◆112.理想(ゆめ)高く
「おい莉仁、おまえ、こんな状況を作りたくて選挙なんて思い付いたのか?」
そんなはずはないと理解しながらも、さすがの生徒会長も激変した学園の状況について行けていないようだ。
「そんなはずがないだろう。不可抗力というか……完全にあの子が予想の斜め上を行った結果だよ」
問われた理事長は、ハァ、と深い溜め息を吐きながら妃沙の淹れたいつもより甘めのコーヒーを口に含み、やっと一息ついたようである。
何しろ暴走しそうな生徒達を宥めすかしたり叱咤したり逆にその情熱に絆されそうになったりと、恐らくこの学園で一番忙しい一週間を過ごしただろう人物なのだ。
理事長の責務とはいえ、ご苦労様と労われて当然なのである。
「それにしても、本当に『魅了』の能力の力というのはとんでもないですわねぇ……。まさかこの学園でアイドルのライブを観る事になるとは思ってもみませんでしたわ」
まるで他人事のようにな感想を呟きながら、自分のカップに淹れたブラックコーヒーをズズッと啜っているのは、曲がりなりにもそのアイドルの対立候補となってしまっている妃沙である。
彼女は今、自分で淹れたコーヒーの出来に満足しつつ、事後処理に追われている理事長と生徒会長に持参した手作りのお菓子を進めながらのほほんと呟いていた。
「……おい妃沙、お前には当事者意識が足らねぇぞ……って美味いな、このブラウニー!」
「悠夜の言う通りだぞ、妃沙。立候補の理由が理由だし、話を聞く限り大した理想も政策もないけど、もっと危機感を……って美味いな、このマカロン!」
「悠夜先輩、理事長。貴方達こそまるで危機感がないではありませんか……」
もっともなツッコミを受けた男たち二人は、ウッと息を飲んでそれぞれ手にしたお茶受けを堪能することに終始することにしたようだ。
完璧な好みの味に淹れられたコーヒーに、最も合う味に作られたお茶受け。ましてやそれは妃沙のお手製で、莉仁にとっては現在進行形での想い人、悠夜にとっては人間として好きだと宣言している、人生で最も深く恋をした相手の手によるものなのだ、感動するなという方が無理な話である。
「……生徒会役員選挙はアイドルの総選挙なんかじゃない。その理想を高校生に求めるのは早過ぎたというのか……」
ハァァ、と、一際深い溜め息を吐く莉仁。
それもそのはず、彼が理事長をと努めている鳳上学園は今、一人の少女によって齎された空前のアイドルブームに沸き立っているのだ。
──事の始まりは、先日、莉仁が理事長として壇上に立ち、次期生徒会役員の選出方法について発表した集会での出来事である。
悠夜の口から後任に聖を指名するという発表があった時は会場から拍手が起こる程の歓迎で迎えられ、穏やかな雰囲気だったのだが……
「次期副会長候補、一年・水無瀬 妃沙」
知玲によって告げられたその発言に会場は大きくどよめいた。
指名された水無瀬 妃沙は有名な生徒だし、その容姿も性格も、もちろん生活態度も学業成績もとても優秀で生徒からも教師からも一目置かれている人物ではあったけれど、何しろまだ一年生だ。
現副会長・東條 知玲とは親しい間柄であり、また、理事長や生徒会長からも目を掛けられている人物ではあるけれど、その指名に驚くのは無理もないことである。
だが、本当の衝撃はその直後に起こった。
「ハーイ! 萌菜、その指名に不服があるし萌菜の方が相応しいと思っちゃうから立候補しまぁ~す!」
新副会長候補と同じく、一年生が集うあたりから可愛らしい女生徒の声が響き渡り、声を挙げたと思しきピンクプロンドの美少女がその場から飛び出して来て、どよめく会場の中を堂々と歩き、呼ばれてもいないのに壇上に上がったのである。
