◆101.キレてないです。
翌日の文化祭二日目。
世間では多くの人々が休みとなっている週末をその日に充て、学園を一般開放する、いわゆる『勝負の日』である。
この鳳上学園の文化祭は非常に人気のある催し物なので相当数の人出が見込めるのだが、当然セキュリティの観点から誰も彼も自由に出入り出来るものではない。
生徒達に一人五枚まで渡された招待状、これがないと入れない決まりになっていた。
そしてまた、その招待状をインターネット等を介して販売したりした者は、その出所の生徒もろとも出入り禁止の処分が下されてしまう為、生徒達としても信用ある人にしか渡そうとしないので、一部ではプレミアチケットと呼ばれている。
このインターネットの監視には警察組織に多大な影響力がある東條家が一役買っていることもあり、毎年、和やかに文化祭が開催されているのはそのおかげによる所が大きいとの評判なのである。
そしてこの日は、執事の役目にあたる生徒は一日中衣装を身に纏って校内を移動することになっていた。
一部──主にお花ちゃんと呼ばれている某メイド──からは激しい抵抗の声が挙がったものの、喫茶室をアピールする良い宣伝だと、民主的な多数決により決定されたのである。
そしてその決定に従い、今、妃沙は用意された華美な執事服のまま、校内を楽しそうに移動しており、その横にはやたらと衣装がキマっている赤い髪の美丈夫……この学園の生徒会長である久能 悠夜が並んでいた。
「生徒会長、昨日の魔法研究部の発表はいかがでしたか?」
「なかなか盛況だったぜ! 特に俺達の共同研究の『天空水晶』は大評判だったな!」
その言葉を聞いて、妃沙の小振りな顔に満開の笑顔の華が咲いた。
執事喫茶ほどの派手さはないけれど、魔法研究部で悠夜と一緒にああでもない、こうでもないと論じ合い、時には険悪な雰囲気になった二人を宥めてくれる知玲の力も借りながら発表のその日……今日を心待ちにしていたのだ。
それは悠夜としても同じ気持ちらしく、チラリと視線を向ければ、満面の笑みを返してくれる。
生徒達……特に女生徒には笑顔を絶やさない彼だけれど、その笑顔には何処か作り物めいたものを感じていた妃沙。だが今、自分に向けられる笑顔にそれは全くない。
「俺はさ、同級生とか教師とか、ましてや専門家に褒められてもちっとも嬉しくないんだよな。だから今日の一般公開を心待ちにしてたんだ。
触って感動して欲しい対象は、たぶん子ども達、なんだよなー、きっと」
だから俺のチケットは親戚のガキ共に配ってやったわ、とカラッと笑う悠夜。
普段は俺様で自信家な生徒会長なくせに、語られる言葉は常に本気で嘘がないことをこの共同研究の間に深く理解した妃沙。
そしてまたそういう人物は嫌いではないどころか、心を砕く性質がある彼女なので、この文化祭準備中にすっかり悠夜を『弟分』認定してしまっているのである。
身体の年齢は悠夜の方が年上であるし、悠夜的にも妃沙は可愛い後輩で……今では好きな女だと認識している彼女が自分をそんな風に見ているだなんて予想もしていないだろう。
だが、妃沙にそのような認識を抱かせたことは、悠夜にとってある意味幸運なことなのである。
水無瀬 妃沙、彼女は一度懐に入れた人間は絶対に放出しない人間だから。
そしてまた、その場に入り込まない事には、友情というフィールドだろうが、恋愛というフィールドだろうが、妃沙の心には絶対に近付けない程に協力な盾が展開されているのだが、いつのまにか悠夜はその壁を突き破っていたのである。
「生徒会長……」
そう、呼び掛ける妃沙に、つ、と、悠夜が節くれだって長い、男らしさの中に繊細さの残る指……手フェチさんがこの場にいたのならば、知玲や、莉仁ですら敵わない程の美しい指で妃沙のその唇を押さえ、言葉を奪う。
