◆44.キミに決めたッ!?
「全員集合! 夏大会の選手を発表するよー!」
女子テニス部部長・紫之宮 凛の涼やかな良く通る声がコートに響き渡る。
その声を聞いた部員達がコート中央に集合すべくパタパタと走り寄って来ていた。
ちなみに、凛が課す練習メニューは確かにキツいものではあったけれど、彼女の細やかなフォローがあるからか、これから夏大会というこの時期に至るまで退部する生徒は現れていない。
妃沙は新入生の中では、特にあの練習試合で対戦した宝生 友芽という女子生徒と気が合い、何かとつるむ事が多くなっていた。
そして妃沙もまた、凛の考えた練習メニューを毎日充実した気持ちで励む日々を送っていた、そんなある日のことである。
「選手ですって。わたくしたちにはまだまだ関係なさそうですけれど、どなたが選ばれるか楽しみですわね」
「妃沙ちゃんはもしかしたらもしかするかもよー? まぁ、ダブルスは毎年決まってるみたいだけど、それも今回の大会が最後かなー」
ハッキリとしない友芽の言葉に、妃沙が首を傾げつつ集合場所に向かうと、今日も今日とて爽やかな笑顔を浮かべた凛がみんなお疲れーと言って彼女らを迎えてくれる。
この地域では春に個人トーナメント、夏に団体のトーナメントが開催されているのだが、団体は男女混合ダブルス一組、女子シングルス二名、男子シングルス二名の計五グループが相手チームと勝ち星を競う形で勝敗を競うそうである。
新入生である妃沙は春大会の模様は知らなかったのだけれど、なかなか残念な結果に終わった、ということは噂として聞いていた。それだけに、夏大会に賭ける意気込みは相当なもので、連日の練習にも熱が入っているのだけれど、部長である凛の性格のおかげなのか、この女子テニス部は女社会にありがちな派閥やら仲間外れやらといった面倒臭いしがらみは全くなく、妃沙は極めて快適な部活動を満喫出来ている。
「よー野郎ども、集まったな!」
夏大会は団体戦であるので、男子テニス部との共闘となる。その為、今日の発表の場は男子テニス部と共同で行われるようだ。
「キャッ! 真乃先輩!」
隣で呟く友芽に、妃沙が思わず残念な物を見るような視線を送ってしまうのは仕方のない事だと許してあげて頂きたい。
普段の練習は男女別であるのであまり関わりはないのだけれど、それでも、ワザとじゃねーのか!? という割合で女子のコートにボールを打ち込んで来て、ナンパめいた言葉を吐き、爽やかなフリをしてキラッと歯を輝かせて去る銀平の姿を度々目撃しているのだ、そんなあからさまな銀平に憧れるなど残念と言わずして何と言おうか。
「友芽様、何度も申し上げましたけれど、銀平様は……」
「な、何を言うの妃沙ちゃん!? 真乃先輩には婚約者がいるって言うし、あんなあからさまな言葉にドキドキなんて、さすがに私だってしないってばぁー!」
アハハ、と笑いながらバシバシとラケットで妃沙を叩きまくる友人に、妃沙は溜め息を吐きながら、ま、そういう事にしといてやろうかと苦笑する。
この友人だけではなく、男子・女子を含めたテニス部にはあちこちで恋の花が咲いているような雰囲気を感じており、中二病って厄介だよなぁ、と内心で検討違いのツッコミをしている妃沙だ。
もっとも、先日の遊園地の一件では自身がまるっきり恋愛小説の主人公のような活躍を見せてしまったので彼らに何も言う事など出来ないのだけれど、あれをきっかけに高等部に入るまでは部活に邁進しようと誓ったので、周囲の甘い雰囲気は観察しつつも自らが入る込む事はないな、という傍観者の立場に立っているのである。
「……友芽様、痛いですわ……」
「あ、ごめん」
妃沙と友芽のそんなやり取りをよそに、その場はいよいよ選手発表の場に移っている。
「男子シングルス……二年・玖波 聖、と、俺!」
男子テニス部部長・藤咲 海のよく通る声が響き、はい、と心なしか緊張を含んだ声が響いて、歓迎会で妃沙とペアを組んだ先輩、玖波 聖が生徒の中から進み出る。
あの時に何故だか聖は妃沙を認めてくれたようで、彼とは会えば挨拶をするし、部活の相談も受け付けてくれる良い先輩であり、LIMEでも度々連絡を取っている。
