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令嬢男子と乙女王子──幼馴染と転生したら性別が逆だった件──  作者: 恋蓮
第三部 【君と狂詩曲(ラプソディ)】
121/129

◆117.GIRLS TALK

 

「水無瀬 妃沙さん。アタシは今からアナタを拉致します!」



 妃沙が親友の遥 葵から指を差されそんなことを言われたのは、ちょうど知玲が生徒会室に連行されている頃のことだ。

 いつも凛々しくて格好良い葵だけれど、その日はいつにも増してキリリとした表情で妃沙を見据えている。

 何処か覚悟に満ちたその表情は勝負に向かう前の彼女を思わせるもので、妃沙も大好きな表情だ。

 なので彼女はふにゃりと愛好を崩して言った。


「葵と一緒にいられるなら何処へなりと参りますわ!」


 拉致、なんていう不穏な言葉を耳にしたというのに、妃沙ときたらとても嬉しそうに微笑むものだから、葵としては出鼻を挫かれた気分である。

 だがまぁ、言葉はどうあれ、これから妃沙を自分に付き合わせようという計画は事実であるので、ここで怯んでいてはいけないと自分を鼓舞したようだ。


「何処に連れて行かれるかも解らないのに良い度胸じゃねぇか。それでこそ妃沙だぜ! それじゃ、今からさっそく行くぞー!」


 はい、着替え、はい荷物、これおやつと、楽しそうに次々に荷物を寄越して来る葵。

 渡された荷物は妃沙の私服だったり持ち物だったりが揃っており、その手際の良さもさることながら、なぜ自分の私物を葵が持っているのだろう、と妃沙が不思議に思っていると、さきほど彼女に誘拐を宣言した犯人が、全く含む所のないキラッキラの笑顔を向けてくれた。


「あ、それ? 知玲先輩が用意してくれたんだ。ついでに、これから行く場所をセッティングしてくれたのも知玲先輩。

 理事長からはおやつとナビする機械を用意して貰ってるし、充からは動画も撮れる超高性能小型カメラを借りてるし、久能先輩からはアメニティセットと護身用の道具の提供があったんだぜ!」


 妃沙お前、本当に愛されてるな、なんて楽しそうに笑いながら、葵が自分の荷物からカメラやら食料品、どう使うのかは解らないが護身用の道具と思しきものを取り出して妃沙に見せてくれる。

 そんなものが満載になっている葵の荷物は、妃沙のそれよりだいぶ大きなリュックがパンパンになる程であったし、知玲だの莉仁だのという面々が、何故そこまでこの『拉致』とやらに協力的なのか、ますます意味が解らずに首を傾げていると、ふと、キュッと表情を引き締めた葵が妃沙を真っ直ぐに見つめて言った。



「今日はアタシだけが妃沙の騎士(ナイト)だ。お前のことは絶対にアタシが護る。本当は皆も一緒に来たがったんだぜ。でも……二人で話したかったから、遠慮してもらったんだ」



 元々が歌劇団のスターめいた容姿の葵にそんな事を言われてしまえば、重度の葵好き病の妃沙は一溜まりもない。

 本当は少しだけ、彼女とも深く関わり過ぎたと反省し、距離を置かなきゃな、なんて考えて態度を改めていたのだ。

 とは言え、聡い葵のことだ、急に離れてしまっては不審がられるかもしれないし、妃沙としても葵という親友の側は本当に心地が良くて離れ難く、なかなか上手くはいっていないのだけれど。

 そんな状況であるから、葵の申し出は断るべきだと、本能では理解している……だが。


「……葵、わたくしは……」

「何だよ、行くっつったじゃん! 言った事を翻すなんてらしくねぇぞ、妃沙! それとも何か? 遥 葵のプロデュースに不満でも?」


 最初は拗ねたように口を尖らせ、だがその表情は次第に楽しそうなものに変わって行く。

 葵と出会ってから、かれこれもう十年。二人で築いて来た絆だ、そう簡単にどうこう出来るとは思っていないし、本当は……離れたいだなんてちっとも思っていない本心を、妃沙はちゃんと理解している。