「……妃沙、そろそろ『生徒会長』呼びは止めないか? 俺達は共同研究者、立場は対等な筈だ。いつまでも壁を作ってくれるなよ。俺は年の差なんか気にしないし、対等だと思ってるぜ」
ひ・さ・や
そう呼んで、と囁き、トントントン、と感触を楽しみながら、悠夜が妃沙の唇を突く。
突然に繰り広げられる、執事×執事の濃密な絡みに、周囲にいた……主に女生徒が「キャッ!」と声を漏らして携帯のカメラを構えたほどに、二人の纏う雰囲気は意味ありげで濃密だった……のだけれど。
「いえ、生徒会長であるからには敬意を持ってそう呼ばせて頂きますわ。これでもわたくし、生徒会長のことを尊敬しておりますのよ」
そう言いながら悠夜を見つめる妃沙の瞳に含む所はまるでない。
尊敬なんて念を抱かれるのは、悠夜的にはあまり好ましいとは言えないのだけれど……まぁ、それを起点にして攻めるのもアリか、とニヤリと笑う。
彼女に関しては、今までの経験や常識が全く通用しないのはイヤと言うほど知っている。それならば。
「妃沙がそう言ってくれるなら百人力だ。この文化祭が終わったら相談したいこともあるし……デートの約束もあるしな。
とりあえず、魔法研究部の研究を広く知ってもらう為に、展示の説明、頑張ろうな」
ニコニコと人好きのする笑顔を浮かべ、ポンポンとその頭を優しく叩く悠夜。
今、彼の心中に去来するのは、確かに恋心もあったのだけれど、妃沙と一緒に研究して完成させた成果を披露することに高揚する気持ちの方が強かった。
そして、文化祭が終わったら彼女に持ち掛けたい相談がある、というのも事実であった。
「はい、生徒会長! 二人で頑張ったのですものね、『天空水晶』の素晴らしさ、多くの人にお伝え出来るよう、わたくしも頑張りますわ!」
気合いが入るとフンスと鼻の穴が広がる妃沙の癖すら、悠夜には愛らしく映っている。
恋は盲目、とは良く言ったものである。
───◇──◆──◆──◇───
キャー、と子どもの歓声が上がる室内。
その前ではドヤ顔の執事(女)が鼻の穴を拡げてその研究成果について語っている。
「難しい原理は秘密なのですけれどねッ! まぁもっとも? 貴方達にお話したところで理解出来ないとは思いますけれどねッ!?」
「すっげー! すっげーーー!! なーなー姉ちゃん、もっと何か違うの見せて!?」
「望むところですわ!」
そう言った彼女が『天空水晶』に何かをすると、その小さな水晶の中に雹の塊が降り注ぐ。
うぉー! とかキャー! とか言いながら、楽しそうに手を叩く子どもたちの表情を見つめる執事──妃沙の瞳はとても優しいものであった。
「執事さん! 私、もう一度虹が見たいですー!」
「私も、私も!!」
そんな妃沙から離れた場所で、妃沙同様に執事服に身を包んだまま水晶を操作している悠夜。
表面上は笑顔を残しながら、心はこんな筈じゃなかったという想いに染められている。
彼の計画では、妃沙と並んで研究発表をしながら、二人で質疑応答をし、その研究結果を褒めて貰うという喜びを妃沙と分かち合う筈だったのだ。
それが今、妃沙とは引き離され、妃沙は子どもたちに、悠夜は女性達に取り囲まれて二人の接点はまるでない。
妃沙本人が楽しそうなのでそれは良いのだけれど、子ども達に自分の研究結果を見せたいのは妃沙よりも悠夜の希望であったので、少しだけ妃沙の状況が羨ましいのは彼だけの秘密だ。
だが、悠夜という人間は女性に期待され、おねだりされて、それを無下に出来るような人物ではなかったのである。
「良いぜ、子猫ちゃん達。君達の希望を叶えるのは俺の仕事だ」
キャー、という黄色い歓声が室内を包む。