知玲と同等かそれ以上の美形である聖だけれど、そのクセのある性格のせいか女子の人気はイマイチのようで聖と仲良くなってもやっかまれる事は全くなかった。
妃沙から見れば、聖は後輩の面倒も良く見るし、美形だし、何より一人の女性を一途に想い続ける純粋で可愛らしい『弟分』なのだけれど……この世界の女は見る目がないなーと思う毎日だ。
「次、女子ねー。シングルス……二年・竜ヶ根 倖香、一年・水無瀬 妃沙」
凛の声が妃沙の名前を告げ、周囲がざわめいた。
今の今まで、自分が代表になるなんて考えた事もなかったし、凛からそんな素振りを見せられた事がないのだ、当の妃沙が一番戸惑っている。
「……わたくし……?」
呆然として呟く妃沙を、周囲の中から凛が連れ出し「そうだよ、妃沙ちゃんが代表。よろしくね!」と爽やかに微笑んだ。
そしてそんな様子を、男子も女子もさもありなんと言った態で見つめているが、妃沙自身には全く有り得ない事であった。
「いえいえ、いえいえ……! わたくしが代表とか、有り得ないでしょう!?」
妃沙のその言葉には、一同を代表して凛が答えてくれる。
「その質問には後でゆっくり答えるね。けどこれは男女テニス部長、顧問の先生、そしてコーチも含めて出した結論だから、とりあえず今は前に出て来てくれるかな?」
そう言いながら妃沙の手を引き、代表選手の列に彼女を並ばせてしまうと、凛は幸せそうな微笑みを浮かべて、藤咲にコクン、と頷いて合図を送る。
藤咲も爽やかに微笑んで頷き、彼らの前面に立つ部員達に最後の発表を行った。
「今年の男女ダブルスも、俺と凛が代表を務める。今年こそ優勝を狙っていくから、皆、フォローを頼むぜ!」
パチパチと周囲かせ盛大な拍手が起こり、頑張れよーなんて言葉が次々に代表選手に向かって掛けられ、妃沙にとっては衝撃の代表選手発表会は閉幕しようとしていた。
だが、未だ自分の実力に自信がない妃沙がその発表に納得出来る筈もなく、今日はこれで解散、と告げられた瞬間に矢のような勢いで凛に飛び付き、言った。
「紫之宮先輩……! わ、わたくしが代表だなんてどういうおつもりですか!? 今年テニスを始めたばかりの初心者ですのよ!?」
そんな妃沙の様子に、凛はフフ、と楽しそうに微笑んだ。どうやら妃沙のこんな反応はお見通しだったようである。
「妃沙ちゃん、今日一緒に帰らない? どっかでお茶でもしようよ。
……あ、でも妃沙ちゃん、毎日東條君と一緒に車で帰ってるんだっけ? 何だったら私から東條君に話をするけど……」
「いえ、紫之宮先輩、それは大丈夫ですわ。一大事ですから知玲様にもご理解頂けると思いますし、後でしっかりフォローをしておきます!」
そか、んじゃ後で校門で待ち合わせしよーと言って、ヒラヒラと手を振りながら凛は妃沙の目の前から立ち去って行く。
昔の漫画であれば、なんであんな初心者の一年が代表なの!? と嫉妬の瞳を向けられてもおかしくない場面であるが、生憎、妃沙の生きる世界は昔の漫画の世界ではなかった。
初心者とは言え妃沙の実力は群を抜いており、ひたむきに努力をする姿勢は、その愛らしさも相まって女子部員達からも超好意的に受け入れられているのである。
その為、もし妃沙が選手に選ばれなかったら不満の声が出て来そうなほどに妃沙は部員達に溺愛されていた。
「妃沙ちゃん、すごいねー! でもほら、紫之宮先輩を待たせる訳にはいかないしさ、早く帰ろう?」
そう言って友芽が腕を引っ張ってくれるまで、妃沙はまさかのその展開に呆然と立ち尽くしていた。
そしてその友芽の声に、女子部員のみならず男子部員までがうんうん、と深く頷いていたのだけれど、妃沙にそんな様子を観察している余裕などなかったのである。
───◇──◆──◆──◇───
「わぉ……! セーラー服の妃沙ちゃんヤバいね……! 女の身でありながら新たな世界の扉を開いてしまいそう……」
そうして訪れた校門。中等部の制服──白地にグレーのセーラーカーラーに水色のリボン、スカートはグレー地に白と水色のギンガムチェックだ。
スカート丈は知玲の厳重なチェックにより膝丈に合わせられており、紺のハイソックスに黒のローファーといういたって普通の女子中学生という装いの妃沙だけれど、残念ながら彼女は容姿が良い意味で普通ではなかった。
