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アニマル喫茶始めました。  作者: ネコモドキ
春は出会いの風が吹く。
4/7

四月十四日 アニマル喫茶始めました!!


これで、今日の分の投稿は終わりです。



「さーて……まずは近くにいる人?は……」


 ふと、厨房のほうを見る。カバが器用に、異様に、面妖に回鍋肉ホイコーローを作っていた。

  何故か、体躯はテレビで観るのより一回り小さく、大きめの大人くらいの大きさだった。まあ、それでも厨房にはキツキツだったが……

 手?ああ、あの手でどうやってフライパン回したりしてるかって?………それは僕も是非知りたい。どう見ても底面は真っ平らなのにフライパンが引っ付くように付いている。ドラ○もんの手のようなものなのだろうか。


 ……まあ、取り敢えず挨拶回りっと、


「初めまして、今度からここで働かせていただきます。鈴宮卯月、と言います。よろしくお願いします」


「ああ、貴方があの………どうも、ご丁寧に。私は西内と、申し上げます」


「はい、カバの西内さんですね?よろし…」


 フッと、僕の頬を風がなぞる。

 触ってみると、ヌメッとした感触。

 ……血が流れていた。すぐ後ろには、ビイィィン……と、包丁が壁に生えていた。

 ………マジカヨ。

 国語力がアホみたいになっている所は無視してほしい。テンパってるだけだ。


「えぇー……っと、カバの西内さんです……よね?」

「カバの?」


「いえ、西内さんです。ハイ」


 僕は綺麗なる、優雅なる、華麗なるジャンピング土下座をした。床にヒビが入り、額からは血がとめどなく流れ出る。


 やっぱり…カ…人?の名前は素晴らしいものだなぁ。

  因みに西内さんは先程の事はなかったかのように、床の掃除を始めていた。

  どんどん綺麗になっていく様はまるで巻き戻しのようだった。

 何故か、血を拭き取る作業が凄イウマカッタ。

 


「だ…大丈夫かっ!?」


「ん…ああ、こんなもの唾つけときゃ治りますよ」


「なら、俺の唾をつけるといい。特別性だ、すぐに楽になるぞ?」


 ダッシュで駆けつけ、声をかけてくれた人?がそんな事を言ってくれた。気持ちは嬉しいが……普通に他人?の唾はちょっと…というか誰の唾でも嫌なのに、動物の唾は絶対に無………



 コモドドラゴンだった。



 声をかけてくれたのはコモドドラゴンだった。よりにもよってコモドドラゴンだった。コモドオオトカゲとも言う。

 ……確かコモドドラゴンは唾液に血液の凝固を妨げ、獲物をショック死させる効果があったはずだ。え、何?確かに治ると言わず、楽になるとは言ったけど…そういう事?

  流石に、こればっかりは驚かずにはいられない……プレッシャーを感じる風貌だ。

 此方も二本足で立っていて、二メートルを越す大柄な体躯に、ゴツゴツとしながらも何処か美しく並んだ鱗。クリッとした、一見愛らしい眼も、テレビで見るより近いからだろうか?否応無く此方が捕食される側だと思ってしまう。

 何より、裂けるように広がる口からはアナコンダを思わせる舌と、コモドドラゴンにとっては餌用のありふれた、しかし別種の生物にとっては命に関わる、ドロリとした涎が垂れていた。


「ハッ…ハッ…食べちゃいたい……」


 あ、発情してやがる。てことはこいつメスだな。僕の体質はオスメス問わずだが、やっぱりメスの方が効きやすい傾向にある。メスゴリラがそうだ。

 ついでにこのコモドドラゴン……フリフリのゴスロリを着てやがった。鱗で所々がズタボロになっている。

 え、どうしてここで気づかないかって?見たら絶対にこの顔が目に入ってくるからな?ゴスロリなんて見えなくなるからな?