 ただ、本来の自分を思い出した今、彼女との触れ合いは幸せ過ぎて、ちょっと怖くなっていただけなのだ。


「ミステリーツアーみたいで楽しそうですわね、葵! なんだかワクワクして参りましたわ!!」


 どうせなら楽しんでやれ、という切り替えは、前世に比べてだいぶ上手くなったななんて自己分析をする妃沙に、葵が今日イチのピカピカの笑顔を向ける。


「おし、それでこそアタシの妃沙だ! 今日は正真正銘の二人っきり、デートだからな、妃沙!」


 アッハッハ、と笑いながら、何故だかその場で上着を脱いで着替えを始めようとする葵を必死で止める程度には……妃沙にも女子としての嗜みとやらが理解出来るようである。

 とにかくこうして、妃沙と葵の、何だかんだで初めての二人っきりの外部デートが開始されたのであった。



 ───◇──◆──◆──◇───



「キャー! 葵ィィー!! 気持ちが良いですわねぇぇーー!!」

「ホントほんと! 日頃の鬱憤なんか一気に抜けて行っちまいそうだな!!」



 二人の美少女は今、大きなリュックを背負ったまま自転車に乗って坂道を疾走中である。

 場所は彼女達の学園の最寄り駅から電車に乗り、終点で乗り換えたその先の駅にある、湖に面したサインリングロードだ。

 もう少し気候の良い季節や、少し気候が伴わなくても昼前後の時刻であれば自らの自転車でやって来る愛好者も多い人気スポットなのだけれど、季節は冬で木枯らしが吹き荒れており、ましてやそろそろ夕刻になろうというその時間にやって来る酔狂な客は他にはいない。

 だが、彼女達はゴミゴミした都会の喧騒から離れ、自然の空気を思いっ切り吸いながらひた走るサイクリングを心から満喫しているようである。


「この先に今日の宿があるはずだ! 妃沙、今日は料理しようとか考えるなよ!? とびっきりのご馳走を用意してもらってるから、二人でたらふく食って笑って……いっぱい話そうな、妃沙」


 何処か切ない表情で、少しだけ前を走る妃沙を見やりながら告げる葵。

 だが妃沙の瞳には今、風景しか映っていないようだ。


「葵と二人でお泊りなんて……フフ、なんだか少し、背徳的なものを感じてしまいますわ。葵……わたくしをどうなさるおつもりですの?」

「フフ……今夜は寝かせないぜ、ハニー!」


 キャーと楽しそうな妃沙の声が響き渡る。

 その表情にもまるで取り繕った所はないし、妃沙としても本心からこの遠出を楽しんでいた。

 本当は少しだけ、自分の在り方を考え過ぎてしまって疲れていたのかもしれねぇな、と考える程度には、妃沙も色々考えていたのである。

 かつての自分と今の自分では、その容姿も立場も……性別すらもまるで違うのだ。

 だから、以前の自分を今に投影しようとした所で上手くはいかないし、周囲に与える印象も反応も違って来るだろうとは理解した上で……それでも、真っ直ぐに人の心に飛び込んで本心をブチ撒ける自分に、少しだけ違和感を抱いてしまっていたから本来の自分の立ち返ろうとしてみたのだけれど。

 葵はもちろん、このデートとやらに心を砕いてくれたという面々も、恐らくその彼らを囲む周囲の人々ですら、自分に対して酷く優しい感情を向けてくれているのを、妃沙は感じざるを得なかった。


「……まったく、皆さま本当に……人が好すぎますわよ……」


 そう呟いた彼女の言葉に、葵から「何か言ったかー!?」と返って来る。

 どうやら風が少しだけ強くなって来たようで、互いの呟きは聞こえにくくなっているようだ。


「葵が大好きですわと申し上げたのですわー!」

「何言ってんだ。アタシの方が妃沙が好きだぞ!」


 返される言葉が予想通りだったことに、妃沙がクシャリと表情を崩して笑う。

 なんの躊躇いもないその笑顔にこそ、彼女の本心が含まれているのだけれど、滅多に見せないその表情は自転車で疾走中の葵にすら届いていないのであった。



「着いたぞー!」



 そう言って葵が案内してくれたのは、十種類以上の風呂と食べ放題のビュッフェが人気の宿泊施設だ。妃沙の記憶が確かなら、東條家の遠縁にあたる親戚が経営していたはずだ。

 土曜日の午後とは言え、季節外れのその施設に客はそれほど多くなく、妃沙は葵と一緒に風呂を満喫し、思う様食事を楽しみ、修学旅行のリベンジとばかりに卓球を楽しんだりした。

