間話 守護者の苦悩
「自衛隊ー!帰れー!」
後ろから老人や女性のそんな声が飛んでくる。
しかし黙々と迷彩服を着た榊原はスコップを使って土砂を除ける。
「自衛隊は要らないー!消防士に任せろー!」
また声が飛んでくる。
「お前達の姿を見て傷つく人も居るんだぞー!」
また飛んでくる。
「平和な日本!軍隊は戦争を引き起こす!」
また。
すると、榊原の体にドンッと二個の石が当たる。
「かえれー!かえれー!」
今度は子供達が石をこちらに向かって投げてくる。
子供達は「自衛隊は災害救助に来なくていい」と書かれた旗を持っている、いや、持たされていると言った方が正しい。
「じえいたいはんたーい!」
何も知らない少女の声が飛んでくる。
「じえいたいはせんそーをひきおこす!」
よく分かっていない少年の声が飛んでくる。
ハッ、と気が付くと、自分の右手に持っていたスコップから機関銃に変わっていた。
クルリと榊原は振り返る。
「「「か・え・れ!か・え・れ!か・え・れ!」」」
榊原は咄嗟に銃を構えると、シンッ…と団体は静まり返る。
「俺は…俺は…俺は…どうして…守らなきゃならないんだ…?どうして俺が…俺達が……」
ガクガクと震える声で自問する。
すると、笑いが込みあがってきた。
「ハッ…ハハ…消しちまえばいいっか、そうすれば、また目覚める…この苦しみから…悩みから…ぜーんぶ消えちまうんだ…ハッ…ハハハハハ!!!」
「アハハハハハハハッ!ハーッハッハッハッ!最高!最高だよそれ!ハハハハハハハハッッ!!!」
榊原は機関銃をその団体に向って発砲した。
笑いながら。
狂ったように。
老人達も女子供も男も、榊原が撃った弾丸に当たり血飛沫を出しながらバタバタと倒れていく。
榊原は狂ったように逃げ惑う人々を撃ち続ける。
「崇文さん…」
銃声の音が消え、誰かの声がハッキリ聞こえる。
「やめて…」
女の声が。
「やめて…」
脳内に響く。
「崇文さん…やめて…」
黙ってくれ
「やめて……やめてよ…兄ちゃん」
パッと自分の当たりが真っ暗になり、流血した同じ顔をした同じ髪型をした同じ身長をした真っ黒の影が暗闇の中から榊原に手を伸ばしてフラフラと歩いてくる。
「お兄ちゃん…」
「…お兄ちゃん…」
「お兄ちゃん…」 「お兄ちゃん…」
「お兄ちゃん…」
「お兄ちゃん…」 「お兄ちゃん…」
「お兄ちゃん…」 「お兄ちゃん…」
「お兄ちゃん…」
「お兄ちゃん…」
「お兄ちゃん…」
「お兄ちゃん…」
「お兄ちゃん…」
「お兄ちゃん…」
「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
ドサッ!と榊原はベットから落ちる。
榊原は思いっきり背中を打ち、「いてて…」と言いながら背中を擦りながら起き上がる。
「はぁ…はぁ…クソッ…」
寝汗をタオルで拭き、榊原は煙草を咥え、火を点した。