「俺の名前はとび……ねぇ……塩とソースとケチャップと醤油とポン酢とマヨにぃ〜ズ…どれが好き?」


 あ、こいつマヨラーだ。マヨにぃ〜ズって言う奴は大体マヨラーだ。メタボリックシンドロームの患者に医者が言ってた、間違いない。というか……こいつ、焼いて食う気だな?コモドドラゴンなら生で食えよ、生で。


 いや、生も嫌だけれども。



「ーーーギヒイイイィィィッッッ!!!」


「ーーーいいぃぃやああぁぁああっ!!」


 確かコモドドラゴンの時速は20キロ…つまり100メートルを20秒台で走ることができる。

 因みに僕は時速16キロ…平均クラスなのだが、この場合普通に死ねる。

 別に運動部に入っていた訳でもないしね。毎日色んな動物に追いかけられてるけど、それで劇的に足が速くなるなんておかしい話だし。


 まあ、取り敢えずピンチになった時に鳴らせって渡された笛を鳴らしました。そうすると何処からか兎が飛んできて、檻に入れてくれましたとさ。ちゃんちゃん。

 

 ……この店、従業員の扱い酷くない?




 次に見かけたのはさっきのパンダだった。ホールスタッフの着るカッターシャツの様なものに下は黒いエプロンを巻いていた。


 ………ただその服は、はち切れそうだったが。


「失礼します。今度からここで働かせていただきます、鈴宮卯月、と言います。よろしくお願いします」


「ご丁寧にどうも。私は上野うえのと申します」


 そう言って名前を器用に書いてくれた上野さん。


「それにしても……スタッフの皆さん変わった名前で……」


 パンダ【上野】ゴリラ【叶】コモドドラゴン【翔】カバ【西内】………いや、人の名前としたら普通なんだけどね?


「ええ……私達はみんな……昔の名前を棄て、新たな名前を頂いたのです。………店長に拾われた時に」


 そう言った顔には、影が差していた。きっと、話したく無い過去でもあるのだろう。


「あの、スタッフにも客にも愛想を振りまく日々を棄てた日に………っ!」


 そう言った顔には、憤怒の感情が………え?


「……すみません、以前の職場?って何処なんですか?」


千寿神せんじゅがみ町の、檻の中に入って猿どもに愛想を振りまく仕事です」



 ーーー隣町の、動物園だった。

 しかも、このパンダかなり黒かった。いや、白と黒だけれども。

 

「ガッッツリ隣町じゃんっ!なんで?隣町の動物園からスカウトされて来たの!?」


「………それを聞くには、覚悟が必要です。……お聞きしますか?」


 ーーー雰囲気が、変わった。

 憤怒の感情でも、影が差したような憂鬱な表情でも無い。

 何処かキリリとした、そう……歴戦の強者を思わせるような……そんな雰囲気を漂わせている。


 ……いやまあ、パンダの表情とかんなもん知らんけど。



 ーーーそして、唐突にこう切り出した。


「パンダは1日4000Kcalを消費するんです。知ってましたか?」


「え……あ、はい。姉に……少し」


 昔、隣町の……千寿神動物園に連れて行ってもらった時に、姉さんが教えてくれた。

 確か小学校三年生の時、姉さんが中学一年の時だ。



『わあ〜お姉ちゃん!パンダ、全然動いてないね』


『そうね……卯月くん知ってる?パンダってね、あの少ない動きだけで一日に4000Kcalも消費するの』


『 ? 4000Kcalって大きいの?』


『ええ……そうね、山盛りのラーメン4杯分くらい……かしら?』


『それは大きいね!そうか……パンダは新陳代謝だっけ?それが凄いんだ……』


『よく知ってるね卯月くん……まあ、新陳代謝は身体か小さくなるにつれて高くなっていくのだけど……それは、置いておいて………』


 この時の姉の顔はなんだか……寂しそうで、辛そうで……この体質の事を何となく理解してきて、動物園など、生き物が多い所には行きたくない!と、必死に喚いていた僕を、無理矢理連れ出した時の顔に似ていたーーー


『じゃあ、その大きいカロリーを、あんな味の無さそうな笹で補えると思う?』


 ーーーそんな、そうだ……今の兎江野さんと同じ雰囲気でこう、言ったんだ。


「パンダからは一日約4000Kcalを消費します。それを、あの笹で補うには、一体どれだけの笹を食べればいいと思いますか?」


「それは………」

 ………それも、姉に聞いた事がある。


 確か…………


「12kg〜16kg……ですよね」


「ええ、そうです」


 約16kg。それは、大凡保育園児、幼稚園児程度。丁度、たまたま、かなり痩せ気味だった当時の僕と、ほぼ変わらない重さだった。


「では、どうして約16kgも食べなければいけないのか?」



「それは………」



 簡単だ。パンダが、肉食だからだ。

 パンダに、草食獣のような、長い腸はない。だから、それを量でカバーしているんだ。


 毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日………もちろん、パンダは喋れない。だから、言えない。