魔法研究部はとても注目度が高い部活動なので、大きめの部屋を借りることが出来てはいるのだけれど、その客層は家族連れか女性客がほとんどという、万人にウケたいという研究者達の希望とは少し異なるものとなってしまっている。
もっとも、研究者の片割れ──水無瀬 妃沙は研究結果を語るのに夢中で、客層がどうだとかはまるで考えていないようであった。
「行きますわよ! 竜巻、雹、そしてラストは雷の大盤振る舞いですわー!!」
「うぉー! かっけェェーー!!」
妃沙の一角はボルテージが上がる一方で、その様相はまるっきり子ども番組のそれである。
そして観客である彼らの保護者は少し離れた場所からその様子を優しく見守っており、だがそれは案内人の執事(女子)の愛くるしさも一役を買っているのかもしれない。
だが、そんなほのぼのとした一角とは別に、女の子達を侍らかしている悠夜に対する反応は決して好意的なものばかりではなかった。
「すげーじゃん、色男さんよォー! 俺らにも使わせてくれね?」
やたらと大きな声でそんな事を言いながら、悠夜と女性達が群れていた一角に入り込もうとする男子高校生と思しき一団。
見れば、悠夜にキラキラとした笑顔を向けていた女子高生の一人が「ちょっと、止めなよ」と乱入者に声を掛けているので、彼女の関係者であることは一目瞭然だ。
もしかしたら彼女を想うあまり、他の男に目を向けているのが面白くなくて絡んで来てしまったのかもしれないけれど……それにしては相手が悪いと言わざるを得ない。
何しろ相手は良家の御曹司でイケメン、その上頭脳も優秀な俺様生徒会長なのだ、乙女ゲームのメインキャラにモブが勝負を挑んだ所で結末は目に見えている。
だが、チャラチャラとした雰囲気を纏う男子高校生の一団は、明確な悪意を持って悠夜に絡んでいるようだ。
やたらとモテる悠夜としては、こうしたやっかみには慣れているのだけれど、妃沙と一緒に創り上げた研究結果に水を差されたようで、何となく面白くない気持ちになり、らしくもなく相手を煽るような言葉を口にしてしまう。
「客は選ばねェぜ、小僧ども。もっとも、俺と妃沙の高尚な研究結果をお前達が理解出来るとは思えねェけどなぁ?」
女子に囲まれたイケメンがそんな言葉を投げ付けて来たとあっては、男子達が面白く思うはずもない。
なんだと! といきり立つ彼らに、悠夜は更に挑発的な言葉を告げる。
「時間がなくてなぁー。ボタン一つで色々な気象現象を見せてやりたかったんだけど、今の所、これは俺や妃沙、知玲みたいな魔力があって博識な人間にしか使えないシロモノだから、
申し訳ないがきっと坊や達には使えないだろうなぁ。子猫ちゃん達、説明は開発責任者に聞いたほうが効率が良いぜ。裏話も聞けるし……俺は君達の希望を叶えてやれるからな」
キャー、という黄色い声と。
何だと、という野太い声が室内を席巻する。
「ちょっと顔が良いからってイイ気になってんじゃーぞ! だいたい何だよ、天空水晶?
魔法研究部なんて大層な肩書きがあるからもっと派手なのを期待して来たら、天気を観察するだけとか意外とちゃっちいことしてるんだな」
アハハ、と嘲笑めいた言葉が響く。
男子高校生の側の女子はもう涙目でその様子を見ていることしか出来ないようだ。
そして、その言葉を受けた悠夜は、珍しく憮然とした表情でギュッと拳を握り、それでも表面上は冷静を装って反論を試みているようだ。
「負け惜しみは格好悪いぜ。この原理も理解出来ないくせに粋がってもダセェだけだし、負け犬は遠くで吠えてろよ。
俺につっかかったって子猫ちゃんに良い所を見せるどころかマイナス評価になるだけだって気付いてないなら教えてやろうか?
