。そこに、藤咲のあっけらかんとした声が響く。


「まー、いない奴の事よりいる奴が楽しむ事を優先しようぜ! 今日はせっかくの選手交流会なんだからさ!」


 全くデリカシーのないことだと、妃沙と凛が残念な物を見るような視線を藤咲に送っている所に、近付いて来る人影が二つあった。


「おーい、藤咲、紫之宮! おっまたせー!」

「お待たせして申し訳ありません……そして真乃(まの)先輩を撒けなかったこと……本当に、本当に申し訳ありませんでしたっ!!」


 天下の残念男・真乃(まの) 銀平(ぎんぺい)と、正式な選手である玖波(くば) (ひじり)であった。


「……っておい、なんで銀平が来てんだよ!? 装備までバッチリじゃねぇか!?」


 その事態は藤咲にも予想が出来なかったようだ。

 今日は、男女テニス部の選手達の遠征練習兼親睦会なのだ。

 彼らの通う学園の最寄り駅から電車に乗り、終点の場所にある山に登り、交流を深め、夜は山頂のコテージで一泊する予定なのである。

 顧問やコーチは今日も練習をしている部員達の指導を行っており、この場は部長達に一任されていた。

 もちろんコテージには管理人もいるのだけれど、最低限の用意をするだけで夕食や朝食も自分達で用意する事になっている。

 本来であれば女子シングルスの代表・竜ヶ根 倖香も参加する予定で彼女も楽しみにしていたのだが、親族に不幸があったとかで、急遽不参加になってしまったのだ。

 妃沙としても、この機会に倖香とも交流を深めておきたかったので非常に残念に思っていた。


「だって、俺、補欠だし? いざって時の為に交流を深めておいた方が良いだろ?」


 完璧な山登りの装備に身を包み、いけしゃあしゃあとそんな事を言い放つ銀平。

 確かに彼は補欠選手として登録はされているけれど、それを言ったら女子部の補欠だって来たいに違いないがはずなのに、今、この場にその姿はない。



「……知玲様の差し金ですわね……」



 胡乱げな瞳で銀平を見やる妃沙。

 恐らくは妃沙の予定を完璧に把握している知玲からこの情報は漏れたに違いがない。今日明日と彼らが遠征の為に部活に不参加である事はテニス部に所属する者なら全員知っているのだけれど、名家の子息・子女が多く通う学園のセキュリティーの観点から、その行き先は絶対秘匿とされていた筈である。

 妃沙の所に届いた『旅のしおり』ですら、封蝋という昔ながらの、それでいて厳重な封がされて届いたものなのだ。

 もちろん、家の人間にはその行き先は伝えているし、知玲にも話した筈だ……多少、言わされた感が残ってはいるけれど。


「何を言うんだい妃沙ちゃん!? キミを守る騎士(ナイト)は多いに越した事はないと罷り越した次第じゃないか!」

「その仰々しい言い回しが余計に怪しいですわよ。問い詰められたらそう言えとでも言い含められておいでですの?」


 自分が時代劇をこよなく愛している事を一番に理解しているのは知玲だ。だから、そんな言い回しをすればごまかせるとでも言われているに違いない。

 確かに、この世界にも時代劇めいた創作物はあるし、過去に実在したという暗殺集団を描いた勧善懲悪の物語は妃沙が最も愛読している小説であるので、こんな状況でもなければ面白いと思ってしまったかもしれない。

 今、知玲は最後の大会に向けて稽古に余念がなく、妃沙の動向は気にしていてもさすがにストーカーのようにこの場に張り付く事は出来なかったのだろう。

 そこで、補欠として選手登録をされ、彼の親友であり……時には忠実な犬である銀平の登場だ。

 彼なら妃沙とどうこうなるという心配はまるでない。銀平の美形っぷりは認めてはいるものの、彼には想う人がいるし、妃沙もまた銀平をそういう対象だと思う事はそれこそ天変地異が起きようとも決してないのだ。


