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アニマル喫茶始めました。  作者: ネコモドキ
春は出会いの風が吹く。
7/7

四月二十三日 家庭菜園始めました。 前編

 

「えー、今日はぁ………家庭菜園をしまーっすっ!!」


「「「イェーイ!!」」」


「ハワイに行きたいかー!!」


「条約違反になるから無理でーす!!」


「日本サイコォー!」


「「ふぉー!!」」


「おいおい、卯月くん、どうしたんだい?ノリが悪いぞ、NO☆RI☆が!」


「…………帰りたい」


「今日は、朝まで帰さない、ZE☆」


「「「イヤッフーゥ!!」」」


 家庭菜園である。

 長編をズバッと切り捨てたばかりか、数ヶ月ぶりの更新だと言うのに、一言目で肥溜め行きが決まった。多分、オチがなくグダグダするパターンだ。

 と、言うわけでグダグダ行きます。(作者)


 ☆


「あっつい……」


 それは誰が言ったものか。普段の2割り増しで盛況している今日に限って、気温は三十八度を越えていた。今はまだ四月の半ばと言うのに、まるで真夏の如き蒸し暑さ。この非常事態にクーラーさんはまるで役に立たず(掃除してなかった)、アニマルズの暑さに弱い面々がダウンしていた。お客さんの中にも、クーラーが動いていないと知るや、すぐさま踵を返す方もチラホラと……


「あっつい……」


「あついと言うと、余計暑く感じますので、口を閉じでいて下さい、店長」


 今日も今日とて、ダンディな口髭の似合う声色のうさぎは、店を忙しなく行き来していた。


「だってこんなに暑いんだよ!?まるで今日だけタイムスリップしたかのような気怠さ!抜け毛の季節ももう直ぐDANE☆」


「店長脱落ー、と」


 ウインクしたまま仰向けに倒れる店長うさぎ。僕はうさぎを直接見る事も触れる事も出来ない体質なので、専用のトングで休憩室に放り込んだ。


「かっ……」


 バタン。店長のクレームを聞く事なく、僕は扉を閉める。完全防音のされたこの休憩室は、いつも自身の役割を全うしてくれる。いっそ感動的とでも言える程に。


 カリカリ。カリカリ。


 後ろで扉を引っ掻く音。リスみたいでかわいいな。ーーなどと思わず、寧ろ黒板カリカリの50倍は寒イボが立った。

 取り敢えず、扉を蹴っておいた。



「五番テーブルオーダー、アイスコーヒー、カルボナーラ、アイスティー、素パスタです」


「了解しました」


 どう考えても組み合わせというか、そもそもメニューからしておかしいオーダーに何一つツッコミを入れる事なく黙々とパスタを茹でる料理人コックさん。

 カバの西兎地さんだ。些か職人気色の傾向にあるらしく、料理自体は美味しいのだが、こうやって寡黙になる事が多い。ーー料理は美味しいのだけどね?あ、そこ、カバが料理作るなとか言わない。

 そんな西兎地さんだが、身体中が赤い。遠目で見たら血と見間違う程に。


「西兎地さん………」


「はい?」


 相も変わらずお兄さんと言うか、頼れるにいちゃん!みたいな存在感を醸し出しつつ、料理の腕は一切止めない。


「その……背中が……」


 思わず言い淀んでしまう程、彼の背中は真っ赤だった。ここに、おもちゃナイフでも突き立てようものなら、周辺一帯がパニックになる自信がある。


「ああ、すみません……着替えてきますよね……」


「お、ねがいします……」


 この店のキッチンは、お客さんに見えるような吹き抜けになっている。元がバー兼自宅だったらしくキッチンが二つあるという謎仕様。

 調理場は見えるか見えないか、くらいなのだが、右手奥のテーブルからはバッチリ調理場が映るポジション。西兎地さんの少々グロテスクな背中が白日の下に晒される。(意味違う)


「体質の問題って難しいですよね」


「そうですね。こればかりは変えようと思っても変える事の出来ないものですから」


 場所は変わって男性用更衣室。それぞれのアニマルに合わせ、サイズを多く取り扱っているのが特徴だ。

 その中、入り口から二番目。奥広かつ横長縦長のロッカーの前には、数十枚の赤に濡れたタオルと西兎地さん。後僕。

 知っている方も多いと思うが、カバの汗はピンク色だ。取り敢えず、結論だけ言うと、背中に広がるその紅色は結構グロい。毛穴が見えるレベルでじっくり観察すると、少々食欲を無くすレベル。