 正直なところ、葵が何故、突然にこんな場所に自分を連れ出したのかはよく解っていなかったけれど、気の置けない親友と二人、日常とは違う場所で、親から離れて過ごす時間は、妃沙の心に平穏を与えてくれたようだ。

 周囲と距離を置かなければ、なんて考えていたことすら忘れ、はしゃぎ切って少し疲れて油断したのか、部屋に戻った妃沙は葵の布団に潜り込んだ。


「……妃沙?」

「……あおい……。あのね、わたくし、ほんとうは……みなさまが思うような人間なんかじゃなくて……けれど、うそをついたことも、一度もないのですわ……」


 うん、と囁いて、キュッと妃沙を抱き締める葵。

 その、少し痛いくらいの温もりは、妃沙に更なる幸せと眠気をもたらしたようだ。

 そして少しだけ、ちょっぴり天邪鬼な彼女を素直にしてしまうほどの優しさに包まれて、妃沙の小さな唇から言葉が漏れ出していく。


「……大切なんだと……伝えても良いのでしょうか、ねぇ、葵? ほんとうの気持ちを伝えることは……めいわく、なんかじゃないのでしょうか……。わたくしには……わからないのですわ……」


 心から信頼する親友の温もりに包まれた、絶対的な安心感と多少の疲労感が、ここ最近悩んでいた妃沙の心を少しだけ開放したのだろう。

 当の本人も夢の世界に片足を突っ込んでおり、自分が何を告げているのか、しっかりと把握はしていないようである。

 だが、だからこその本音なのだと、妃沙の性格を深く理解し、きっと妃沙以上に彼女を大切に想っている葵は敏感に感じ取っていた。

 そしてまた、こんな風に妃沙の本音を引き出してやることがこの突然の遠出の大目的であったので、葵は満足気に優しく微笑みながら、腕の中の妃沙の、柔らかい金髪にそっとキスを落としながら言った。



「大丈夫だよ、妃沙。お前を迷惑だなんて思う奴がいるもんか。もし、いてもさ……それで妃沙が傷ついてしまったら、アタシがそいつをブッ飛ばしてやるし、妃沙の傷を絶対に癒すから。

 ……怖がるなよ、妃沙。大丈夫、確かにソレは重いものだ。でも、お前を絶対に幸せにもしてくれるから。大丈夫、大丈夫だよ、妃沙……」



 夢と現の間のポヤポヤとした感覚の中で、妃沙はその優しい声を聴き、フニャリと子猫のように微笑み、こんどこそ本当に眠りの世界へと落ちて行った。

 だが、妃沙の温かい体温を感じているうちにすっかり眠くなっており、なおかつ妃沙を胸の中に抱き込んでいた葵には、またしてもその笑顔は見えていなかったのであった。



 ───◇──◆──◆──◇───



 そして翌日。

 妃沙と葵は朝食のビュッフェも思いっ切り満喫し、再び自転車に乗って湖畔を疾走している。

 風は少し冷たかったけれど、朝の澄んだ空気はとても気持ちが良かったし、優しい陽光を浴びた湖はキラキラと輝いているようだ。

 妃沙は今、昨日よりもずっと優しい気持ちでその景色と、前を疾走する葵の背中を見つめていた。



(──俺は俺、か。どうあってもそれは変わらねぇし……ここまで心を通わせちまったんだ、距離を置くなんて、周囲に対しても失礼だし……お前だってもうそれは出来ねぇだろ、龍之介?)