お前がどんなに俺に絡んだって無駄なんだよ、無駄。妃沙と二人で研究したこの天空水晶の価値が解らないような奴に説明してやる時間も余裕も俺にはねぇから、早くここから出てけよ。邪魔なんだよ」
一触即発の雰囲気。
俺様ではあるけれどこんな風に煽りに乗ったり相手を馬鹿にしたりするような態度をすることは決してなかった悠夜。
それが生徒達からも認められ、親しまれているからこそ生徒会長という要職を務める事が出来ているし、生徒からの信任も厚いのであるが、この日、馬鹿にされたのが自分自身ではなくてその研究結果であることに、彼はとても憤っているようだ。
そして、この場には悠夜同様……いや、それ以上にその他校生の言葉に憤りを感じている人物がいた。
悠夜の共同研究者である水無瀬 妃沙──我らが主人公、その人である。
いち早く悠夜がいつになく怒っているという事態を察した妃沙……この場合、相手をしていた子ども達に危険が及ぶと優秀すぎる危機管理能力が警報を告げたので、室内の客に「少しメンテナンスしますから他をご覧下さい」と誘導は完了している。
そしてまた、妃沙としては思いっ切り啖呵を切る自分というのを晒すと知玲や莉仁に怒られる確率が高いのであまり他人に見せたいものではない、という理由もあるのだ。
なお、何故だか悠夜は大丈夫だという確信があるのだが……それは本能に近い所で感じていることなので深い意味はない。
とにかくこの時、珍しく頭に血が昇っているらしい悠夜と同様に、自分達の研究をバカにされたような気がして、妃沙も人一倍腹を立てていたのだ。
そして……元ヤンが腹を立てたらどうなるのかは、お察しの通りである。
「あらあら、生徒会長らしくもない。子犬の相手などしている余裕はございませんでしょう? お客様はたくさんいらっしゃるのですから」
ねぇ、と言いながら嫣然と微笑み、悠夜の腕を取る様には当の悠夜ですら見惚れてしまった程なので耐性のない他校生などひとたまりもない。
今の服装は貴族の令息めいた華美な衣装ではあるのだけれど、今、その衣装は悪役令嬢めいた表情を彩る為にも一役買っているようだ。
内心は酷く憤っている妃沙だけれど、この身体になってからというもの滅多にこんな風に『怒り』を露わにすることもなかったので、そうした時の妃沙は前世(龍之介)の意識が強く前面に現れるようで、やたらと黒いオーラを纏ってしまう。
『子犬』と揶揄された他校生も、その迫力に飲まれて何も言う事が出来ずにいるようだ。
「お客様方、本日はわたくしたち二人の研究をご覧いただき有り難うございます。少し難しい原理を使用しておりますが、そんな事は考えずに純粋に楽しんで頂ければ良いな、と思って発表したのですけれど……。
その価値を見出して頂けなかったようで、自分の力量不足を感じておりますわ……。
けれど、お陰さまで更なる研究に邁進しようと決意出来ましたし、出来ましたら少しご意見を頂戴したいのですけれど、お時間はございます?」
しゅん、と眉毛を下げてそんな事を言いながら、次の瞬間には空気圧がどうだとか水蒸気の濃度がどうだとか、果ては光の三原則についてまで語り出した妃沙。
当然のことながら、悠夜に絡んでいた面々はチンプンカンプンの表情で、滔々と語る妃沙に何も言うことが出来ず、ただ黙って見つめることしか出来ない。
もしかしたら、妃沙の放つ美貌に圧倒されてのことかもしれないけれど、確かに、一般的な高校生が理解するには、その内容は酷く難解で専門的なものだったのである。
「わたくしとしては雲の形も自由に変化させられれば良いなと思っているのですけれど、それには風の向きですとか水分量、空間における密度等も関係して来ますでしょう? なかなか一筋縄ではいかないのですわ……。
この研究を『ちゃち』であると断じた貴方様なのですもの、きっと一家言お持ちなのですわよね? どうかこの卑小な存在のわたくしにヒントを与えて下さいませんか?」
そうして相手の手をキュッと握り、ウルウルと涙すら滲ませてにじり寄る妃沙。
その涙は演技だとかあざとい意味はまるでなく、怒りのあまり目を見開いたままでいたことによる生理現象なだけなのだけれど、効果は絶大だ!