 まあ、本人も言う通り、体質ってのは変えようと思って変えられるものじゃない。僕も、変えたいと物心ついた頃から羨望して止まないのだが、今日に至るまで少しでも変化した試しがない。

 西兎地さんの、悲しげな言葉に心を痛めるが、僕はこう言う切り替えの早い方なので、無視してホールへと戻る。


「おう、卯月!西兎地さんどうだった!?」


「マリッジブルーだったよ」


「紅いのにか!?」


「紅いのに、だよ」


 遅ればせながらすみません。僕の名前は鈴宮卯月。鈴宮家の長男坊です。そしてこちらの爬虫類然とした伸びた顔。チロチロと怪しく動く赤紫色の舌。クリッとしたある意味恐怖的な瞳。コモドドラゴンの兎尾さんです。コモドオオトカゲとも言う。こんな顔で、(あまり関係ない)こんな喋り方ですが、女性の方です。メスです。


「んで、マヨニィ〜ずの出番はまだか!?」


「永久欠番かな?と言うか、カバにどストレートな脂分っていいの?知らないけど」


 こんな顔ですが(あまり関係ない)、兎尾さんは重度のマヨラーです。マヨネーズをマヨニィ〜ずと言うのは少なからずマヨラーです。マヨネーズに心を許しているからです。(適当)


 嘘です。摂取したマヨネーズの密度によって分かります。


「兎尾さん、暑いけど大丈夫?」


「んーまあ、干からびてしぬよかマシだし?」


「日本にそんなスポット、K県のS市他2市くらいしか無いんじゃないかな?」


 少なくとも、この街で干からびて死んでいるのを見たのはミミズとカエルくらいしか無い。


「ふーん………ま、どうでもいいか」


「そだね」


 本当に興味を示していない風に呟き、兎尾さんはホールの仕事へと戻っていった。一見さんのいる辺りから悲鳴が聞こえたけど、知らないったら知らない。


「………んで?猫音さん、いい加減起きて?」


「にゃーん………」


 色彩を忘れたような、透明感のある白髪が元気なさげに揺れる。そのままふにゃ〜と息を吐き、体全体が脱力する。幽鬼のように垂れた手がヌベッなんて音を立てて地面に着くと同時、ピョコッと、耳と尻尾が生えた(・・・)

 右に左にゆらゆら揺れる耳と尻尾は、ごめん今ムリと言っていた。いや、バイト代発生してんだからやれよ。

 音羽猫音さん。本来であれば大体四万文字くらいの、(この小説からしたら)長編のヒロインであった人。ヒト。ネタバレになるからこれ以上は言えないが、純粋な人でない事は確かだ。この、自身の意思で揺れる耳と尻尾を見れば明らかなのだが。

 で、猫音さん。絶賛夏バテ中だった。夏バテしたアニマル(三匹?一人と二匹?)の中で最も重症だった。ランクで表すと☆5くらい。レア度は最高だ。


「取り敢えず猫音さん。邪魔だから向こう行ってくんない?」


 猫音さんは、この喫茶店のダブル看板娘だ(勿論、兎尾さんではない)この日の集客も、猫音さんの夏バテ姿を見に来た中年男性が大半を占める。まあ、だからと言って、ソファー席の一つをよりにもよって従業員が占領するのは倫理というか、論理というか、に反してるし、もし猫音さんに悪い虫が付くものなら、猫音さんの親御さんから後でクレーマーと言う名の残虐が僕に待っている。理不尽。


 この世の不条理を嘆いていると突然、中年男性の眼鏡の奥がキラリと光り、イェーガーが如く鷹の目を細める。ガタッ。中年男性が立った。ハイジ風に言うと『吉田(名前)が立った!』チョットナニイッテルカワカラナクナッテキタ。


 猫音さんの気ままに赴くままの尻尾が原因だ。恐ろしく簡潔に言えば、スカートである。猫音さん用の制服が未だ用意されてなくて、学校の制服を着用しているのだ。正直、不衛生だしなにより、人目を引きやすいのでやめて欲しいと言うのが本音なのだが、今の所それがまた人気なのも事実。世の中、ナニが流行るか分からないものである。

 んで、当然人に紛れて生活をしている猫音さんのスカートには尻尾穴など空いていない。ナカが見えるのだ開けるはずがない。と言うのも、見えていないのだ。どうやら、見える人と見えない人がいるらしく、(僕は見える方)時たま学校でも喫茶店でもスカートが独りでに上下する珍現象が見えるそう。

 一部では『神風』と言うらしい。(死ぬ程どうでもいい)


「猫音さん。もうそこでだらけていいから、尻尾と耳を戻してくれない?」


「んにゅ……わかったぁ……」


 取り敢えず、今の所は盗撮など犯罪的な事は起きていない。ここで、万が一にでもネットに猫音さんのワーオ♡が晒される日が来るのならば、僕は多分、この町の一番目立つ場所に口に言えないような、ここに書けないような事をされて、晒されるだろう。


「んっ」


 ズポッ!