 嫌気がさしても、味に慣れてしまっても、文句一つ垂れることなく、食べなければいけない。

 それが、飼われる条件だから(・・・・・・・・・)


 ーーー廃棄物だった鶏肉を貰ったりもしました。


 ーーーそれが原因でお腹を壊した事もありました。


 ーーーそして、紆余曲折があって今、ここにいます。



 ーーーこうして、喋る事自体おかしい事なんだ。理由も聞かないし、聞きたくもないけれど、こうして、喋れる事自体奇跡なんだ。ーーーそれこそ『魔法』みたいな。


「それで……その管理体制に嫌気がさして、こっちへ?」


 これは……果たして聞いてもよかったのか。いや、もう、聞いてしまったんだ。後戻りは出来ない。……ただ、今は少し後悔している。


「………」


 対する兎江野さんは静かで、穏やかだ。それこそ、風に揺蕩う笹のような。


「……卯月さんは、それ以降そこ(・・)へ行ったことは?」


 そこ(・・)とは、千寿神動物園の事だろう。

 ……そう言えば、閉園したって話は聞かないような……?


「管理体制も今は改善され、最早以前の面影は一切残っていませんよ………もっとも、その際に何があったのは……一、動物程度しかない私には知るよしもないのですが……」


 そう言った顔は、何処か清々しく、何処か悪い顔だった。……まるで、イタズラ小僧のような……そんな、純粋な悪意だったと思う。

 そんな言葉に、僕は苦笑で返した。いや、それでしか返せなかったと、思う。

 僕は人間だ。搾取する側だ。だから軽い言葉は慰めにはならない。侮蔑だ。動物にも動物なりの誇り(プライド)があると、姉さんは言っていた。

 ーーーだったら、それを無闇矢鱈に傷つけていい訳がない。

 そう、自分の中で完結すると、兎江野さんがボソッと何かを呟いた。


「……まあ、実は貴方も結構噛んでるんですがね」


「? 何か言いましたか」


「いえ……いずれ思い出す事ですから」


「そうですか……?では、僕はこれで。挨拶回りも終わったので失礼します」


「ああ、すみません。長い事拘束してしまって……では、これからよろしくお願いします」


「はい。よろしくお願いします」


 僕は、ペコリと頭を下げ、あの、檻のある休憩室へ。シフト表を見たところ、店長含め五人の名前しかなかったのでこれで終わりだろう。

 あ、でも伏せられている名前が二つあったっけ……

 頭の中でそれほど大事でもない事と、少し、真剣に取り組まなければいけない事を考えているとふと、声を掛けられる。


「………」


「あ、終わりましたか?卯月さん」


「ああ……西内さん…」


 声を掛けてくれたのは、カビの西内さんだ。何処かの動物園の水槽で見たカバは迫力があったけど、西内さんは朗らかな雰囲気を醸し出している。


「………」


「? どうしたんです。難しい顔して…….悩み事なら聞きますが?」


「……じゃあ、いいですか?」


「ええ、もちろん」


 擬人化したら、恐らく気前のいいにいちゃん系の人が朗らかに、白い歯を見せて笑っているのだろう。そんな気がした。


「僕と西兎地さんや、兎江野さんって昔、何処か会った事あります?」


 そんな、優しいにいちゃんに……こんな突拍子も無い事を聞いた。


「……いいえ、知りませんよ」


 一瞬の逡巡の後そう言った。

『ありませんよ』ではなく、『知りませんよ』

 ーーーそう言った。


「ありがとうございます。すみません、変なこと聞いて……」


「いえいえ、此方こそ呼び止めてしまって申し訳ない」


 終始、朗らかな雰囲気を漂わせる西兎地さん。そんな彼にさよならを言い、別れる。




 ☆


 目の前には、白い扉。所々汚れてはいるが、生活の汚れだ。まだまだ清潔感の方が目立つ。

 ノックをする。どうぞ。と、何処か聞き覚えのあるワイルドな声で入室を許可される。


「失礼します」


「ん、挨拶回り終わったかな…」


「あ、はい。なんとか…」


 なんとか、だ。

 ーーーこの体質についてでもだが、僕の過去についても調べなければならない。尤も、出来ることなんて少ないのだけれども。


「………」


「ん?どうしたの」


 恐らくだが、この人?は僕の過去を知っている。何を知っているのかは知らないが、全てを知っているだろう。

 ーーーここで、聞いてもいいのか?


