四月十四日 アニマル喫茶始めました?
連載再開しました。【勇者D】代わりにの方が停滞してしまって………
此方を立てれば彼方が立たず。う〜む、難しい。
と、言うわけでせめてもの……と言う感じで後書きにSS乗っけておきました。(軽いネタバレあり)
では、【アニマル喫茶】第二話、どうぞ!
「ーーーあああああああぁぁぁああっ!!」
「待ってえええええぇぇぇぇん♡」
閑静な住宅街に響く獣のような咆哮。おおよそ片方は人間の腹から出たものではないような危険性を辺りに発信しているというか、切迫していると言うか。
ーーーいや、まあ……僕の腹から出てくる声なのだけれども。
どうも。動物嫌いの高校二年生、鈴宮卯月です。特にウサギが嫌いです。少しでも視界に入れようとものなら嘔……リバースし、素肌が触れれば、意識がピチュンします。どうしてそんな事になったかと言うとまあ、語るも涙、聞くも涙な出来事があったから………で済ますしかないのですが………
「いやぁぁぁぁああああああっ!!」
「だああああありいいいぃぃぃんんんっ♡」
そんな事よりも、この悲鳴と言うか、断末魔というか………取り敢えずそんな感じのやりとりの方が気になりますよね。あ、別にR18ものとかじゃないので安心して下さい。ただはぁとマークが付いてるだけです。聞いていて身体の芯からぞわぞわしてくるようなヤツが。
「たすけてええええぇぇぇええっ!!」
唐突ですが、僕は今そんじょそこらの人には恐らく一生体験出来ないであろう事態に巻き込まれちゃっているナウなのです。
そろそろ苦しくなってきたので細かい事は割愛しますが、まあ………追いかけられています。
あ、勿論追いかけられているのには理由がありますよ?ハハッ……確かに追いかけるのに理由が無いわけないじゃ無いか?と、
いえですね?確かに理由があるにはあるのですが……詳しくは僕もどう説明すればいいのか分からないので、もう僕自身が何処かの結社の人間だったとか、逃走した実験体とかそんな感じでいいです。ご想像にお任せしますというヤツです。
大体ね?この今の状況を詳しく説明できるよ!っていう人に逆に会ってみたいですよ。絶対に匙を投げるに決まっている。だって何故なら………
ゴ リ ラ に 追 い か け ら れ て い る か ら ! !
明日の地元ニュースの一面には『男子高校生、ゴリラと爛れた関係を築く!』なんて大変不名誉な記事が載りかねない。そうなった場合、最悪自殺するかもしれない。ーーーいや、出来る。
かと言って、現状を打破する力も能力も今は持っていないのだけれども。
ーーーああ、能力と言うか体質というか……打破できるかもしれない、この事態に陥った原因でもあるチカラを持っていた。
確かに、チカラを持っているには持っているのだ。使い勝手が悪すぎるせいで手持ち無沙汰になっているが。
………一か八か………。
ただ、このチカラには幾つか欠点がある。
「…………頼む!!」
ーーーそれは、範囲が広すぎる事と、一切の制御も出来ないという事だ。
うん。さっきから垂れ流しだった。
あ、強弱の設定が出来ないって欠点もあった。
本当に………
ドタバタドタバタ…………ドドドドドドドドッッ!!!