 漫画的表現だとそんな感じのでっかい効果音を出して、耳と尻尾が引っ込んだ。正直、物理的とか科学的とかは完全無視した法則だ。や、法則に則っているのかも分からない。今度、レントゲンを見て見たいと思った。


 またもやダラダラし出した猫音さんを尻目に、ホールの仕事を再開する。西兎地さんが戻って来るのにいい時間だろうし。


「あら、卯月くん。ありがとね、店長さんの事」


「いえいえ、それも、仕事の一つですので」


 そもそも、この店で働くのを決意したのが、学校から出された強制的な飼育当番である。飼育当番が嫌だから逃げたなどと侮るなかれ。先程も言ったと思うが、僕は小さい頃のトラウマが原因でうさぎを触る事も見る事も出来なくなった。それらをしようものなら吐くレベル。それを、一対多数で密閉空間に入れてみろ。死ぬぞ?………自信はある。

 で、突然話しかけて来たこの従業員。メスゴリラの叶兎さんである。アニマルの中で一番ありそうな名前だと記憶している。

 何故メスゴリラかと言うと、初対面の際に目に焼き付いたブラジャーが離れないからだ。黒の、バラの細やかな刺繍の入った大人なブラジャー。特殊な糸を使っているのか、黒い毛に埋もれているにも関わらず、その光沢が目に痛い。流石は飲食店。モラルをきちんとしてんだな。と、感心さえしてしまった程。(普通のゴリラってまっぱだもんね)


「ところで………」


「はい?」


「今日のパンツ何いげぇ」


 僕が手に隠し持っていた赤い、ドクロマークのボタンを押すと、どう言う仕掛けか、叶兎さんを特殊加工した注射型の麻酔針が襲う。

 なんでも、中身がアフリカゾウでも秒のかからないうちに昏倒させるという優れもの。実際、ここのアニマル全員に試して、効果の程は僕が一番知っている。店長なんて死にかけたくらいだし。

 なんでアフリカゾウなのかは知らない。多分、宗教的な問題。


「んっ………ぐふ、……愚負負負負………」


 暗雲としたオーラが眠っている筈の叶兎さんから立ち込める。空気が悪くなりそうなオーラ。空気洗浄大事だと思った。

 因みにだが、嬌声やら狂声やら凶声やらが混じった場合は要注意である。発情してるから。あ、今みたいな状態。


「『愚、屁、屁屁屁屁屁屁屁屁………非、非非非非非非非非ィギイッ!アァッ!アッ!アァンッ!』」


 ポチ。ポチ。ポチ。ポチ。

 計四連射である。死ぬかも?と思ったが、ここのアニマル達は想像を絶するレベルでしぶといので、まあいいやと思った。


「ァ……アァッ、ンンッ……」


 その、想像を絶するレベルでしぶといと言うのも、これを初めて使った際、叶兎さんは一発で夢の中へと旅立った。それが今はどうだ。たっぷり数秒使い、AV (アニマルビデオ)などで嫌々ながらも本心のところは歓喜しながら調教される身持ちは固いが発情すると手のつけようがない未亡人メスゴリラみたいな嬌声を上げながら夢の世界へと旅立つ。ゴリラのくせに器用だな、と思った。これで猫音さんと肩を並べる看板娘なのだから、世界は広いなとも思った………まる!