 そう、自分の胸に問い掛ける。

 そして思い出す、生誕祭の日のあの光景。

 ……けれど不思議と、以前のような胸の痛みはもう襲っては来なかった。



(──ショックを受ける必要なんかねぇだろ。アイツが大切だなんて……今に始まった事じゃねぇ。アイツに大切なものがあるなら、それごと護る。前世からそうだったんだ、だから……)



 物思いに耽る妃沙。

 だがそんな彼女の目の前を走っていた紅い髪の少女が、突然にブレーキを掛け、満面の笑顔でこちらを振り返った。


「妃沙ァー! あのピュッフェの飯も美味かったけどさぁ、アタシ、妃沙が作ってくれる料理の方が好きみたいだ! だから、戻ったらまた作ってくれよ、あのおはぎ。

 あれ食べちまったら、もう市販品はおろか、他の人が作ったものじゃ満足できなくて困ってるんだ。お前のせいだからな、責任取れよな、妃沙!」


 アハハ、とカラッと笑う葵の笑顔が、その時の妃沙にはとても眩しく見えた。

 その気はまるでなくても、心のどこかで過去の自分と今の自分の違いに戸惑い、周囲に対して遠慮なんていう、らしくもない気持ちを抱き、一線を引こうとしていた自分に、聡い葵は気付いていたのだろう。

 それを、どうしたんだと追及することも、何でも自分に相談しろと押し付けるでもなく、ただそっと抱き締めて『大丈夫だ』と教えてくれた彼女の愛情が、涙が出るほどに嬉しかった。

 昨夜、夢現の狭間ではあったけれど、彼女が自分に掛けてくれた言葉は確かに心に届いたし、照れ臭くて寝たフリをしているうちに本当に寝てしまったけれど……。


 思えば自分は、この世界に来てから、色んな人に支えられて来た。

 その優しさに対して、慣れていないからだとか、真実(ほんとう)の自分とは違うからだとか、そんな理由で無碍になどして良いはずもない。

 自分は『綾瀬 龍之介』だ、それは変えようのない事実だ。

 けれど……同時に『水無瀬 妃沙』でもある。

 そしてまた、周囲の人々は妃沙しか知らないにも関わらず、この心ごと、まるっと受け止めてくれているのは確かに感じているのだ。


 ──けれども、彼は。知玲だけは。


 姿形など、彼にとっては本当にどうでも良いと言ってくれるのではないだろうか。

 それこそ、龍之介であった時代からずっと、自分を求めていてくれたのではないだろうか。

 本音を言って良いんだよと、彼はずっと言っていてくれたのではなかったか。

 好きだと告げてくれたその言葉の奥には……ずっとずっと、求めても応えてやれなかった自分に対する渇望があったのではないのか。

 気付かないフリをして来た自分の本心を知りながらもずっと、返事を強要することがなかったのは、彼の想いの深さだからこそではないのか。

 そして自分は……守りたいという免罪符を掲げて側にいて……けれど『何故守りたいのか』という理由にも、とっくに気付いていたのではないのか。

 そのくせ応えない自分は、とても卑怯な人間なのではないのか。

 気付いたからには、自分の言葉で……きっと彼が二つの世界を跨いですら待っていた言葉を、伝えるべきではないのか。



「葵、わたくし……」



 真っ直ぐに、葵を見返す妃沙の碧い瞳には、朝の光すら弾き返す程の強い決意の色が浮かんでいた。



「知玲様にちゃんとお伝えしますわ。ずっと好きだと……そう、知玲様が求めている『特別』な意味で、大好きなのだと」



 そう告げる妃沙を、葵が、今まで見たこともないような優しい笑顔で見つめ返してくれる。


「……やっと気付いたか。遅ぇんだよ、お前は」


 少しだけ意地悪く、ニヒルに微笑んだ葵の笑顔は、『恋』を自覚した妃沙をもってしてもポッと頬を染めてしまうほどに格好良いものだった。


「でも……解るよ。今まで当たり前に側にいた人が実は特別だなんてさ……。きっと、人間には空気がなきゃ生きていけないのに、その存在を意識することがないのと、ちょっと似てると思う。