そして壇上に立ったままの知玲にうっとりするような愛くるしい笑顔を送り、あまつさえウィンクまでかますというオマケつきで真正面に立ち、彼の前にあったマイクを通して宣言したのだ。
「知玲先輩の跡継ぎにも側にいるのも、一番相応しいのは萌菜だもん! 生徒のみんなにも萌菜こそが副会長だって認めて貰えるように、萌菜、頑張るね!」
そうして彼女はマイクを手にしたままクルリと身体を返して全校生徒の方を振り向くと、満開の笑顔をその愛くるしい顔に載せて言ったのである。
「全校生徒の皆さん、一年の河相 萌菜でぇーす! 伝えたいことはいっぱいあるけど……とにかく萌菜は、みんなと楽しく明るい学園を創りたい! 応援してくれると嬉しいナ♪」
そう言った彼女の背後から、何やらキラキラとした光が見えたような気がする、とは、この時を境に萌菜の信者になってしまった男子生徒の談であるのだが、
とにかくそうした言動で一気に人心を引き付け、彼女は副会長候補として、アイドルめいた活動を開始したのだ。
朝、登校をすれば『カワイイは正義! 河相 萌菜』と書かれた桃色の襷を掛けた萌菜が校門に立ち、一人一人と握手をしながら出迎えるというパフォーマンスを繰り広げ始めた。
昼休みは支援者を連れて校内を練り歩いたし、放課後は差し入れを持って部活動を回っているようである。
支援者となる男子生徒の数は日に日に増えており、特に柔道部の生徒はかなりの数が萌菜の活動を支援しているようであった。
彼女が行く所々に人ごみができ、野太い声で彼女に向けて声援を送る集団というのが校内のあちこちに散見されるようになったのである。
「……けれど、不思議なのですわ。あれだけ河相さんの近くにおられた長江先輩がちっとも姿を見せないのですもの。あれだけ心酔しておられたのに……」
現在起きている現象に想い馳せながら、妃沙が不思議そうな表情でコテン、と首を傾げた。
聞くとはなしにその言葉を聞いた生徒会室にいた面々だが、学園内の情報に明るい莉仁がその疑問に応えてやる。
「ああ、それなら、長江は後方支援に回ると宣言して、河相 萌菜の身辺警護計画の作成をしたりだとか新たな支援者の獲得に奔走しているようだ。
なんでも、強面の自分が側にいては、支援者が怖がって近寄って来ないだろうからと言ってな。まったく健気で可愛いよなぁ……。俺にもそんな時代があったな……」
「そんな化石時代のことはどうでもよろしいですわ。ですが、そうですか……。影から支える立場に回られたのですわね。さすが抜け忍……」
バッサリと莉仁の言葉を否定した妃沙。その横で莉仁は「オヨヨ……」と情けなくも意味のない呟きを漏らしているのだけれど、室内の人物達はまるで取り合っていないようだ。
普段はキリリとした印象の莉仁だけれど、こうした残念な一面こそが素顔であり、気の置けない人物達の中にある時はこうして肩の力を抜いてリラックスしているので、その評価が『残念』なものに替わりつつあるのだけれど、そうした人間味もまた莉仁の魅力の一つであるというのは彼らの共通認識であるようだ。
「でも妃沙、実際、河相さんの勢いは無視できないものがあるよ。その政策や理想なんかは今度の演説会でハッキリするだろうけど……。
僕は君を信じているしこの学園を任せたいのは君だけだけど、全くプロモーション活動をしない君の姿勢には少し不安を覚えてしまうというか……」
妃沙の隣にスッと身体を寄せ、不安そうな表情で彼女を見つめながら、あまつさえその白い手をキュッと握る人物は、現副会長の東條 知玲だ。