漫画とかだと、見開きページで、後ろに大きく『ドドドッ!』って書いてあるであろうシーンがそこにあった。
と言うか、現在進行形でこっちに向かってきてた。
それはさながら津波とけ雪崩とか土石流とか、そんな自然災害を連想するような光景。あと言うとこの町の一部地域ではありふれて、かつ見慣れた光景でもある。
「本当に………」
辛うじて分かる全体的に黒い集団。犬、猫、狸、狢、鼬、鹿、猿、兎………ゴリラ。
土煙を上げ鬼気迫る勢いでこちらへと向かってくるのは動物の集団だった。
街灯に集まる蛾のように、何に魅了されたのかは全て把握済みだが、敢えてその事については考えたいようにする。
そうこうしている内にこちらへと一心不乱に……いやもうこれは突撃とかそんな言葉の方が正しいのかもしれない。
で、僕はと言うとーーー今回は熊とか猪が来なくて良かったーと、一人安堵していた。無駄に早いからね、あいつら。地元の猟師さんからしてみれば格好の的らしいのだけれども。………でもなぁ……今回はそれを有り余るヤツがいるんだよなぁ………
「フヒヒヒヒヒヒヒヒッッ!!!」
案の定、その有り余るヤツは悪化していた。今では麻薬常習犯みたいなアレになっている。
………今更だけど、なんで喋ってるんだろう、アレ。いやまあ、本当に今更なんだけど。
「本当に………嫌だ……こんなチカラァ……」
そう言った僕の口からは、避けた風船から漏れ出るような、そんな下手な呼吸音が聞こえていた。
☆
時刻は大体30分程巻き戻って、四月十四日の大体一五時頃ーーーーー。
僕は一人、とある店の前でどうでもいい事を悶々と考えていた。
ーーーこの四月から生まれて初めてのバイトを始める。それが、この目の前の喫茶【兎の古巣亭】。
趣のある木造の建物で、西日の当たる窓にはステンドガラスが嵌め込まれており、キラキラと煌めく天使が幻想的にラッパを吹く。
ふと、上を見ると味のある木で出来た兎の看板。何処か、ある思い出の兎に重なるものがある。キィキィと、風に揺られ看板が鳴き出した。まるで僕を出迎えてくれるように。
失礼に値するのでそんなにじっくりとは見れないが、店内は明るい……と言うよりも穏やかなランプの光に包まれており、なんとも和やかな雰囲気を醸し出している。
「やっていけるかなぁ……」
ーーー正直、緊張していないと言えば嘘になるが、まあ成るように成るの精神でなんとか頑張っていこうと思う。
「志望動機はなんとも情けないけど、ね……」
この四月からなんとも情けない理由で始めるようになった此度のバイト。
その理由の一端……というか、10割10分10厘が僕の住んでる街、延いては学校にある。
僕の通う学校ーーー市立八十神高校やそがみこうこう……この八十神町にある築80年の歴史ある木造の高校。
木造だからと言って侮ってはいけない。地震には何度も耐えてきたし、体育館なんかは八十年分の木の匂いと言うか、なんとなくだが……良い匂いがするのだ。僕もこの街で産まれたので小学校の頃からこの高校の事は知っている。
さて、ここからが本題だ。ーーー唐突にだが、《モノノケ》と言うものをご存知だろうか?
ヒトならざるモノ………妖怪、化け物、ケモノ。そう、八十神町は昔からモノノケや人外ににまつわる伝説や口伝が沢山あり、今もなおその話は増え続けているの事なのだ。
曰く、千田川ーーー八十神町の南方を流れる蛍が名物のそこそこ綺麗な川ーーーで、蒸発しかけのカッパが本気の雨乞いをしているのを見たや、百田神社ーーー兎神が奉られている神社。安産、勉強、お金、後、頭髪にもご利益がある此方も築何百年の古き神社ーーーで、禿げた喋る兎がなりふり構わずお参りをしているのを見たなど……そんな噂が実しやかに囁かれている。
ーーーでだ、そんな噂の中でも特に多いものが兎に関するもの。
先程も言った喋る兎に飽き足らず、月まで飛んで言った兎という古風なものや、UFOから降りてきた兎型宇宙人などと言ったかなりマニアックなものまで。じゃあ、そこまで言うならアレだろ!全面的に押し出そう!と言う事で市の職員達が兎をPRしだして今に至る。
たまに思う……なんで僕………こんな奇想天外な町に住んでるんだろう………と、
おっと、そんな事より高校の説明だった。
うちの学校は先程も言った通り築80年、男女共学の木造以外特に何も珍しいことはない学校だ。そんな普通の学校だが、いかんせんここは兎を名物としている町。当然なのかどうかはしらないが、うちの学校は兎を飼っている。
ーーー200匹ほど☆
正直多いと思う。え?なにコレ?食用にすんのかな?と、思ったほどだ。(因みに生徒の数は先生含め156人)
だってグラウンドに野ウサギ同然に放たれてるんだぜ?ストレス?一切感じてないよアレ。そんな大量に兎を飼っていると当然ある問題が発生する。
そう、飼育当番だ。命あるモノは大抵誰かの世話が必要になる。人間も家うさぎもそこは変わらない。まあ、野ウサギは知らんけど……
さて、ここでまた、問題が発生する。それは飼育を誰がするかだ。基本、やりたい人はやれ。の方針だが、やはりそこは200匹。どんなに好きでも途中で飽きたり、嫌になってくる。
まあ?3年ほど前にとある一人の女子生徒が兎を好きすぎて好きすぎて、しまいには舐め回してほぼ全ての兎をハゲにしたという伝説が残っている。
そう言う事件?があった為、必ず数人で、クラスごとなどの交代制で必ず世話をする事となった。ーーー交代制。もしくはローテーション。代わる代わる当番をやっていくルールだ。
うちもクラスごとのローテーションを組み、兎の世話をする事になった。………勿論、僕は脱兎ごとく逃げ出したい。兎だけに。
………勿論、僕はそんなものはやりたくない。だから逃げる方法を見つけ出した。それは放課後のアルバイト。学校のOBが経営している喫茶店のアルバイトだけ、何故か世話をしなくていいらしい。何故この喫茶店だけ?と思うだろう。フフフ……そんなもの、兎の世話をするくらいなら騙された方が数倍ましだぜ!