「わたくしの情報を知玲様に報告する代償に受け取る報酬についてお吐きなさいましっ! 内容によっては、わたくし、銀平様を軽蔑しましてよ!?」


 背伸びをして、銀平の首元をギュウウと締め付ける妃沙。

 中学生女子とはいえ、前世から人体の急所を知り尽くしている妃沙の攻撃だ、銀平が音を上げない筈もなかった。


「ギブッ! ギブです、妃沙ちゃん!! 言う、言うからこの手を放して! 俺、死んじゃう……!」


 両手を上げ、ホールドアップ! と叫ぶ銀平。

 いつになく目の座った妃沙の本気度に、周囲の人間も危険を察知したのだろう、「妃沙ちゃん、そろそろ」と二人を引き剥がしにかかる。

 けれど、妃沙はとても面白くなかった。

 まったく、あの婚約者様は何処まで自分の行動を監視すれば気が済むと言うのだろう? 前世ではあまりそんな素振りは見せなかったのにな、と、その違いに困惑する。

 だが、前世と今世ではその立場はまるで違うし、知玲の中では『夕季』という存在とはとっくの昔に決別しているので、あくまで『夕季』を『知玲』の中に求める妃沙が理解出来ないのは当たり前の事かもしれなかった。


「……咲絢(さあや)……。月島 咲絢の情報をくれる約束をしてるんだよ。俺、あのお見合いの時以来、彼女には逢った事がないから……。けど、今の彼女がどんな女性(ひと)なのか知りたくて……」


 ゼェゼェと息を切らしながら、銀平が白状する。

 月島 咲絢、それは家同士が決めた銀平の許嫁で、幼い頃に一度逢ったきりだというのに彼が未だに想い続けている人の名だ。


「……まったく、不器用ですわね、銀平様。知玲様のそんなエサに食いつくなんて。けれどまぁ……その純粋な想いは好ましいと思いましてよ」


 毒気を抜かれた妃沙が、腕を組み、片眉をピクリと動かしながらフゥ、と溜め息を吐く。

 銀平のこういう純粋な所は決して嫌いではないのだ。そして、どんな手を使っても自分を守る手段を講じるという気概に満ちた知玲の事も……変わらねェな、と思う程には受け止める事が出来ている。

 何故だか前世よりはずっと強く深く、自分に対する執着を見せる知玲。

 だがその束縛は予想していたよりもずっと、むず痒くて優しいものだと、最近特に実感しているのだ。



「話は付いたかな? 食材なんかは元々来る予定だった倖香の分があるし、部屋は男女を交換すれば良いから問題ない。

 時間も限られてるし、そろそろ出発したいんだけど……良いかな?」



 突然の銀平の乱入、そして妃沙の暴行現場の遭遇と、なかなかにショッキングなシーンに直面する事になってしまった鳳上(ほうじょう)学園中等部、男女テニス部の代表選手の面々。

 彼らを待たせてしまっていた事に、ハッと息を飲み、妃沙が満面の笑顔で言った。


「申し訳ありません、皆様! 銀平様が可笑しな事をし出したら全力で素巻きにして外に放り投げましょうね!!」


 合点招致、と親指を立ててサムズアップを返してくれる面々。



「俺の扱い、いつまでこれなんだよォォーー!?」



 響く銀平の絶叫。だが、彼の扱いについては既に決定事項であるので、他の面々は一切気にせず、楽しそうに登山口に向けて移動してしまっており、彼も慌てて追いかける羽目になった。

 真乃 銀平、チャラけた言動の中身はとても純情な少年なのだけれど、その純情はなかなか理解され難いもののようである。



 ───◇──◆──◆──◇───



「んー!! 空気が美味しいですわねー!!」



 時刻は昼頃、一行は早々に山頂に到着し、その済んだ空気を吸いながら昼食を摂っていた。

 休日はそれなりに混雑する人気スポットなのだが、テニスで鍛えた柔軟な身体と強靭な足腰を駆使して爽やかに山を駆け登る様はある意味清々しく、途中で出会った人々からも称賛の拍手を送られた程だ。

 一応、今日の名目は観光ではなく訓練も兼ねているので目標タイムを自分達に課していたのだが、顧問の教師が設定したそのタイムは早々にクリアしてしまっていた。

 登りは全力で、と言い渡されていた一行は、頂上に着いた後は景色を楽しみ、その澄んだ空気を思いっ切り吸い込み、こうして山頂で弁当を広げて談笑している、という訳である。


