一章 僕が社になった日 3
「社?何?と言うと?」
そもそも僕には契約した記憶がないので全く理解することができなかった。
「あなたは何故か知っていた契約方法で私と契約し、私の社となったのです。先程説明した神社があなたになったのです。あなたが生きている限り私も生きていられます。もちろんお小遣いはくださいね。5円ではなく。」
つまりは何らかの方法で僕は彼女にとっての神社になってしまったと言うわけであるのか。
「その契約の方法。もしかしたら叔父さんの書庫で見たかもしれないな。」
「あなたの叔父さん?」
僕の叔父さんは書庫にとてつもない量の奇妙な本を保存している。
幼い頃から時々叔父さんの家へ遊びにいっていたのでその時読んだ本が原因と考えられた。
「なるほど。何らかの古い書物であれば確かに契約方法は載っていたかも知れませんね。」
「原因もわかったしこれからどうするかな。」
今、いる場所をよく確認するとあの潰れていた神社の境内の中と言うことがわかった。
「これからですか。そもそもあなたはなぜこんな辺境の地へ来たのですか?」
「僕は叔父さんの家へ遊びに行く途中だったんだよ。」
掘り返してみれば僕は叔父さんの家へ向かってる途中で神社へ寄り道したのだ。
「では叔父さんの家に参りましょうか。」
「いやそれはどうしようかな。えーっと、お狐様?」
「お狐様のように堅苦しくお呼びにならなくともいいですのに。」
「そう言われても実際、神かわけじゃないですか。」
するとお狐様はニコりと微笑んだ。
「まるで今、気づいたように敬語にしなくても構いませんよ。私のこれは生まれつきなので。名前の方も……そうですね。ではあなたが決めてくださいません?
「やはり敬語にしましょう。名前……ですか。そうですね。きつねちゃんでいいじゃないですか?」
「……ネーミングセンス無さすぎですね。」
お狐様に冷たい目で見つめられてる。
「じゃあこんちゃんは?」
「ペットの名前みたいなのはやめてください。」
「そこまでおっしゃるのなら取っておきを。最初から考えていた、巫女のような服装なので美狐、というのはどうでしょう。」
「最初から取っておきにしてくださいよ。美狐、もうそれでいいんじゃないですか。そういえば今ごろなのですがお名前を聞いていませんでしたね。」
「僕の名前は鬼灯隼汰です。質問なんですが僕達離れて行動することできないんですか。」
「そうですね。厳しいと思いますよ。なぜです?」
「いや、トイレとか普通にできるかなと。」
「トイレは普通にできますがおふ……。ん?何か来ます。伏せてください隼汰さん!」
そうお狐様、美狐が叫んだのでとりあえずかがんだ。
すると頭の上をあり得ない速度で槍が飛んできていた。
「な、なんだ急に!」
「たぶん私を仕留めに来たやつらですね。とりあえず隼汰さんは私の後ろに。」
そう言って僕を庇う形になった美狐は何かを唱え始めた。
すると再び体が光輝き始めた。
「あいつらはお前さんには興味がないじゃろうからお前さんは逃げるのじゃ。」
「の、のじゃロリ?逃げろって……どこに?」
のじゃロリは頬をぷくっと膨らますと怒ってるような顔をしていた。
「なぜ儂抱け変なあだ名を……まあ今はとにかく走るのじゃ。お前さんの叔父上のところでもよいし来た道を帰るのでもよい。お前さんが死んだら儂も死ぬのでな。」
「わかった。とりあえずどこかへ隠れるよ。」
先程の話の通りだとすると今、僕はのじゃロリの社になっている。
僕がいても足手まといになりそうな雰囲気だしここは逃げると決め込んだ。
「飲み込みが早くて助かるわい。」
のじゃロリがそう言うと草木を掻き分けてどう表現するべきかも分からないこの世のものでは明らか無い『なにか』がこちらへ向かってきた。
「なんじゃこの生物は。とりあえずお前さんは逃げるのじゃ。」
「あいつはいったいなんなんだ!」
その怪物は僕の質問へ答えるかのごとく雄叫びをあげた。
「知らぬ。今まで見たこともないの。」
その怪物は走りだすとこちらへ向かってきた。
「いかん!」
美狐は何かを唱え始めた。
すると美狐の回りの空気が変わった。
空気が揺れ空間が歪み全てを呑み込むかのごとく。
その時空の歪みが怪物の右腕を飲み込んだ。
「よしやった!」
「いや、まだじゃ!」
するとその怪物の体がすこし光ると消えてたはずの右腕が戻っていた。
「どうやらあれは魔術で作られた人形のようじゃの。そうとわかればあとは簡単じゃ。術者を殺めるかあれを粉々にするか魔術的に封印するかじゃ。とりあえずお前さんは逃げい。」
「わかった。とりあえず走る。」
僕がくるっと後ろを向き走り出すと怪物も僕の方に突進する形で向かってきた。
「なんじゃと!そういうことか……。狙いはお前さんか!」
だがその怪物の攻撃を僕が食らうことはなかった。
その怪物の背中を光る矢が刺さっていた。
ふと怪物の向こう側の美狐を見たが驚いている様子だった。
つまりこれは美狐以外の何者かがやったことになる。
「誰じゃ儂らを助けてくれたのは。」
美狐は僕へ駆け寄ると怪我がないことを確認しそう言った。
「あの木の上から射たれておったが射った本人が見えんかったの。これは鬼の弓じゃな。どうやら封印したようじゃ。」
僕は酷く動揺していた。
「どうしたのだお前さん。やはり怪我をおったのか?」
美狐が心配そうに僕の目を覗き込んでいる。
「いやいろんなことがここ数時間の内に起こって驚いただけだよ。」
「とりあえず安全な場所へ向かうかの。」
僕の心臓はあり得ない速度で鳴っていた。
「叔父さんに迷惑かけるわけにもいかないし僕の家へ帰ろう。ここからはそう遠くはないよ。」
「ではとりあえず向かうかの。」
「ここからは電車で一本かな。」
そこから僕達家に着くまでの間、はひたすらに無言だった。