少し顔にかかる程度の長さで整えられた金髪は柔らかそうだし、急いで来たのでその頬は紅潮し、フ、フ、と可憐な唇から息を漏らす様はおよそ扇情的ですらある。
部活の練習中もTシャツやポロシャツに短パンという姿なので露出度としてはそう変わってはいないのだけれど、部活の最中は服装よりその動きに目を取られてしまうことの多い妃沙だ、その彼女が清楚な制服を着ているのを初めて間近で見れば、女とは言え見惚れてしまうのは仕方のないことである。
「紫之宮先輩、お待たせして本当に申し訳ございません……!」
ピョコン、と頭を下げる妃沙に、凛は優しく微笑み「私も今来た所だから」と男前な言葉を告げ、ふと、彼女に背後に目を向ける。
気配を察するに……男子中学生三名、うち二人はテニス部員。
妃沙ちゃんの婚約者である東條君はまぁ解るとして、後の二人は何やってんのと、彼らの方向に呆れた視線を向けながら、彼女は溜息を吐いた。
「紫之宮先輩?」
何故だか自分ではなく、その背後に視線を向けている妃沙が不思議そうな表情で首を傾げ、自分を見つめている。
凛より若干背の低い妃沙は今、上目遣いで彼女を見上げる形になってしまっており、凛は『美少女の上目遣い』という爆弾を期せずして受け止めることになってしまっていた。
「……ハァ。ま、良いか。ね、妃沙ちゃん、お腹空かない? 夕飯の前だけど甘い物は別腹って言うし、パンケーキとかどうかな?」
「紫之宮先輩のいらっしゃりたい所で構いませんわ。先輩とご一緒できるなんて夢のようですもの!」
その愛らしい顔に満開の笑顔を浮かべ、楽しそうに笑う妃沙。
「……ヤバ。本当に新たな世界の扉を開いてしまったらどうしよう……」
そんな事を呟きながら、それじゃ行こう、と妃沙の隣に立って歩き出す。
背後の下手クソな尾行班もそれに追随しているようだけれど、凛は気にしないことにした。
妃沙とは一度、こんな風に話が出来たら良いなと思っていたのだ。
せっかく可愛い後輩とデート出来るチャンスなのである、野郎共の事なんか気にするだけ損だと気持ちを切り替え、妃沙と連れ立って夕陽の差す道を歩くことしばし。
二人の目前に、木造の可愛らしい店舗が見えてきた。
「ここ……ですの?」
怯む妃沙。
花、レース、キャッキャウフフと楽しげに語らい合う女の子達、そして漂う甘い香り。
前世では最も縁のない、それこそ異世界に存在していたものが今、目の前に君臨していて、今そこに入り込もうとしているのだ、躊躇わない筈がない。
「ここのパンケーキ、すっごく美味しいんだよ。部活の後とかムシャクシャした時とか試合に勝ったご褒美とか……ま、要するに理由を付けて良く来るの」
さ、行こーと楽しそうに店の中に入って行く凛に、今の自分なら違和感はねぇはずだと自分に言い聞かせながら妃沙も続く。
未知との遭遇は緊張を孕みつつも甘い匂いと姦しさに包まれたものであった。
「お二人様ですねぇ~? こちらへどうぞー!」
膝丈のふんわりとしたスカートのワンピースの上にフリフリのエプロンを着用し、頭にはホワイトブリムを着けた店員が案内してくれる。
……まさかのメイド喫茶であった。
「…………」
初めて見る生メイドに美少女らしからぬ態で口をあんぐり開けてその姿を凝視している妃沙の肩を、ポン、と凛が叩く。
「ほら、行こう」
そうして凛に手を取られ、店内を移動して行くと、内装もまた外装と違わず乙女趣味な造りである事が良く解る。
充分に余裕を以て配置されたテーブルは猫脚のアンティークめいた物だし、それに合わせるように配置されている椅子もまた、木製のフレームに渋い色のパッドが取り付けられている。
良く磨かれたフローリングの床も、手入れの行き届いた装飾品も、店の雰囲気に大変良く合っている金の房の付いた臙脂色のカーテンも、まるで前世の世界で言う明治時代のようなクラシカルな雰囲気であった。
そんな中を興味深げにキョロキョロしながら歩く妃沙。
一方で店内の客達……その客層は八割以上が女性であったのだが、ごく少数の、女性に連れて来られたと思しき男性も含めた多くの視線が妃沙に刺さる。
