三月???日 プロローグ
一度削除して、修正したものを載せています。
ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。
ーーー三月。
まだ寒さが完全に抜けきっていないとある満月の夜。一軒の古風なお店が星々にライトアップされていた。地味だが、何処か懐かしくついつい入りたくなるようなお店。高価そうなステンドグラスが、月の光を浴びて幻想的に煌めいた。その少し上、釣り下げられている兎を模した看板にはこう書いてある【RabbitHouse〜兎の古巣亭〜】と、
ーーーふと、夜風に誘われ店の看板がキィキィと鳴き出す。それに釣られ、店の前の大小二つの人影も表情を綻ばせた。
「ついに完成した……喫茶【兎の古巣亭】」
「ああ、おめでとう。中々に趣のある良いお店じゃないか」
「ふふん。それもその筈、資金を支援してくれたのはありがたいと思っているが、そもそもこの店を見つけたのは私だからな」
「昔から美的センスはピカイチだったもんな。えー……と、築三十年だっけか?よく見つけたなぁ……」
「ああ。それにこの店はあの学校とも繋がりがあるからな。私にも多少の縁がある、という事だ」
「そうなのか?それはまた……ああ、聞くのを忘れていたが………スタッフは揃えてるのか?」
「ん、ああ。揃えてるには揃えてるんだが…あと二人ほど空きがあってなぁ…」
「おおっ!それなら一人お勧めの奴がいるぜ!」
「一応聞くが…そいつは僕をペロペロし過ぎて全身を一年間ハゲ散らかすような事にならない様な奴だよな……?」
「多分どう転んでもペロペロされすぎる事にはならないと思うぜ?……なんせ、その子は動物が………特にウサギが大の苦手だからなぁ………」
「おいおい…そんな子はうちが一番ダメな職場じゃないのか?」
「ところがどっこい、だ。そいつは動物を惹きつける天性の才能、いや……彼自身が、かな?その彼が自分自身と真摯に向き合えたのなら……きっと彼の人生は素晴らしいものになる」
「……なるほど、そういう事なら【兎の古巣亭】はいいショック療法になる」
「だろ?そいつは今年で高校に入る。どうだろうか?来年……二年生から雇ってはくれないだろうか?学校には此方から何らかの話をしておくからさ」
「止めろよ。頭を上げてくれ。そいつは惹きつける魅力?があるんだろう?だっら丁度いい……ちょっと人間?不審になって恋愛を忘れてしまった可哀想な娘がいるんだよ」
「おいおい、そいつは酷い話だな。彼を人身御供にするのか?その娘に貞操を狙われたりしないのかい?」
「……………………」
「おいっ!?なんか答えろよっ!俺のせいで貞操が奪われたりしたら夜も寝られないぞっ!!?」
「…………………すまない」
「謝りやがった!謝りやがったぞこいつ!!何!?貞操奪われんのっ!?」
「…………一年も猶予はあるんだし……まあ、なんとかなってるかもしれないかもしれない………」
「なにその適当な反応!!一年間の猶予で十分じゃないの?それ程までに深いの!?その子の傷!」
「まあ、それはさておきだな…」
「おい!それはさておきってなんだ!?そこら辺淡白なお前には分からんだろうが、男にとって「今まで…………俺を助けてくれてありがとうな」
「…………お、おう?ーーー不意打ちは卑怯だろ」
「ははっまあ、良いじゃないか。日頃されているお返しだ」
「おっと、もうこんな時間か………すまないな、俺の為にこんな時間にこんなところに来てもらって」
「おいおい…こんなところとはなんだよ……一応俺の店だぞ?」
「ふふっ……さっきの仕返しだよ…………じゃあ、な…」
「ああ……じゃあな………鈴宮弥生」
びゅうっと、夜の肌寒い風が吹く。風が吹き去った後には大きな影は文字通り…影も形も残っていなかった。