ーーーと、言うどうでも良い事を垂れ流していた卯月です。最近、自分の名前を見ただけで吐きそうになります。いよいよドラ○もん並に兎の事が嫌いになっています。
あ、過去に一匹だけ例外もいたけど……
「ふぅ……悩んでもいても仕方がない、か……」
約束された時間は一五時三〇分。後、十五分後。まあまあの時間に来ただろう。お店の方も電話越しの声だったが優しそうな声だったし、きっと大丈夫だ。
ーーーなぁに、面接くらいでくよくよするな。頑張れ!僕!
チリンチリンと鈴の音がする扉をそぉ〜と開ける。
「こんにちは!バイトの面接に来ました鈴宮卯月でっ………」
パ ン ダ が い た 。
ーーー僕はゆっくりと扉を閉めた。確か、この決断に二秒と掛からなかった筈だ。
「ふぅ………疲れてるのかな?」
ドッと吹き出した汗を手の甲で拭う。今頭の中を締めるものは国際条約違反だとか、二足歩行の新種のUMAだとかそんな感じのアレだった。
「いやいやいやいや、きっと見間違いだ。うん、そうに違いない。きっとあれだ。白黒の毛むくじゃらのおじさんとを見間違えたんだ。うん。それしかない。きっとそれだ。うん」
目の前がぐるぐるするのを必死に抑え、なんとか自分の中で消化する。いや、した。
「あっ、と言うことは大変失礼な事をしてしまったじゃないか。いけないいけない、早く挨拶を済ませないと」
そう言って扉に手を掛ける。ゴクリ、誰かが生唾を飲み込む音。………いや、僕だね。
ガラス張りの扉からは中が微妙に見えるが……特殊なガラスでも使っているのかな?店内にいる人の輪郭がぼやけて見える。
恐らく、向こう側からはハッキリと見えているのだろう。だとすれば、今の僕はかなり滑稽な姿で突っ立っていると映るに違いない。ーーー早めに打って出よう。
………さあ、テイクツーだ。
「こんにちは!バイトの面接に来ました鈴宮卯月でぇっ………」
変な声が出た。でもね?仕方がないと思う。だって何故なら………
メ ス ゴ リ ラ が い た ま し た も の 。
ん?なんでメスゴリラって分かるって?
ああだって、メスゴリラメイド服着てるからね。確かにテレビのゴリラって裸だもんね。全裸だもんね。そう言えばさっきのパンダもはち切れそうだったけど服着てた。
ーーーさっすが、飲食店。てぃーぴーおーがしっかりしてる。躾でもされているのかな?ハハッ……この店なら信頼出来そうだ。
………いや、分かってるよ?そこじゃないって。店の外観は良いんだ。絶対に初見殺し並に最高なんだ。ついつい入りたくなるお店なんだ。
………ただなぁ、店に入った途端、メスゴリラとパンダのお出迎えかぁ……一部のファンにか望まれないだろうなぁ………パンダはダラァ〜としているのを見るものであってバイトしている姿を見るものではないんだよなぁ。ーーーそんなものはCMで十分だ。
「……………ハッ」
気付けば、フリーズしていた。フリーズしていた時間はおよそ数秒、しかし数十分にも数時間にも感じられた。それ程インパクトのある光景だった。
「おい、どうしたんだ?」
話しかけてきたのはパンダの方だった。意外と声はイケメンだった。
大丈夫、とパンダを手で遮る。そうか、良かった。無理はするなよ?後ろ髪引かれるようにそっと離れるパンダ。やだ、イケメン……
「いや、なんでだあああああああっ!!」
パアァンッ!と、僕の手から履歴書やらなんやらが地面へと吸い込まれる。
ーーー取り敢えずツッコミを入れることにした。
まあ、何にツッコミを入れればいいのか分からなかったので世界とかそんなアレに向けて。僕も若かったのだ。後に反省した。ただ………何か大きなものに反抗したいという浅ましい思いだけは胸の内にあった。………あったじゃねえよ。
「ーーーなんでゴリラやパンダがいるんだ!ここはアニマル喫茶か!?」
そんな自分の青臭い感情に向けてか、やり切れない思いかは分からないが、勢いだけは凄かった。
そのままのトップスピードでパンダの方をキッと、睨みつける。もう、パンダが全部悪い事にしよう………
すると、パンダ、ウルウルとし始めた。ーーーしまった。きつく言い過ぎたか?