「山登り、楽しかったねー! それに運動の後のお弁当は本当に美味しいな……って妃沙ちゃん、その卵焼き、すんごい美味しそうだね!」


 ジッ、と箸を咥えて妃沙の弁当の中の卵焼きを凝視する凛。


「自信作ですわ……はい、凛先輩、あ~ん!」


 妃沙の弁当箱の中で大いなる存在感を放つその卵焼きを一口大に切って箸で掴むと、隣に座る凛の口元に運んでやる。

 反射的に凛がそれを口に含むと、卵は絶妙な甘さを醸し出し、中に混ぜられたほうれん草が彩りと歯ごたえを添え……最後に残る塩味はチーズだろうか、トロリとした物が口の中に残る。


「ほわぁーー!! 何これナニコレ!? すんごい美味しいんだけど!? 妃沙ちゃんの家の料理人さんってすっごく腕が良いんだね!」


 大興奮の凛。だがその言葉に、妃沙はコテン、と首を傾げて言った。


「いえ、この卵焼きだけは、わたくしが作ったものですわ。前世(むかし)から卵焼きは得意料理なのです。これだけは敵わないからと、料理人もキッチンを貸して下さいますのよ。

 知玲様は出汁巻き卵が一番好きなのですけれど、明太子を混ぜたものも褒めて下さいましたわ。今日、明日とわたくしが留守にするので、その分の卵焼きを用意して来たんですのよ」


 その発言に真っ先にギョッと目を剥いたのは銀平だ。


「ちょっと待って妃沙ちゃん!? 知玲の弁当に毎日入ってた美味しそうな卵焼きは妃沙ちゃんが作ってたの!?」


 その問いに、何でもない事のようにそうですわ、と頷く妃沙。

 その隣では凛がもう一口ちょうだい! と妃沙に強請り、凛の横から海も箸を伸ばして俺にもー! と妃沙の卵焼きを強奪しようとしている。魅惑のその味は人から少々理性を奪うようだ。

 そんな二人にどうぞ、と分けてやりながら、自分もその出来を確かめつつ、玖波先輩も良ければどうぞ、と、手つかずの卵焼きを自分の隣に座った(ひじり)に分けてやり、聖もそれをありがと、と笑顔で受け取っている。

 テニス部の代表選手は今、卵焼きで結束力を高めたようである。


「しかも作り置きして来たって? 始発電車に乗る時間に集合したのに!?」

「卵焼きなんて、作るのに大した時間はかからないではありませんか。しかも今日と明日のメニューは知玲様からリクエストを頂いていましたし、考える時間が短縮されたくらいですわ」

「ちょっと待って!? それってもしかして、もしかしなくても知玲の為に作って来たって、そういう事!?」

「知玲様の為と言えばそうですけれど……習慣というものでしょうか。あの方、わたくしの卵焼きを食べないと力が出ないと言い張るので、もはや義務ですわね」


 全く我が儘で困りますわ、と、ぷくっと頬を膨らます妃沙。その表情は脳天を刺激せんばかりの破壊力を持つものなのだけれど、海と聖には可愛いな、程度の感情しか与える事はない。隣に居た凛が、再び新たな世界への扉を開く事に恐怖を抱いた程度である。

 その為、提供された卵焼きのあまりの美味しさに「美味いぞぉー!」と吠える海と、「……ヤバっ」と静かに呟く聖、という両極端な反応を見せていた。

 だが、一団の中で唯一、所謂『普通』の感覚を持っている銀平は、そんなクールな対応が理解出来ない様子である。


「ねぇ、ちょっとお前たち、冷静に卵焼き食ってる場合!? 今、妃沙ちゃんが発した爆弾発言の意味、解ってる!?

 良い!? 妃沙ちゃんは『毎日知玲の為に卵焼きを造り』! あまつさえ今日は『日の出より早く起きて』! 『知玲のリクエストの卵焼きを』! 『知玲の為に作って来た』んだよ!?

 そのお相伴に与ってなんでそんなにいけしゃあしゃあとしてられるワケ!? 知玲にどんな目に遭わされるか……」


 そこまで言って、ぶるり、と身体を震わせ、両手で自分の身体を抱き締める銀平。

 だが、彼の恐怖は誰の耳にも現実味を以て届く事はなかった。

 東條 知玲──彼は『妃沙にだけ見せるヘタレで甘い表情』と同様に、『銀平にだけ見せる獰猛な肉食獣の表情(かお)』を合わせ持っていた。

 妃沙にしてみれば、知玲がそんな黒い表情を全力で見せる事が出来る友人と出会えたことを手放しで喜んでいる状態なのだけれど、当の銀平には良い迷惑である。

 こと妃沙関連に関しては知玲の圧力は年々留まることを知らないどころか、悪化して行く一方なのだ。

 特に、連休中に一日だけ、部活を休んで妃沙と遊園地に行った、という事を聞きだして以降は、吹っ切れた闘牛のように何処かギラギラしていて、そのあまりの変化に長い付き合いの銀平すら引くくらいだ。