今の今まで書類を難しい表情で読み込んでいたのだけれど、一区切り付いたのか、妃沙が置いた少し渋めな味が玄人好みだと評判の紅茶を片手で飲み、カップを置き、添えられたお茶受けに手を伸ばすという器用なことをやってのけている。
「何を考えているの、妃沙? まさか彼女のやる気を信じて副会長職を譲るつもりじゃ……って美味しいね、このダックワーズ! 新作?」
「知玲様まで……。まったく、この室内の方々は選挙よりお菓子の方が大事だとでもおっしゃるのですか? でも、ダックワーズは少し大人の味を模索したいなという挑戦で作ったので、知玲様に好評なのは素直に嬉しいですわね」
その言葉にピクリと反応した莉仁と悠夜が、あっと言う間に知玲の前に置かれていたダックワーズを奪い去って口に入れる。
「あー、美味しいなぁ、妃沙! このバタークリームにはちょっとラムも入ってる?」
「美味いぜ、妃沙! サクサクした歯ごたえも最高だし、甘さ控えめってところがコーヒーにも良く合うよな!」
そんな事を言いながら、自分の持参した菓子を嘘偽りなく美味しそうに食べてくれる彼らに、妃沙の表情にも思わず微笑みが浮かぶ。
自身では甘いものはあまり食べないし自分の為に作ることはないのだけれど、最近、周囲で自分を支えてくれる人々がこぞって褒めてくれるので、つい嬉しくなって作ってしまうお菓子の数々。
今日持って来たのは、最近恋人が出来た葵が「たまには女らしいこともしてみたい」と相談して来たので一緒に作ろうと相談していた所に、それなら美子も仲間に入れてよ、と充に頼まれてしまい、
女三人でキャッキャと楽しく過ごした女子会で出来上がった物で、カカオをふんだんに使ったブラウニーは運動選手の大輔用に、軽い歯触りが楽しいマカロンは肉と甘い物が大好きなに充用にと作ったもので、いわばお裾分けされたものだ。
だがこのダックワーズは、あまり甘くなり過ぎないように、出来れば紅茶ともコーヒーとも一緒に楽しめるようにと、妃沙が分量を調整して作ったものなので、他の二つとは意味合いが少し違うのだけれど、どうやら知玲だけにその味を独り占めさせまいとした男子二人には正しくそれが伝わっていたらしい。そしてまた、いの一番にそれを口にした知玲にも。
だがまぁ、最近の学園の騒ぎの前では妃沙のお菓子に込められた意味など些細なものである。
この場には、正しく現状の確認と対策を立てるために集まっているので、妃沙は真面目な表情で言った。
「可愛いは正義……。彼女の理論にも一理ありますけれど……少なくともわたくしとは違った考えのようですわ。
確かに演説会のみでわたくしの理想を語ったところでご理解頂けるかどうかは解りませんけれど、もし受け入れられなかったのならば、それはわたくしの理想が皆様と異なるということ。
それに……皆様を導く立場に立つことが相応しくないと一番に理解しているのはわたくし自身なのですもの、理想が受け入れられなかったのならばそれまでですわ。
わざと引くつもりは毛頭ございません。けれど……どうしても彼女を蹴落としてまでその位置に立ちたいと思えないのも事実ですわね」
妃沙のその言葉に、一瞬だけ男達の視線が交わる。
彼女の気質を正確に理解しており、心を寄せた人物達だ、妃沙がそう言い出すだろうことはお見通しである。
そしてまた、彼女を副会長に祭り上げたいからと言って余計な手出しをしようものなら、確実に彼女に軽蔑されてしまうだろうことも。
「……ん。副会長は人気ではなくその理想の良し悪しで選ばれるべきだ。妃沙、演説会では君の理想を思いっ切り語ってね。それこそが僕が君を選んだ理由なんだから」