「………は、始めてそこにツッコミを入れてくれるなんて………」
違ったようだ。
次いで、ゴリラの方を見る。
何やらハッ………ハッ………と、荒く短い息を吐きながら瞳がウルウルしてきた。
おっとぉ?これは本当に悪い事をしちゃったかなぁ?これは、長居しちゃいけないな。今は帰って、後日また謝罪しに来よう。
そう、頭の中で固く決意し、床に手を置いてクラウチングスタートからのヨーーーーイッ………ドンッッ!!
「私を……私をメスゴリラにしてえええぇぇぇえええっっ!!」
ふっ……どうやら本当に疲れているようだ。幻聴が聞こえるよママァーーーッ!
怖いもの見たさで後ろを振り返る。するとゴリラが追いかけて来てた。………二足歩行で。今夜の夢は決まりだった。
ーーー大丈夫、貴女はもう十分に立派なメスゴリラですよ。てか、僕の耳が大丈夫か?腐ってない?いや、もうこの際腐ってた方がいいや。
「はああああぁぁぁあああん!」
世紀末と喘ぎ声が合わさったような、とても汚い声を発していた。ついでに言うと、顔面も汚かった。
ああ………やっぱり魅了していたか……。
一人、後悔する。どうやら僕には動物……哺乳類に限り異性、同性限らず魅了するチカラ?があるらしい。お医者様からはそんな感じのフェロモンが出てるよ!って言われた。絶望的にフワフワした説明だったが、医者の言葉だ。じゃ、間違いない。
ああ、でもこのチカラ。人間には効き辛いそうだ。
なんで?と、思ったものの普通の生活を送るぶんには特に問題も無かったので保留にしたが。
「…………その保留にした事案がまさか……こんな事になるなんてな!」
このチカラ。最近威力も範囲も確実に上がって来ているのだ。勿論、レベルアップした覚えもないし、改造された覚えもない。
だが、確実に、着実に強化されていっている。……進化じゃないだけマシだと思うのは、慣れてしまったのか、はたまた呆れているのか………それは僕にも分からない。
とにかく、この後ろの集団をどうにかしないと話さえも出来ない。家にさえ入ればなんとかなるんだけどな……それか、隣の晴月さん家。
ーーーさて、どうしたものか。そうこう言ってるうちに、もう近くまで来ていたゴリラの熱い吐息が、うなじに掛かりゾクリとする。
…………これ、終わった後変な何かに目覚めたらしたいよね?
飼い主か、マスターかは知らないが、責任者は叩きのめしてやる。
因みにだが、僕は今普通に?市街地を追われている。
都会ではないものの、なんちゃって都会くらいは活気のある街だ。
ーーー当然、通行人がいる。だが、何故誰も声を掛けてくれないのか?
街並みは閑散としているが、別に街自体が閑散としている訳ではない。住人は、いるにはいるのだ。まあ、ここは一つ、見てもらった方が早いだろう。
「お、おいあれ……」「ああ、また鈴宮か……」「今度はゴリラだぞ、ゴリラ!……上級者め……」「………南無三」
あゝ無情。通行人達に向けられる目は、とてもじゃないが『同情』という感情は見当たらない。
寧ろ楽しんでる様な空気が見受けられる。……確かに、しょっちゅう動物に追いかけられてるけども!だからって「ママーあれナニー?」「しっ!見ちゃダメよ!視線も合わしちゃダメ!そう……腰を低くして……あ、視線を合わしちゃダメだけど、目線は逸らさずに……後ろ歩きで退がって……そう!そうよ!」
ーーーそれ、熊から逃げる時のやつや。
いや、幾らGoogleやWikipedia先生でも『ゴリラから逃げる男子高校生から逃げる方法』なんて検索して出てくるはずがない。
あってもゴリラから逃げる方法だけだ。
ーーー今日は、春先。少し冷たい風が、走って火照った体に気持ちいい………。ダメだ、現実から目を背けても……あ、……涙出て来た。
というか、誰だ上級者って言った奴。後、南無三って僕を見捨てた奴も後で殴る。
おいそこ、顔覚えたかんな?