 当たり前である。彼が唯一心を捧げている妃沙が、あのゴンドラの中でそのストッパーを破壊してしまったのだから。



 だが、大事に想ってこそすれ、今は深く考えまいとしている妃沙はともかく、最初から知玲など眼中にない面々は気楽なものであった。



「妃沙ちゃんが東條君にとって一番美味しい卵焼きを作れるなら、それが最高効率でしょ? 何か問題でも?」……と、女テニ部長・紫之宮 凛。お前はもう少し女心を学べと、銀平は内心でツッコむ。


「卵は口当たりも良いし、砂糖や野菜、今回みたいにチーズを混ぜてくれれば即エネルギーにもなるしな!」……と、男テニ部長・藤咲 海。お前ももう少し心の機微を学べと言わざるを得ない。


「……何か問題?」……と、ツンデレを通り越してクールな部分が氷山と化している男子シングルス代表、玖波(くば) 聖。お前はもう少し人間の心を持てと言ってやりたい。


 だが、会話の中で、最も銀平の心を抉る言葉を吐いたのは、当の妃沙であった。



「何なら今日の夕食と明日の朝食、お弁当は銀平様のリクエストでご用意しますわよ? 大抵のものは作れますし、仰って頂いた方がメニューを考える手間が省けて助かりますわ」



 その言葉に、ブッ、と、漫画のような音を発して鼻血を吹き、銀平はその場に蹲った。

 満面の笑顔、そして『貴方の為に作りますわ』という爆弾発言、しかも相手はとびっきりの美少女だ、触れる事はおろか会えもしない婚約者をひたすら想い続け、禁欲生活をしている銀平には誠に酷な話であった。


「……ちょっ!? 何でいきなり鼻血!?」

「オイ銀平、おまえ最近溜まってんのか!?」

「……かっこわる」

「あらあら、まぁまぁ」


 それぞれ、凛、海、聖、妃沙である。

 どうやらこの場で一般的な感性を持っているのは自分だけのようだと、知玲のエサに食いついて参加する事に同意してしまった自分を呪う銀平。

 確かに、既に手にしているらしい、知玲の持つ『現在の月島 咲絢』の写真は、欲しい。絶対に欲しいけれども、この場にいる事で人間としての大切な何かを失ってしまっているのではないかとすら思えてしまう。



「……夜はカレー、弁当のおかずはハンバーグ……」



 ……ああ、人は何故『食』の前にはこうも素直に己を曝け出してしまのか、と、銀平が人間の醜さを呪った所で。

 女神のような神々しい美しさを纏った中学生──妃沙が、満面の笑顔で言った。



「カレーライスもハンバーグも知玲様の大好物ですし、得意料理ですわ! 期待していて下さいね、銀平様!」



 天使の満面の微笑みに当てられた銀平(だてんし)は、フッ、と、己の意識が遠のくのを感じていた。

 結局ここでも知玲かよ、リア充爆発しろなんて言葉も、今は口に出すことが出来ないほどに打ちひしがれてしまっているのである。

 ……実際には鼻血を噴き過ぎた事によるものという、非常に残念なものであり、いかに銀平が美形とはいえ、鼻血を吹くその様は決して美しいものではない。

 だが、その時の銀平は何も考える事が出来ず、ただ只管に、天使がエプロンを纏って提供するカレーライスに想いを馳せ……



「……カレーは中辛で……」



 ……そう言って意識を失った。



 その彼を背負い、次の目的地まで移動するという迷惑な役目を仰せつかったのは、当然部長である藤咲である。

 藤咲もまた今回の被害者であったかもしれないが、残念な彼の脳味噌はそんな事には気付いていないようなので結果オーライでと言えるのであった。


◆今日の龍之介さん◆


龍「鼻血吹いてブッ倒れるなんて漫画みたいな事が現実に起きるとは……!」(シャッター音)

聖「水無瀬、ネットに曝すのは止めておきなよ? 面白すぎて大変な事になるから」

龍「合点承知!」

(気絶中の銀平)「……俺の扱い……(´・ω・`)」


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