深い信頼の籠もったその視線を受けて微笑んだ妃沙の表情は……彼女に想いを寄せる男でなくとも卒倒しそうな程に美しいものであった。
───◇──◆──◆──◇───
そうして迎えた演説会当日。
ここでは生徒会長候補の玖波 聖の演説を聞き、彼の信任投票が行われるほか、二人の候補者がいる副会長にどちらが相応しいかという選挙がなされる予定だ。
その候補の一人である妃沙は、宛がわれた控室に一人で座り、今日の演説の概要を纏めた原稿を見返したり書き加えたりしていたのだけれど、トントン、と扉を叩く音に気付き顔を上げる。
候補者への接触は禁止されていたので、理事長はおろか現生徒会役員、彼女の友人といった親しい人々は今、全員が講堂で彼女の登場を待っているはずなのに、と不思議に想いながらも、本能で不穏な雰囲気ではない察知したようである。
「あら……長江先輩」
扉を開けると、そこに立っていたのは、無愛想ながらも優しさに満ち溢れた、妃沙的に気になって仕方のない柔道部前部長・長江 誠十郎であった。
彼は妃沙が対抗馬として立っている河相 萌菜陣営の人間であるので、こうしてやって来たことに少し疑問を抱いてしまう。
「ああ、水無瀬、悪いな、本番前の忙しい時に……。一言だけ、どうしても言いたくてな」
どうぞ、と室内に案内しようとする妃沙の腕を取り振り向かせると、酷く真面目な色を乗せた瞳で彼女を射抜く長江。
その深刻な雰囲気に、妃沙も言葉を飲んで次の言葉を待ってしまう。
「俺が萌菜の味方であることは変わらない。だが、まるで動じないお前の姿に感服してしまったのも事実だ。今日は思いっ切り自分の理想を語ると良い。それが……きっと萌菜とは違う、お前の魅力なのだろうから」
本当に珍しく、微笑んでそうとだけ告げる長江だが、次の瞬間には「誠くーん!」と自分を呼ぶ甘い声に引き寄せられるようにして妃沙の前から消えてしまう。
萌菜を応援するのならば妃沙の存在は邪魔なはずであるのに、こうして妃沙に声を掛けてしまう程には認めてくれているらしい。
「……有り難うございます、長江先輩」
遠ざかる彼の背中に声を掛けたところで聞こえてはいないだろうけれど。
妃沙の胸に、ポッと温かいものが灯ったのは事実なのであった。
***
「みんなァー! 萌菜を応援してくれてありがとー! 今からこの学園をどんなものにしたいか、萌菜の夢をお伝えするから聞いてねェー!」
いや、副会長の選挙なんだから制服で登壇しろよ、というのは彼女に『魅了』されてしまった人々以外の全員の感想である。
そう、そこに現れたのはピンク色のフリフリ衣装を着た少女だったのである。
キラキラした糸が縫い込まれているのか、光を反射して輝かんばかりの衣装に負けていないどころか、それを引き立たせる程のキラキラとした笑顔を浮かべる副会長候補──河相 萌菜。
そしてそんな彼女を煽るように、会場内には同色のピンク法被を着た人物が多くおり、これまたピンクな光を発するサイリウムを持ち、雄叫びを上げた!
「モ・ナ! エムオーエヌエー、モナモナモナモナ!!!!」
一糸乱れぬ動きでサイリウムを上下左右に振り回し、野太い声で声援を送る生徒達。
そんな応援を一身に受けたピンクブロンドの美少女は、満開の笑顔でそんな彼らに手を振り、言った。
「萌菜の理想はただ一つ! 『好きを正直に伝えよう』だよぉ~! だから萌菜は本当の気持ちを伝えに来たの。生徒の皆さんが、萌菜はだぁーい好き!
そして皆さんにも萌菜を好きになって貰いたいナ! そしたら萌菜と皆さんは両想い、好きは正義、萌菜の可愛いも正義だよー! 学園生活がきっと……きっとピンクで可愛くて優しくで楽しい世界になると思うの!
