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モーメント・ジェノサイド  作者: いのむー
1/1

時を止められるようになったので、世界を征服して幼馴染を王にする

第一話



「お母さん!お腹すいた!」

台所にいる母親に向かって、少年は勢いよく飛びつく。


「ほら、ちょっと待っててね」

母は庭で飼っている鳥の卵焼きを少年を落ち着かせるかのように口に押し込む。


家は少年の弟を含めた4人で住むのには少し小さい気もする。

置かれている家具も豪勢なものはなかったが、

いたるところの糸がほつれたソファーは家族団欒に大きく貢献していた。



「ん〜うまい!」

母は聞き慣れたその言葉に微笑むと作業に戻る。


まだ料理の仕込みに時間がかかりそうと判断したのか、

少年は突然何か思い出したように、近所の森に出かけた。



「おぉ!捕まってる…!やったぜ。」

少年はお昼に仕掛けておいた小動物用の罠に引っかかったウサギを見つめながら呟く。


すると後ろから囁くようで、耳を凝らさないと聞こえないような声が聞こえた。

「ちょっとかわいそうじゃない…?

やっぱり逃してあげようよ…」

真紅の髪を風になびかせている涙目の少女は、ワナワナしながら少年に訴えかける。


「え〜そんなもったいないことできないよ!初めて捕まえた獲物だよ?

ちゃんと食べてあげないとかわいそうだよ!」

少年は少女の言うことはありえんとばかりに反論する。


「えええー…こんなに可愛いのに食べたらかわいそうだよ〜!

フィルがこの子を食べるっていうなら、私が飼う!」

少女は対抗する。


「何!?まさかアリスがそこまで強気に出るとは…。

ん〜そこまで言うならアリスに譲ってもいいけど、動物飼うのってちょー大変だよきっと?」


「ふふふ…大丈夫!私フィルがいれば私何でもできちゃうよ!!」

少女はえっへんと腰に両手を当ててポーズをとる。


「ああ。ですよね、やっぱり僕もやらないといけないんですよね…

一度言い出したらアリスは聞かないからな。まぁ俺も手伝うよ。」

少年は渋々オーケーを出す。


「やった!ありがとねフィル!」

首を傾けてニコニコする少女の赤髪が、美しい夕焼け色に染まり、

それを見て反射的背を向けるに少年もまた、自分の気持ちを理解できずにいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「そろそろご飯だし、村に戻ろらない?」アリスは暗くなり始めた森に一抹の不安を感じていた。

「確かに、ちょっと長いしすぎたね、早いうちに戻ろう」フィルもアリスに賛同する。


10分ほど歩けば、村に着く。

フィルは母親の仕込んでいた料理はクリームシチューかな。なんて想像をする。

アリスもまた、あと少しで村につき、大好きなお父さんとお母さんの胸に飛び込むつもりでいた。


当然のことだ。これまで続いてきた日常がこれからも変わりなく続いていく。

疑うことの方が難しい。けれど、彼らにとって絶対的な『日常』は当たり前のように崩れさる。



「え…?なんだよコレ」

少年は生まれてからずっと慣れ親しんだ、大好きな村が燃えカスになっているのを見た。


「ひ、ひどい…ん、あれは?え、あ…マ、ママ?え、う、うそ…でしょ?」

アリスは自分をずっと大切に育ててくれた母の焼死体に駆け寄る。


「え、あ、あ、う…うぐぅぅ…ママぁ。やだょ…ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!!!!!!!!!!

ゔ、ゔあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

母の近くには家に押しつぶされて跡形もない父の姿もあった。


「パパぁ、パパぁ。やめてよ、おいてかないでよ!!いっちゃやだヨォォォ…ゔぅぅグスッ」


アリスは唐突すぎる残酷な現実に力尽きたかのように四肢を投げ出して、地面に倒れた。


「う、うわぁぁ…なんだよ、なんだよコレ!う、ゔぉえぇぇ…」

フィルも目の前に広がる焼死体たちを受け入れられず、すぐに吐き気が込み上げてきて戻してしまう。


フィルは村の一角にそびえる顔見知りの変わり果てた姿が積み重ねられた死体の山の中に、

自分の父が、わずかに残った力で何かを訴えかけるかのようにこちらを見ていることに気づいた。


「あ、お、お父さん!!!あぁ、こんな、これじゃ、もう…」フィルは父命が後わずかであることを悟る

「す、すまないな、か、母さんもさらわれた…。お前は早、く、に、逃げてくれぇ。愛、してる。」


フィルにとって世界で一番大切な家族が死んだ。

父の下には無残に切り刻まれた弟も白目をむいて、こちらを見ていた。


「あぁもうだめだ。全てを失った…。」フィルは何が起きているのかわからなかった。

アリスもすでに狂人のように肩を揺らしながら何かをつぶやいている。


俺が何したっていうんだ。みんなを、家族を返してくれ!!!

声にならない叫びが脳みそを爆発させて飛び出ていくような感覚がした。

そして、その時フィルはその紋章を見た。


死体の山の頂上には狂気的な宗教団体を示す旗が突き刺さっていた。


「こ、これは時神教?」


——時神。それはこの世の唯一の神として信じられる時を司る神、クロノス。

そして時神教徒はその神を狂気を感じるほどに信仰する人間であり、

歴史的に大きな迫害を受け続けてきた。



それがなぜこんなところに…。

理由は簡単だ。

ーー『時の神殿』

この村の近くには『時の神殿』と呼ばれる遺跡がある。


しかし、ずっと昔。この村がまだ時神教徒の住処だった時に彼らに対して行われた世界からの大迫害により、

『時の神殿』に足を踏み込むものは一切いなかった。


ーーはずだった。


今回は彼らが、時の神殿を奪還しに来たのだろう。

フィルは理解したくない状況を、まだ残された希望である母のために理解せざるをえなかった。


「くそぉ!!!時神教徒め!!!!!!!!絶対に許さない。」


フィルは地面に落ちていた、剣を拾い上げ、駆け出した。


剣はまだ10歳程度の少年には重たかった。







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