マジで覚えとけよ畜生。
「アハァ!だーーーりんっ♥︎」
「ひいぃっ!」
いつの間にかもう、ゴリラが目と鼻の先に迫っていた。背中に目と鼻ないけど。
………あるぇ?おかしいな。冷や汗が止まんないぞぉ?
心臓も、もう一段階大きく、早く動き出した。それこそ、飛び出てしまうのでは?と、危惧してしまう程に。
「いただきまあああぁぁぁすうっ!」
後ろは見えないが、きっと大口を開けて迫って来ているのだろう。………畜生、僕の貞操もここまでか……「ヤメロオォオオッ!!」
バキィッ!と、なってはいけない音がして、ゴリラが店の方に吹っ飛んで行った。因みにその後ろの動物の集団はもういない。僕のチカラは持続時間が短いアニマルもいるし、長いアニマルもいる。どうやら、今回のはゴリラ以外短い方だっらしい。
………しかし、さっきの切羽詰まった声。恐らくは助けてくれたのだろうが………聞き覚えがある?
ゴリラが吹っ飛んで行った方向……喫茶店のある場所からはゴリラのせいだろう。土煙がもくもくと上がっていた。その土煙をブワッ!と払って出てきた可愛い影が一つ。
それはもふもふとした丸い尻尾、ふさふさ丸々した体、ぴーんと長く張った耳、クリッとした赤い目。
僕の不倶戴天の敵。決して相見えられない相手。幼い頃のトラウマ。言い方は幾らでもあり、その分だけ色々な思いが、感情が詰まっている。
まあ…色々と言ったが、つまるところ……ウサギだ。そうウサギが二足歩行で歩いて喋ってやがる。
「やあ、鈴宮卯月くんだね?喫茶【兎の古巣】へようこそ!」
そう、ワイルドな声で、そのクリッとした可愛らしい小顔で、短い手足を一生懸命に振り回し………そう告げた。
「………おっおおぉぉぉぉおおおおっ!!」
「いやああぁぁああ!お店の前で吐かないでぇっ!!」
「ーーー姉さん、突然フワフワした空間に転移?したんだけど………これ何?」
「ふふ、これはね……言ってしまえば【アナザーワールド】とか【パラレルワールド】とかよ」
「姉の言葉が日に日に分からなくなってく件。」
「別に言語障害者になった訳ではないのよ?」
「あんたがそれなら障害者に失礼だわ!」
「ふふ?それより自己紹介をしましょう。私の名前は鈴宮彩月。五月生まれの動物大好きっ子よ」
「………鈴宮卯月、四月生まれです。此方の姉は容姿端麗、文武両道、何処へ出してもパーフェクトな姉ですが、猫被ってるだけです」
「ーーー今日、貴方はDTを卒業するわ」
「唐突過ぎて怖い!」
「そうねぇ……大体深夜二時頃……草木も眠る丑三つ時。紅い月に見守られながら、貴方は晴れて魔法使いへの資格を失うわ」
「晴れてないよ!確かに空は晴れてるけど、晴れてないよ!」
「卯月……ああ、誤解を与えてしまったかもしれないわね」
「多分、誤解と無駄な時間しか生んでないよこの会話」
「DTというのはね?童て……」
「誤解じゃなかったぜファック!」
「あら?DTってドリーミングなトゥモローの事じゃないの?」
「その言葉を連想できた姉さんはある意味天才だとぼかぁ思うね。………え?トゥモロー卒業するの?」
「ええ、これからは私とのドリーミングなトゥモローを歩む事となるわね♪」
「童○卒業よりもげに恐ろしきものが!?」
「ふふふ………昔からずっと手元にあったのに……突然バイトだなんて……お姉ちゃん泣いちゃうぞ?えぐえぐ」
「その原因の一端を担っているという事にまだ気付いてない姉に敬意とか尊敬とか畏怖とか色んな感情を送ってる僕」
「………とまあ、大体こんな感じのお話です♡次回、【アニマル喫茶始めました。】第三話。【唐突に敬愛する姉が登場したので取り敢えず襲いました☆】です。じゃーんけーん……」
「あんた、登場が予定されてるの五月だぞ!?自分の名前見てみろよ!後、僕はそんな肉食獣じゃないよ!」
「【草食獣でいいんだよ、女は“花”なんだから】」
「ネットで偶々見つけた格言を、あたかも自分が考えたかのように言うんじゃねえよ!………次回!【アニマル喫茶始めました。】第三話、【アニマル喫茶始めました!】他のスタッフ……まあ、アニマル達も出てきます!」
「ぽん!(ぐー)うふふふ……(手をフリフリ)」
明日から二日に一話投稿です。