好きならなんだって出来るし、萌菜が副会長になるのもシナリオ通りだし、絶対に皆が幸せになれるから! 皆さん、河相 萌菜をよろしくねェェーー!!」
オオォォーー!! という歓声が轟く中、フワフワのスカートを翻して少女が舞台から消えて行く。
次は、もう一人の副会長候補の演説を……という司会の声すら掻き消されそうな場内で、演説……とも言えない理想を語った少女は控えブースで自分を労わってくれる柔道部の部長が差し出した好物のココアを受け取りながら余裕の表情であった。
……だが。
「皆さま、静粛に! 今、ご自分が何の演説会に出席なさっているのかを思い出しなさい! 素晴らしい理想にどよめくのは無理もありませんけれど、ならば尚のこと、その対抗馬の話も真摯にお聞きなさい! 比較対象がなくては正しい判断は出来ないでしょう!」
壇上に上がり、バンッと演台を叩き、殊の外大きな声で厳しい言葉を投げ掛ける金髪の美少女──水無瀬 妃沙。
彼女のその鬼気迫る様子に、会場内はシン、と水を打ったように静まり返る。
そうして人々の視線が彼女一人に注がれたところで、演台の前に立った妃沙は美しく微笑んで言った。
……後に伝説となるスピーチの始まりであった。
「理想の学園……。それは個々に異なるもので、わたくしの理想を皆様に押し付けるなんて野暮なことは致しませんわ。けれど少しでもわたくしの理想に共感をして頂けるのであれば、手を携え、理想に向かい邁進することは出来るでしょう。
わたくしは、ただ……開かれた学園でありたいと願っているのです。生徒、教師、先輩後輩、男子と女子、そんな立場の違いを感じさせないフラットな学園。それは理想でしかありませんけれど……皆様と共に目指すだけなら自由なはずですわ。
ですから、わたくしのような卑小な人物に注目し、この場に祭り上げて下さった現副会長の東條先輩には感謝と畏敬の念を抱かずにはいられませんし、こんな機会を頂けた我が身を幸せに思わなければバチが当たってしまいます。
皆さま、偉大な教育者も大志を抱けとおっしゃっておりますように、理想は大きく持つべきで、けれども達成し得るかどうかは本人の努力に頼る部分が大きいでしょう。
けれど、わたくしの理想はわたくし一人のものではないのです、受け継がれた理想があるからこそ、わたくしはここに立っているのです。
大き過ぎる理想は、時に人を潰してしまう可能性も秘めていますわ……けれど! ご清聴下さる皆さまとなら、この理想を分かち合い、成就に向けて切磋琢磨してゆけるに違いないと、わたくしは信じております。
ですから皆さま、貴方の理想の代弁者として、わたくしを選んではみませんか? 全ての希望を叶えますというお約束は致しませんけれど、どんな言葉にも耳を傾け、不満を解消し、理想を実現するために奔走する為の肩書が『副会長』であるのならば、わたくしはその重責を担い、共に走りたいのです、皆さまと!
今までの伝統を覆す程の熱量でこの学園を築き、高等部は楽しかったなと、全員に思って頂きたい。
高校生として過ごせるのは現在しかないのです。長い人生の中でたった数年の高校生活だからこそ、楽しかったと思える学園生活を送って頂きたいのですわ! 決して後悔などすることがないように!」
熱弁の途中、チラリと送られた視線。
……その視線を、彼は満足気に受け取った。
自分の後悔を敏感に察し取り、なおかつ「何とかしてやりてェ」いう、彼女の漢気に感動しながら、晴れやかな気持ちで演説の続きを待っている。
「共に創る開かれた学園! ですがそれは不平不満を垂れ流す場ではなく、より高みを目指す為にはどうすれば良いかを全員で考える学園! その中心に立てるのであれば、わたくしにとってこれほど有意義で幸せなことはありません。
皆さま、学びの場に立てる幸せを当たり前だと享受せず、家族や、己の環境や、支えてくれる友人に感謝をしながら高みを目指して行こうではありませんか! より良い学園は皆さま一人ひとりの理想が創り上げて行くのです!
この水無瀬 妃沙、副会長として皆さまと議論を交わし、共に素晴らしい学園に昇華していけるよう、万里一空の境地を求めて邁進して参りますわ!!」
壇上から発せられたとてつもない熱量に当てられでもしたのだろうか、ピンクの法被を着てサイリウムを持っていた人々ですら、盛大な拍手を送る程の大演説。
割れるような歓声と拍手が場内を包む。
それらを一身に受けた壇上の美少女──水無瀬 妃沙は、その愛くるしい顔に笑顔を浮かべ、会場内を堂々と見渡している。
理想の内容はともかくとして、その想いの強さや深さを知るには打ってつけだと知らしめた、一年生同士という異例の候補者による生徒会副会長選挙。
──満場一致、と言っても過言ではない程の得票数を得た水無瀬 妃沙は、こうして正式に副会長に就任したのであった。
◆今日の龍之介さん◆
龍「俺の声を聴けェェーー!!」(音割れ)
知「今日は充分語ったでしょ? 本編が長かったんだから自重しようね」
龍「何を言うか! 俺さまの理想はこんなモンじゃ……」
知「あー、ハイハイ。僕が聞いてあげるからおいで? ……二人っきりで、ね」
龍「アーー!!」
莉&悠「こら待て、知玲ィィーー!!」