 ーーーもし、万が一にもありえないが……これが何者かに仕組まれたことだったら?


 ーーー僕は…………





「………あの…僕のこの体質…一応動物を魅了するフェロモン立って聞いたんですが…」


「うん。確かに…それで合ってると僕も思うよ。魅了のフェロモンを出す植物や動物って言うのは聞いたことがあるしね。」


 違う事を聞いてしまった。

 くそ…………


 ………ええい、勢いで聞いてしまえ。

 どうして魅了される者とされない者がいるとか、な。


「ん、ああそれはね多分そいつの器…とでも言うべきかな?そいつのランク……つまり君より生物としてのランクが下だったんじゃないかな?」


「……それって、ゲームで言うところのレベルが上の相手には状態異常系の攻撃は効きにくいが、下の相手には効きやすいってことですか?」


「ああ、うん。そんな感じ……かな?」


 成る程……確かにそれだと説明がつくかな?


「じゃあ、魅力しない様にはどうすれば良いと思います?」


 自分で言ってなんだが、変な日本語……


「こっち方でマスク着用を促しておくよ。多分それで少しはマシになるかと思うよ。」


 至れり尽くせりだな……まあ、有難いが…


「あの…最期にひとつ良いですか?」


「ん、なんだい?」


 取り敢えず、僕自身のこと以外で、最後に僕が一番聞きたいことを聞く事にする。


「あの…うちの学校のOBが経営してるって聞いたんですが…その方はどちらに……?」


「え、僕だよ?」


 ん?どゆこと?


「もしかしてあれですか?人間が兎になったとかそういう奴ですか?べつにもう驚きませんけど……」


 …………あ、OBってうさぎ(そっち)いいぃぃぃぃっっ!!?


「今わかったっ!え?OBってそっちのOBっ!?200羽の中の1羽がなんで経営してんのぉっ!?」


「いや、実は学校にいた頃からお店開きたかったんだよね……」


 どんな願望持って家ウサギしてやがんだ!!


「そりゃ兎の世話しなくていいって言われるわ!だって今してるもんっ!!」


「世話って何っ!?僕は君を雇ってるんだよっ!?むしろお世話してるのこっちだから!」



 ……こうして動物嫌いな僕の、アニマル喫茶バイトでの始まった。



 お父さん、お母さん…アニマル喫茶始めました…



「卯月とーー」

「彩月のーー」

「「パラレルワールドストーリー!」」

「「イエーーィ!!」(パチパチパチパチ)

「………さあ、始まりました好評でも不評でもなかった【うさパラストーリー】本日は第二回という事で特別ゲストに来て頂きました!」

「ちょっと待って!?色々とツッコミどころはあるけど、それよりも気になるのは先程から僕の名前を語っているそいつ!」

「僕?」

「白々しく一人称を《僕》にするな!金髪にチャラチャラした鎖を沢山つけた奴なんて一人称が《俺》に決まってるだろ!」

「ちょっと、卯月。この人は先程も言ったように特別ゲストの方よ」

「え、そうなの?声が似てるからてっきり乗っ取りに来た人かと思ったけど……短慮ですみませんでした」

「いえいえ、俺も気にしてませんよ」

「温厚な方で助かりました。ーーーところで姉さん、この方は?」

「元カレよ」

「……どうして僕と、声と目元が似ているのかは怖いから追求しないでおくね?」

「ついでに言うと彼の登場はもう無いわ」

「酷い!このネタやるためだけに呼んだのか!」

「安心しろ。未来の義弟になっていたかもしれない少年。きっと、俺達の未来が交わる時が来るさ!」

「ーーー義兄アニキ!」(ガバッ!)

「これが男の友情って奴ね……ウウゥ……姉さん泣けて来たわ」

「あんたの短慮さがこの場を生み出したっていうのはまだ理解できてないみたいですね」

「さぁ〜て!次回の【アニマル喫茶始めました。】はぁ〜?」

「誤魔化した!?」

「次回、第四話【説明回でした。】見ての通り説明回よ。言うなれば観光ガイドとでも言うのかしら?………別に、読まなくてもいいわよ」

「何てこと言うんだ姉さん!後、化けの皮が剥がれかかってるぞ!」

「じゃーんけーん……」

「誤魔化した!?」

「ぽん!(ちょきー)うふふふ……」(手をフリフリ)

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