 ハンドリフター(ウォークリフトの手動的な物)を使い、叶兎さんを休憩室の檻の中へと押し込む。この一連の作業も最早慣れた物と化している自分が嫌になった。

 尚、店長は休憩室にいなかった。多分、逃げ出したんだと思う。外鍵だけど、マスターキーは店長が持ってるし。


「ううん………」


「ああ、大して用事ではないので、そのままゆっくりしていて下さい、兎江野さん」


 代わりと言っては何だが、パンダの兎江野さんがいた。兎江野さんは、前の職場(動物園)で酷い虐待を受けていた為、人間に強い恨みを持っている(現実でそんな事したら国際問題に発展する恐れがありますので、ここは特にフィクション色が強いです)

 そんな兎江野さんだが、かなりぐったりとしている。なんなら、溶けてしまいそうな程に。


「いつもとお変わりないように見えますが………大丈夫ですか?」


「いつもと変わりないから大丈夫だよ〜。後数分休んだら行くから」


 パンダの消費カロリーはかなり高い。あの巨体なのだから当然と言えば当然なのだが。本来、パンダは肉食動物だ。その膨大な肉のカロリーを笹で補っている為、笹を食べる量は増えるし、動けなくなる時間も増える。恐ろしく燃費が悪い。


「はぁ………矢面に立てとは言いませんから、今はゆっくりとしていて下さい。貴方はウチの二代マスコットなのですから(勿論猫音さんと)」


 猫音さんは、看板娘とマスコットを兼業しているのだ。


「うぐぐ………新入りの子に色々仕事を任せてしまい申し訳無いです……」


 そう思うなら肉喰って欲しい。まあ、笹を食べ慣れた身体に許容量以上のカロリーを詰め込んだ場合、どうなるか想像も付かないので未だ誰も言わないが。


「あ、ところで店長何処に行ったか分かります?早く連れ戻さないと」


 仕事をするにしろ、しないにしろ、店長の存在は僕の精神的問題に大きく関係してくる。

 なにより、幾ら不倶戴天の相手だろうと熱中症で死なれてはこっちの気分が悪い。


「ああ………裏庭に行くと、言ってました……」


「裏庭?」


「はい、スコップと麦わら帽子、後タオルと水筒完備で」


「いえ、ではなく……」


 裏庭ってなんぞや?ここで働き始めて早半月。だが、僕はいつも表玄関から出勤しているので、裏玄関周辺の存在を知らない。ゴミ出しも気付いたら西兎地さんがやってくれてるし。


「ああ、そう言えばまだ言ってませんでしたね。実は、店長の趣味の一つに、家庭菜園があるんですよ」


「家庭菜園?」


 訝しげに聞き返す僕に対して、兎江野さんは困ったような、或いはサプライズが成功した子供のように首を傾げ、ハハハと笑う。


「行ってみれば分かるかと思います。それに、今日はもう閉店ですよ」


「え?」


 この店は、週末、祝日は9〜12時、2時間の休憩を挟んで、14〜17時、平日は7〜11時、3時間の休憩を挟んで、14〜19時までの営業となっている。今日は第三土曜。17時は勿論のこと、12時にもなっていないのに?


「ええ、店長の鶴の一声で。まあ、店の中で熱中症患者を出す訳にはいきませんから」


 それに、クーラーを今日中に業者さんに頼むそうです。と、まあ尤もらしい理由と共にウインクを一つ。取り敢えず、17時まで暇が出来た僕は、裏庭とやらに行ってみることにした。


「軍手と帽子とタオルと水筒を忘れずに!お茶は勝手に取っていいそうです〜」


「はい、ありがとうございます」


 冷蔵庫からよく冷えた麦茶、更衣室から軍手と帽子とを拝借して、裏玄関へと通じる廊下に出る。飲食店なのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、やはり埃一つ落ちていない、純白とも言える廊下。ターンッと、リズムを足裏で刻みながら、僕は鉄製の、銀の塗装がされた扉を開ける。


「へぇ………」


 そこは確かに畑だった。確かに、テレビで見るよりは規模が幾分か小さい。けれど、個人でやるにしては中々立派だと言えるのではないだろうか。

 彼方此方に瑞々しい緑が生い茂り、チラホラと見えるのは赤や黄色と目にも楽しい。青臭い香りと土独特の仄かな香りが風に乗ってツンと鼻に来た。形骸的だが、極めて低レベルな感想だが、ここだけまるで、異世界のようだった。


「やあ、ここに招くのは初めてだね、卯月くん」


「そうですね」


 僕は振り返らずにその声に返答する。誰なのかは分かっている。この、ハードボイルドな腹に溜まる感じの声は、間違いなく店長だ。僕は最近、店長を見ることなく会話するという行為に、罪悪感を感じなくなった。


「どうだい?見事だろう。トマト、バジル、じゃがいも、玉ねぎ………流石にこれ以上増やすとなると手間がかかるが、幸いな事に今年は従業員に恵まれた。ーーー良ければ、ここの管理をたまに手伝って貰えないだろうか?勿論、時給のアップも考えるし、なんなら試食も……」