小柄ながら、細くて長い手足を清楚なセーラー服に包み、人形もかくやと言った陶器のような白い肌、中央を走る小振りな鼻、そしてその下に鎮座する薔薇の蕾のような小さな唇、
そして何よりも目を惹くのは、若干吊り気味ながらも宝石のような煌めきを放つ、その大きな蒼い瞳。長い睫毛に彩られたそれをキラキラと輝かせ、周囲を観察する様に注目するなという方が無理な話だ。
中等部に上がり、ますますその魅力を開花させている妃沙はだがしかし、相変わらず自分の魅力にはまるで無頓着であった。
だが、知玲や彼女の母親、充といった腕利きのスタイリストによって磨かれ続けているのだ。
知玲に至っては、妃沙を注目の的にしたくないという本心と、けれども年々愛らしくなる彼女を飾りたいという欲求にはどうしても抗えず、同じ衝動に駆られている妃沙の母親や充と共にスカートの丈や持ち物等をコーディネートし、突然短くなった髪ですら日々細かい調整を重ね、時にはヘアピンを装着したりアレンジを加えたりし、その出来に満足しつつも、そんな可愛すぎる妃沙がますます注目を浴びてしまうじゃないか、と、自分に返って来る盛大なブーメランに日々苦悩していたりする。
「こちらのお席でお願いしまぁーす」
接客態度としては落第点の甘ったるい話し方だが、その雰囲気にはとても合っている声でそう言い、メイドさんが妃沙と凛を大きな窓に面した席に案内した。
実はこの席は路面に面した特等席で、店員には容姿の整った客しか案内してはいけないという教育が徹底されていた。
だから、満員であった筈の店内に彼女らが入ってすぐに案内されたのは、この席に案内され、客寄せパンダになれという店側の商魂たくましい思惑の為なのだけれど、当の本人達は知らない事であるし、彼女達にとってもすぐに着席できたことは望ましい事であるので、Win─Winの関係であると言って良かった。
「妃沙ちゃん、何にする?」
自身もメニューを眺めながら、それでも常連、と言っても良い程にこの店に良く来ている凛が妃沙に問う。
だが、妃沙はあまり甘い物を好まない嗜好であるので、早々にメニューを閉じ「コーヒーをお願いしますわ」と微笑んだ。
「え? 妃沙ちゃん、甘い物苦手だった? やだ、ごめん、ならそう言ってくれれば良いのに……」
焦った様子で自分を見やる凛に、妃沙はいえいえ、と慌てて手を振る。
「食べないだけで嫌いな訳ではありませんし、甘い物やこういう場所は、わたくしより知玲様がお好きなので今度一緒に来てみようかな、と思えて有意義ですわ。
こんな素敵なお店をご紹介頂き、有り難うございます、紫之宮先輩」
慈愛に満ちた表情でそんな事を語る妃沙に、凛はへぇ、と感嘆の息を漏らして片肘をついた。
「妃沙ちゃんと東條君ってさ、家の都合やら何やらで婚約しているだけだって思ってたけど……ちゃんと向き合ってるんだねぇ」
良いな、とポツリと呟く凛に、ボッと集まった熱をごまかすように妃沙が両手を頬に添える。
驚いて見開いた瞳は、その大きさを強調してしまっているし、「何をおっしゃいますの!」と動揺を隠せない口調のツッコミは可愛いとしか思えない。
「羨ましいなと思ったんだよ。東條君はちゃんと他人の心の機微を察する事の出来る人だからさ」
「……いえあの……あの方、あれで結構我が儘でオレサマな所がございましてよ……?」
妃沙のその発言は「知玲を誰よりも理解していますよ」とでも言うべき発言で。
だから凛は、その言葉を一瞬だけキョトン、とした表情で受け止めた後……大爆笑の渦に飲み込まれてしまった。
「アッハハハハ!! やめてよ、妃沙ちゃん。独り者にノロけるなんて残酷だよー!」
「何処をどう解釈したらその発言に至るのか説明して下さいます!? 紫之宮先輩!?」
妃沙には、凛が何故そんな解釈に至ったのかがまるで理解出来なかった。
だって、知玲が我が儘だったり、都合を鑑みる事なく自分を様々な事に巻き込んだり愚痴を聞かせたりするのは日常茶飯事だ。
『契約』や『婚約』だって知玲の独断によるものだし、今だってスカートの丈や持ち物を管理され、交友関係にも口出しして来る事があるくらいだ。