 アタシもそうだった。大輔が……アイツが特別だなんて、本当に考えたこともなかったんだ。

 だってアイツはずっと側にいたし、これからもずっと、同じように当たり前に側にいるんだと思っていて……でも、違うんだよな」


 自転車を止め、湖畔に佇む葵の隣に、妃沙もそっと寄り添うようにして並び立つ。

 朝日だけではなく、空気も、鳥たちの囀りも、湖畔の草の匂いですら、優しく自分達を包んでくれているようだ。

 まだ朝も早い時間、ましてや季節外れの湖畔には妃沙達だけしか観光客はおらず、その荘厳な雰囲気を二人占めしているような贅沢を感じることが出来る。

 そして語られる言葉には……今や妃沙も、深い共感を感じていた。


「相手に大切な人が出来るかもしれないし、一方通行で終わる恋だってたくさんある。例え心が通い合ったとしても、家族や環境が一緒にいることを許さない二人なんかいくらだっている。

 そしてそのハードルを乗り越えたしてもさ……異なる肉体を持つ個体同士なんだ、命の長さもきっと違う。ある日突然に、自分も……考えたくはねぇけど、相手の命も奪われることだって有り得るんだ」


 葵のその言葉に、妃沙はヒュッと息を飲んだ。

 そう、その危険性についてはきっと、葵よりも自分の方が良く理解していたはずなのに……何故今まで、当たり前に命を謳歌していたのかと、自分を呪いたい気持ちにすらなる。

 だが、そんな妃沙の方を見る事なく、葵は言葉を続けた。


「けどさ、いつかやって来る別れを怖がって自分の気持ちを殺しちまったら、絶対に後悔する思うんだ。

 だって、この恋は今しか出来ない。アタシは心変わりなんかしないって思ってるけど、そんなの解らねぇし。今だってこうして、妃沙に浮気してるしさ」


 アハハ、と笑う葵の声が湖上を抜けて行くようだ。

 言葉とは裏腹に、絶対にそんなことはないという決意を叫んでいるようで、妃沙はそんな葵の横顔をチラリと見て、この子が親友で良かったな、という想いを強くする。


「だから……大丈夫だ、妃沙。恋は素敵なものだけど、それだけが人生でもない。その気持ちごと楽しんじまえば良いんだよ!

 この先どうなるかより、今、どうしたいのか。何処に気持ちが向かっているのか、ちゃんと考えてやれよ。お前の気持ちはお前にしか解らないし、大切にしてやれるのも、護ってやれるのもお前だけなんだからな。

 それで傷ついたとしても、側には絶対にアタシがいるし……まぁ、妃沙が知玲先輩にフラれるなんて、天変地異でも起きない限り有り得ないと思うけどな」


 妃沙、と囁いて、葵の長い指がそっと妃沙の頬に触れた。



「……恋の幸せも苦しみも、一緒に感じて、考えようぜ。妃沙とはそういう事も恥ずかしがらずにちゃんと話したい。この先、悩むこともあるだろうし喧嘩もするだろうけど……ずっと一緒だ。アタシは、お前が大好きだから」



 葵、とその名を呼んで、妃沙が親友に飛び付いた。

 あまりの勢いに受け止めきることが出来ず、二人はそのまま湖畔に生えた草むらの上に倒れ込み、朝露がその紅と金の髪に雫を落とす。

 まるでアリストロメリアの花びらに雫が落ちるかのように艶々しいその光景は、本当に麗しいものであったし、己の想いにいっぱいいっぱいであった二人はその時、気付かずにいたのだけれど。



「……葵、湖畔で転がるのはもう止めましょうね……」

「……せめて湖に入って身体を洗える季節にしような……」



 そう二人が語る通り、泥にまみれたロドロの美少女が宿に逆戻りするまでの間、誰の目にも止まることがなかったのは不幸中の幸いだったと言えよう。


◆今日の龍之介さん◆


龍「葵! ここ、また絶対に来ような!」

葵「ああ! 今度はチャリで競争しようぜー!」

龍「それなら人数が多い方が良いな。知玲と大輔と充と……美子先輩とか凛先輩も来っかなぁ?」

葵「楽しそうだな、それ。何か賭けっか?」

龍「そうだなぁ……って、何か忘れてる気がするな?」

知「……(´・ω・`)……」


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