「お、俺は……君にこの天空水晶の説明をして欲しいなって……」
「ハァ!? 何言ってんの!? デレデレしてんじゃねーよ!!」
男子生徒の豹変ぶり以上に豹変した、隣に居た女子に、妃沙ですらおう、と息を飲んで黙ってしまった程だ。
だが彼女は余程腹に据え兼ねたのか、その勢いのまま捲し立てている。
「何なんだよ、テメェは!? 人がイケメンを堪能してたら邪魔してくるわ、ちょっと嫉妬したのかと思って喜べばあっと言う間に他の女にデレデレするわ! 態度に一貫性がねぇんだよ!!」
言いたい事はこれだけじゃねぇからちょっと来い、と、男子生徒の耳を掴んで室内から出て行く様は妃沙が見たどんな人物よりもよっぽど男前であった。
そしてまた、自分が啖呵を切り、喧嘩を売っていた筈なのに、いつのまにかその対象を掻っ攫われてしまったことに拍子抜けして溜め息を吐いていたのだけれど。
「アッハッハ! どんな男も、好きな女の前では形無しだな! それにしても妃沙……お前の豹変ぶりも相当ヤバいな。こんなに笑ったの久し振りだぜ……!」
自分の隣で腹を抱えて笑っている美丈夫な生徒会長──久能 悠夜。
彼がいつの間にか戦闘モードから復活していたことに安心していたのであった。
「一般公開ともなれば、あのような方がいらっしゃることも想定するべきでしたわね。わたくしもついアツくなってしまいましたわ」
「いやいや、俺こそ……。万人に受け入れられる研究なんて、たかだか高校生の分際で成し得る筈がないよな。ちゃちい……うん、まぁその通りだな。
でも俺はここで立ち止まるつもりはないし、今出来る最高の研究結果を詰め込んだつもりだし……」
悠夜が楽しそうにそう語るのを、妃沙はフフ、と微笑みながら見つめている。
彼女とて、今、この状態の天空水晶が完成品だとは思っていないけれど、今出来る成果の全ては詰め込んだつもりだ。
そしてまた、生活を劇的に変化させる程の効果はないけれど、それを彩るものとしてはとても興味深い出来になったと自負している。
お互いに何かと忙しい合間を縫って二人でここまでの物に仕上げた研究結果には、それなりの自信を持っている妃沙だ、出来れば多くの人にもそれを体感して欲しいと思っているのである。
「楽しくやりましょう、生徒会長。けれど、この発表は、今、わたくしたちが出来るベストだという自信は持って臨みましょうね。わたくしたちがまだまだだと思っていては、お客様に最高のプレゼンをすることなど叶いませんもの」
ああ、と微笑んで返事をする悠夜の笑顔は、いつもの自信家めいたものとは違い、キラキラとした一人の高校生のそれであった。
その眩さに、妃沙ですらいつもそんな風に笑っていて欲しいと思ってしまった程だ。
「ところで今、説明をしながら思い付いたことがあるので、その効果も追加したいのですけれど」
「おお、それは良いな! 完成はしていないが、こんな風にブラッシュアップして行けるのがこの研究の強みだよな!」
その通りですわ、と、妃沙が満面の笑顔を悠夜に向ける。
こんな風に一つの研究に没頭し、その発表を心待ちにし、そして……一つの存在に心を動かされることに人並みな幸せを感じている悠夜は今、とても良い『高校生』の表情をしていたのであった。
◆今日の龍之介さん◆
龍「おー! 連れて行かれた男子、思いっ切りほっぺた抓られてんな。すげぇな!」
悠「……俺はお前の豹変っぷりの方がおっかなかったけどな」
龍「そりゃまぁ……頑張った研究を茶化されたら頭にも来んだろ?」
悠「ハハ、まぁな! お前がキレなかったら暴動が起きてたかもな!」
龍「だろ? 俺達、ちょっと似てるのかもな!」
悠「……かもな」