「店長」


「……なんだい?」


「やらせて下さい」


「そっか、ありがとう」


「いえ」


 なんだか、くすぐったい感じ。そう言えば店長と、こんな真摯に会話したのは半月前……面接の時以来か。


「でだ、従業員に恵まれた今年。実は、もう一種類増やしたいと思ってたんだが……」


 勿論、家庭菜園の範囲、でな。と、僕に問うてくる。僕としてはまず、家庭菜園自体経験がないので、管理が出来るのなら良いのでは?と、軽く返事をした。ーーしてしまった。この、棉よりも軽い判断が、後に僕を苦しめようとはーー店長は勿論、僕も予想だにしなかった。


「ところで、店長。一体何を新たに植えるんですか?」


「ああ、これだよ、これ」


 そう言って店長は、こじんまりとした手で写真を出して来た。カラーだが、古ぼけた感じのする写真。後、手なら大丈夫と言う僕の謎体質。


「………?店長、コレは……」


 写真には、一本の植物が土から生えていた。根菜……なのだろう。人参やゴボウ、大根なんかと同じ。栄養価が高く、調理次第によっては何事にも使える万能野菜。

 ただ、その出ている葉っぱ部分だけでも珍妙と言うか、奇妙と言うか、奇々怪界、摩訶不思議………まあ早い話、葉の形が『手』なのだ。紅葉型とはまた違う、彼方よりも若干リアルな感じの。指の節がきちんとあり、第三関節まで再現されている。対して、親指に該当するであろう葉は、第二関節しかなく……基本緑なのだが、所々で濁った赤をしているので普通に不気味だ、形自体も、紅葉型なのだが、なんだろう………迫ってくる感じ?貞○の、あのグワッ!て言う手。


「え、と、コレは………何なんですか?」


 確かに、僕は植物に関してある程度知っている……と自惚れるつもりはない。ある程度とは、もっと知っている。と言う事なのだから。が、ここまで印象の強い葉を、何処かで、チラリと見ただけでも忘れるだろうか?いや、忘れない。忘れられない。それだけの存在感を、写真の向こう側という事を抜きにしても、醸し出している。


「これ?これはねぇ………」


 ムフフフ………ッ!なんて、視線の外れた所でそんな声がする。直接顔を見る事は出来ないのであくまで想像の範疇ではあるが、口で手を覆い、ドヤ顔をかましたウサギがいるだろう。


「ーーマンドラゴラだよ」


「………はぁ?」


 まだ見えぬ店長の顔を想像したら吐きそうになったので必死に腹をさすっていると、聞きなれない単語が、鼓膜を揺らした。




「卯月と……」

「彩月のーー!」

「【うさパラストーリー!】」

「イェーーイッ!!」

「いえー……」

「どうしたの卯月、テンション下げ下げじゃない」

「いえ、本編で結構頑張ったし、オマケくらいは手を抜いてもいいかな、と……」

「駄目よ卯月!そもそも、どうしてこの人気でも不人気でも、と言うか存在自体知られていない小説にオマケがついてるかお分かり?」

「姉さん今日はズカズカ行くね」

「そう!お詫びの為!O☆WA☆BI!作者が3、4ヶ月だっけ?停滞しなきゃ、わざわざこんな謎空間にまで転移してこないわよ」

「作者もリアルでなんかあったんじゃない?」

「それはSO☆RE!これはKO☆RE!」

「姉さん今日はゲジゲジ行くね」

「そもそも!そもそもよ!新生活が始まるからってウキウキしてた矢先!毎年行ってるイベントの存在自体忘れて?その一ヶ月後に財布無くして?後日戻って来たら中見抜かれてて?よっしゃ気分変えてサイクリングでも行くかと自転車を走らせた所空気抜かれてて?いやでもまだ心は折れてないと発進したら細工がされてたらしくトンネル内でタイヤが爆裂して?通行人A、運転手1にこってり叱られて?まあタイヤの爆裂音なんて初めて聞いたね凄かったと自分を鼓舞してみた所三日後急に虚しくなって膝を抱えて部屋の隅っこでウジウジ言ってる暇があれば書けと思うのよ」

「立て続けに色々起こったから結構心身ともにくるものがあったんじゃない?」

「それでもよ!」

「姉さん今日はガンガン行くね」

「あ、もうこんな時間!じゃーーーんけーーん……」

「え、ここでじゃんけん行くの?」

「ポンッ!(パー)うふふふ……(おててフリフリ)



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