その分、自分の好みや関わりのある友達は必ず妃沙に紹介してくれるので、妃沙もまた知玲の嗜好は前世よりも深く理解していると言っても過言ではないのだけれど、それは前世からの付き合いもあるんだから当然だろと、不思議そうな表情で凛を見つめている。
「良いね、妃沙ちゃんと東條君の関係。すごく……羨ましい」
何処か切なさを含んだ表情で妃沙を見やる凛。
そんな彼女に何故だか何も言う事が出来ず、「お決まりですかぁ~?」とやって来たメイドさんにきびきびと注文を告げる凛に、憧れの先輩という以上に親しみを感じてしまった妃沙。
「紫之宮先輩。先輩は本当に素敵な女性ですわ! 葵の次に格好良いと断定しても、きっと何処からも文句など来ないに違いがありません!」
店員が去ったその席でグッと凛の手を握り、そんな宣言をする妃沙。
彼女にとって『一番格好良い女子』は葵であるのでそれは絶対に譲れないのだけれど、元々、あのオリエンテーションで見た凛に憧れてテニス部に入部したという自覚もある妃沙だ、その先輩が何故だか寂しそうな表情をしているのを見逃す事など決して出来なかったのである。
「……ぷっ。あの歌劇団のスターめいた妃沙ちゃんの親友の次だなんて……マジ光栄。ね、私さ、妃沙ちゃんの親友の葵ちゃんにも凄く興味があるんだけど、今度一緒にお昼でもどう?」
「葵も喜びますわっ! 紫之宮先輩の素敵さはわたくしが毎日のように葵に聞かせておりますから、今では葵も紫之宮先輩の大ファンでしてよ!」
「マジか!?」
思わず口調の乱れてしまった凛である。
まったく、この美少女は自分の斜め上を行く言葉をくれるよなーと、改めて興味深く自分の対面に座る少女を観察すれば、フン、と美少女らしからぬ態で鼻の穴を広げて自分をみやる美少女と目が合った。
「……妃沙ちゃん、ホントに可愛いね。惚れそ……」
遂には新たな扉を開く危惧を口にしてしまう凛。
だが、そんな言葉を掛けられた妃沙が口にする言葉はその扉すら破壊せんばかりの勢いであった。
「わたくしは、もうとっくに紫之宮先輩に惚れておりましてよ!!」
誤解のないように言っておくと、この時妃沙は「凛のプレーに」という主語を省いてしまっていた。
その為にグッ、と息を飲んで凛は仰け反るし、周囲の客は飲み物やパンケーキを吹くという事態に陥っているのだけれど、当の妃沙には自分がそんな災害を齎したという自覚は一切、ない。
「……ゴメン、なんだか私、東條くんの苦労が解っちゃった……」
ポッと頬を染めながらそんな事とを言う凛に対し「苦労しているのはこっちですわ!」なんて呟きながらぷくっと頬を膨らませ、そっぽを向く妃沙。
そんな妃沙の頭をポンポンと撫でながら、凛はとても幸せそうな笑顔を浮かべていたのである。
── 一方、店の外でそんな二人を観察していた知玲が「妃沙のバカァー!! 何人誑かせば気が済むのーー!!??」と暴走しそうになっている。
もちろん盗聴器の類いがある訳ではないので彼女らの正確な会話内容は知りようもないのだけれど、知玲は妃沙があの表情をした後、相手が頬を染める光景は見慣れてしまっていた。
そんな知玲が、店内に入るのはさすがに躊躇っているものの、彼女らが座る席の側面の窓に張り付きそうになるのを、海と銀平が必死で取り押さえている。
現在彼らは少女趣味な店内に男だけで突入するのを躊躇い、彼女達が見える木陰で観察しつつ、その行動を観察していた所だった。
「知玲っ! ここ、公道だからね!? 不審者扱いされるような行動は止めろッ!」
「東條っ! まずは落ち着け! 凛と妃沙ちゃんがどうこうなんて、なるはず……はずが……アーーーー!!」
そして今また、知玲と同様に妄想と疑念の波に飲み込まれてしまった同行者に、銀平は叫んだ。
「ふっざけんなァァーー!! 少しは落ち着けリア充どもォォーー!!」
心に決めた『婚約者』とはあれ以来逢えず、渾身のナンパ術も引かれまくる銀平の魂の叫びであった。
そんな彼の行動もまた不審者扱いされるには充分なものではあるのだけれど……彼の置かれた状況を知る人なら同情を禁じ得ないに違いがない。
ドンマイ、銀平。
◆今日の龍之介さん◆
龍「俺はもうとっくに紫之宮先輩に惚れてるぜぇー!!」(キラッキラの笑顔)
知「……ねぇ、いい加減に言う相手を間違えるの止めようか?」(真顔)




